9話 母を知る(1)
「お初にお目にかかります。わたくしは、エルメス公爵が妻、ニーフェ・エルメスと申します」
エルメス公爵夫人。ニーフェ様はとても物腰の柔らかい方であった。
「はじめまして。エルメス公爵夫人。わたくしは、リゼアイリア王国王太子、ルピアナティア・ロゼリア・ロズマリンですわ。どうぞよろしくお願いいたします」
エルメス公爵に腰を抱かれた夫人は私を見て、その目に涙を浮かばせた。
あぁ、この人は母と関係のあった人なんだ……
なんとなくそんな風に感じた。雰囲気だろうか、本当になんとなくそんな感じがしただけなのだ。
「わたくしは、殿下のお母上、シェルリア様の教育係を務めておりました」
優しい、温かい笑顔でそう言った。
「そうでしたか。短い間ですが、母のこと、たくさん教えてくださいませ」
「はい、もちろんですわ。お任せくださいませ」
「妻は殿下にお会いするのを今か今かと待ち望んでいたのですよ」
と、おおらかな笑みを浮かべて奥様をなだめている。
私はそうでしたか、とだけ言い、亡き母に思いを巡らせた。
『お母様。お母様は、たくさんの人に愛されていたのですね…。____』
あー、いやだわ!まったく、こんなことばかり考えていては、公務に支障をきたすわ!
そう思い、より一層気を引き締めよう!と頬を軽く叩いた。
こうして、ファンベルツィアでの外交日程初日が幕を閉じた。
「ティア様、お疲れですか?」
「少しだけね」
そう言って心配そうに私を見つめるのは、今回リゼアイリアより共に来てくれた、私の侍女チェンシーである。
彼女は、元平民であるが、現在は名門リト子爵家の夫人である。
細い手足にふわふわした濃茶色の髪。一見、可愛らしく見えるが……実はこの人、元騎士である。
『チェンシーは、どうして騎士になろうと思ったの?』
昔、彼女が私の侍女になったときに聞いたことがある。
『わたくし、ティア様に憧れて騎士になったのです!!』
その時、彼女は26歳。私は6歳のときだったという。
『その頃、リト子爵領を含める南の領地で小さな諍いが多くありましたでしょう?領地が本格的に混乱して来た頃、亡国ハルベンを含む連合国軍が、我が国に攻めてまいりました』
あぁ、そんなこともあった。
あの時は、手の混んだやり方を考えたものだと感心すらしたかな。
『南の辺境地よりも随分離れていたリト子爵領にも、連合国軍が攻めてくるのも時間の問題だ、となった時。先陣に立ち、王国軍を率いてやってきたのが、わずか6歳のティア様でした』
そういえばあれが初陣だったなぁ……いま考えてみれば、6歳の王女を戦の最前線に行かせるって一体……。
『隊服を身に纏い、見事に軍を統制し、年齢を感じさせぬ速さで敵を倒すティア様のお姿に惚れたのです。その時の絵姿も国中で人気殺到で中々手にはいらなかったんですよ!』
え?絵姿なんて描いてたの!?というか、どんな命知らずな絵師なのよ!!
『ですので、わたくし、騎士になりましたの!元々、父が地方騎士だったため、訓練をしていたのですが、それはもう、ティア様のようになりたい一心で頑張りましたの!そしたら、いつの間にか、リト子爵領地方騎士隊長になってまして……気付いたらこんなことに…』
と、チェンシーは自分を指差しながら笑っている。
彼女と子爵の馴れ初めは以前聞いたことがあったが、なんとも、恥ずかしい話であった。
まさか、私に憧れて騎士になったなんて……。
嬉しさ半分、恥ずかしさ半分で、なんとかチェンシーに、話を聞かせてくれてありがとうとお礼を言った覚えがある。
私の髪を綺麗に整え終えたチェンシーがコトリとブラシをドレッサーに置いた。
「ティア様、本日はゆっくりとお休みになられてくださいな。」
「えぇ。そうするわ。ありがとう、チェンシー。あなたも、今日はもう休んで良いわよ」
「では、お言葉に甘えて。失礼します」
チェンシーを見送り、カチャリと音を立てたドアをしばらく見つめる。
そして……
「誰もいないわよ。出てきなさい、報告があるんでしょ?」
「あは、ティア様、こんばんは〜」
天井から飛び出して来た黒いカラスを見つめ、はぁ…と息をはいた。
次回の投稿は、2月26日(水)です!
諸事情………進級試験(´;ω;`)があるため、一ヶ月近くお休みをいたします!
ごめんなさい。:゜(;´∩`;)゜:。!!




