4話 父と母
お母様………。
ファンベルツィア王国の王女………いや、当時はファンベルツィア公国の公女だったお母様は、お父様に望まれて後宮へ来た。
……この王宮では、誰しもが知っていること。
ただ……私は、そんなことしか知らない。
「赤薔薇……いえ、ティア様は、どんなに大人びていてもまだ幼い。そんなあなたに、母君であるあの方の話をするのも酷だと陛下がおっしゃられたのですよ。」
「そうだったの…。」
そんなことは、初耳である。
そもそも、国外からあれだけ恐れられている冷酷王が、娘にそこまで気を配るなど、誰が想像できるか……。
いや、この際、何も言うまい。
「ティア様のお母様、シェルリア様は、とてもお美しい姫様でした。『歩く宝石』と謳われるほどの美貌の持ち主でありました。それはご存知ですね?」
無言でコクリと頷く。
「リゼアイリアがライトの力で、周辺諸国を属国としていた際、ファンベルツィア公国にも、勢力をのばすという話が議会にて、一部の貴族よりあがったのです。……ですが、ライトが『その必要はない』と言いました。」
「…ファンベルツィアが精霊の国だからね?」
「そのとおりです。ライトは聡明であった。そして、ファンベルツィア王もしかり。ファンベルツィアは、はじめから、リゼアイリアに敵対するつもりはなかった。」
お祖父様ならば確かにそうしたことだろう。
お祖父様はリゼアイリアにいつも敬意を払っている。それは、神的な存在として、リゼアイリアを見ているようにも私は感じた。
「私は念の為、ファンベルツィア公家を調べることにしました。そこで、ライトはシェルリア様のことを知ったのです。」
でも、一国の王女なんて、お父様には、対して差はないでしょうに、一体……。
「確認のため、絵姿をご覧になっていただいた際です。ファンベルツィア公国第一公女、シェルリア様のものでライトが手を止めたのです。その時の顔といったらありませんよ。やっと探しものを見つけたような子供みたいな顔だった。」
テオドール大公は、少し笑いながら懐かしそうに語る。
「……それで?」
「えぇ、それで、ライトは『この女性に会うぞ』とだけ言って突然、馬に乗ってしまったのです。」
……はっ!?
急に馬!?
マジかよ。勘弁してよお父様、せめて、先触れくらい出してから行けよ…。
「私も急いで追いかけましたよ。どうにかこうにか捕まえて、失礼ながらも公城を訪ねたのです。こちらの不手際にも関わらず、心が広いのでしょうね……暖かく迎えてくださいました。」
お祖父様!!なんとお心がお広いのか!!!
私、一生お祖父様の背を見て歩みますわ!!!!!
「こほん!…それで、ライトは初めて、シェルリア様にあったのです……が、ほんとに!びっくりですよ!!あのライトが!膝をついて!求婚しだしたんですから!!!」
!?!?
そ、それは、初耳だわ!
お父様ったらそんなロマンチックに求婚したの!?
膝をつくなんて柄にもないこと……ゲフンゲフン!……かっこいいことをなさったのね!!
「そ、それでお母様は!?お母様は、お父様のきしょ……ゲホゲホ!!…カッコいい求婚になんと!?」
「ハッハッハ、ティア様、本音がすべっておいでですよ?」
この際そんな些細なことは……ん?本音ってすべるのか?あっ!いや、もう、そんなことはよくって!!
私は食い気味に前に身を乗り出す。
「シェルリア様は、一言『嫌ですよ、この非常識男。常識を兼ね備えてからまたいらっしゃい』とね。」
いやね、君、それは一言って言わな……ってそういうことじゃなくて!!
お、お、お母様って…意外と強気な人だったんだ………。
初めての話が多すぎてびっくりだわ……。
お父様に聞いたら、次の日から一生テオドール大公を見なくなりそうね、気をつけよ〜。




