5話 夜会
「きゃぁぁぁ!ティア様っっ!!なんて、お美しい、お美しいですわ!なに!ホントにこの世の人ですか!?後光がさしております!!えぇ、このミオナにはその光、しかとこの目に見えておりますわ!」
おい、大丈夫か。
一旦、落ち着けよ。
……えぇっと、しょっぱなからすみません。
彼女の名前は、ミオナ・フィルリアン。フィルリアン子爵夫人で私の専属侍女です。
ちなみに、生まれたときからともにいてくれる乳母で、母親のような人です。
「ミオナ、一旦、落ち着いて。そのように大きな声をあげては、あなたの可愛らしい声が傷ついてしまうわ」
私は取り合えず、彼女を落ち着かせることにした。
まぁ、でも、いつも冷静で落ち着きのある女性の彼女が叫んだのにも(奇妙なことを言ったのも)、一応、訳がある……と、思いたい。
今夜はこれから王家主催の夜会が開催される。
当然、王女である私は出席しないわけにはいかない。
本日のおめかしを終えた直後、冒頭のあれが始まってしまった…ということだ。
「ほぉ、綺麗だな」
背後から急に声がかかった。
まぁ、いることには気づいてたけれどね。
声の主は、冷酷王と名高い、リゼアイリア王国、国王スフェルラート・ロゼイド・ロズマリン、つまりはわたしの父だ。
もちろん、父も正装。この人こそ周りの目が潰れるかというほどのキラキラ具合だ。
「陛下、恐れながらこちらは乙女の私室ですわ。例え、それが娘の部屋であろうともノックもせず、入ってくるのはいただけないかと……」
私は落ち着いて当然のことを言う。
父はそれに対してピクリと眉をあげた。
「ティア。そなた、私を誰だと思っている?」
「……」
………チッ
「……過ぎたことを申しましたわ。お許しくださいませ」
ムカつく。そして、非常識なやつには、権力をもたせちゃいけない!!
「あぁ、そうだ。………ティア、そなた用意はすんでいるのか?見た感じ、終わっていると思うのだが」
いや、見た感じかよ!?
「……ご覧の通り、すんでおりますわ」
「もうそろそろアルも来るだろうから、ここで俺と待て」
え、ヤダ。
「ショウチイタシマシタワ」
完全な棒読み。
まぁ、いっか!!
父は私のソファーに座り、寛ぎはじめる。
白と薄い桃色の薔薇が基調となったこの私の私室。
王女にふさわしく…いや、王太子である王女にふさわしい家具はどれも一級品ばかり。
ここは、王、王太子の居住区、ロゼ宮殿にあるロゼリア宮。
父は同じ宮殿内のロゼイド宮に私室を持っている。
ロゼリア宮は歴代の女王が使ってきた宮。
ただ、歴代で女王はほんの数人しかいない。それも片手で数えられるほど。
だから、このロゼリア宮はあまり使い込まれておらず、他の宮と比べても一際美しいのも特徴だ。
「ティア、最近、そなたに付けた家庭教師どもが、泣いて仕事がないと訴えてきたが……」
「そんなこと言われましても、前もってお勉強してしまったのですから、仕方ありませんわ」
シレッと言い切るが、はっきりいって私も家庭教師たちはかわいそうだなとは思っている。
「いくらなんでもやりすぎだ。今年から諸外国に関する専門的な知識を学ぶ予定だと聞いていたが、先取りしていてもうすでに教えることがないと」
「……わざわざ陛下がわたくしのスケジュールを把握しておられたなんて驚きです。家庭教師たちには、今度、このような無駄な話で陛下のお手を煩わせないよう伝えておきます」
「………好きにしろ」
麗美な眉を不機嫌そうに中央に寄せ、その目線を外してきた。
何と答えることが正解だったのか。
私には到底分からぬことだが、ここは沈黙を貫くのが最善だろう。
この人の場合、少し機嫌を損なっただけで宮が血に染まる恐れも考えなければならない……。
そんなふうに考えていると不意にコンコン、とドアがノックされた。