4話 魔術師様
「ティ、ティア様!?」
驚いたように目を丸くしている衛兵。
「えぇ、そうよ。魔術師団長、フィリアトロス・マステルノに用があるのだけれど、彼はいるかしら」
その衛兵になるべく優しく話しかけ、恒例の王女スマイルを作る。
っても、いてもいなくても入らせてもらうけどねぇ~。
主に、こじ開けて……。
「っても、ティア様、こじ開けてでも入るつもりじゃん」
「……」
このバカアル。
ちょっとは、黙りなさいよ!!
こっちの考えが筒抜けだわ!
「フィリアトロス団長でしたらこの時間は執務室にいらっしゃるかと………」
思いっきり顔をひきつらせている衛兵が素直に彼の居所を教えてくれた。
「そう、ありがとう」
美しく微笑んで衛兵の横を通り、フィルの執務室へ向かう。
ここは、新緑の宮。多くの魔術師や学者たちが、ここで働いている。
ひときは大きな目立つ扉。
緑の繊細な装飾は美しくて壮大だ。
「あ~あ。ついちゃったよ」
「………ちょっと黙ってなさい?アル」
ボリボリと頭をかき、鼻でひとつ笑ってからそう言うアルはなめてるようにしか思えない。
ゴッホン!!
それは、おいといて………今は彼を問いただす方が先ね。
コンコン。
「ルピアナティアよ」
私はその扉を躊躇なくノックし、声をかける。
すると何故か中からガタンゴトンという奇怪な物音が。
_____ピリッ
「へぇ~。逃げるつもりね」
魔力の流れに気付き、私はそう呟いた。
「わたくしが見過ごすとでも?」
………ふわり
私の髪が宙に舞い、側にたくさんの光の粒がよってくる。
「え、ちょっとまっ…………」
「風よ。彼の者の魔を遮り、捕らえよ」
すると、今までしまっていた扉が開き、中には土下座をしているフィルがいた。
「ごきげんよう。フィリアトロス魔術師団長様」
にこっ。
「あーあ。やっぱ、フィルも無理だったか〜」
「黙りなさい、アル。いい加減にしないとその口魔法で、縫い付けるわよ」
「……」
真っ青になったアルはやっと静かになった。
あら、ちょっと言い過ぎたかしら?
と、アルを見ていると、アルとは違うか細い声が聞こえてきた。
「ティ、ティア様………」
「どうかしたの?フィル」
「あの、これ解除「するわけないわよね?」……はい」
きっちりと土下座状態のローブ姿の男。
彼のこの土下座は私の拘束の魔法でやっている。
だって、逃げる方が悪いんだもーん。
「さぁ。そろそろ、本題にはいりましようか」
「え!?拘束解かないの!?!?」
「……何か、言った?」
「申し訳ございませんでした(泣)………」
「はぁ…。フィル、アル。あなたたち何故、陛下に告げ口したの?」
「それは、だって、ティア様が死にかけて……!」
「そうです!私たちが、たまたまあの場に行かなければ、いくらティア様でも危ない状態でした」
アルの琥珀色の瞳とフィルの黒の瞳が強い意思を持って私に向かってくる。
二人の忠臣は、私の武術と魔術の師匠でもあった。
いくら、私が反抗しようとも、自身の信念に従う強さを持っている。
その実、私が本当に嫌がることは絶対にしないし、させない。
今回のことも、きっと心の底から私を心配して起こしたことなのだ。
この忠臣は私を決して裏切らない。
「ふぅ……。仕方ないわね。今回のことは減給と仕事量の倍増だけにしておきます」
「え、や、大分鬼……」
「ちょ、ひど……」
にっこり。
「「なんでもございません!!」」
あら、そう?
そう言うならいいか。
ふと目に入ったのはフィルの淡い緑色のふわふわした長い髪。
はっきり言うと、なんか、グイって引っ張りたくなるのよねぇ。
あの無駄にフワッと感。イラってくるわ。
「フィル、髪切ったら?」
「は!?え!?ティア様は私に魔力を捨てろと!?!?」
そう、髪には魔力をためる効果があります。
なので、魔術師の人たちはとっても髪が長い人が多いんですよ〜!
とまぁ、それは、さておき。
「冗談よ。まったく」
「す、すみません」
ショボーン、とする子犬フィル。
可愛い……。
_____ゾワッ!
「え?」
今、すごく視線…を………。
あ、これ、ヤバイ。
全然、気づかなかったけど私、ずっとフィルと話しててアルの存在すっかり忘れてた!!
「あの、アル…?」
「良いですよ。別に!俺は、影が薄いですからね!!」
紅炎の髪をサラサラっと小刻みに動かしてふるふるしている。
「もー、拗ねないでよ。どうせ、アルが一番、私といる時間が長いんだから良いでしょ」
「うぅ、それも、たしかに………。はっ!?ティア様!騙されませんよ!?俺よりも長くいる人はいるでしょう!?」
あーあ。騙されなかったかぁ〜。
「あら、アル。少し成長したのね」
「まさか、あのアルが気付くとは思ってませんでした」
「おい、ひどいぞ!二人とも!!あ、こら、逃げるな!!」
まだ二人に授業を受けていたときのように、広い執務室で鬼ごっこをして遊びました。
もちろん、その後三人揃ってテルに怒られました。