3話 招待状
ロズマリン王城 王太子第一執務室
「あぁ~~!もう、無理!!」
ダランと執務机に手を置く。
執務机の上には、何も書かれていない薄桃色の台紙の山と、綺麗に二つに折られた宛名の書いてある招待状の山が置かれていた。
「お疲れ様です。ティア様。」
側でお茶を淹れてくれていたミオナがいつもと変わらぬ優しい声で労ってくれた。
出されたお茶は、つい先日、隣国のお祖父様が送ってくれたハーブティーで、すごくいい香りがする。
はぁわぁ~。
癒されるわぁ~。
「ん!ミオナ!ついでに追加で3人分のお茶とお菓子をお願いしてもいいかしら?」
「3人分ですか?」
執務室にはもちろん私とミオナだけ。
面会の予定もなければ、今誰かがいるわけでもない。
ミオナが首をかしげながらもお茶を淹れていた、ちょうどその時だった。
コンコン。
「どうぞ。」
「失礼しますよ~。ティア様。テルノード・フィアルトアただいま参りましたよぉ!!」
「失礼します、ティア様。アルバートです。」
「お疲れ様です、ティア様。たった今王国にもどりました。イシュアです。」
バカそうな空色頭がフィアルトア公爵、テルノード・フィアルトア宰相。
お堅そうな騎士を演じているが、横からはみ出たシャツからこいつのちゃらんぽらんさがわかってしまう。この間抜けがアル。
一番まともなのは、黒髪と紫の瞳を持ったイシュア。彼は私の影である。
「……なるほど。」
先程の不思議な要求の意味を理解したミオナは一言呟いてから、テキパキとお茶の用意を整えた。
「いらっしゃい。テル、アル、イシュア。」
はっきりいって歓迎するつもりはサラサラないため、頬杖をつきながらどうでもよさそうに言ってやった。
「ティア様~、招待状はどうですかぁ~?…むぐむぐ。」
おい、そこの君?
お菓子を食べるか、話すか、どちらかにしなさいな!
っていうか!
視線はお菓子に釘付け!
……人と話すときは目を見てって習わなかったのかな?
「…ミオナ。」
「はい、ティア様。」
さすが、私の侍女。
何も言っていないのに『お話しが終わるまでこれはお預けですね、宰相』『そ、そんなぁ…』という会話が広がっている。
「ちゃんと指示は聞きましょうね。テル。」
「は…はい。」
プルプルしてるし。
この人本当に父と歳が変わらないのだろうか?
てか、この人が宰相で良いのか!?
まったく、謎だ。
「はぁ~。招待状なら明日には出来上がるわ。明後日には使者を送れるよう準備を整えておいて。」
「はっ。」
ふぅー。最初からこんな風にキリリッとしてればいいんだけど…。
ミオナ~戻してあげて~
私の視線の意味を捉えたミオナはコクリと頷き、テルにお菓子を渡した。
「わ~い!!」
あなた、ホントに公爵ですか!?
犬ではないんですか!?!?
おかしいわ、幻覚が…しっぽが…。
「はぁ~……アル、イシュア。あなたたちは今回の誕生祭に向けての警護、警戒の確認を頼むわ。」
「「はっ。」」
ふと、机の上の招待状リストに目をやった。
そのひとつに『セルフィジア』という文字を見つけ、何事もなければいいなぁ…と思ったこのときの私はバカだった、と後悔するのはもう少し先のこと………。




