表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/11

第4回「ウナギのために鐘は鳴る」

 僕が侵入者を打ち倒すのなんて、縄跳びの二重跳び以上に簡単だった。それくらいあっけない相手だった。


「まさか、こんな、一瞬で」


 リゼルと名乗った彼女は信じられないみたいだけど、これが現実だ。彼女は僕のそばに倒れている。自分に何が起きたのかもわかっていないのかもしれない。だが、もう全身に力が入らないようで、立ち上がることはない。


「ウナギは滋養が豊富ですから、食べれば食べるほど強くなるのは当たり前のことです」

「当たり前なはずがあるか。魔法を使えるわけでもない君が、どうしてこんな」

「その答えは私が教えてやろう」


 支部長、樺山さんとタチアナさんがやってきた。


「樺山さん」

「望月くん。君はタチアナさんから魔法を教わることになるが、実はすでに君は魔法を使えるんだ」


 そいつは初耳だ。


「どういうことだ」


 リゼルにとっても初耳だったらしい。そりゃそうだ。僕だって驚いているんだから。でも、その驚きは決して大きなものではない。


「君はこの世界の人間ではないんだよ」

「そうだったんですか」


 うん、驚きは大きくない。そういうこともあるかもしれないなあ、とは漠然と考えていたことだ。まるで自分を見つめる大きな目が、その真実を昔から教えてくれていたみたいだった。


「すんなり受け入れるところか。そこはもっと食い下がるところだろう、おい。望月くん、か。そして、樺山。どういうことだ。説明しろ」

「わかっていないのは貴方だけですよ」

「タチアナ……」


 タチアナさんが僕の傍までやってきた。いい匂いがした。もしかしたら、この人を食べるとおいしいかもしれないと考えた。

 さすがに、この思考はちょっと異常だ。

 僕は考えるのを中断した。


「望月さんはうっすらと理解されています。そうでしょう」

「ええ。なんとなく、僕の中にあったもやもやが少しだけ消えた気がします。そうか、この世界にいた人間ではないんだなって、すごく納得できて」


 話が早いのは好ましいぞ、と樺山さんが言った。


「党が記憶を失った君の『身体検査』を行った時、実に驚くべき事実を次々に発見した。ディルスタインの絶滅派と連絡を取り合い、こうしてタチアナさんに来てもらったのも、その一環だ。すべては君の体内から始まったんだよ。何しろ、君の腸内には無数の魔法印が刻まれていた。そうだ。君はウナギを食べることで、その魔法印を活性化させ、無限に強くなることができる」


 そういえば、ポパイだってほうれん草を食べれば無敵になっていた。マリオは星を取れば無敵だった。カービィもマキシムトマトを食べれば全快だ。うん、何かを食べたら超人的になるというのは、人類が原初から持ち合わせていた思想であり、同時に真実であったに違いない。


「僕は時々自分の強さに驚くことがありました。そういうことだったんですね」

「もちろんウナギでなくとも効力を発揮するだろうが、現段階において、君の実力を十全に発揮するにはウナギが一番だ」

「ならば、おかしいではないか。騙されているぞ。君の力の源がウナギだというのなら、むしろ僕たちと共闘できるはずだ。そう、ウナギの保護派と。であれば、君はずっと無敵でいられる」


 リゼルが叫んだ。その声音の弱さは、どこか哀れですらあった。

 なるほど、彼女の言うことにも一理あるかもしれない。だけど、僕がウナギを保護する側に回ることは決してない。


「それどころか、不老不死でもいられる」


 タチアナさんがそう続けた。

 あれ、僕って、ウナギを食べていれば不老不死なのか。


「なら、ウナギ絶滅などという狂った思想に手を貸すべきではない」

「いいえ、僕はそうは思いません。ウナギは、やはり絶滅されるべきです」


 ここで、僕は口を挟んだ。哀れな希望に手を伸ばした彼女に、絶望的な答えを返してあげるべきだと感じた。それが僕の義務だった。聖堂騎士という大仰な呼び名の少女に、一切の救いを与えないという行為が、どこか快楽を伴っているのかもしれなかった。でも、僕はそれ以上にウナギを食べたいのだから、結局は幻に過ぎないようにも思えた。

 実際、僕が言っていることは真実なのだ。

 ウナギは絶滅されるべきである。

 この考え方は、一片も揺らぐ余地はないのだから。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ