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第8話 第二王子マラサル

リヴァイアサンに全てを話し、彼を後にした私は次なる人物に話をすべく王宮内を歩いていた。

それも王族しか入れない、最上階を。

……実はこれは不法侵入だったりするのだが。

見つかったら、聖女である私でもかなり重い罰が下されるだろう。

けれども今回に関してはそんなことを気にしている暇などなかった。

何せ正式な許可なんて今の私には取れないだろうし、そして取れたとしても、細々したやり取りは省いていち早く今までにあったことを私は伝えなくてはならないのだから。

だから私は聖女としての技量を最大限に活かしてある部屋への侵入を試みていた。


「相変わらず厳重な警備……」


そしてその直前まで来た時、目的の部屋はかなりの数の衛兵に守られていることが分かって私は思わずそう呟く。


ーーー けれども、幾ら警備を強化しようが聖女である私にとって侵入は決して困難ではなかった。


私は目的の部屋から離れ、衛兵のいない別の部屋の取っ手に手をかける。

その扉には魔術で鍵がかけられていたが……


「よいしょ、と」


私は魔力を流し込み、あっさりとその扉を解錠してしまう。

そして中に誰もいないことを確かめた私はその部屋の窓から身を乗り出した。

私が入りたいと思っている部屋、それはこの部屋の横に行った場所にあって……


「……窓から侵入って聖女とは考えられない行動な気が」


私はぶつぶつと呟きながら、身体を宙に踊らせた。

その瞬間、重力が私の身体を下の地面に叩きつけようと働き始める。

けれども降下が始まるその前に魔術が発動した。


「よっと」


それは今では誰も扱うことができないと言われている飛翔の魔術。

やり方が失われただけでなく、少し使うだけでもかなりの魔力を消費する非効率な魔術であることが過去の文献から分かっている、そんな魔術だ。

けれども私はその魔術をまるでこの世界に一般人でも使える生活魔術を扱うかのように発動する。


「今日は月が綺麗……」


そしてふと上を見上げた私は夜空に浮かんでいた月が酷く綺麗なことに気づいてそう漏らした。

こんな日に面倒ごとが重なるなんて、本当についていない。

そう私は内心でため息をもらしながら目的の部屋まで飛翔し、その窓を叩いた。


「ん、なんだ?」


するとその中で、男性らしき人間が怪訝そうに呟くのがわかる。

それからその人間はカーテンの掛かっていない窓に目をやって……


「なっ!」


「突然ごめんね……」


そして、宙に浮かんでいる私の姿に言葉を失った。

私はその男性の反応に罪悪感を覚える。

何せ私は彼にこの魔術を使えることなど教えていないのだ。

突然宙に浮いた状態で押しかけられたらそれは驚くに決まっている。

だが、今はそのことについて色々話している時間は無かった。

だから私は話を進めるべく、その男性に向かって口を開く。


「とにかくここを開けてくれない?マラサル」


そう、この国の第二王子マラサルへと。








◇◆◇







それから何とか驚愕するマラサルを落ち着かせた私は今まで私に起きたことを彼に話した。

そしてその話を最初マラサルは信じようとしなかった。

……当たり前だろう。

何せ、ことの主犯者は私から聖女の名声を奪いたいルシアと、聖女との婚約で王太子になろうとする第一王子だ。

そんな話を聞いたら誰でもそんな反応になる。

余程の馬鹿でなければそんな話なんて信じないのだから。

けれども、貴族が関わっているらしいことを私が話し始めてからマラサルの顔は真剣なものとなった。

その表情には苦さも浮かんでいて、私は彼も貴族には色々と苦渋を飲まされていたのだろうなということを悟る。


「……本当に申し訳ございませんでした」


そして私の話を聞き終えたマラサルはまずそう頭を地面につけ謝罪した。


「え、ええっ?」


それは土下座と同じ格好で、それを見た私は思わず言葉を失う。

まさか話が終わった瞬間、そんな態度を取られるとは思ってもいなかったのだ。


「その、顔上げていいから……」


そして私は焦りつつも、それでもマラサルの顔を上げようと声をかける。


「……いえ、聖女がどれだけ過酷な存在か、決して全てではありませんが私は知っております。なのに、今日のようなことを阻止できなかったことは決してしてはならない失態で……」


けれどもその私の言葉にも頑としてマラサルは顔を上げようとはしなかった。

その顔にはどれだけこのことを悔やんでいるのか、酷い罪悪感が浮かんでいて……


「はぁ……」


……私はマラサルが何を言っても自分を責め続けることを悟った。

たしかに聖女の役目を知っているものは少なからずその過酷さを知ることになる。

そしてそのことを知ってしまった人間は聖女という存在に対して課してしまった重荷を気に病むことが多い。

だからこそ、マラサルはそんな私に対して不誠実なことをしてしまったような気になっているのだろう。

けれども正直私はマラサルに対してなんの悪印象も抱いていなかった。

それどころか、弟のようにさえ思っていて信頼さえしている。

だから決してそんな謝罪を求めたかった訳ではないのだが、目の前のマラサルはそんな私の言葉を聞かないだろう。


「それじゃあ、一つお願いがあるの」


「は、はい!」


だから私はマラサルの罪悪感を和らげるためにそう口を開いた。

今から話そうとしているのは元々マラサルに頼もうとしていたことで、特別改めて頼まなければならないことではない。

けれどもこうでもしないとこの真面目な弟は自分のことを責め続けるだろうと私はそう判断したのだ。

そしてそんなことを私は求めていない。


「実は私は……」


だから私は今からマラサルにあることを伝えるべく口を開いた。

それは自分がこの国から出ようとしていることと、そしてその際に関する貴族に対する対応だった……

明日から1話更新になると思います!

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