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第6話 緑龍カラム

この国を出る、そう決意した私はその準備をするべく行動を起こし始めた。

私がこの国から出るというこたはかなりの騒ぎが起きる。

そう、この国があっさりと揺らぎかねないほどに。

だからその騒ぎを最小限に抑えるために、私はこの国の要となる存在に事前にこの国を後にすることを伝えなければならないそう判断をしたのだ。


「ということで、少し私はこの国を後にすることになったの」


「……」


そして、私が最初に伝えようと決めたのは、この国の神獣の一体、緑龍カラムだった。

深い緑を彷彿とさせる緑色の鱗と、王宮にも届くのではないかと思うような巨大な身体。

そんな圧倒的な質量を持つカラムだが、彼は一番神獣の中で穏やかな気性をしている。

何故なら彼が望むのは豊かな自然と平和なのだ。

殆どの血気盛んな神獣と比べ、カラムは滅多にいない性質を持っている。

そして一番最初にこの土地に来た神獣もカラムだった。

その時から彼は長年守り神として人間と良好な関係を築いているのだ。


「それでお願いだからリヴァイアサンとかが民衆に被害を与えそうになったら止めて欲しいの」


だから私はカラムに私が去った後、民衆のことを守ってくれるようにと頼む。

カラムの神獣としての力は守りに特化している。

私がこの国をで後カラムに頼んでいれば、何かあったとしても民衆は被害を追わないだろうとそう判断したのだ。

だから私は、カラムがいつものように静かに頷いてくれるのを、その穏やかな目を覗き込みながら待つ。


「あ、あれ?」


……けれども、今回に関してはカラムは首を縦に振ろうとしなかった。

そのカラムの様子に私は動揺を隠すことができなかった。

たしかにカラムは寡黙ではあるが、私の言葉に対して無反応ではなかった。

なのに、今回に関してはカラムは全く何の反応も返してくれない。

そのカラムの態度に、何か不味いことでも言ってしまったのだろうかと、私は戸惑う。


しかし、その時だった。


「えっ?」


何の予兆もなしに、カラムの身体が光り輝き出したのだ。

その突然のことに私は驚き、咄嗟に腕で目を覆う。


「この姿も久々だな」


そして、次の瞬間そんな酷く若々しい男性のものと思われる声が響き、腕を下げた私は目の前の光景に言葉を失った。


ーーー 何故なら、目の前に立っていたのは龍の姿を取ったカラムではなく、一人の美青年だったのだから。


「か、カラム?」


何が起こったか分からず呆然と消えた龍の名を呟いた私。


「目の前にいるだろう」


……そしてその私の声に、目の前の美青年が反応した。







◇◆◇







神獣は超常の力を有する。

それは人間の人知の及ばないような、そんな力で、その力で持ってすれば人化することさえ容易である。

それは一般常識で、実際に私も神獣の人化を目にしたことがある。


「えっ?」


けれども、カラムの人化に関してだけは私は戸惑いを隠すことができなかった。

何せ今までカラムは何故か人化をしようとしなかったのだ。

だからこそ、私は戸惑いを隠しきれずカラムを二度見する。

けれども、その戸惑いは次にカラムが取った行動に吹き飛ぶこととなった。


「災難、だったな」


「っ!」


カラムは私を優しく抱きしめたのだ。

その突然の行動に、聖女という仕事柄あまり異性と接し慣れていなかった私は顔を真っ赤に染める。


「本当に、それで良いのか?」


けれども、その言葉に私はカラムの行動がただ私への心配からでた行動であったことを悟る。

私の耳元でカラムが囁いた声には心配の念がこもっていたのだ。


「私はたしかにリヴァイアサンなどと比べると戦う力は有していない。けれども、お前が望むならばこの国を潰すことぐらい……」


「えっ……」


そして話して行く内にどんどんとカラムの声には怒りが込められていた。

それはいつも穏やかなカラムからは考えられない感情で……


「ううん。大丈夫」


そして、あのカラムが感情を露わにしてしまうほど自分のことを大切にしてくれていたことに気づいて、私は笑った。

カラムが、大切な家族が自分のことをこんなに想ってくれている、それだけで私の胸は温かい何かに包まれる。


「だが……本当にそれで良いのか?お前がどれほどこの国のためにどれだけの献身を捧げているか、そのことをこの国の人間のほとんどは知らないんだぞ」


しかしその言葉を聞いてもなお、カラムの顔には懸念の色が宿っていた。

それは私の聖女としての本当の姿を知っているからの言葉だった。

実際に聖女とはそれほどの存在で……


「でも、そんなに私が必死に頑張ったのはこの国を守るためだよ。……まぁ、正確にはこの国の平民を守るためだけどね」


でも、私はカラムの言葉を拒否した。

何故なら、もう私には十分だったのだから。


「だから、カラムお願い。私には貴方とか、リヴァイアサンみたいな家族がいるから大丈夫。この国を守って」


その私の懇願を聞いて、長々と沈黙した後、カラムは渋々といった様子で口を開いた。


「……分かった」


「本当!」


そしてそのカラムの言葉に私は顔を輝かせて、抱きつこうとする。


「あう」


しかし、私はあっさりとカラムに避けられた。

膨れてみせる私に対して、カラムはぞんざいにリヴァイアサンがいる方向を指差す。


「いいから先に行け。今からリヴァイアサンにもこのことを言いに行くんだろ」


「うん。それじゃあ、また来るね!」


そしてそんなカラムにお礼を言うと、私はその場を立ち去るべく走り出した。

家族が心配してくれる、ただそれだけのことが今の私にとってはとても嬉しくて……


「……平民は駄目と言われたが、貴族は駄目と言われてないよな」


……そしてそのことで胸がいっぱいになっていた私に、後ろでカラムがぼそりと呟いた言葉が聞こえることはなかった。

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