第16話 ルイジアの黒歴史
ギルドが倒壊してから私達はギルド職員達と冒険者を瓦礫から引きずりだし、記憶を消す作業に追われることになった。
別に、彼らがどうなろうが興味はなかったが、私達の情報が水神の息子に渡るのは看過することが出来なかったのだ。
そして何とか諸々の作業を私達は手早く終え、逃げ出したのだが……
「……マリンシルの紙幣、持ってこれてない」
「……え?」
……私達は致命的なミスを犯していた。
マリンシル紙幣を持ってくるのを忘れた、そのことに私とマーサルは顔を青くすることになった。
当初の予定では、何か事件があった場合マーサルが人目を引き私がお金をすこばかり拝借することになっていた。
けれども、予想外の出来事があったのと、記憶を消す魔術という想像以上に難しい魔術を何度も使うことに私は集中していたこともあり、私はいつのまにかすっぽりと紙幣のことを忘れていたのだ……
「にゃう……」
「だ、大丈夫だから!サラルのせいじゃないから!」
本気で困る私達に、ギルドを壊した責任を感じているのか、サラルが申し訳なさそうに項垂れる。
だが、そもそもサラルがギルドを潰した原因も自分にあることを理解している私は、慌ててサラルをフォローする。
「ど、どうしよう……」
「いや、どうするも何も冒険者ギルドはもう潰れて騒ぎになっているだろうし、あそこから取るのは無理だろ……」
それから私とマーサルは焦り気味に相談するが、答えが出ることは無かった。
最終的に私達は折角、ジョセフさんに色々とアドバイスしてくれたのにどうすれば良いのだろうか、と悩みながら宿屋に戻ることになった……
◇◆◇
「そ、そんなことが……」
戻った後、私から話を聞いたジョセフさんはそう言ったきり、酷く悩ましげな顔を浮かべることになった。
当たり前だ。
幾ら予想外の出来事があったからとはいえ、こんなに最後にうっかりで最大のミスをしてしまったのだ。
それは何もいえなくなっても仕方がない……
これ以上はもうジョセフさんに迷惑がかけられないしどうすれば、と私達は頭を悩ます。
「どしたの?」
ジョセフさんの奥さんが、悩む私達に声をかけてきたのはその時だった。
ジョセフさんの奥さん、ミランダさんは本当に美しい人だった。
話を聞く限り三十代後半であるはずなのに、容姿からは全くそうは見えない。
その上ジョセフさんと並ぶ実力を有している凄い人だった。
ミランダさんは一般人向けの宿屋を運営しており、だから当初は私達の話に加わら無かったのだが、あまりにも私達が悩んでいたので声をかけてくれたらしい。
「だったら、お店で給仕として入ってくれない?」
「給仕、ですか?」
そして、ミランダさんが話に入ってくれたことで急激に話は進むことになった。
「だが、今の店の運営状況では……」
最初ミランダさんの提案に対し、ジョセフさんは慌てたとようにそう告げたが、その言葉にミランダさんが浮かべたのは呆れたような表情だった。
「……あなたって、本当に運営のことに関すると一気に駄目駄目になるわね」
「うっ!」
……そしてその一言でジョセフさんは致命傷になり、話し合いを脱落することになった。
だ、大丈夫なんだろうか……
そのあと私とマーサル、そしてミランダさんでこれからのことについて話し合うことになった。
その話し合いの最中、幾らなんでもそこまで迷惑はかけられないと私達は、宿屋で働くことを断ろうとしたのだが、けれども逆に頼み込まれることとなった。
「それなら、分かりました……」
そこまで言われて私たちが断れることはなく、だから最終的に私はミランダさんの提案を受けることになった。
……けれどもその時私は気づいていなかった。
「ふふ。楽しみだわ」
「え?何か言いましたか?」
「いいえ。気にしないで」
ミランダさんのその目が、いつのまにか獲物を見つけた魔獣のものになっていたことを……
◇◆◇
「うぐっ……」
……そしてそれから数時間後、短いスカートの可愛いふりふりの服に身を包んだ私は涙目で宿屋の中働いていた。
宿屋で働くことになった私だが、働くのにこの服を着用しなければならないと言われたのだ。
もちろん強要ではなかったのだが、これなら経営がもう少し楽になりそうで……とこぼしたミランダさんの姿に、私は断ることは出来なかった……
何せ、無理に雇ってもらわなければならなくなったのは私の責任なのだから。
だから私は現在、羞恥に涙目になりながら働いていた。
「あ、あいつが言っていたとおり可愛い従業員がいるぞ!」
「あ、ああ!まさか本当だとは!」
その結果なのか、現在宿屋は凄く賑わっている。
……けれども、沢山のお客さんの目にこの格好を晒されることになった私は気が気ではなかった。
この服の露出は大きめと言いつつも、ある程度多い程度のものだ。
だけど、私はそもそもスカートをあまり履かない人間で、だからこそ少し動きいただけでスカートが捲れそうになってしまう。
私は自分がスカートに慣れていないことを理解して、決してその中身が見えることのないように魔術をかけていたが、それでもスカートが捲れるたびに気が気ではないのだ。
……その私のいちいち恥じらう態度がさらに人目を引き寄せているのだが、そのことに私は気づかず、羞恥に震える。
「ご、ご注文はお決まりですか……」
しかしこの事態を引き起こした理由に自分の責任があるのだ。
ならば私が必死に頑張らなければならないのは当然だ。
「ご、ご注文のものです……」
そう考えて私は、なんとか自分を奮い立たせて給仕の仕事を頑張るのだった……
「ルイジア、可愛かったなっ!」
「本当ですよ!私もその服着てみたいです!」
「……エロかったよ」
「ううぅぅぅっ!」
…… その後、実はちびっこ達にみられていたと知り、羞恥で私が布団に引きこもりかけたりなどの大事件があったりしたのだが、この日の稼ぎは通常の数倍になったという。




