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第13話 突然の置いてけぼり

「どう思うマーサル?私は3割は貰えると思うんだけど……」


「確かに3割もあれば大丈夫だろうが……まあ私は無理だと思うぞ。全て取り尽くされるがオチだろう」


「にゃふぅ………すぴー」


受付嬢がギルドの奥へと入っていてから、私とマーサルはリラックスした様子でそんな雑談を交わしていた。

ついでにサラルはお腹を見せた状態でぐっすりと寝ている。

そしてそんな私たちには、冒険者からの変なものでも見るような視線が突き刺ささっていた。

当たり前だろう。

何せ、冒険者たちからすれば私達は何の力もない旅人なのだから。

そんな人間が荒くれどもの集う冒険者ギルドでリラックスしている。

それをみて疑問に思わない人間がいない訳が無いだろう。

特にサラルなんてお腹を見せてぐうぐう寝てるし。


……けれども、冒険者たちは私たちに疑問げな視線をよこしはすれども、それ以上の行為に出ることはなかった。


「……こっちを見るだけ、か」


その冒険者たちの態度に私は思わずそんな言葉を漏らしてしまう。

今の冒険者たちの態度はジョセフさんから聞いた話からでは全く信じられないものだったのだから。


私達は冒険者達から見れば格好の獲物でしかない。

私の服は魔術で地味な服程度にしか認識できていなくても、マーサルの服を見れば明らかに私たちがマリンシルの人間ではないことがわかるだろう。

そしてそんな人間がのこのこと自身の居城である冒険者ギルドにやってきて、完全にリラックスしているのだ。

つまり隙だらけな状態になっていて、なのに誰一人として手を出そうとしない。

それは明らかに異常だった。


「これはクロだな。絶対に何か企んでいる……」


「……めんどくさいことになってきたな」


……そして、その冒険者達の態度から導き出されたその答えに、私とマーサルは顔をしかめた。


実のところ、私とマーサルは最初から冒険者に絡まれるつもりでこの場所に来ていた。

敢えてマーサルに絡まれる冒険者を倒させて、関わらない方が良いと思わせた上でさっと換金してこの場を去るつもりだったのだ。

そうしたら確かに何らかのしがらみは残るかもしれないが、それが一番すんなり換金できると私は考えたのだ。

ジョセフさんの情報を聞いた限りではただの余所者としてやってくれば明らかに面倒ごとに巻き込まれるのははっきりしていて、それと比べればこの方法の方がマシだった。


……けれども、今回冒険者達は何故か私達に一切絡もうとしていなかった。


それがあくまで私達に無関心であるだけならばこれ以上の幸運はないだろう。

けれども、私とマーサルとサラルは直感的に悟っていた。


明らかに冒険者達はなにかを狙っていて、だからまだ襲ってきていないことを。


だから私達は敢えてリラックスしたように擬態して冒険者達の様子を伺っていた。

そう、冒険者達の様子から少しでも彼らの狙いを探るために。

……ついでにサラルも私達と同じようにリラックスするふりをして、寝たふりをしていたはずなのだが、起きているのだろうか?

まあ、とにかく私達は明らかに冒険者達がつけ込みたくなるような隙を見せていた。

けれども、そこまでしても冒険者達は一切動きを見せなかったのだ……


「ああ、もうっ。焦れったい……」


そしてその冒険者の様子に私は思わずそんな言葉を漏らす。

明らかに私たちを狙っていながら全く動きを見せようとしない、そんな冒険者達の態度に私は酷いストレスを覚えていた。

何せ、冒険者達が何を企んでいるのか現時点で私は全く理解できていないのだ。

そして、そのせいで私は冒険者達が束になっていても余裕で勝てる実力を有しながら、何をしてくるのか分からないという不安を覚える。

何せ何故、冒険者達が私達に対して何かを企んでいるのかその理由も私には分からないのだから。

この場所にはあの《禿頭》がいないので私と冒険者は一切面識が無いはずなのだ。


なのに冒険者達は私達に得体の知れない視線を送っていて、それが私の冒険者に対する不信感をより一層強いものとする。


これなら今すぐにでも全員で一斉にかかってきてくれた方が良い。

それなら一瞬で返り討ちにしてすっきりできるのに。

いっそのこと、今から冒険者全員を叩きのめしてしまおうか、そんな衝動に私はかられかけて……


「換金の用意が出来ましたよ!膨大な紙幣となりましたので別室に置いております!私の後ろからついてきてくださいね」


「っ!」


……受付嬢が戻ってきたのはその時だった。

そしてその受付嬢の姿に私は安堵を覚える。

ようやくこれでこの居心地の悪い場所から、去ることができるのだから。


「はい!直ぐに行かせてもらいます!」


そんな思いを抱きながら、私は笑顔で受付嬢へとそう返答して歩きました。


……しかし、その時私は気づいていなかった。


「にゃふぅ………すぴー」


ーーー 前を歩く受付嬢、彼女のことばかりを気にしてサラルが眠ったままついてきていないことを忘れていたことを。



「にゃうっ!?」


……後に、飛び起きたサラルが誰もいない冒険者ギルドの受付の中、涙目で右往左往することをこの場にいる誰一人として知る由はなかった。








◇◆◇







「……あれ、サラルがいない?」


「……っ!しまった!」


私とマーサルがサラルの不在に気づいた時、それはちょうどギルドの奥へと歩いて行きある大きな部屋へと通された時だった。

少し前からサラルが歩く時のぽてぽて音がなく、不審に思っていたのだが、どうやらサラルは眠ってしまっていたらしい。


「これはサラル泣いてるかも……」


そしてそのことに気づいた瞬間、私の顔は青ざめることになった。

あの荒くれどもばかりがいるギルドの受付に一匹残されたサラルは絶対に涙目になっているに違いない。

……さらにその後確実にサラルは拗ねる。

いつも私たちをフォローしてちびっこ達をあやしてくれるサラルだが、まだまだ寂しがり屋な子供で一人にされると拗ねるのだ。

そしてサラルは拗ねると時々、神獣の力をセーブすることを忘れて暴れることがあって……


「す、すいません。少し受付に子猫を置いてきてしまったので戻って取ってきます!」


「申し訳ない!直ぐに戻るので待っていてくれ!」


……そのことを思い出した私は焦りながら、そう受付嬢へと頼む。

マーサルの方は、サラルが暴れた場面なんて見たことがないはずなのだが、以前ボロボロにされたトラウマが残っているのか、焦った様子で受付嬢にそう告げる。


「申し訳ありません。貴方達が受付に戻ることは許すことはできません」


……けれども、その私達の言葉は受付嬢によって却下されることになった。


「何せ、貴方達はここで拉致されるんですからぁ!」


そして次の瞬間、まとう雰囲気が激変した受付嬢が、その口に嗜虐的な愉悦を貼り付けながらそう叫び……


「うぉぉぉぉぉお!」


「地味な女だが今回だけは我慢してやるよぉ!」


……その受付嬢の声を合図としたように先程までギルドの受付にいた冒険者達がこちらへと流れ込んできた。


「これで、あの男が私のものに……」


流れ込んできた冒険者の姿に、受付嬢の口に勝利を確信した笑みが浮かぶ。

この大きな部屋から抜け出す通路は一つだけで、そこから大勢の冒険者が流れ込んでいる。

つまり私達にもう逃げ道はない。

受付嬢の笑みは、それを理解したからこそのもので。


「ああ、やっぱりこうやって最初から私に嫉妬を剥き出しにしといてくれれば分かりやすいのに」


「そうだな。冒険者の方は全く狙いが分からなかったからな……」


だが、私とマーサルは流れ込んできた冒険者の姿に一切動揺することはなかった。


ーーー 何せ受付嬢がなにかを仕掛けてくるのは理解していたのだから。


だから私とマーサルは全く焦らずにそれぞれ魔術と、投げナイフを用意して、それぞれ先頭を走ってきていた男へと投げつける。


「あがっ!?」


「あばばばば!」


そして狭い通路の中、二列で走ってきていた先頭の冒険者は後続の人間を巻き込みながらその場に倒れる。


「くそっ!」


「おい、どけよ!じゃまなんだよ!」


大の男がただでさえ狭い通路に倒れ込んだことにより、冒険者の間に動揺が広がりこの部屋にたどり着くまでに少しの時間が開く。


「……………え?」


そして私はその間に、何が起きたか分からず呆然とする受付嬢へと微笑みかけた。


「ねえ、受付に戻るのをを許せないって貴女程度が私の行動を制限できるとでも思った?


ーーー とりあえず、このゴミを片付けたら次は貴女の番だから」


「ーーーっ!」


そしてその私の言葉に、受付嬢の顔に隠しきれない恐怖が浮かぶことになった……

今回のタイトルはサラル主体です……

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