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第10話 換金の方法

大金貨しか持っていない、それを知られた後に待っていたのはてんやわんやの大騒ぎだった。

ジョセフさんと、ちびっこ達のお守りをしていたマーセルから送られるなんとも言えない視線の中、私は涙目でマーセルに両替分のお金の支払いを頼むことになった……

……この一件で、私に対するマーサルとジョセフさんの私を見る目が可哀想なものになったように感じるのは気のせいではない。

まあ、自業自得だが。

そんなこんなで今回の一件は私の心に深い傷を残すことになったのだが。


……けれども、それだけではこの騒動は治らなかった。


何と私だけでなく、マーサルもジョセフさんが換金できるような金銭を所有していなかったのだ。

もちろんそれは、マーサルが私と同じようにジョセフさんが換金できないような莫大な金額を持っていたということではない。

……ただ、ジョセフさんでは価値が分からないほど古い金銭しかマーサルは持ってきていなかったのだ。


そしてジョセフさん向ける可哀想な視線の対象に、マーサルも加わることとなった……


「おかしい……きちんと一番教養のある精霊に教えてもらって、今使える金銭を持ってきたはずなのに……」


自分の持ってきた金銭が使えないと聞いた時、マーサルは混乱を隠せない様子でそんなことを呟いていた。

私を呆れたように見ていた手前、恥ずかしかったのかその頬は赤みがさしている。


「……なるほど」


……けれどもそのマーサルの呟きに私は何故マーサルが使えない金銭を持ってきてしまったのか、その理由を悟ることになった。

確かに長い年月を生きる精霊は博識だ。

人間など及ばない知識を宿している。


……だが、長い年月を生きるせいで彼らの時間の感覚は酷くルーズなのだ。


特に数千年を生き、精霊の国の中で隠居している精霊の一年は100年程度の感覚になっていて、数百年前に滅びた国の金銭がまだ使えると思い込んでいることも多々ある。

……おそらくそのせいでマーサルは古い貨幣だけしか持って出てこなかったのだろう。

もしかしたらこの中に古学的な価値を持つ貨幣があるかもしれないが、そんなものいくらジョセフさんでも分からない。


……つまり、これで私たちからジョセフさんに両替してもらうという選択肢が消えることとなった。


そして、そのことが明らかになった瞬間、私達とジョセフさんの間には何とも言えない空気が流れだすことになった……


「うう……」


そして私はその空気の中、身体を縮こまらせる。

折角ここまで良くしてくれたにもかかわらず、その好意を無駄にするようなことになってしまった、そのことに私は罪悪感を覚える。

何せジョセフさんに至っては非常にに悩ましげな表情を浮かべていたのだから。


「ご、ごめんなさい!」


そしてそのジョセフさんの表情を目にした瞬間、私はジョセフさんへと勢いよく頭を下げた。


「あ、いや。別に嬢ちゃん達を責めているわけじゃない。これからのことに少し頭を悩ませていただけだから気にするな」


「そ、そうなんですか……」


けれども、そんな私の態度にジョセフさんが浮かべたのは焦ったような表情だった。

どうやらジョセフさんは決して私に対する怒りであんな表情になっていたわけではなかったらしい。

けれども、無視するにはジョセフさんの浮かべていた表情はあまりにも真に迫ったものだった。


「……これからのことなのだが、俺が換金出来ない今、他の場所で換金する必要が出てきた」


「っ!は、はい……」


そして、私の表情からその私の懸念を悟ったのか、ジョセフさんはそう口を開いた。

その時のジョセフさんの表情は、あまりにも悩ましげなもので、私は思わず唾を飲み込む。


「……だが、他に換金できる場所というのがマリンシルの冒険者ギルドしかない」


「………あ」


……そして次の瞬間、ジョセフさんのその言葉に私は何故ジョセフさんがこんなにも悩ましげなのかを理解することとなった。







◇◆◇








冒険者ギルド、そう言われて私が頭に浮かべるのは某《二つ名》持ちの冒険者の二人組、《禿頭》の存在だった。

彼らは憲兵団でありながら、酷く柄が悪かった。

そしてジョセフさんの話を聞いた限りそれがマリンシルの冒険者の大部分は《禿頭》のような人間らしいのだ。


「……そんなところにこんな大金を、それも嬢ちゃんみたいな別嬪さんが行けばどれほどの騒ぎになるか」


「……想像できます」


「……ルイジアを襲おうとしたあの馬鹿共の本拠地か。行きたくはないな」


………そんなところに今の私が行けば何が起こるかなんて、一度被害に遭っている私が分からないわけがなかった。

最悪、私が訪れた時冒険者ギルドにいる冒険者が私に襲いかかってくる可能性も否定できない。

それ程までに今の冒険者ギルドの治安は悪い。

何せあまりジョセフさんから話を聞いていなかったマーサルでさえ、冒険者ギルドの様子が想像できる程なのだ。


「本当だったら俺が代わりに換金に行ってもいいんだが、実のところ俺も冒険者ギルドは近寄ることが出来ない。だが他でこれだけの大金を換金できるところは知らないしな……」


そんな私とマーサル、それぞれの反応を見たジョセフさんはそう言葉を漏らした。

そのジョセフさんの言葉に一瞬、私は何故ジョセフさんが冒険者ギルドに行けないのかと疑問を持つが、何か訳があるのだろうとその疑問は胸の奥にしまい込むことにした。

今はそれよりも換金についてどうするか考える方が本題なのだから。


「多分、大丈夫です」


まあ、その方法についてはもう既に私の中でどうするかは決まっているのだが。


「え……?」


私の突然の言葉に、真剣な様子で悩んでいたジョセフさんの顔に驚きが走るのが分かる。


「……ごり押しか」


けれども、その一方でマーサルは私の言葉に何かを察した様子だった。

どうやらマーサルは正確に私が何をしようとしているのかは分からないだろうが、どうやってこの場を切り抜けようとしているのかはわかったらしい。


……何せ、マーサルがこちら見る目には、また魔術のごり押しか、とでも言いたげな呆れが浮かんでいたのだから。


こう、大金貨だけをマジックバックに入れてきたと知ってからマーサルの私に対する扱いが悪くなったような気がするのは気のせいかな……?

まあ、たしかに私が行おうとしているのは魔術で私の容姿を正確に感じ取れないうにして、さっさと換金してしまおうというような方法だけども……

……うん、たしかにごり押しだ。

そう考えて一瞬私は、落ち込みそうになる。


「どういうことだ?」


けれども、その時響いたジョセフさんの疑問に満ちた言葉に私は思考から我に帰ることになった。

ジョセフさんの様子を見ると、その顔には疑問以上に私に対する心配が浮かんでいた。

そしてそのジョセフさんの様子を見て、私はジョセフさんにどうして大丈夫なのかその理由を告げたい衝動に駆られる。


「えっと、私たちは大丈夫です。話せないですが、それだけは確実です」


……けれども、今の私にはそうジョセフさんに告げることしか出来なかった。

私のやろうとしている方法は、他の魔術師には絶対に実現できない。

そして幾らジョセフさんとはいえ、そのことを素直に話すわけにはいかなかったのだ。

幾ら恩を感じている人とはいえ、私が元聖女であることだけは迂闊に口にしてはならないことなのだ。

……それが不義理だと分かっていても。


「たしかに嬢ちゃん達なら大丈夫か!切り札を他人に軽々と言える訳がなかったな。無作法で悪かった。ただ、本当に無理はしないでくれよな」


「っ!ありがとうございます!」


しかし、その私の態度に対してジョセフさんは全く気にした様子なくそう笑った。

その言葉に私は思わずそうジョセフさんへと頭を下げる。


「気にするな。と、そう言えば換金云々の前にやっておかなければならないことがあったな。このマリンシルで流行している紙幣を嬢ちゃん達に見せてやらんと」


ジョセフさんはそんな私に対し、何でもないというふうに笑って、それから何かを思い出したようにそこらを探り始めた。

そしてそのジョセフさんの言葉に私は未だマリンシルの紙幣を見たことが無かったことを思い出す。

そう考えて、私の胸に一体どんな紙幣なのだろうか、という好奇心が沸く。


「ああ、これだこれ」


「ーーーっ!」


……しかし、次の瞬間ジョセフさんが取り出した紙幣に私は言葉を失うことになった。



「何で、ここに」



ーーー 何故なら、その紙幣は私の前世の国、日本の紙幣である円だったのだから。

更新遅れて申し訳ございません……

春風邪はしつこい…….皆様は風邪にかからないようにお気をつけて……

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