表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/64

第40話 終幕

「ふぅ……」


消え去った変質魔力特有の不快感。

それを確認して、私は思わず安堵の息を漏らした。

今回、何とか私は無事変質魔力を散らすことができたのだが、それは決して楽な作業では無かった。

何せ、それほどまでに神獣の素材というのは危険な代物なのだ。

あれが消え去るほど酷使して、それでも身体には倦怠感が残るだけというのは正直、奇跡と言っていいだろう。


だが、変質魔力を散らすことが出来た今、もう私が気にすることはなかった。

精霊達はアルタイラに残ってくれるだろうし、そうすれば役目を終えたと判断して今まで水場を潤していてくれたリヴァイアサンはこの国を去るだろう。

そうすればもう、カラムが残ったとしてもこの国に変質魔力が溢れることはないのだ。


「つかれた……」


そしてその山場を超えたことで、気が緩み、私はふらふらとその場にへたり込みそうになって……


「うぉぉおぉぉぉぉおおおお!」


「ひっ!?」


……その場に轟いた歓声に、ようやく自分が民衆達に囲まれていることを思い出した。

しかも、自分が忘れていたことはそれだけではないことを、民衆達の顔に輝く期待に私は思い出す。


「聖女様が、帰ってきたぞぉ!」


……そう、私は今から民衆達に自分がアルタイラに戻るつもりはないことを説明しなければならないことを。


「本当に、良かった……聖女様に捨てられたのかと……」


「そんなことあり得るわけがないじゃないか!現にこうして戻ってきたじゃないか!」


……だから私は、民衆の話が耳に入り、胸が痛くなるのを感じながらそれでも迷いを断ち切って口を開いた。



「……私は、アルタイラに戻るつもりはありません」



……そして、そう私が告げた瞬間、あれだけ騒がしかった広場から声が消えた。








◇◆◇









私の声は魔術で音が増幅されていて、だがら民衆達に届かないなんてことあり得るはずが無かった。

けれども、民衆達は声を上げることはなくて。


……そして、その顔には絶望と罪悪感がいつの間にか刻まれていた。


それは幾ら私がアルタイラを去るといってもあまりにも大袈裟な反応だった。

そしてその民衆達の反応に、私は民衆達がどんな勘違いをしているのかを悟る。


……つまり、民衆達は自分たちの所為で私がアルタイラから去りたくなったと勘違いしているのだ。


それはただの勘違いだった。

何せ、私がアルタイラを去る理由は決してそんなものではないのだから。

確かに聖女の仕事は激務ではあったが、それでも私はアルタイラが嫌いでは無かった。

それでも私はアルタイラを去らなければならない。

何故ならアルタイラが聖女や神獣と共に生きて行くには聖女の真実を隠すということが必要不可欠なものだったのだから。

私が聖女であるうちはまだいいかもしれない。

けれども、その先にも聖女と共にアルタイラが過ごすのならば、聖女の犠牲というその事実は抱え続けていくにはあまりも重い闇だった。

そう、国が内側から潰れかねないほどに。


そして、他にも私には果たさなければならないことがあった。


それは酷く個人的で、誰かに聞かせることはできない。

けれども、決して私はアルタイラが嫌いになったからこの国を去るのではないことだけは確かで……


「っ!」


……けれども、その自分の思いなど民衆には伝わらないことを私は悟っていた。


これは民衆に理解させるには、余りにも為政者としての視点を求める内容で、今この場だけで、民衆に理解させることができるなんて到底無理なのだ。


「私はこの国を去ります。けれども、私はこの国がさらなる発展を遂げることを信じています」


ーーー しかし、それでも私は自分の気持ちだけは伝えようと口を開いた。


突然始まった私の言葉。

それに民衆は少し動揺する。

けれども、その顔に戸惑いが浮かぶことはあっても罪悪感は消えることはなくて、私の胸にちくりと痛みが走る。


「私は自分たちよりも、多い数で武装した騎士達に剣一本で、それでも精霊を助けようと飛びかかっていたアルタイラの人間を、いえ、アルタイラの希望を目にしました」


しかし、それでも私はその民衆の反応を無視して言葉を重ねていく。

そして、その時になってようやく民衆に騒めきが生まれる。

もしかして、聖女様は別にアルタイラを嫌ってはいないのではないかと、そんな囁きが広まる。


「私は信じています!この国は聖女といった犠牲を強い、神獣の力を借りなければ立ち行かない国ではないことを!」


「っ!」


……しかし、次に私が発した言葉に民衆達が顔に浮かべたのは後悔の念だった。

私にこの場に残ってもらうように頼む、それはまさに私に犠牲を強いているのと同義だとそう考えたのだ。

そしてそんなことを勝手に期待していた自分達に羞恥を覚えたかのように彼らは俯く。

……そんな恥知らずな頼みをしてしまった自分達に私が悪印象を覚えるのも当然だ、とでもいうように。


「ーーー だから、今度この国に来ることを私は楽しみにしています。今までとは違う、新しいアルタイラを目にできることを」


「……え?」


けれども、私の話はそこで終わりでは無かった。

その言葉に込められていたのは溢れんばかりのアルタイラへの愛情。

そして、その愛情に気づいた民衆達が浮かべたそれぞれの驚きの表情、それを見て私は笑みを浮かべる。


「だから今は決して悲しいお別れなんかではありません」


そして話しながら、私はとある魔術を構築し始める。

それは変質魔力を浄化したことによってこの場に漂っている溢れんばかりの魔力の影響を受けた、魔術。


「ーーー 新しいアルタイラの門出を祝う、そんな時です」


「ーーーっ!」



そして、その私の言葉と共に発動したのは満面の桜が舞う、幻術の魔術だった。


「わぁっ!」


「美しい……」


桜、それはこの世界にはない花。

そしてその花に子供は無邪気に声をあげ、大人は感嘆の息を漏らす。

溢れんばかりの魔力が込められて作られた桜、それには感触や匂いさえ再現されていて、誰もがその花びらに触れようと天へと掌を向ける。


「あ、」


そして、ゆらゆらと舞い降りてきた桜の花びらが掌に触れた瞬間、私の周囲を猛烈な花吹雪が舞い始めた。

その花吹雪は私の姿を民衆から覆い隠す。


「また会う日を心待ちにしています」




……そして、その言葉を最後に私は広場から姿を消した。





◇◆◇





聖女がアルタイラから去って暫くして、アルタイラ国内ではマラサルを中心とした大改革が行われた。

その結果、神獣大国だった頃の比ではない繁栄をアルタイラは遂げることになり……



ーーー それはのちに第二アルタイラ、もしくは新生アルタイラと呼ばれるようになる、大国の始まりだった。

次回から最後のざまぁが始まります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=15149251&si
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ