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第3話 貴族の陰謀

「何で……」


ルシアの明らかな不正に気づかず騒ぎ立てる貴族達、その姿を見て私は呆然とそう呟いた。

ルシアの計画はは控えめに言っても穴だらけのお粗末なものだった。

精霊石を光らせたのだって、あれだけお粗末ならば幾ら魔石機具の存在がこの国で流通していなかったとても不正だとわからないはずがない。


「新たな聖女様!」


「ああ!私達は今までだまされていたのか!」


……けれどもそのことに気づかず貴族はさわぎたてていた。

そしてその様子に私は衝撃……いや、違和感を感じた。

貴族の態度に作為的な様子を感じたのだ。


「聖女様!聖女様!」


「っ!」


……そしてじっと彼らの様子を見た私は貴族達の様子が明らかにおかしいことに気づいた。

ルシアを聖女と崇める貴族達。

けれども彼らには一切ルシアに対する敬意が見えなかった。

それなのに貴族達は過剰にルシアのことを騒ぎ立てていた。

思ってもいないことを叫びながら。

しかも、その目にはギラギラとした光が宿っていて……


「……なるほど、貴族達と組んでいたのね」


……そして私は全てを悟った。

愚かな王子の突然の自分が王太子であるという発言と、急に聖女の座を乗っ取りにきたルシア。

その2人が貴族と癒着し、そして私を貶めようとしたことを。

そのことに気づいた瞬間、私の中で堪えきれない激情が暴れ出した。


「……やっていけないことの区別もつかないの?」


そして、そう呟いた私の声には隠しきれない怒りがこもっていた……







◇◆◇








神獣の守りにより、豊かさと平和を手にしたアルタイラ。

けれどもそのことによる弊害が無かった訳では無かった。

それは中の人間の心変わり。

平和で豊かすぎるゆえに、一部の人間が腐り始めたのだ。

それは権力を手にした貴族達。

外からの脅威が無くなったことで貴族達は権力争いをし始めたのだ。

貴族に与えられた権力、それは元々聖女の儀式などを執り行う際に、必要だから与えられたもの。

けれども貴族達はその権力を悪用し始めた。

そしてそれから貴族達はどんどんと腐っていた。

貴族同士で権力争いを繰り返し、一度は国をひっくり返そうとそんなことを考えた貴族もいる。

けれども、この国での王族の権限は絶大で、その企みが成功することはなかった。

幾ら貴族が権力をその手にしようが、反抗できない程の力を有していたのだ。


……しかしそれでもいつのまにか貴族達は王族でさえ無視できない力を蓄えるようになっていた。


今代の国王、アルベルトは歴代国王の中でも名君と称えられる人間だった。

……けれども、そのアルベルトでさえ、腐敗しきった貴族を一掃することはできなかった。

たしかに彼が国王になってから貴族達の横暴は減り、まともな人間が貴族の中でも現れ始めた。

だが、それが限界だった。

アルベルトは今までの心労で病床につき、未だ王太子を決めることさえできない。

そしてアルベルトがそんな状態になるほど必死に動いてもなお、なお、貴族を潰すことはできなかったのだ。


「さぁ、お姉様。これで言い逃れは出来ませんよ!」


耳障りなルシアの声と、その後ろで馬鹿みたいに騒ぐ貴族達。

……そしてその光景に、私はアルベルトの手から逃れた貴族達がとうとう行動に出たことを悟る。

たしかに貴族達の一掃は出来なかった。

けれども、アルベルトの行動で貴族の数が大きく減ったことはたしかで、残った貴族達は危機感を抱いたのだ。

そして自分達が生き残るために、また権力を王族から奪うために行動を起こした。


それが今だ。


ぼんくらと言われている愚かな王子を聖女と婚約するという強引な手で次期国王にし、自分達の操り人形にする。

それが今回の貴族達の狙いの大筋だろう。


……つまり、貴族達は最初からルシアが聖女でないことを知っていたのだ。

そしてその上で本物の聖女である私は邪魔だと判断して追放をすることにしたということか。

何せ貴族達にとって聖女が本物であるかどうかなんてどうでもいいのだ。

ただ、その人間が聖女だと周囲に認めさせればいい。

そしてそうすれば後は思いのまま。

例え国王が起きたとしても、ことが進んでいればもう邪魔は出来ないとでも考えているのだろう。


「腐りきっているわね」


そしてその貴族の狙いを悟って私は隠しきれない怒気を浮かべ笑った。


貴族の思考、それは私にとって決して許せるものではなかった。

何せ彼らは聖女や王族の役目を何一つ理解していない。

聖女が何もせずになれる存在だとでも思い込んでいるのだろうか?

そんなことあり得るわけがないのに。


聖女と呼ばれる人間はこの国を守るために常に必死に駆けずり回っている、この国には決して欠かすことのできない存在なのだ。


私とルシアには両親はいない。

その理由は簡単だ。


聖女の一族だから。


そんな言葉が理由にになってしまうほど、聖女とは酷く苛烈なことをこなさなくてはならない存在だった。

だからこそ、私はルシアが訓練から逃げた時追おうとしなかった。

子供を成すことが聖女の一族の仕事の一つで、だったら苦しむのは自分一人でいいとそう考えたからだ。


「あら、何も言えませんの?つまり罪を認めるということですわね!」


……しかし、その考えは間違いであったことを私は悟る。


「もういいわ。私は聖女をやめる」


そしてそのことに気づいた瞬間、私は聖女を続けようとする意義を失った。

その途端になぜ今までこんな屑達を守ろうと行動してきたのか、私は分からなくなる。

恐らく私がいなくなればこの国はぐちゃぐちゃになる。

そして今、私をはめようとしたことをルシア達は後悔することになるだろう。

けれども、腐りきったこの国を変えるには私の存在など不必要だ。

いや、邪魔だとさえ言い切っていい。

だから私はこの国を出ることにした。


「っ!」


これから先何が起こるか、そんなこと考えようともせず、私の言葉にルシアは隠しきれない喜びを顔に浮かべる。

そしてそのルシアを見て、私は笑いかけた。


「そうか、そんなにも聖女になりたいの?


ーーー だったら、地獄を見るといいわ」


その言葉を最後に、私は広場を離れるべく歩き出した。

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