表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/64

第36話 囚われの精霊

マーサル目線です!

「ははっ!」


何が起きたか分からない、そんな表情をした精霊を誘拐した貴族の様子を見て、私、マーサルは思わずそう笑声を漏らしていた。

精霊を誘拐した、決して許すこのできない男。

その男の恐怖に顔を引きつらせた表情、それは本当に胸のすく光景で……


「ははは!自業自得だ!」


そして、そう感じているのは私だけではなかった。

私の隣から響いた、その声に私は思わず頬を緩める。

何が起きたのか、あまりにも急な展開に反応できずに呆然としている民衆の中、私の隣にいる男だけは全く動揺していなかった。

それどころか、囚われていたはずの精霊達が現れるという超展開を予想していたように、彼は笑っている。

けれども私は、その彼、カルーの様子は当たり前の反応であることをわかっていた。

何故なら私は知っているのだ。

そうカルーこそが、貴族を嘲るために精霊が人質になっていると声を上げた人間で……


ーーー そして、囚われの身になっていた精霊達を救った人間なのだから。







◇◆◇








「貴様が我が弟、アラバを人質に取り、我らを脅したこと、それは私の人生の中で最も怒りを覚えた瞬間だ。喜べ、貴様だけは楽に死なせてはやらん!」


精霊達の中心で、貴族に向けてそう声をあげたのは捕らえられていた案内人の1人である精霊、サーラだった。


「うぉぉおお!精霊だ!」


「はっ!ざまぁねえな!」


そしてその彼女の言葉に、精霊達は貴族を潰しに来たことを悟った民衆達はそう歓声をあげる。


「何故、貴女が……」


……けれども、第ニ王子達だけは精霊達の登場により一層警戒心を強くしていた。

何故なら第二王子達は、精霊達が敵視しているのが貴族だけではなく、アルタイラという国であるかもしれない可能性を理解しているのだ。

だから、第二王子はサーラへと何をしにこの場に来たのかと、質問しようと口を開きかけて……


「アルタイラ第二王子マラサル殿。私は貴方に謝罪しなければならないことがあります!」


「は………?」


けれども、王子がその疑問を口にする前にサーラはその場に跪いた。

そしてその突然のサーラの態度に、何が起きたのか分からず王子は目を白黒させる。

けれども、その王子の様子を無視してサーラは口を開いた。


「アルタイラには国王に、貴方という王子。そして聖女様というお方達がいることを知りながら……私は捉えられている時、アルタイラという国に対して恨みを抱いていました。そのことを今、私は謝らせていただきます。


ーーー アルタイラは我が精霊の国と盟友足り得る国だ」


そのサーラの言葉、それは恐らく第二王子が望んでいた中でも最も最良のものだろう。

何せ、捉えられていたはずの精霊がここまでアルタイラに好印象を持っていれば、神獣がいなくなった時精霊の力を借りられるかもしれないのだから。


「待ってくれ!」


……けれども、第二王子はサーラの言葉を素直に認めることはできなかった。

当たり前だろう。


「貴女方を捉えていたのは、我々アルタイラの人間で……」


何せ彼からすれば、自分達は精霊達をみすみす貴族達に誘拐されているのを見逃していただけで、精霊達にそんな好印象を抱いてくれるようなことをした覚えはないのだから。

しかし、第二王子の言葉に対してサーラは首を横に振り……


「しかし、私達を救ってくれたのもアルタイラの人間でした」


「……え?」


ーーー それからサーラはそう告げた。


そして、その言葉に第二王子が状況が分からず呆然とするのがここからでもわかる。

実際、何も知らない人間がその話だけを聞けば何が起きのか事情なんて全く分からないだろう。


けれども、私は全ての事情知っていて……


「はは」


だから、顔を真っ赤にして見つめ合うカルーとサーラの姿に私はそう、笑い声を漏らしていた……








◇◆◇







私と、ルイジアが共に精霊の国を出た時、何故か村は火に包まれていた。

そして、そのことに異常を感じ急いで村に駆けつけた私達の目に入った光景。


ーーー それは、精霊を助けるべく騎士達と戦っているカルー達村人の姿だった。


カルー達は恐らく長い期間、精霊の救出を計画していたのか、彼らの手には新品の武器が握られていた。

決して平民が武器を持てないわけではないが、平和なため平民達は殆ど武器を所有しない。

そしてその平民達全員が武器を手にしていることはカルー達がどれほど準備に時間をかけたかを示していたが……


それでも、カルー達は私達が偶然その場に寄ることが無ければ死んでいただろう。


何せ相手は、幾ら平和ボケしているとはいえ、全身を最新の装備に身を包んだ、村人など比にならない数の騎士達なのだから。


けれども、負けるとそう悟りながらもカルー達は精霊達を救うために引こうとはしなかった。


そして、その奮戦は決して無駄ではなかった。

その彼らの奮戦のおかげで私達は騎士達が人質を取る間も無く、殲滅することができたのだ。

人質を取られることがあれば、戦いが長引いただろうことを考えると、この場面で精霊達が現れることが出来たのは、ひとえにカルー達の働きがあったからこそなのだ。


ーーー そして、そのカルー達の決死さを何よりも感じていたのが、サーラ達、囚われの身だった精霊達だった。


貴族に囚われてから、人間に対する不信感が芽生えかけていた精霊達。

けれども、カルー達に救われた彼らには今、そんなものは一切なくて。


「……分かった。ご協力感謝する」


そして第二王子は何が起きたのかは一切わからずとも、精霊達の中にアルタイラに対する敵意が無いことだけは悟り、そう頷いた。


「ご理解、感謝する」


その第二王子の態度に、サーラは軽く頭を下げ、それからまたこの場にいる人間の注目はルシアと、貴族達へと移る。


「ひぃ!?わ、私は精霊なんて知らない!」


そして、その視線の先ではことの重大さに気づき、がたがたと震えているルシアがいた。

……精霊姫様が、数人の側近達と親善のためにアルタイラに来た時とは違って、一言でも言葉を間違えれば死ぬ可能性があることを悟ったのか、彼女にはいつもの偉そうな様子は一切なかった。


「はっ!」


それは、酷く惨めな態度で私は思わずそう嘲笑をルシアに向ける。

本当に彼女は何も知らないだろう。

というか、ルシアにはこんなことに協力できるだけの能力はない。

そして、私と同じような判断をしたのか、サーラは今度は、貴族へと目を向けて……


「では、サラルスお前は何かいうことは………っ!」


「ふ、ふはははは!悪いのはお前らだからな!私は出来れば使わないで置いてやろうと思っていたのに、お前らが私を殺そうとするから!」


ーーー だが、その貴族の男が手に持った何かに言葉を失った。


「ーーーっ!」


そしてちょうどサーラの様子が変わったその時、貴族の手にしている何かに対して私の背中にも何か酷い悪寒が走っていた。

貴族が手に持っている何か、それは何か光を発する球状の何かで、それは人間が見れば何なのかわからないだろう。

けれども、精霊である私達は本能的にそれが何かを悟る。


そう、それは精霊の羽を素材にした最悪の魔術具であることを。


「それを使わせるな!」


そして、そのことを悟った瞬間私はそう怒鳴っていた。

その瞬間、壇上に上がっていた精霊達も貴族を押さえようと動き出す。

けれども、その手は僅かに貴族達に届かなくて、その球は地面へと叩きつけられる。

その瞬間、何か致命的なものを破ってしまったような感覚がして……


「くそっ!」


次の瞬間、変質した魔力が地面からあふれ出した……

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=15149251&si
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ