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第35話 失策

貴族目線です!

「ふ、ふはは!」


こちらへと、呆然とした表情で見つめてくるマラサル。

その彼の様子見て、私、サラルスは嘲笑を浮かべた。


……マサラルの行動、それは想像以上に考えられたものだった。


聖女という存在の闇、それは普通に考えれば隠していたことを国家が責められたとしてもなんらおかしくないものだ。

何せそれ程までに、その闇は大きく、そして聖女は民衆に慕われていたのだから。

……けれども、マラサルは本来国家へと向くはずだったその民衆の怒りを全て私達へと転嫁したのだ。

そしてそれだけではない。

マラサルは責任を私達に押し付けて処刑し、アルタイラの暗部を潰すことで国の改革に向かうことに対する民衆達の心的負担を減らそうとしたのだ。


恐らく、ここに聖女がいないということは、もう聖女はこの国に戻ることはないと見て間違いないだろう。

そして、それはアルタイラから神獣が姿を消すことを意味している。

何故なら、神獣達は聖女という存在によって、なんとかアルタイラに繋げられていた存在なのだから。

つまり聖女去った今、アルタイラは聖女と神獣に依存しない新たな改革を推し進める必要があり、マラサルは私達貴族をその礎にしようとしたのだ。


「……本当に、末恐ろしい男だ」


……そして、その考えを悟って私はそう言葉を漏らす。

ただ一つの行動で、内部の害を取り除き、さらには民衆達の心象操作も行う。

それは本当に王として、優れた才能で……


「まぁ、そんなものが発揮される前にアルタイラは潰れるがな!」


……けれども、その才能がこの先アルタイラでは発揮されないことを確信して私は笑いを漏らした。

確かにマラサルはアルタイラを存続させるためのこの上なく優れた手を打った。

……けれども、そのマラサルの努力は報われない。

何故なら、アルタイラは今私の起こした行動によって潰れようとしている。


……私の行動によって今アルタイラは精霊との戦争の危機に陥っているのだから。


精霊と、アルタイラの友好関係。

それは他の国から考えればかんがえられないようなことだろう。


……けれども、そんな類稀な関係であろうが、同胞達を不当に扱われたならば精霊達が守る訳がなかった。


「分かった!もう危害は与えない!」


そのことを悟ったからこそ、マラサルはそう答えることしかできなかった。

誘拐でも、精霊との戦争は始まりかねないが、精霊が殺されたとなれば精霊達は必ず報復に出る。

そしてその最悪の事態を避けるために私達の要求を飲まざるを得ないのだ。

何故、こんなアルタイラを滅ぼすようなことを、とそう言外に告げてくるマラサルの目に、私の胸に自虐的な喜悦が浮かんでくる。

確かにアルタイラは私の故郷で、かなりの人間が過ごしている。

けれども、今精霊の羽という超高級を複数所持する私にはアルタイラに固執する意味などないのだ。

何せ、他の土地でもこの羽を売ればそれなりの財力を確保できるのだから。

……まぁ、出来ればこのアルタイラでかなりの地位につき、一番高い値段で売り捌いて、さらに地位を確固たるものにしたいと、最初は望んでい他のだが。

だが、国を出てしまえば私がアルタイラの滅びによって、何ら影響を受けることはない。


だとしたら、アルタイラの破滅を気にする訳などない!


そう、私は王子へと向けて再度嘲笑を向けようとして……


「ふざけるな!今更逃げられると思っているのか!」


「殺してやる!」


……しかし、その時耳に入った民衆達の言葉で、私の中から愉快な気分が消え去ることになった。


「……ぐだぐだと、耳障りだな」


そう私は顔をしかめて思わず漏らす。

そしてその時、私の頭にある懸念が浮かんだ。

それは、私の意図が分かったマラサル達は私を殺そうとはしないだろうが、意味を分かっていない民衆達が暴走する可能性があるのではないのか、という懸念。

けれども、その私の懸念は民衆のうち1人によって払拭されることとなった。


「待て!今のを見ても何もわからないのか!あれは精霊の羽からできる素材、つまり精霊達が人質に取っていると言ってんだぞ!」


何者かは分からない。

けれども精霊の羽の存在を知り、そう声を上げる存在がいたのだ。


「っ!そんなことをすれば……」


「畜生!外道が!」


私はその声に一瞬驚きつつも、説明する面倒が省けたと、悔しそうな民衆達の罵声の中笑う。


「ふはは、馬鹿め!お前達は何もできないだろう!まぁ、精霊と戦争しても良いならば、どうしようが気にせんが!」


……しかし、そう笑う私は気づいていなかった。

確かに、精霊の羽という素材の存在、それは酷く他国では高名だ。

けれども、だからと言ってその実物を判断できるものはほとんどいない。

しかも、アルタイラの人間のほとんどは、精霊の羽などに興味はない。


……つまり、私の手に持っている羽から精霊が誘拐されていることまでわかる人間が、民衆の中にいるわけがないのだ。


「いや、精霊達が戦争をしたがっているのはあんた個人だそうだ」


「は……?」


……そして、その異常に私が気づいたのは、そんな言葉がかけられたその時だった。

何を言われたのか、私は分からず少しの間呆然と目を見開く。


「よくも、よくも私達をこのような目に合わせてくれたな、豚」


「ーーーなっ!?」


ーーー けれども、そんな私は民衆の中から突然浮かび上がってきた、整った顔を持つ複数人の男女の存在にようやく状況を悟った。


その男女達は、羽のない精霊で……

そう、彼らは私が今まで捉えていたはずの精霊達だった。


「い、一体何が!?」


……そして、その時になってようやく私は気づく。


ーーー 私が人質としていた精霊達、彼らはもう既に自由の身になっているということを。

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