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第34話 聖女の真実

マラサル視点です!

聖女、それは神獣と心を通わせ、この国の繁栄のためにその身を捧げるアルタイラの象徴。

それがアルタイラでは子供でも知っている常識。

だからこそ、聖女はアルタイラに住む全ての人の憧れで……


……けれども、それは決して真実などではなかった。


聖女がアルタイラの要であるというそのこと、それは決して嘘ではない。

……だが一つ、聖女の役目には大きな嘘があった。

それは神獣と聖女との関係。

聖女は神獣と心を交わして、このアルタイラを守護してもらっているというのが、この国の常識で……


……けれども、それこそが大きな嘘だった。


たしかに神獣と人間、その存在は友好的に付き合っているように見えるかもしれない。

しかし、その本質は全く違う。


神獣と人間は聖女という犠牲を強いることで共存しているだけの関係に過ぎないのだから……


アルタイラでは当初酷く荒れ果ててていて、その地に人間が細々と暮らしていた。

そしてその人間を憐れみ、守るために神獣はこの場に降り立ったのだと、そう思われている。

そして、彼らのその心遣いに感謝を示した聖女を、彼らの妻として差し出したのがこの国の成り立ちの伝説だ。

だが、真実は違う。

というのも、この場に最初にいたのは神獣達の方だったのだ。

アルタイラの始まり、それは今から数百年以上前、三体の神獣が存在するこの地へとアルタイラを建国することになる祖先達が逃げ出してきたことだった。

祖先達は大国にもといた自分たちの居場所を追われ、傷つきながらこの場所へと逃げ込んできていた。

けれども、命からがら逃げ込んで来た祖先達は自分達の目の前に広がっている荒れ果てた土地に絶望した。

何故ならそこは、荒れ果てていて、到底住めるような場所では無かったのだから。

しかし、そんな状況でもなお、祖先達は諦めなかった。

そう、彼らはその土地の中神獣に、助けを求めたのだ。


それこそが、現在のアルタイラに伝わる神獣の保護の原型。


その時、祖先達は神獣達に自分達を助けてくれと頼み込んだのだ。

……だが、その頼みに神獣達は顔を縦に降ることはなかった。

当たり前だ。

神獣達は強大な力を持つが故に、他の生物達に関わろうとしないのが常。

そしてそんな存在が人間の話など聞くわけがあるはずがなかったのだ。

そして、神獣にその頼みを断られた私たちの祖先は、荒れ果てた土地の中、あっさりと飢え死にする……はずだった。


けれどもその時、実は何の偶然か神獣達もある悩みを抱えていたのだ。


神獣という存在、それは人間の国一つなどあっさりと潰せるだけの力を有している。

それは一番弱い力しかない神獣でもだ。

……そしてそんな存在が複数体、同じ場所に集まると、その土地には致命的な問題が起きる。

それは魔力の変質。

強大な力を持つ神獣達が長時間同じ場所にいると、その場所魔力がどんどんと変質して行くのだ。

それは決して直ぐに変質していくわけではないが、十数年同じ国に神獣達がいると、その土地の魔力は完全に変質して汚染される。

そうなってしまえばその土地には神獣達でさえ、住むことができない。

だから、神獣達はとある条件を付けて人間達を保護することを決めた。


それはとある魔術を使う巫女を人間達の中から選ぶこと。


……つまり、1人の女性に、その魔力を散らすことを求めたのだ。

それは酷く身体に負担がかかる魔術だった。

何せその魔術を行うことは死ぬ可能性の方が大きかったくらいなのだから。

けれども、祖先達は生き延びるためにその神獣達の手を取り……


……そして、その時犠牲になることになったのが、聖女と呼ばれる存在だった。


つまり、聖女は決して輝かしい存在などではなかった。

ただ、この国を保つために犠牲にされた人柱の一族、それが聖女の一族。

そして、その変質した魔力を散らす魔術こそが封魔の儀。


「……それが、聖女という存在の事実だ」


……そして、そのことを全て話し終えた私、マラサルの言葉の後に残ったのは、酷く重い沈黙だった。








◇◆◇








聖女という存在、それがどれほど重要な存在かを始めて知った民衆達。

……けれども、今彼らにはその存在を追い出した貴族に怒りを向ける余裕さえなかった。

当たり前だ。

私の告げた聖女の事実、それはあまりにも黒い闇の話なのだから。

そして、その民衆達の態度を見た私は頭を民衆に向けて下げた。


「……聖女様の役目を今まで黙っていたこと、本当にすまなかった」


「なっ!」


突然、民衆達に謝罪をした私。

その態度に一瞬、民衆達は驚きの表情を浮かべる。

……けれども、その衝撃でようやく頭が動き出した民衆達の顔に浮かび始めたのは隠しきれない怒りだった。

それは民衆達がどれほどルイジア様を慕っていたのか、そのことを示していた。

だからこそ彼女を慕い尊敬していた彼らは、その事実を隠していた私達に怒りを向け……


「……けれども、ルイジア様はそんな苦しい儀式を成し遂げながらも、これで私たちを守れると笑っていた」


「っ!」


……そして、その私の言葉に言葉をなくして俯いた。

ルイジア様に負担を背負わせていたのが自分達であったことに気づいて、民衆は唇を噛みしめる。

そしてその気持ちは私も同じだった。

何故なら私は今までルイジア様1人に苦労を背負わせていることをずっと悔やんできたのだから。

……私の母と、ルイジア様の母は10年周期の封魔の儀で命を落とした。

その苦しみを私は知っていて、だからこそ私はルイジア様1人に負担を押し付けることしかできない自分の非力を悔やんで生きてきて……


「だが、ここにその恩人である聖女様に対して、権力を握りたいがために無礼を働いた人間がいる!」


ーーー しかし今、私は今自分よりも貴族達に怒りを抱いていた。


「この、恩知らずが!」


「聖女様に、聖女様に何てことをお前らは!」


……そして、それは民衆達も同じだった。

ルイジア様の苦しみ、それを全く理解できていなかった自分が酷く情けなくて、悔しくて。

……けれども、それ以上に貴族達を許すことができなかった。


……そして、その場にいる人間の怒りの矛先にいるルシア達は、酷く青い顔をしていた。


「ち、違う!そんなこと私は知らなかった!私は悪くない!」


「うわぁぁぁぁぁ!」


ようやく事実を知って、今更に自分がどれ程の罪を犯したのかを悟ったルシアはなんとか罪を軽くしようと言葉を重ね、王子は錯乱して逃げ場のない広場の中を走り出す。

……そして、その惨めな姿がさらに民衆達の怒りを増幅させる。


……そしてそんな中、私の出した手紙で状況をいち早く理解していた貴族達は呆然とへたり込んでいた。

彼らは分かっているのだ。

自分達の罪は、身分剥奪や国外追放だけで済む話ではないのだと。

……死罪ですら、軽いと言えるような罰を自分達は合わされることを。


「ふ、ふはは!」


しかし、何故かその貴族の中で1人だけ哄笑を上げる男がいた。

その男の名はサラルス・ルートレリアル。

貴族派の頭の人物で、貴族の中でも手段を選ばない卑劣な男として知られている人物だった。

しかし、そんな男でも今回ばかりはもうどうしようもないだろうと、そう私は思いかけて……


「いやぁ、まさかこんな事態になりますとは、驚きました。さすが次期国王。が、私ももしもの時の備えは用意しておりましてな」


「え………?」


……しかし、次の瞬間私はサラルスがそんな言葉と共に懐から取り出したものを見て、言葉を失った。


「精霊の、羽?」


何故なら、それは精霊から取れる最大級の素材のように見えたのだ。

そしてその羽らしきものが本物の精霊の羽だとすれば、それは最悪の事態を示していて……


「ええ。さすがマラサル様、聡明であられる。簡潔にお教えしましょう。私はこの羽を大量に持っている。──その意味がわかりますな?」


「ーーーっ!」


……そして、その時になってようやく僕は確信する。

サラルスの言葉、それは言外の脅しだった。


つまり、サラルスは私に対して精霊を誘拐していると、最悪の人質の存在を仄かしていて。




ーーー それは、現在のアルタイラで考えられる限り最悪の事態だった。

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