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第33話 慢心の報い

ルシア目線です!

「やっと……やっと、この時が!」


目の前に広がるのは、私、ルシアの為に設けられた儀式の舞台。

その中心を目指し、ゆっくりと登ってゆく私の口元に浮かんでいたのは隠しきれない笑みだった。

私の頭に浮かぶ明らかにおかしな仕打ちの数々。


私を目の敵にして、絶対に聖女と認めようとしない民衆。


そして特別な私を何故か選ぼうとしなかった神獣。


それは明らかにおかしな事態だった。

何せ私は選ばれた存在。

そう、聖女なのだ。

なのにその私の存在を認めようとしない周りは明らかにおかしくて……

けれども今ならわかる。


それは全て彼らの本心からの行動ではなかったことを。


何故なら、それらは全て、ルイジアが聖女となった私を妬んで作った、洗脳という罠だったのだから。

どんな手を使って洗脳したのかは知らない。

けれども、ルイジアは卑劣な手を使って私の心を折ろうとしたのだ。


しかし、強い意志を持つ私はそんな妨害にも屈することはなかったのだ。


……もちろん今までは心が折れそうな日々だった。

全く自分を認めようとしない周囲の人間。

けれども、私はその苦しみを耐え抜いた。

苦しみながらも、それでも耐え抜いたのだ!


そして今、この場でようやく私の反撃が始まる!


「あははっ!」


そんなことを考える私の口から、思わず笑いが漏れた。


……そして、そんな私に対して民衆だけでなく、この場にいる全員から嫌悪感に満ちた視線が送られる。


けれども、そんなことに一切私は気づいていなかった。

ただ、私は聖女の儀式用の絢爛な衣服に身を包んでいる自分はさぞ美しく、直ぐにルイジアの洗脳など解いてみせる、なんて思い込んでいて……


「では、儀式を始めろ」


……だから私はその王子の言葉と共に踊り出すことになんの躊躇もなかった。


ただ、来るはずもない栄光の未来を想像し、口元を歪めながら、流れ出した音楽に身を合わせ身体を動かして。


……そして私は全く気づくことなく、地獄への引き返すことのできない第一歩を踏み出してしまった。







◇◆◇







自分に酔い、周りを魅了しているとそう思い込みながら舞を舞う私に、最初なんの異常も起きることはなかった。


ー 早く歓声とか上げなさいよ!


そんな風なことを考えているだけの余裕があるほどで……


「ーーーっ!」


……けれども、舞い始めて数十秒が経った頃、私の身体に拭い去れない違和感が纏わり付くようになった。

それは酷く嫌な感じを受ける何か。

……いや、その時私の感じていたのは生理的な恐怖だったのだろう。

舞いを舞い、興奮していたからこそ気づかなかっただけで、私はその時その纏わり付く何かに対して恐怖を抱いていたのだ。


「っぁ、」


……そして、そのことにに私が気づいたのは1分程度が経った時だった。

何か得体の知れない違和感を感じ、不恰好な動きになりながらも舞い続けていた私。

けれども、その私の動きは突然目に見えて悪いものとなった。


「なっ!」


……私の身体に纏わり付く何かが、私の身体へとまとわりついてきたのだ。


それが、魔力であることに私が気づいたのはその直後だった。


私の身体にまとわりつくその魔力は、明らかにおかしかった。

怠くなる身体を必死に動かしながら、私はその異常さを感じとる。

短期間とはいえ、聖女の訓練を受けていた私は魔力を知っており、だからこそより一層はっきりとそれを理解できた。


これは、いままで私がふれてきたどの魔力とも違う異質な魔力だった。

本能的に私は理解する。

この魔力は歪んでいる。

これは、この世にあってはいけない類のものだと。


……そして、このままこの魔力をなすがままになっていれば、確実に命が危ないと。


「ぅわぁ!」


命の危機を理解したその瞬間、私は激しい恐怖を覚えた。

その恐怖から逃れようと私の頭が回転し始める。

極限の状況の中、私は記憶の中から一つの知識を呼び出す。

それは幼少の頃、まだ私が聖女の訓練を受けていた時の記憶。


この舞に込められた本当の役目だった。


「あぎぃ!」


次の瞬間、私は潰れたかえるのような声を漏らしながらも、必死に舞を舞い。


──なんとか、自分の身体にまとわりついていた異質な魔力を散らした。


それは本当に偶然の産物だった。


幼少の頃の記憶の中から、異質な魔力の散らし方を思い出したのも。

この舞に、異質な魔力を散らすのを促進する効果を思い出せたのも。

幼少の頃以外やっていなかった舞を舞えたことも。


「ぁぁあ!」


私は、身体の周りで暴走を始めたその魔力に、その偶然がなければ自分は死んでいただろうことを悟る。


万に一つの偶然によっていのちを永らえた私。

……しかし私にはそのことに安堵の息をつくことさえ許されなかった。

何故なら、私が魔力を霧散させるたたから新たな魔力が身体へと纏わりついてくるのだ。


……それも、今までとは比にならない量が。


その魔力の動きを悟った瞬間、私は命がけで魔力を散らし始めた。

……そしてその中で私は悟る。

一瞬でも気を抜けば、自分は死ぬと。

その瞬間から、私は必死に舞って舞って舞って、そして魔力を散らし始めた。


……その時にはもはや、今まで考えていた過去への栄光なんて頭になかった。


ただ、死にたくないという恐怖だけか頭を支配していて。


……けれども、幼少期に聖女の鍛錬をやめた私が魔力を散らし続けられるわけがなかった。

どんどんと量を増す魔力に対して、私は対応できなくなっていき、魔力がどんどんと私の身体に纏わり付いていく。


「ぁがっ!」


そして、その瞬間私の身体に激痛が走った。

それは私そのものの存在を押し潰そうとでもするような、そんな痛み。


……そしてその激痛の中、私の頭に浮かんだのはこれは私への罰なのではないか、何て考えだった。


裏切り、聖女の座を不当に追いやった姉が、私に激怒してこの痛みを私に与えているのではないか、という。


「ルイジア、やめて!」


……そして、その考えが頭に浮かんだ瞬間私はそう叫んでいた。


ただただ痛みを逃れる為にさらに私は言葉を重ねる。

まるでここにいない姉に許しをこうかのように。


「全て冤罪だったと認めるから!もう偽物だと立場を奪おうとしないから!悪いのは全部貴族達なの!」


……しかし、全ての罪を痛みに泣き叫び、舞いながら告白した私の言葉、それは全て自己弁護の言葉だった。

そして全ての悪事を告白した私が告げたのは謝罪などではなく……


「だって私は聖女になるはずだったのよ!その立場を奪ったあんたが悪いんじゃない!もうそれを責めないから、だからやめて!」


……見るに耐えない、自己正当化の言葉だった。


第二王子の静かな声が響いたのは、次の瞬間だった。


「……もう止めろ」


「えっ?」


……その時、今まで私の身体を覆っていた魔力の放出が無くなり、私の身体から痛みが消えた。


「た、助かっ……」


そして、私は何が起きたのか分からないものの、命が助かったというそのことを喜ぼうと笑みを浮かべて……


「っ!」


……その時、目の端に入った怒りの表情を浮かべた民衆達の顔に、ようやく自分が何を口走ったのかを悟って顔を青ざめた。


「違うのよ!全て悪いのはルイジア!あの偽物よ!これは全部呪いで私が喋らされていただけで……」


……しかし、こんな状況になっても私は未だ誤魔化せるとそう思っていた。

何故ならば私は特別で、全てルイジアに罪をなすりつければそれで私は前回、聖女になれたのだ。

だから今回も……


「……そんなことを、誰が信じると思う。聖女、いや、偽物聖女ルシア」


「ひっ!」


……けれども、その私の考えは第二王子の言葉に霧散した。

第二王子マラサル、彼は第一王子とは比べものにならない彼は、ほとんど感情を露わにしない人間で……


……だが、今私を睨む彼の目には殺意さえにじんでいた。

そしてその怒気を浮かべたままマラサルは大声で叫ぶ。


「……今更誤魔化せるとでも思っているのか?お前がルイジア様に不当に罪をなすりつけたことはもう既にわかっている!」


その瞬間、マラサルの言葉に民衆達の今まで溜まりに溜まった不満が爆発した。


「ふざけるな!この偽物が!」


「ルイジア様を……」


それは私へとぶつけられていて……


「何で、私は特別……」


……私はもはや、そんな言葉を漏らすことしかできなかった。


そしてそんな私を、マラサルは怒りと蔑みの篭った目で睨んで、口を開いた。


「ここまできて、まだ自分がなにをしたのか理解していないのか?いいだろう全てを教えてやる」


次の瞬間、そのマラサルの大声に、今まで騒ぎ立てていた民衆さえも口を閉ざし、その場に沈黙が広がった……

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