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第31話 精霊との溝

不手際だったと謝罪した私に対して、怪訝そうな表情を浮かべたマーサル。

私はそんな彼に対して、今まで私にあったことを含めて、犯人が分かったことを説明することにした。


「……何でそんな奴が!」


そして、私が全てを語り終えた時マーサルの顔に浮かんでいたのは貴族達への怒りだった。

当たり前だろう。

何せ貴族が精霊達を誘拐した目的は、十中八九自分の利益のためなのだから。

そして同胞を不当に誘拐されたことに対して、門番を自主的に勤めるなど、人一倍責任を感じていたマーサルがその事実に怒らないわけがなかった。


「……ごめん」


そして、そのマーサルの態度に対して私は酷い罪悪感を覚える。

何せこの事態は私達、アルタイラの人間の過失なのだから。

貴族達はかなり前から国王の言いつけに対して、罰せられないぎりぎりのラインの行動を取っていた。

だとすれば、国王が倒れた今どれほどの悪事を働くか、私達はもっと意識しておくべきだったのだ。

……そして、その警戒を欠いた結果こそが私の追放と、精霊の誘拐という事態だった。

確かにその追放は私の望んでいたものな上、貴族達の存在を潰せるまたとない好機となった。


……だが、それはただの偶然で常にそうなる訳などあるはずが無かった。


そう、私は自分が追放された時にもっと警戒心を持つべきだったのだ。

そのツケが今、ここで払われていて……

……今の私は悔やみは後の祭りでしかないことを悟りながら頭を下げることしかできなかった。


「にゃう……」


そしてその私の態度に、サラルも私の真似をするかのように頭を下げる。

その愛らしい顔にはいつも浮かんでいる笑みの代わりに、落ち込んだような表情が浮かんでいた。

私はそのサラルの様子を見て、サラルがあのちびっこ精霊達を考えていることを悟る。

……そして、サラルもまた後悔を抱えていることを。

そのサラルの態度はさらに私の胸に後悔を覚えさせるものだった。

何せ今回に関して非があるのは私だ。

なのに、その責任を私はサラルまで感じさせてしまっている。

それはあまりにも大きな失態だった。


「待ってくれ!ルイジア達は被害者だろう!」


けれども、そんな私達をマーサルは責めようとはしなかった。


「それよりもルイジア、貴女は大丈夫なのか?かなり不当な手段でアルタイラを追い出されたみたいだが……」


さらに、次に続いたマーサルの言葉も心から私を心配するものだった。


「うん、大丈夫」


「そうか。それなら良かった……」


そしてそれはマーサルの心の底からの言葉。

そのことを私はマーサルが自分に向けてくる安堵の視線から悟る。

……けれども、次の瞬間マーサルは少し言いづらそうにそう口を開いた。


「……だが、1つ言っておかないとならないことがある」


それは明らかに何か良くないことがあった証で……


「うん、分かっている。私サルトリアに頼んだ国民を助けてほしいという件は果たせそうに無いってことでしょう」


「……ああ」


……けれども、その態度を想像していた私は驚くことはなかった。

アルタイラの人間が誘拐した主犯であること、それは恐らくごく少数の人間しか知らないる。

何せ、二日間マーサルが必死に調べてようやくわかった情報なのだから。

そしてだからこそ、今までは精霊たちは人間達に不当な扱いを受けても、唯一アルタイラの人間に好意的だった。


……けれども、誘拐されていた精霊達が戻ってくればアルタイラの人間が誘拐をしたということはあっさりとバレる。

そしてそうなれば、今までアルタイラが精霊と築いてきた信頼関係が崩れてもおかしくはなかった。

何せ今まで精霊達がアルタイラの人間を特別視してくれていたのは、自分達を捉えようとしないからなのだから。


……そう貴族達は決して犯してはならない罪を犯し、私達は絶対に止めなければならないその蛮行を見逃してしまったのだ。


「すまない。私ではどうしようも……」


そして、マーサルのその申し訳なさそうな言葉、それに私はもはや意味のない後悔を覚える。

精霊達の助力が得れない、それは本当に致命的なことで……


「……大丈夫。とにかく今は精霊達を助けることに集中しないと!」


……そしてその時、私にはそうやって別のことに集中しているかのように振る舞うことしか出来なかった。







◇◆◇








私達が主犯のいる王都に近いの街ではなく、最初に精霊が攫われたという村に来た理由、それはそこに人質となった精霊がいる可能性を考えたからだった。

今、王都の隣街にいると思われている精霊達の最期の連絡で、この村に人質が囚われているかもしれないと、そう告げていたのだ。

残念ながら、その際は戦力が足らず精霊達が戻って来てから改めて探しに行こうという話になり、行くことはなかったが。

そしてそれが、マーサルが移動しながら私に教えてくれたこの村に来た理由だった。


「大体のところはわかったか?」


それからマーサルは話の最後に、そう私に確かめるようにそう告げた。


「ええ。つまり私達の役目は人質の解放ということね」


そしてそのマーサルの言葉に私は走りながら頷く。


……けれども実際のところ、私の頭を占めていたのは先ほどから引きずっている後悔だった。


もちろん、マーサルの話を聞き流していたわけではないし、きちんと頭にも入っている。

けれども、上の空であったことは自分でもわかっていて……


「本当に大丈夫なのか?」


そのことはマーサルにも伝わっていたのか、心配そうな顔で私へとそう聞いてくる。


「ごめんなさい……でもきちんと話は……」


そして私はマーサルに上の空であったことを気づかれた決まりの悪さを感じながら、謝罪のために口を開いて……


「っ!」


ーーー けれども次の瞬間、村のある方向から見えた赤い光に私は言葉を失った。


精霊達は眠りにつくのが早い。

だから完全に精霊達が眠りについた時間でも、まだまだ村や街では人間は起きていて、村から光が見えたところで気にすることはないだろう。

だが、私が目にした光はあまりにも明るすぎた。


……そう、まるで村で何かが燃えているかのように。


「なっ!」


その私の態度に、次いでマーサルもその村の状態に気づいて言葉を失う。

そして、その時マーサルの顔に浮かんだ絶望の表情を見て、彼も私と同じことを考えていることを悟る。


……つまり、敵は精霊達がこの村に人質のいることに気づいたことを悟って、証拠隠滅のために精霊達を殺し始めたのではないか、ということに。


……それは隣街にいる精霊達が捉えられた今、決して否定できない可能性で。


「ーーーっ!」


だから次の瞬間、私は自分に飛翔の魔術をかけ、飛び上がっていた。

マーサルが何事かいうのが聞こえるが、その内容までは聞こえない。

けれども、今はその言葉を聞き取る時間も惜しいと私は村まで飛翔していき……


「え!?」


……そして、その場に広がる光景に、思わず絶句することとなった。

次回、第二王子マラサル目線になり、一章の最後に入って行く予定です!

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