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第30話 犯人

「うぅ……」


「アラバ……」


「ひぐっ、」


マーサルと落ち合うことになる日の真夜中、闇の中でもかなりの精度で先を見通すことができる私の目に映ったのは、悪夢を見ているのか涙を流しながら呻く、ちびっこ精霊達の姿だった。

その姿は、昼間の明るく元気な時が想像できない苦しみようで……


「っ!」


……そして、その姿に私は彼女達がどれほど苦しんでいるのかを悟って、唇を噛み締めた。

昼間あれだけ明るいのは、自分の不安を押し込んでいるからなのか。

それともただ単にあの一瞬だけはその不安を頭の隅に置いているのか。

未だ彼女達と付き合いの短い私にはそのことは分からない。


けれども、どちらにせよ彼女達が行方不明になった精霊に対して心を痛めているのだけは確かで……


「……絶対、私が何とかするから」


そして私は自然と、ちびっこ達の頭を撫でていた。

それは気休めなのかもしれない。

……そうとわかりながらも、それでも私はもう二、三度順にちびっこ達の頭を撫でてゆく。


まるで決意を固めるかのように。


「にゃう……」


「うん。いこっか」


そして私はサラルのその鳴き声を合図に荷物を持って立ち上がった。

もうそろそろ時間だ。

恐らくマーサルも私達を待っているに違いない。

だから私は後ろ髪を引かれるような思いを抱きながら、ちびっこ達が眠る部屋を後にしてその場を去ることにした。







◇◆◇








「……来たか」


ちびっこ達を見ていたせいで遅れてしまった私。

けれどもマーサルはそんな私に対して何ひとつ文句を言うことはなかった。

……ただその目は酷く悲しそうに細められていて、自分がこの場に遅れて来た理由を彼が分かっていることを悟った。


そしてそのマーサルの態度は何も文句を言わないことによって、私がちびっこ達に時間を割いたことを責めるつもりはないことを言外に表していた。


「ありがと」


「ん」


その態度に対して、私が短く告げた礼にマーサルは少し頷いて応じ……


「情報交換は外に出たからだ。恐らく、今話しきれる量ではない。それに、出来れば他の精霊には見つかりたくない」


「分かったわ」


……そのやり取りを最後に、私たちの間の雰囲気は変わる。

そしてその瞬間私達は未だ起きている精霊達に見つからないよう、闇夜に身を潜めながら精霊の国を後にした……








◇◆◇







「ここが……」


そしてそれから数分後、私達がいたのは最初案内人が行方不明になったと言われていた場所だった。

しかし、その村は全く甘味の有名なお店もないどちらかといえば寂れた場所で、だから私は疑問を覚える。

そして私はその疑問を解消すべく、マーサルにそう声をかける。


「何でこんな場所に案内人が?」


「……それはここに精霊の国への入り口が存在するからに決まっているだろう」


「えっ?」


その私の疑問に対するマーサルの返答、それは私も全く聞いたことがない案内人の本来の役目で……

そして驚く私に、マーサルは丁寧に私たちが案内人と呼ぶ精霊の役目を教えてくれた。


案内人、私達は様々な街に点在する精霊達をそう呼ぶ。


何故なら彼らは私達人間を精霊の国へと導く、そんな存在であるからだ。

……けれども、それは精霊達の本来の役目ではなかった。

というのも、案内人達の本来の役目は精霊の国へと繋がる門を守るためにこの場所にいるのだ。

私達人間が、その精霊達を案内人と呼ぶから精霊達もそう呼ぶようになっただけで、彼らはどちらかというと、守護人というべき存在だ。

……けれども、甘味が有名な街に守護人の精霊達が集中するせいで、人間達は精霊達は甘味を求めている人間界に来ている、と勘違いしていたのだ。

だからこそ、私達は有名な甘味がない街には精霊達がいないと思い込んでいる。


「なるほど、そんな役目が……」


そしてその話を聞いた私はそう頷く。

精霊に関してはかなりサルトリアに聞いていたのだが、精霊の国との関係について、私は全てアルタイラに任せていた。

そのせいで、どうやらかなり偏った知識になっていたらしい。


「……貴方でも知らないことがあるのか」


そして、その私の様子を見て、マーサルはそう呟いた。

その様子に、私はどこか自分がなんでも知っている万能の人間のように言われている気がして、居心地悪げに身じろぎする。


「……だが、精霊の誘拐をこの場から始めた人間は、この村には殆ど精霊がいないことを知っていた」


「なっ!」


……けれども、そのマーサルの次の言葉に私の中からそんな居心地の悪さなんて吹き飛んだ。

何故なら次にマーサルが告げたその言葉、それは決して無視できない内容で……


「っ!」


……そしてその内容を加味するならば、容疑者は絞られてくることになるのだから。

何故なら、他国では精霊の国の存在ははほとんど知られていない。

つまり、精霊を誘拐した何者かが、案内人達の本来の役目を知っていたのだとすれば、その人物はアルタイラの人間であることを示しているのだ。

……たしかに私は名前から案内人達の役目を勘違いしていたが、精霊達の様子から考えれば、そのことを隠しているという訳ではないだろう。

つまり、アルタイラのある程度の権力がある、精霊達と関わる人間ならばその役目を知っていてもおかしくなく……


「ということは……」


「……ああ。私達は、精霊を誘拐したのは王都の人間だと考えた。だから、精霊の国の高位の精霊達は王都ではなく、隣街へと身を潜めていた」


……そのことを精霊達も認識していた。

そしてアルタイラに精霊を誘拐したものがいると確信した私は思わず唇を噛みしめる。

もう、ここまでくれば一体誰が精霊達を誘拐したのか、私にわからないはずがなかった。


「やってはならないことを……」


思い出すのはアルタイラを出ようとした時の出来事。

あの時、傭兵達が持っていた気配を隠す鎧。

それが最初なんなのか私は分かっていなかったが、今なら理解できる。


──あれは、精霊の羽を使って作られた武具なのだと。


そこまで分かって、私に犯人が分からないはずがなかった。


貴族、ルシア、ロイド。

あの愚者達が、精霊を誘拐した張本人だ。


「……マーサル、ごめんなさい。これは私の不手際」


「え?」


私はマーサルへと謝罪をする。

確かに私は愚かな貴族達は放っておけば自滅すると考えていた。

それは決して誤りではないだろう。

確実に彼らは自滅して、消え去る。


……けれども、その際道連れにどれほどの被害を周りに出すのか、それを私は計算していなかったのだ。


いや、しきれていなかったというべきか。

だから私は、その責任を取るべく言葉を紡ぐ。


「今回の犯人、その人間にはこの私が直々に手を下すわ」


……そしてそう告げた私の言葉には隠しきれない殺意が込められていた。


その時、最強の聖女を敵に回してしまったことを、未だ貴族達は知る由もなかった……

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