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第29話 貴族の苦悩

今回は貴族目線です!

「なんでだ……なんでこんなことになったんだ……何とか上手くいってくれ……」


自室の中、私ことサラルスはそう呆然と何度も同じことを呟いていた。

頭に浮かぶのは、ルシアを聖女だとそう宣言した日。

その時、ルシアは民衆にあっさりと拒絶された。

日頃の行いから、ルシアは民衆から疎まれ、そしてルイジアは逆に民衆から大きな支持を得ていたのだ。


……それは私が全く想像していなかったことだった。


確かにルシアの悪評については私もある程度は知っていた。

けれども、その悪評が民衆に知れ渡るほどのものであることだとは、私も想像さえしていなかったのだ。

そしてその見落としは私の栄光へ至る道を塞ぐ障害となっていた。


けれども、それは決して致命的な失態ではなかったはずだった。


確かにこの計画で、民衆の支持を得られなかったことは痛い。

けれども、ルイジアがおとなしく国を去った今、正式に聖女として認められているのはルシアだ。

そしてその肩書きさえあれば、民衆の支持という力が無くなっても、どうしようもない事態に陥ったわけでは無い。


……けれども、その私の考えはその人の午後、第二王子から告げられたある話よって崩れさることになった。


「くそ!そんなこと、分かるわけが無いだろうが!そんな、聖女が重要な存在だったなんて……」


そう、それは聖女という存在や、封魔の儀の本当の役割について。

そしてそれは明らかに偽物である、ルシアなどの手に負えるものではなくて……


……けれども、その私の言葉を一切王子達は聞こうとしなかった。


新しい聖女は日が浅いが、聖女だと名乗ったのならばこの儀式ができないわけが無いと、そう私へとその重責を押し付けてきたのだ。

……そしてその時になってようやく私は悟った。

ルイジアが去り、ルシアを不当な手段で聖女にしようとした私に対して、何故王子と新貴族らが干渉しようとしなかったか。


「くそ!あの人でなしどもが!」


つまり、最初から第二王子達はこうなることを悟っていたのだ。

だからより確実に私を追い詰めるため、いや、正確には腐敗した貴族を一掃するために彼らは敢えて手を出そうとしなかったのだ。


……そして、封魔の儀を行えば自分が破滅することを私は分かっていた。


聖女の存在の重要さ、それを知った今なら分かる。

聖女の不当な入れ替え、それがどれ程の重罰であるか。


……そしてそんなことが明るみになれば、私達は身分を剥奪されるだけではすまないことを。


だから私はルシアにかけることにした。


「頼むぞ……」


……そう、私が賭けたのはルシアが神獣を手なづけるという可能性だった。

普通に考えれば、ルイジアを敬愛していた彼らが私たちを助けるなんて考えられ無い。

……その上、そもそも神獣と聖女は別に親しい存在などでは無い。

ただ、神獣にいいイメージを持たせるためにそんな風に言っているだけ。


神獣を手なづけていたルイジアが特別であっただけで、本来ならば神獣は聖女の頼みなど一切聞かない。


つまり、幾ら聖女であれ、ルシアが神獣達を手なづけられる可能性はゼロに等しいのだ。

……けれども、もうそれだけしかこの場を乗り切る手段は存在しなかった。

神獣を手なづけることは困難だ。

けれども、だからこそ神獣が味方につけば王子達は強く出ることはできない。

そうすれば、この状況を打開する、もしくはこの国から逃げるための貴重な時間を稼ぐことができる。


それに、ルシアが浮かべていた笑み、それはまるで自分が拒絶されることがあり得ない、とでもいうかのような自信にあふれていた。


……普通に考えれば、そんなことを思えるわけが無い。

何せ神獣はルイジアを追放した私達を恨んでいるはずなのだから。


そしてそんな当たり前のことをルシアがわからないわけが無い。

けれども彼女の自信は揺るぐことがなくて……

だからこそ私にはそのルシアの表情が何か策を抱えているように見え、そして賭けたのだ。


「神よ……」


私はせめて確率が上がるようにと、手を組んで祈る。

そして慌てた様子で部屋に部下が入ってきたのはその時だった。


「サラルス様!」


「っ!」


ただごとでは無い、その部下の様子。

それに私はルシアのことだと直感的に察する。

そして、緊張と少しの期待を込めて私は部下の方へと振り向き……


「ルシア様が神獣を激怒させ、逃げ帰ってまいりました!」


「ーーーっ!」


……次の瞬間私の顔から、表情が消えた。







◇◆◇







「嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ」


最悪の報告から一時間後、私は部屋の隅でがたがたと震えながらそう言葉を重ねていた。

その表情は真っ青で、まるで不治の病にかかった病人であるかのよう。


……そして、死期が近いということでは私もその病人と同じだった。


何でこうなったのか、私は恐怖で震える頭で必死に考える。

そう、本当なら私は今頃栄光の道を登っているはずだった。

国王さえも凌駕する力を有し、哄笑を上げる自分。

それが私の想像で……


「何で、何だ……」


……けれども、現実は行動を起こす前よりも遥かに酷い地位に追い込まれかけている。

いや、それどころでは無い。

何せ殺されるかもしれないのだから。


「何でだ!金の山も確保して私の計画は完璧だったのに!」


そしてその現実に私は、まるで羽のような何かを握りしめてそう叫んだ。

それは酷く美しい、まるで名匠が作った美術品のような羽で、それこそが私のいう金の山だった。

……けれども幾らその羽に価値があれど、現状を考えれば今の私に有効活用することなんてできない。


「頼む!誰か、誰か助けてくれ!」


……そして、最悪の現状にそんな声を私が上げたその時だった。


「しょうがないですねぇ」


「っ!」


突然、私一人であるはずの部屋に男の声が響き、私は言葉を失う。


「ガージフ!」


「やぁやぁ、お久しぶりでございます」


しかし、その声の主の姿に私は安堵の声を出した。

ガージフというその男は酷く淫靡な空気を纏った、見るからに人間離れした男だった。

そして人間離れしているのが見た目だけではないこと、それはこの私の部屋にだれにも見つかることなく入ってきたことが証明していた。


「助けてくれ!ガージフ!」


けれども、その実力を目の当たりにしても私には恐怖はなかった。

利益が合えば協力できる人間であることを私は知っていたからだ。


「おやおや、相当追い詰められていらっしゃるようで……良いですよ」


そして、その私の態度にガージフは笑みを浮かべる。

それは今度も私を協力してくれるという何よりの証拠で……


「礼を言うぞ!ガージフ!」


そしてその瞬間、安堵のあまり私はガージフにしがみ付いていた。

彼の実力がどれほどのものが私は知っている。

だからこそ、この状況でも切り抜けられることを私は疑っていなかった。


「……ふふ。自分が利用されていることにも気づかずに」


……けれども、安堵に涙を浮かべていた私は気づくべきだった。

タイミングよく現れたガージフ、彼が差し出したのはは決して私にとって救いの手ではなく……


……地獄へと引きずりこむ、悪魔の手だったというそのことを。

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