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第28話 特別な人間

ルシア目線です!

私、ルシアは自分が特別な人間であることを知っていた。

だから私は聖女である姉ルイジアが周りに評価されている時だって、それはただ一時のことだと思い込んでいた。

何故なら、真に敬われるべき存在は私でありルイジアではないのだから。


……だからこそ、私が新たな聖女であることを明かした広場での民衆の反応は私の心に大きな傷を残していた。


あの時のことは今でも鮮明に頭に残っている。

聖女はルイジアで、お前などお呼びではないとでも言うように叫ぶ民衆達の姿。


……けれども、他の誰でもなくルイジアだけは本当に聖女とふさわしい人間でないことを私は知っていた。

頭の浮かぶのは、決して美少女とは言えない顔立ちの、陰鬱な顔で怯えるように身体を縮こまらせている一人の少女の姿。

それこそが、幼い頃のルイジアの姿だった。

それは未来に聖女になるどころか、その可能性があるといっても信じられないような惨めな姿で……


……だが、何故か今この国の人間達の賞賛を一身に浴びるのはその少女だった。


それは決してあり得ない光景だった。

何せルイジアは絶対に聖女になれなかったはずの人間なのだ。

だからこそ、私は悟った。


この国の全員がルイジアに洗脳されていることを。


そう、つまり私は正義の使徒なのだ。

この国の人間は全員、ルイジアに騙されて本当の聖女である私に気づかなくなっているのだ。

それは酷い悲劇。


けれども、そのことに気づいた今なら、どうとでもやりようがあった。

そう、私は1つの策を思いついたのだ。


それはそれは聖女の証とも言える神獣に私が聖女であることを保証してもらうこと。

そうすれば誰だって文句は言えない。

それに私は自分から見ても文句なしの美形だ。

そんな私から頼まれれば神獣だって文句を言うことはないだろう。


……いや、それどころか悲劇のヒロインである私に愛を囁こうとするかもしれない。


私はそう考え、そして聖女の鍛錬をしていた時に教えてもらったことで唯一頭に残っている、美形に人化するリヴァイアサンの元へと行くことを決めたのだ。


……けれども、最初貴族は何故か私に神獣の元に行く許可を出そうとしなかった。


ルイジアを追い出した私が行けば殺されるとか、おかしな理由で。

けれども、私は諦める気は無かった。

神獣の元に行けば全てが丸く収まると私は確信していたのだ。


そして、そんな私に幸運が舞い込んできたのは1日前のことだった。


衰弱した様子の貴族が現れ、どうにか神獣を手なづけてくれと頼まれたのだ。

私は衰弱した貴族の様子に、最初からそう頼んでいれば問題はなかったのにと、嘲りながら、リヴァイアサンの元へととんでいった。

そこから始まる、輝かしい未来を想像しながら。



……けれど、そんな未来が私に来ることはなかった。

なぜかリヴァイアサンは激怒し、私の目論見はあっさりと潰えた……








◇◆◇








「なんで、よぉ!」


命からがら、激怒したリヴァイアサンから逃げ出した私は、王宮の自室でそう一人叫んでいた。


あまりの恐怖に粗相をしてしまい、逃げ帰った王宮で王子共々かいた恥に、そしてリヴァイアサンさんの怒りにる恐怖。


それらに今の私の心はボロボロだった。


「なんで!なんで!」


けれども今私が一番衝撃を受けているのは、そんなことではなかった。


……そう、今の私の心を最も蝕んでいるのはリヴァイアサンの拒絶だった。


確かに神獣は気難しいと私も聞いたことがある。

それは穏やかな緑龍カラムでさえ、激怒した時には何をするか想像できないと言われるほど。

そしてその神獣の中でももっとも気難しいと言われるのがリヴァイアサンだった。

気に入った人間にはある程度心を許すことはあるらしいが、殆どは無関心。

しかし、気に入らない人間に対しては徹底的に敵対する。


……けれどもそのことを聞いても私は神獣に自分が選ばれることを疑っていなかった。


「神獣が気難しいなんて、選ばれた私を持ち上げるための設定でしょうが!なのになんでリヴァイアサンは私を選ばないのよ!」


しかし、現実は全く私の思うようになど行かなかった。

けれどもそんなことを私は認めるわけには行かなかった。

何故なら私は特別なのだ。

だから、私がリヴァイアサンに拒絶されるなんて、あり得ないはずで……


「……そうよ。神獣もルイジアに洗脳されているのよ」


……そして、その時だった。

ふと私の頭にリヴァイアサンが私を拒絶した理由が天啓のように降りてきたのだ。


「そうよ!なんで今まで思いつかなかったのかしら……あんな女がこんなに大勢の人間の支持なんて集められる訳がないもの!」


先程まで心の中を支配していた憂鬱さが消え、代わりに私の胸に新たな未来へと希望が溢れて来る。

本当に何故、こんな簡単なことを気づかなかったのか。

卑怯なルイジアならば、そんなことをしてもおかしくなんて無いというのに。


「あれ?」


そして、そう浮かれ始めた時、一枚の封筒が私の目に映った。

現在聖女である私の部屋には滅多なことでは直接何かが届けられることはない。

普通、知らせは貴族に届いてから、私へと持って来られる。

だから不審に思った私はその封筒を手にとり……


「封魔の儀!」


……そして、その封筒の表に書かれていたその文字に声を上げた。


封魔の儀、それは代々聖女が代々10年周期で行う大々的な儀式のことだった。

その内容は聖女が舞を舞うだけのもの。

けれども、着飾った聖女が踊るその姿はこの国の人間達、いや、それどころか神獣の注目を集める一大行事だった。


「……これなら、ルイジアの洗脳を解ける!」


そして、その封筒の表を見た瞬間私はそう言葉を漏らしていた。

確かにルイジアの洗脳は酷く強力なものかもしれない。

けれども、この封魔の儀でこの美しい私が着飾り踊れば、その美しさで幾ら強力な洗脳であれ、解けるに違いない!


「っ!」


そんな考えを思いついた瞬間、私はその封筒を掴んで貴族の元へと走り出した。

貴族に自分の考えを話し、そして封魔の儀を行うために。


「見ていなさいよ、ルイジア!」


そして、そう言葉を漏らした私の口元には隠しきれない歪な笑みが浮かんでいた……


……しかし成功し、リヴァイアサンやイケメンの騎士に持ち上げられる妄想をしている私は知らない。

その封筒、それは己を破滅に導く最後のピースであることを。

せめて、私がその儀式の内容を正確に覚えてさえいれば、その悲劇を回避できる可能性があったかもしれない。


けれども、緩んだ笑みを顔に浮かべ走る私がそんな未来を知ることはなかった……

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