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第23話 断れない頼みごと

ちびっこ達の涙を見て、決意新たに部屋を出た私。

そして精霊の国の中を、まずは何が起きたか聞こうと散策し始めた。

その心はやる気と、使命感に満ちていたが……


「はぁ……」


「にゃう……」


……けれども、ちびっこ達が眠りにつき、彼女達を落ち着かせるために部屋に残っていたサラルと合流する程の時間が経ってもなお、私は何の成果も出せていなかった。


「なんでこんなに誰もいないの……」


その理由は簡単だった。

話を精霊達から聞こうにも、まずその精霊の存在が見当たらないのだ……

確かに精霊は長命のためあまり子をなさず、あまり数が多くはない。

けれども、精霊の国はあまり大きくはないので、本来ならかなり賑わっている。

廊下を見れば、十数人くらいは緩やかに談笑しながら仕事をしている程度がいるのが普通であるにも関わらずにだ。


「本来に何が起きているの……」


それは明らかに異常な事態で、私は思わずそんな言葉を漏らす。


……だがその異常をさらに際立たせているのは、時々見つけることができる精霊達の姿だった。

確かに今、精霊の国では殆ど精霊が見当たらなかったが、けれども全くいないというわけではなかった。


私だけが探している内に、1人。

そして、サラルと合流してその神獣だからこその魔力センサーのようなものを使って4人もの精霊と私は出会った。


……しかし、その精霊達のどれもが疲れ切っていて、サルトリアと同じような状態で仕事に取り組んでいたのだ。

私が声をかけるのを躊躇してしまうほどに。

……それでも流石に拉致があかないと感じた私は、最後に会った精霊には忙しそうにしているところを中断して話を聞いてみることにした。

けれども彼女から得れた情報は急に忙しくなった、ということだけで、私は彼女達が何も知らされていないという情報しか得ることはできなかった。


……もしくは、口止めをしているのかもしれないが。


だが、その可能性に勘付きながらも私は一心不乱に仕事に打ち込んでいる精霊をこれ以上邪魔をすることはできなかった。


「はぁ……あの時問い詰めておけば良かったかなぁ……」


……しかし今、そのことを私は後悔していた。

何せこれだけ回って、精霊達の少なさやその態度という異常の酷さは伝わってきた。

けれども肝心のその理由については私達は全くと言っていいほど何も分からないのだ。

それからば少し強引に精霊達の話を聞いていた方が良かったかもしれない、と私はそう溜息を漏らす。

何せ、私が異常を解決すればこの異常な忙しさも終わるはずなのだ。

だから私は一瞬、精霊達の元に戻って問い詰めるか悩む。


「でも、本当に何も知らなかったら……」


……しかし、私は精霊が本当に何も知らなかった場合のことを考え悩む。

精霊達が何も知らなかった場合、それが本当かどうかを見分ける術は私にはない。

長く生きている精霊達は狡猾というか、悪賢い場合が多くて……


「はぁ……」


……だとすれば、私の行動はただの邪魔で終わりかねない可能性がある。

しかも忙しい精霊達の時間を長時間奪うことになりかねないのだ。

そしてそのことに思い至った私は思わずため息を漏らした。

どうすればいいのか、全く思いつかない。

けれども、どうにかしなくてはならなくて……


「回るか……」


とりあえず精霊の国を回ってみようと、私が歩き出したその時だった。


突然、私の進行方向にあった扉が開き……


「あっ」


「ん?あっ!」


……そしてその部屋から、あの門番の青年が現れたのだ。

あまりにも想定外のことに私が思わず上げてしまった声に青年が反応して、2人の間に何とも言えない空気が流れる。


「先程は申し訳無かった!」


「またこのパターン!?」


……そして少しの間の後、青年が行った土下座に、私はそう叫ぶことになった。







◇◆◇








それからしばらく経った後、私と青年、マーサルさんは向き合って彼が出てきた部屋の中の椅子に座っていた。


「本当に申し訳無かった……」


「いえ……」


そして土下座はやめてもらったものの、マーサルさんは未だ申し訳なさそうに私をみていて、私は居心地の悪さを感じる。

何故なら今回のことに関してマーサルさんに非がないとは言えずとも、一番非があるのは私なのだ。

何せ今回の件に関しては私が強引に押し入ろうとしていたことが原因なのだ。

さらにそもそもマーサルさんはこの精霊の国の精霊ではなく、もっと遠い場所にいる精霊で、聖女の存在など全く知らなかったらしい。

……そこまで聞いて、マーサルさんが全て悪いなんて思えるほど、私の頭は空っぽでは無かった。

というか、誰だって一番非があるのは私だと分かる。


これだけ厄介な状況に巻き込まれている中、押し入ろうとする人間がいたら問答無用で撃退するのはおかしくないのだから。


そしてこんな状況で謝られたとして、どんな反応を私は取ればいいのだろうか……

と、私は幾ら私の方に非があると言っても認めようとしないマーサルさんを半目で睨む。

……もういっそのこと、先程から明らかに気にしているサラルをけしかけてやろうか。


そして、私がそんな風に若干苛立ちを溜め込んでいた時だった……


「……確かに精霊達が次々と誘拐されていくという、かつてない異常な事態であっかもしれない。けれども私の対応は大恩のある人に対してのもの……あれ?これは言ってはならないことだったような」


「えっ?」


ーーー 聞き逃すことのできない言葉を、マーサルさんがぽろりと漏らしたのは。


「あぁ、すまない。先ほどの言葉は聞かなかっ……」


「そう言えば私に謝罪したいと仰っていましたよね」


「っ!」


……そしてそこからの私の行動は早かった。

顔に可愛らしい照れ笑いを浮かべながら、誤魔化そうとしたマーサルの肩を掴み耳元でそう囁く。


「い、いや、私は居候の身で、詳しいことは……」


「サラル」


「にゃうっ!にゃにゃ!」


「ひぃ!?」


……マーサルさんが口を割ったのは、それから十数分後のことだった。

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