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第22話 決意

「はぁ……」


サルトリアと話した部屋を後にしてから小一時間経った時、私は溜息を漏らしながら案内された自室で休んでいた。

精霊達の国、つまり亜空間の精霊達の居住地は実はまるで屋内にいるかのような、そんな作りなっている。

それはカラムが作った亜空間に、精霊樹と呼ばれる特別な樹を材料とした城のような建物で、その設計は人間が行ったものらしい。

そして私の部屋の内部でも、過去、精霊達が人間達に依頼して作ったさまざまな絵画などの彩り豊かな美しい芸術品が飾られていたが、今の私にはその美しさを楽しむ余裕はなかった。


ー 今は少し立て込んでいて……でも、手は打っているんです!


ー 直ぐにルイジアの頼みを聞けるようにしますから!


「サルトリア……」


美しい廊下を浮かない顔で歩く私の頭に浮かぶ言葉、それは私の頼みを断った後、サルトリアが続けた言葉だった。

そしてそう告げた時の彼女の顔には隠しきれないほど色濃い疲労が浮かんでいた。


私に怒っていた時は彼女が興奮していたせいで、あまり目立ってはいなかったそれはまるで2、3日寝ていないと言われても納得できるような顔で。


「……一体何が」


……そして私は、その時になってサルトリアがどうしようもない状況に陥っていることを悟った。


それが何なのか、詳しいことは全く私にはわからない。

けれども、ちびっこ精霊達が亜空間の入り口にいたことや、見知った精霊達がこの場にいないということと決して無関係ではないだろう。


……そしてそれらの状況は、今精霊の国を襲っている危機がどれほど大きなものであるかを示していた。


「……親友の危機に全く気づいていなかったなんて」


そして、そこまで考えて私はそう自嘲の笑みを漏らす。

確かに聖女の仕事が忙しかったのだと、言い訳することはできるだろう。


……しかし、精霊の国から殆ど精霊が消えるなど、明らかに異常な事態が起きてもなお、私は全く気付いていなかった。


「親友、それはこんなに一方的な関係ではないはずなのにね」


そして私は、それ程の事態になっていても私を助けてくれようとしているサルトリアと、彼女がそんな目にあっていてもなお、知ってさえいなかった自分を比べて皮肉げな笑いを漏らす。


「ひぐっ」


……そして、陰鬱な空気をまとっているのは私だけではなかった。

何故か私の部屋に勝手について来ているちびっこ精霊達も先程までの元気さが嘘のようにしょげかえり、目に涙を浮かべていた。


……私に謝罪した後、サルトリアは吊らされていたちびっこ精霊達へと説教を始めた。


けれども、彼女達はサルトリアの強い口調にかなりびびりながらも、決して自分たちの非を認めようとしなかったのだ。

自分達はアラバを探しに行くのだと、絶対に彼らを助けるといい続けながら。


……けれども、そのちびっこ達の威勢は悲しげな顔をしたサルトリアに何事かを耳打ちされた途端に消え去ることになった。


その時、彼女達が何をサルトリアに言われたのかは分からない。

そして何故あんなに悲しそうな顔をサルトリアがしたのかも。

……けれども、その瞬間彼女達は泣き出してしまって。


それだけで私はどれほど彼女達が辛い状況にいるのか、それを悟ることになった。


そして今も彼女達目からは泣き止みはしたものの、大粒の涙が消えることはない。


「にゃう……」


そしてその彼女達の姿に、最初はこれでおもちゃにされないと喜んでいたサラルも心配になったのか、そのもふもふの身体を慰めるように擦り付けている。

そのサラルのもふもふは彼女達だけでなく、私さえ虜にした魔性の毛皮で……


「あんがと……」


「サラル……」


「グズッ」


……けれども、その毛皮をもってもなお、彼女達の元気を取り戻すことはできなかった。


「少しいい?」


そして、その彼女達の態度に耐えかねて、気づけば私はそう声をかけていた。


「ふぇ?」


突然声をかけた私対して、怪訝そうにこちらを見てくるちびっこ達。

その目の奥には隠しきれない悲しさがあって……


「この国で何があったの?どうしてこの国は精霊の国なのに精霊が少ないの?」


彼女達の助けになるべく、私はそう言葉を重ねていた。

私が聖女であることを彼女は知っている。

だからその時私は、自分がそう声をかければ彼女達は素直に口を割ってくれるだろう、そう判断していた。


「っ!な、な、な、何のことか分からぬ!」


「ルーア!その反応は余計怪しいでしょうが!」


「……ライアちゃんの言葉も、何かがあったて、その原因を知っているて、言っちゃってるよ?」


「あっ!」


だからこそ、ちびっこ達がそう誤魔化せて無いが、必死に誤魔化そうとした時に私は驚愕を隠しきれなかった。

あと、一番サーラが重要な情報をポロリしているのだが……


「な、何もないから!」


そして明らかに何かあると隠しきれていないのにも関わらず、さらにルーアはしらを切ろうとしていた。


「何で、サルトリアも貴女達も私に情報を隠そうとするの?」


……その態度に対して私はそう口を開いていた。


決して自惚れではなく、私は一個人としては破格外の力を有している。

それは人間よりも遥かに強大な力を持っているという、精霊さえも超越する程の。


恐らく、あのサルトリアのことだ。

打つ手がないという状況になれば、私へと助けを求めるのは間違いないだろう。

その判断に関して彼女が間違うことはない。

そしてそれは、今の危機的状況でもサルトリアは何らかの手を打っていることを示している。


「私なら、もっと早く終わらせられる」


……しかし例えそうだとしても、私に協力を頼んだ方がこの状況を遥かに簡単に打開できるのは変わらない。


なのに、サルトリアは私を頼ろうとはしなかった。

その真意が何処にあるのか、私には分からない。

けれども、このままでは納得なんか私には出来そうになくて。


「でも、聖女さまは人間なんでしょ?」


「っ!」


ーーー だが、私の言葉にくしゃりと歪めた、ルーア達の顔に私の中から一瞬その感情が消えた。


「幾ら強くても、人間は精霊よりもすぐ死ぬんでしょう?でしたら、精霊達が解決すべき問題に聖女様を引きずり込む訳にはいきません」


「……そう、サルトリア様が言ってました」


……それは決して間違っていることではなかった。

何せ聖女は強大な力を有する代わりに酷く短命だ。

私とルシアの親、また王妃様も若くしてその命を散らすことになったのだから。


……しかし、涙でぐしゃぐしゃな顔をして、今にも助けを求めたくなる衝動を押し殺してそんな言葉を私に告げた、ルーア達の顔を見て私が納得できるわけがなかった。


「そう……少しお手洗いに行かせて貰うわ」


私は表向きには納得したように、そう告げてその場を後にする。


けれども、その態度と違って私はあることを決意していた。


確かに聖女は短命だ。

けれどもそれはアルタイラでの務めがあるからこそのものだ。

それに対して私はもうその務めを果たす必要はない。


ーーー そして何より、私は他の聖女達とは違う。


だから私は、この健気な少女達の涙を止めるために、聖女として動くことを決めた……

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