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第21話 頼みごと

「……なんなんですか、なんでそんなことに!?」


私の話を聞き終えた後、サルトリアはそう怒りを抑えきれないと言った様子で叫んだ。

それは酷い剣幕で、私の膝にいるサラルが身じろぎする。

けれども、その怒りの大本となるのは私を大切に思ってくれているという感情で……


「うん、ありがとう」


気づけば、私はそう自然とお礼を口にしていた。


「ルイジア!?なんでここで出てくるのがお礼なんですか!そんな風に抜けているからこんな目にあうんですよ!」


すると、ますますサルトリアは怒った様子でそう叫ぶ。


「え、でも、ここに来たのは私の意思だよ!」


その彼女の態度に、そんなに激怒するとは思わず、私は焦りながらも、言葉を付け加える。

普段声を荒げない彼女のその態度に、流石にマズイかもしれないと、そう感じたのだ。


「分かってます!そうでなければ貴女を強制的に追放できる存在なんて神獣ぐらいなのですから!」


……しかし、それは逆効果でしかなかった。

その余計な一言でサルトリアの逆鱗に触れてしまったことを私は悟る。


「そんなことを私は言っているんではないんです!たしかに貴女は何の不都合もないから出て来たのでしょうが、だとしてもあれだけ頑張ってきた貴女が貶められた事実は変わりません!」


「は、はい……」


どんどんと言葉に熱がこもってくるサルトリアの姿に、私はルシアが何かしたかもしれない可能性に気づく。

精霊の代表であるサルトリアは一度アルタイラに訪れたことがあり、その際に少なくない貴族の心を奪ったという逸話がある。

そんな美貌を持つサルトリアに対し、ルシアが見当違いな嫉妬を抱くのは、容易に想像出来る状況だった。


「あのルシアという女は、私に対して魔道具の素材風情が調子に乗るな、と言ってきたこともありましたからね」


「なっ!?」


……そしてそんな私の予想はあっさりと当たった。


いや、正直想像以上だったかもしれない。

恐らくルシアは聖女という存在を絶対視していたのだろう。

それは決して間違いなどではない。

確かに聖女は、一部とはいえ、王族に匹敵する権限を有しているのだから。

それは他の国ではあり得ない破格の存在である何よりの証拠だ。


ルシアがしたのは、そんな聖女でさえしてはならない行為だった。


「本当に、宣戦布告されたのかと思いましたからね……」


「ごめん……」


「ルイジアが謝る必要はありませんよ。よくあんなのが妹で耐えれましたね……」


過去の妹の暴走を、私は顔を真っ青にして謝罪する。

サルトリアはそんな私を憐れむようにするだけで怒りを見せることはなかったが、ルシアのしたことはただで済むことではなかった。


聖女の持つ権限は、アルタイラ国内では異常とも言えるが、それはあくまで国内だけだ。

他国に対しては、聖女のもつ影響力などたかがしれているだろう。


何故なら、聖女の有する権限に関しては殆ど国内での儀式の際に滞りが無くなるようにと与えられたものでしかないからだ。

そもそも聖女に与えらる権限は、一見強大に見えるもののその実、酷く限定的でしかなく、その立場で人を振り回せるような類のものでは無い。

特に、精霊という人間のしがらみの外側にいる存在には、まるで効力など持たないものなのだ。


そんな存在のトップに、最悪の侮辱をしたルシアの行動は、控えめにいって頭がおかしいとしか考えられないものだった。


「最悪戦争を起こしかねない、なんて考えたことも無かったでしょうね……」


サルトリアが怒りを押し殺してくれたのは私への恩義と、カラムの存在があったからだ。

それらの事情がなければ間違いなく、戦争が起きていた。

本当に何を考えているのだろうか。


……いや、ルシアは何も考えていないのが正解か。


聖女ではないルシアには、一切権限など手にすることが出来ないこと。

本当に戦争が起きれば、まっさきにルシアは見せしめとして殺されていただろうこと。


その全てを、まるでルシアは想像していなかったのだろう。


「はぁ……それにしても、アルタイラの国民は可哀想ですね。あんな存在が聖女になれば一体どれほど国が乱れるか……」


そして、その私の心の底から疲労を感じているような表情にサルトリアも流石に憐れみを感じたのか、そう同情するように言葉を重ねてくれる。

それは恐らく何気無い言葉だったのだろう。

何せ、そう告げたサルトリアの顔には私に対する憐れみ以外何も浮かんでいなくて……


ーーー けれども、それは私がサルトリア達に頼み込みに来た、理由に関わる言葉だった。


「っ!少し、頼みごとさせて貰っていい!」


「えっ?」


そして突然、そう真剣な雰囲気を纏った私に対してサルトリアはそう呆然とした声を漏らした……






◇◆◇






私がこの精霊の国に来た理由、それは平民達の暮らしの混乱を最小限に抑えるためだった。

私が去った今、決して遠く無いうちに神獣達は元々いたカラム以外は全員その場を去る。

そしてその時に何らかの対策が必要なのだ。

何せ、それ程までにアルタイラは現在、神獣の存在に依存している。


恐らく、このまま何もしなければアルタイラは滅びる可能性がある。


だから私はアルタイラでの、神獣の代わりとして自然に近い存在である精霊達に助けを求めに来たのだ。


「お願いします!アルタイラに少しの間来て欲しい。決して精霊達に危害が与えられることがないように、私とマラサルが手配します!だから!」


サルトリア達がアルタイラの平民達に関しては何の悪印象も抱いていないことを私は知っていた。

そうなるように、私たちが必死に動いて来たのだ。


「ごめん、なさい」


……けれど、その返事は否定だった。


「っ!」


私は決して悪印象は持たれていない、そう思っていたからこそ、その返答に驚き衝撃を受ける。

けれども、ここで引き下がるわけにはいかない、そう口を開こうとして……


「ごめんね、ルイジア」


……けれども、酷く悲しげに顔を歪めたサルトリアに対して、もうそれ以上何かを言うことはできなかった。

昨日もですが、予約投稿したつもりで間違えて投稿していました……申し訳ございません……

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