第1話 突然の呼び出し
私がこの広場にやってきた理由、それは一つの手紙だった。
侍女にルシア様からです、と手渡された手紙の中にこの場にやってくるように書かれてあったのだ。
「何を唖然としている!自業自得だろうが!」
「殿下、私のために……嬉しいですわ!」
……そして来てみたら、なんか茶番を始まった。
うん、何が起きたのか全くわからない。
落ち着こうと最初から何があったのかを考えてみたけれども、全く何が起きているのか分からない。
むしろ混乱が深まった。
ルシアの目的は、聖女の座を奪おうとしているのだと簡単に分かる。
けれども私には王子の目的が分からなかった。
何せ今まで王子は私に言い寄って来ていたのだから。
……それもかなり強引に。
それがなぜ、今になって主張を変えたのか私には分からず、思わず首をひねる。
別に私に敵対するような形になっていることに関しての文句はない。
……というか、諦めてくれてありがとうとしか思えない。
正直、粘着質で生理的に無理だったのだから……
けれども、王子の行動は突然すぎた。
何せ昨日まで私に言い寄っていた翌日にこんなことをし始めているのだ。
そんなことがあれば誰でも首を傾げたくもなる。
「あの、王子……」
だが、今私にはそんな疑問などよりも早急に否定しなければならない誤解があった。
「今更言い逃れしようとでも考えているのか?浅ましい!本当にあさ……」
「いえ、それは良いです……」
「なっ!」
声をかけた瞬間に始まった王子の口上をめんどくさいので私は聞き流す。
「この、無礼……」
「私は王子と婚約していませんよ?」
「っ!」
そして私は何事か言いかけている王子を無視して、簡潔に自分の言いたいことを告げた。
その私の言葉に王子の顔が歪む。
まるで痛いところをつかれた、とでも言いたげに。
……もしかして王子はそのことを指摘されないとそんなことを思っていたのだろうか?
いや、そんなことは流石の王子でもあり得な……
「そ、そんなことはあり得ない!」
「……え?」
……と思いかけた私だったが、途端に挙動不審になった王子の姿に私の質問が王子にとって予想外だったことを悟る。
いや、本当に何がしたいんだろうか……
「では、証拠はありますか?」
「しょ、証拠!?」
私はいち早くこの茶番から逃れたいという思いを抱きながら、そう言葉を続ける。
そしてその私の質問に王子は面白いように動揺する。
いや別に面白くないが。
むしろ不快以外感じないが。
「わ、私は王太子だ!それが証拠だ!」
「いや、そんなこと聞いたことありませんが……」
そして次の王子の言葉に私は思わず地面に崩れ落ちそうになった。
もう帰りたいんですが、良いですか……
◇◆◇
「う、うるさい!貴様が知らないだけだろうが!」
本当にこの王子は何がしたいのか、そんなことを考えながら私は顔を真っ赤にしてそう叫ぶ王子を見つめていた。
たしかに聖女が王族と婚約するときには、その身分を釣り合うようにする為に王太子、または国王にすることがある。
けれども、当たり前の話だが王太子だからといって婚約していた証拠にはならない。
何せ聖女は形式的には神獣と結婚しているとされているので、婚約自体が少ないのだ。
さらには王子が王太子になったなんてこと自体がそもそもあり得ないことだった。
「そうですか……でも、王子は前に国王様から王位継承権を剥奪されていましたよね」
「っ!」
そう、何故なら王子は少し前に起こした騒ぎで次期国王候補から外されているのだから。
さらに言えば、その直ぐ後から国王は体調を崩して寝込んでいるので、その時点で決まっていなかった王太子が決まることはあり得ないのだ。
「違う!それは父上が耄碌して間違えたのだ!」
……しかし、そのことを王子が認めようとすることはなかった。
私はその滅茶苦茶な言い分に思わず溜息を漏らしてしまう。
正直、国王が耄碌しているよりも、王子の頭がおかしくなったというとこの方が私は納得できる。
何せ寝込むその直前まで国王は大量の仕事をこなしていたぐらいの仕事狂で、かなりの名君なのだから。
……まぁ、そのせいで体調を崩した訳ではあるのだが。
とにかく、王子の言い分は滅茶苦茶で胡散臭いことこの上無かったが、それでも私は敢えてそのことを突っ込まなかった。
そんなことを突っ込んで話を長引かせるよりかは可及的速やかにこの場を去りたかっなのだ。
「そうですか、それで話が終わりなのでしたら私はここで……」
「えっ?」
だから私はそう一言告げ、混乱している王子を後にその場を去ろうとしたが、しかしその企みは成功することはなかった。
「お姉様、まだ話は終わっていませんわよ」
その場を去ろうとした私を、ルシアの声が止めたのだ。
そして私を呼び止めたルシアの顔に浮かんでいる溢れんばかりの自信に私は悟る。
恐らく彼女が王子を唆し今の状況を作り出したことを……
次話は明日の朝こうしんのよていです!