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第18話 精霊の少女

青年をあっさりとサラルが返り討ちにした後、私は亜空間の奥へと頭を抱えながら進むことになっていた。

何せ今回のことに関しては殆ど私たちが悪い。

強引に亜空間に押し入ろうとしていたのだから。

さらに最終的に私達はそれを咎められたのに対し、咎めてきた人間を強引に返り討ちにして進んできたも同然なのだ。

そんな状態で、幾ら精霊姫だとしても私を歓迎してくれるなんて思えるほど私の頭はお花畑ではない。


「うーん」


なので、私は亜空間の奥の精霊達の居住地域に着いた今、そう悩みこんでいた。

決して青年を倒してでも強引に進んできたことは後悔していない。

そうしてでも私にはやらないといけないことがあったのだ。

だが、しかしそんな強引なことをしてしまったのに、なんのお咎めなしなんて私は思えなくて……


「どうしよう……」


そして気づけば私はそう愚痴を漏らしていた……

それは憂鬱が溢れんばかりに込められた声で……


「だいじょーぶだって!わたしがついてるし!」


……けれども、私の隣にいるその声の主はその空気を読もうとはしなかった。

私の隣、そこに居たのは精霊の女の子だった。


「ルーア、そんなこと言ってまたお菓子を貰おうとしているでしょう!」


「ライア!?ち、違うし!」


いや正確には女の子達、と言うべきか。

私の言葉に対して明るく無責任に笑うオレンジ色の髪を持つ女の子の精霊、ルーア。

そしてその彼女を冷ややかな目つきでにらむ気の強そうな青い髪の女の子の精霊、ライア。


「ず、ずるいよ!ルーアちゃん!」


「サーラまで!?」


さらに、桃色の髪を持ち、いつもおどおどとしている女の子の精霊、サーラ。

私の膝までしかないような背丈の、どれも可愛らしい少女達はルーアの言葉に対してそんな風に言い合い始める。


「ふふふ」


そしてその彼女達の姿に、思わず私は今まで悩んでいたことを忘れて微笑みを浮かべてしまう。

可愛い精霊達のやりとは凄く微笑ましかったのだ。


彼女達は、私が亜空間に入った時、一番最初に出会った精霊だった。

最初に出会った時、彼女達はその大きなお目目に大粒の涙を溜めて震えていた。

その姿に、罪悪感を覚えた私は彼女達にマジックバッグに入れていた飴を取り出してあげたのだ。

それは私が手作りした、いわばべっこう飴のようなもの。

それは砂糖と水だけを使った簡易な飴だったが、甘味の少ないこの世界では滅多に見たことが無いものだったらしい。

その飴の味に目の色を変えたこの女の子達に懐かれてしまったのだ。

そして私はあれよあれよと言う間に、彼女達にこの部屋に連れてこられて今に至る………






◇◆◇







「だ、だったら、サーラとライアはさっきのあーまいの、欲しくないの!」


「「っ!」」


そしてそんな風に私が回想している間に、いつのまにか女の子達の喧嘩はルーアが優勢になっていた。

ルーアの一言で場の情勢が変わったのだ。


「わ、私は、欲しいかな」


「サーラ!?」


さらにルーアの一言に、今までルーアを責めることで結託していた二人の絆にヒビが入り……


「うぅ……」


いつのまにか、状況はルーア&サーラ対ライアという状況に変わっていた。


「あれー?ライアはあまーいの要らないの!」


そして場が自分のものとなったルーアが途端に調子に乗り始める。


「そ、その……」


そのルーアの言葉に従うことに反発を覚えながらも、ライアは甘いものの誘惑に耐えられなかったのか、今までの発言を覆そうとして……


「あっ……」


……しかし、途中で私の方を見て口を閉じた。

その視線から私はライアの頭に三人も飴を貰ってしまっていいのかという考えが浮かんでいる悟る。


「っ!」


そして二人に飴玉を上げるために自分は諦めようと決意したのかライアはぎゅっと口を閉じて……


「ひぐっ」


……しかし、やはり諦められなかったのか大粒の涙を流し始めた。

……どうやら彼女は見た目よりもかなり打たれ弱かったらしい。


「えっ!」


そしてその彼女の態度に驚いたのはルーアだった。

彼女は一瞬、自分の意地悪のせいでライアが泣き出したのかと、慌てだして……


「ライアちゃん、どうしたの……」


「……だって、また三人が飴を貰ってしまったらルイジアさんの分の飴が」


「あっ!」


……けれども、ライアのその言葉に彼女が泣き出した本当の訳を悟って声を上げた。

そして次の瞬間、一瞬ルーアは私の方を見て、決意を固めたような顔をすると……


「わ、私お腹一杯!だからあまーいの要らない!」


「えっ?」


突然、そんな風に叫び始めた。

その声にライアは一瞬、隠しきれない期待を浮かべた状態で顔を上げて……


「嘘つき!ルーアいっつもつまみ食いしている癖に!」


「えっ!?な、なんで知ってんの!……あっ!」


しかし、次の瞬間そのルーアの反応に彼女が飴を本当は食べたいことを悟ってまた顔を下に向ける。

そのライアの態度にルーアは自分がボロを出してしまったことに気づいて慌て始める。


「あの……」


そしてそんな騒ぎの中、ひょっこりと私の膝の上をサーラが登ってきた。

どうしたのかと、思わず首を捻りそうになった私に、サーラはジェスチャーで耳を口に近づけるように要請する。


「あ、あの、飴ちゃん3つあるふりしてくれませんか!わ、私の分はフリだけでくれなくていいので、二人にはきちんと飴ちゃんを……お願いします!」


そして私が顔を下げた瞬間、そう頼みこんできた。

私はそのサーラの言葉に思わず顔を手で押さえそうになる。


「え、えっと、2つでも多いなら私の宝物と交換してあげるので……ひゃう!」


その私のその態度をどう勘違いしたのか、サーラはそう焦ったような顔をして言葉を付け加えてきて……


「きちんと、飴はあるから気にしないで!」


……私は気を抜いたら溢れ出そうになる鼻血を堪えながら、サーラの口に飴玉を放り込んだ。


「あっ!あまーいの!」


「あうっ!あ、ありがとうございます!」


そしてさらに喧嘩?をしていたルーアとライアの口にも飴玉を放り込む。


あぁ、本当にこの子達可愛い……


「にゃう……」


そして精霊達に顔を緩ませ、うっとりとしている私と、一心不乱に飴玉を舐めている精霊達の頭上で、精霊達に構われすぎて逃げ出し天井に張り付いたらサラルの寂しそうな鳴き声が響いた……

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