第16話 懸念
「美味しかったね……」
「にゃう!」
そしてそれから数十分後、膨れたお腹を抱え、私と顔を拭いたサラルはお店の前に立っていた。
「……でも、見つからなかったね」
「にゃう……」
最初その顔は満足げな表情が浮かんでいたが、次の私の言葉に落ち込んだものへと変わった。
何故なら私達がこの場に来た理由、それは決してパンケーキを食べるためではなかったのだ!
本当に!嘘じゃなく!
……まぁ、少しは食べたかったけども。
と、とにかく、本当の目的は別にあったのだ。
その本当の目的、それは精霊を探すというもの。
精霊、それは魔力を人間よりも多く有した謎の多い種族。
ただ、自然との親和性が高く他の国では神聖視されることもあるらしい。
そしてそのほとんどは精霊の国という亜空間で暮らしていて、そのせいで殆どの人間はその存在は伝説のものだと思い込んでいる。
けれどもその精霊と私や、アルタイラは関わりがあった。
本来、精霊と人間は殆ど関わりがない。
けれども神獣は別だ。
特に緑龍カラムは精霊とは現在も親しい付き合いをしている。
……けれどもほんの数年前までカラムは精霊を敵視していたのだ。
そしてその際に私が仲裁に入り、その時から私は精霊の総括である精霊姫と面識を私は持ち、アルタイラと精霊達との間で交易が始まるようになったのだ。
もちろんその際に私はその亜空間に入る道を教えてもらったが、けれども、だからといって突然その亜空間にお邪魔するなんてあまりにも無作法な真似をするつもりはない。
だから私は正規法で精霊の国に入ることに決めた。
それは人間界に紛れ込んで暮らしている、案内人と呼ばれる精霊に許可をもらって入る方法。
そしてその案内人を探すために私はこの隣町に来たのだ。
けれども本来ならば多くの案内人がいるはずのこの街なのに、ほとんど精霊をを見つけることができず……
「……何かあったのかな?」
私はそう心配げに呟いた。
先程パンケーキの店に行ったのも、もちろん精霊を探すためだ。
というのも、この街に多くの精霊がいる理由はあのパンケーキを食べるためだと言われるくらい、精霊は甘い物好きなのだ。
だからあの場所には必ず精霊がいるはずだと私はそう考えていたのだが、そこにも精霊の姿はなくて……
「もう、直接尋ねるしか無いか……」
……そして最終的に私はそう決断するしかなかった。
精霊は絶大な魔力を持つため、人間に狙われやすい。
魔力が具現化した魔獣が死ぬ時に残る、毛皮や爪などの素材のように、魔力の親和性の高い精霊の羽は上等な武器になると考えられているからだ。
もちろん、亜空間にいる精霊が捕まえられたなんて話は聞かないので、ただの噂でしか無いのだが。
とにかく、そういう風に精霊を見つければ人間はすぐに追いかけようとするので精霊は人間を警戒している。
いや、憎んでいるといってもいい精霊さえいる。
幾ら、アルタイラや私と関わりがあると言っても、直接乗り込んでしまえば悪印象を植えかねない。
だから私は正規の許可を得てから精霊の国に向かいたかったのだが……
「しょうがない、か……」
「にゃう……」
この状態でそんなことを言っていられるわけもなく、私は諦め、直接亜空間にお邪魔することを決断することになった。
そして私達は気がすすまないながらも、精霊の国を目指すことになった……
◇◆◇
精霊の国に繋がる入り口、それは実は人間界に数え切れないほどある。
だが普段は魔力で隠されている。
それは様々な国に散らばっているのだが……
「あった!」
だが私達はすぐにその入り口の一つを見つけることができた。
というのも、実はカラムに直ぐに逢いに行けるようにと、王都に直ぐ近いこの隣町に存在しているのだ。
「よいしょ、と」
私はある場所に駆け寄り、そこにあった石をどかす。
私が石をどかした場所は、普通に見れば全く何もおかしなところがないところだった。
けれども、私は不自然に魔力がそこに集結しているのを感じ取っていて……
そこに私は無言で魔力を込めた。
ーーー そして次の瞬間、本来ならば案内人に許可をもらえなければ開かないはずの亜空間へと扉が開いていた。
それは普通の人間であれば、一生のなかでまず目にすることのない神秘的な光景だったのだが……
「うん、開いた」
……その様子を見た私はなんでもないかのように、そう呟いただけだった。
実はそこにはどれだけ優秀な魔術師でもあげられないはずの超難易度の精霊の魔法がかかっていたりする。
まぁ、聖女ならば簡単に解けるようなそんなものだが。
「お邪魔します……」
そして私は許可なくこんなことをすることに罪悪感を抱く。
しかしだからと言ってこの入り口にたたずんでいるわけにもいかず、私は入り口へと足を踏み出す。
そして、その時だった。
「何者だ」
「っ!」
突然、殺気混じりの言葉が私へと投げかけられたのだ。
さらに次の瞬間、若い男性のものと思われる鋭い声、それと共に精霊の剣士らしき端正な顔の青年が現れる。
その端正な顔には一切感情が浮かんでいなかったのだが、けれども彼からは鋭い殺気が飛んでいて、私は思わず息を飲む。
だが、それは不法侵入をした私に対する適正なものだった。
「えっと、突然この場に入ったことはお詫びします」
だから、私は決してこちらに敵意が無いことを示そうと謝罪して頭を下げようとして……
「っ!」
だが、その瞬間私へと青年は攻撃を開始した。
そしてその青年の態度に私は今からどう言い訳しようが、青年には伝わらないことを悟る。
一方の青年は驚愕しながら、それでも攻撃を避けてみせた私に興味でも湧いたのか、無表情だった顔に獰猛な笑みが浮かぶ。
「お前は中々の実力を持っているな。だが、ここから先には通さん。
ーーー 殺しはしないが、少し痛い思いはしてもらうぞ」
そして次の瞬間、その言葉と共に青年は私へと剣を抜いて飛びかかって来た……




