第14話 あり得ない光景
ルシア目線です!
私、ルシアには実は前世の記憶というものが存在していた。
それは地球の日本という豊かな国で生まれ、生きていた記憶。
そしてその記憶の中で私は自分の身に起きた現象が異世界転生であることを理解した。
そして決して詳しないが、そんな小説の主人公の殆どは特別な力を持ったそんな存在で……
だから私は転生したと分かった時、自然と悟った。
自分は選ばれた人間なのだと。
ここは私のために作られた楽園に違いないと。
……だからこそ、私を置いて姉であるルイジアが聖女としてもてはやされていることが私には理解できなかった。
私こそが特別なのに、何故姉なんかをそんなにみんなして特別に扱うのか?
訓練をやっていなかったとしても私には才能があるから十分に聖女としてやっていけるのに。
それが私、特別な人間なのに。
だから私は最初何が起きたか分からなかった。
しかし時を過ごすに連れ、何故姉が私よりももてはやされるのかその理由に気づいたのだ。
それは、姉が聖女だったからだ。
訓練から逃げた、そんなこじつけで姉は私が本来得るはずだったその称号を奪い取ったのだ。
そう、どうせその動機だって不純なものに違いない。
男の人にキャーキャー言われたいだけだろう。
そしてみんなは、姉がそんなことを考えていることに全く気づく様子もなく、姉を聖女にしてしまったのだ。
それはどうしようもない間違いで。
だから私はその間違いを正したのだ。
私が聖女となるそれが特別な人間の役目だと私は分かっていたから。
「ふざけるな!ルイジア様がそんなことをするわけがないだろう!」
……だから私は今目の前で起きている光景が理解できなかった。
「お前ら、ルイジア様に何をした!」
「お前らの思い通りになんてならないぞ!」
私が聖女であると知った瞬間叫び始めた民衆達。
彼らは目に怒りを宿して怒鳴っていて……
「な、なんで……」
そんなこと、あってはならないことだった。
何故なら私は選ばれた人間なのだ。
だからモブである民衆達は私が聖女になったことを聞いて、ルイジアの魔の手から逃れたと喜ばないとダメなはずなのだ。
泣きながら、私にありがとうと叫んで、それに私が微笑む。
そしたら、その私の姿にイケメン達が私に心を許して……
だが、そんなことが起こる様子は全くなかった。
「っ!」
そしてその事実に私は歯を噛みしめる。
これでは、まるで聖女という存在かもてはやされていたのではなく、ルイジアが民衆に……
と、そこまで考えてそんなことはあり得ないと私は思考を止める。
今からでも私が微笑めば、全ては上手くいくはずなのだ。
私はそう考えて、引きつった顔に必死に笑みを浮かべようとして……
「それに、このアバズレが聖女なんてあり得るか!」
「っ!」
けれども、その民衆の一人の言葉に私の身体の中から何かが切れる音がした。
そしてその瞬間私は民衆へと怒鳴っていた。
「煩い!お前らは私のモブでしょうが!私に黙って従いなさいよ!」
確かに私は複数人の男性とお付き合いしている。
けれどもそれは私が特別な人間だからしかだがないのだ。
そしてそんなことをねちねちと指摘する民衆に対して私は我慢の限界を迎えた。
何故、ルイジアでなく私にそんなに噛み付くのか。
それはどうしても私にとっては許せないことで……
「ルシア様、こちらに!」
「っ!」
だがさらに私が何かを叫ぶ前に、私は従者に手を引かれてこの場を離脱することになった。
……そして怒りで冷静さを失ったまま従者に手を引かれその場を離脱した私は気づいていなかった。
自分の発した言葉、それがどれほど致命的な言葉なのか。
聖女という存在が何をしても許される、そんな身分だと勘違いしている私に分かるはずが無かったのだ。
そして、私の声などこの騒ぎで聞こえるわけがないと、そう考えている私は自分が暴言を口走ったことさえ、忘れていた……
◇◆◇
「……まさか、あんなことになるとは」
広場から逃げ帰り、それから貴族の屋敷へと再集合した私たちを待っていたのはどうすればいいか分からない、そういった様子の貴族だった。
まるでこのことを全く予想できていなかったのか、貴族は衝撃で一気に老けこんでいた。
想定外すぎる事態に思考が停止しているかのような、そんな状態。
そしてその貴族の様子を見て私は失望を覚えた。
貴族に聞けばどうにかなると、そう思っていたから私はここにきたのに肝心の貴族なこんな様子ではどうしようもない。
だが、だからと言って諦められる問題ではないのだ。
そして私は内心で貴族にありとあらゆる罵声を浴びせながら、けれどもそれを表に出さないように微笑んで口を開いた。
「ですが、このままというわけにはいきませんよね」
私の言葉、それは言外のどうにかしろという要求だった。
何せ私がこの話に乗ったのは私が聖女になれると聞いたからだ。
なのにこんな状態で諦めるなど認められるわけがない。
こんな、まるで私がルイジアに負けたような状態で。
そう考えた私は屈辱で指が震えるのを感じる。
そしてそんな私の様子に気づくことなく、ぼんくら王子が口を開いた。
「……だが、今日のことを見る限りに聖女という存在が民衆に人気というよりも、ルイジアが民衆に人気といった様子だったのだがどうするんだ?」
「っ!」
……王子が告げた言葉、それは私が薄々感じて起きながら、それでも認められず必死に否定していたことだった。
なぜならそれは私の方がルイジアよりも劣っていると言っているのにも等しいのだから。
そしてその王子の言葉に私は屈辱で顔を歪めながら俯く。
なんでこんなことになったのか。
私の予定通りであれば、もうこの時には私は聖女として祝われているはずで……
「……手はあります!」
「えっ?」
そしてそう考えた瞬間、耐えきれず私はそう声を上げていた。
「そう、そうだわ!選ばれたの私だと証明するのにはこうすればよかったのに、なんで気づかなかっなのかしら……」
その時、私の頭に浮かんでいたのはまさに画期的な思いつきだった。
そして私は自分へと怪訝そうな視線を向けてくる貴族達に興奮で頬を染めながら叫んだ。
「私が神獣を従えて聖女であることを示します!」
次回から、自分が一番最初に書いておきたかった部分はかけましたので、一日1話更新にさせて頂きます!