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第12話 猛虎の怒り

最初、私の恐怖を煽ろうとでもしたのか、サラルを覆い尽くした炎。

それは恐らく兵士の一人が放った魔術なのだろう。

しかし当たり前だが、この場にいる兵士程度の放った魔法が神獣であるサラルを傷つけられるなんてことはあり得ない。

毛の一本でさえ。


……けれども、サラルの食べようとしていた手羽先は別だった。


サラルは神獣の中でも穏やかな方だ。

自身に危害を与えられても決して怒りはしない。

尻尾をもふもふしたって、時々嫌そうにすることはあっても自由にさせてくれるいい子なのだ!

……けれども、今回は訳が違う。

何せ燃やされた手羽先はサラルの大好物なのだ。


「ーーーーー!」


「ひぃぃぃぃぃいっ!?」


そして、それを食べる直前で焼かれたサラルは激怒していた。

雄叫びに含まれていた不可視の力が何人もの兵士を吹き飛ばす。

さらに広場の時、必要以上に威圧させないため抑えていた闘気が猛虎の身体から立ち上っていた。

そして急に吹き飛んだ仲間の姿に兵士達は恐怖を顔に浮かべて固まった。


「あがっ!」


次の瞬間、最前線で散々私を馬鹿にしていた隊長らしき男の身体が、天高く飛んで消え、その男のいた場所には白い猛虎が現れた。

恐らく飛んでいった男はあの高さから落ちれば助からないだろう。

飛んでいった先に泉でもあれば別だが、恐らくここら辺にそんなものはなかったはずだ。

そして自分たちの隊長が吹き飛んでいくその光景を見て、その衝撃に兵士達の頭はようやく動き出す。

それから、すぐに兵士達は悟る。


自分は、決して手を出してはいけないものに手を出してしまったのだと。


「たすけてえ!」


……そしてその瞬間、兵士達は一人の例外もなく、こちらに背中を向けて全速力で逃げ出した。

その中には、鎧を脱ぎ捨てて逃げ出す人間もいて……


「……当然の報いね」


その姿に私はそう吐き捨てた。

恐らく逃げ帰った先で、貴族に殺されるかもしれないが、見るからに下衆な人間だったので心は痛まない。

せめてもう少しましな人間だったら、つまり私に罪悪感を抱いていたり、貴族の命令に嫌々従っている様子だったら無事に逃がしてやろうと思っていたのに。

だが、そんな私の気遣いは全く必要なかったようだ。


「はぁ……考えるだけ無駄ね」


そして最後に溜息だけ漏らすと、私は頭を振って頭から兵士達のことを振り払った。

正直、あの兵士達に関しては呆れの感情の方が強く感じていたと言っても、決して気持ち悪いという感情が無かったわけではない。

だから一刻も早くその記憶を頭から消去したかったのだ。


「……にゃう」


それから振り返ると、戦闘状態から通常状態に戻ったサラルの姿が私の目に入った。

そしてサラルは先程、兵士達を追い払ったことが嘘のように、手羽先があった場所を見て項垂れていて……

私はそのサラルの様子に苦笑しながら新しい手羽先を取り出した。


「はい」


「にゃう!にゃうにゃう!」


私が渡した手羽先に本当にいいの!とでも言いたげにサラルはこちらを見上げてくる。

確かに燃え尽きた分を含めれば、これで今日3個目の手羽先になるが、今日は特別だ。

どうせ鞄の中にはまだまだ手羽先はあるし、これからは暇ができるので、もっと作れるようになるはずだ。

だから私は、よだれで地面をべたべたにするサラルに頷いてみせる。


「うん。いいよ」


「にゃうっ!」


その私の許可にサラルは顔を輝かせんばかりの喜びを浮かべて、次の瞬間手羽先にかぶりついた。

はしゃいだ様子で手羽先にかぶりつくそのサラルの姿に私は思わず微笑みを浮かべる。

犬じゃないのに、尻尾を千切れんばかりに振っているのがすごく可愛い。

と、私はサラルの様子を微笑みながら見守っていて、その途中であることを思い出した。


「……そういえば、兵士達の何人かが鎧を捨てていったよね?」


そのことを思い出した私は未だ夢中になって手羽先の骨をかじっているサラルを置いて、兵士達がいた場所まで行ってみる。

するとそこにはある程度武具を知っている私でも知らない素材が使われた鎧が落ちていた。

しかもその鎧は薄く光っていて……


「えっ?これって魔力がこもっているの?」


その光景に私は思わずそう漏らしていた。

魔力を持つ鎧、そんなもの私は知らない。

だからこそ、私はそれが私が兵士の存在に気づけなかった理由かもしれないと考え、その鎧を数個持ち歩くことに決めた。


「よいしょ、と」


私は手に持った鎧を鞄の中へと押し込んで行く。

その鎧は明らかに鞄よりも大きかったが、鎧はあっさりと鞄の中に収納された。

それは酷く異様な光景だったが、私は満足げに頷いた。


「うん、やっぱりマジックバッグは便利」


そう、実は私の鞄は中身が亜空間になっており、中に入れたものは保存されるという、いわゆるマジックバックのような存在だった。

これは私の自作した特別製の鞄でこの世界にこの一つしかない。

……そして実は私はその機能を十全に利用しており、いつも手羽先とか他のお菓子が入っていたりする。

まだ容量があることを確認した私はさらに数個の鎧を鞄の中に入れる。

そしてその新しい鎧もあっさりと鞄の中に収納される。


「うん」


そしてその作業を数回繰り返した私は満足げに頷いてサラルの元へと歩き出した。


「にゃう?」


その時にはサラルも手羽先を食べ終えていて、私にどうしたの?とも言いたげに駆け寄ってくる。

そして私はそのサラルをひと撫でして、それから口を開いた。


「それじゃあ行こうか、サラル。とりあえず次は精霊の国に行きたいから、お願いね」


精霊の国、それはこの国では伝説と呼ばれてさえいるそんな場所で……


「にゃうっ!」


「久しぶりだし、楽しみだね!」


けれどもサラルと私はまるで知人と会いに行くかのようなそんな気安さで歩き出す。

もう目視できる距離までに、隣街は迫っていた……

次回、1度貴族の目線になります!

そしてその次ルシア目線です!

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