第11話 貴族の企み
王都から唯一他の都市に繋がる大通りに陣取り、私を待っていた兵士達。
その姿を見て私は、貴族達が最初から私達を殺すつもりだったのだことを悟った。
何せここまで私とサラルだったからこそ一瞬でこれたものの、目の前の兵士達がこの場所にくるには半日以上かかるはずだ。
そしてその場合、兵士達は私が呼び出されるその前にはもう既にこの場所に向けて出発していないといけない計算になる。
つまり、貴族達はあの広場に私を呼び出した時から私を殺すことを決めていたのだ。
その貴族の思惑、それはあまりにもふざけたもので……
「なんで……」
……けれども、そのことを悟った私の胸にあったのは怒りではなく、戸惑いだった。
たしかに貴族の行いは許しがたいもので、決して私の中に怒りがないわけでもない。
けれども、今はそんなことに意識を割いているわけにはいかなかった。
「俺達から逃げらると思っていたのか?」
「はっ!女一人で何ができるって?」
私へとそう笑う傭兵達。
彼らは決して精兵には見えなかった。
……けれども、私は彼らがここまで来るまでその存在に気づくことができなかったのだ。
確かに彼らは何らかの手段を用いて姿を消していた。
けれども様々な訓練を経て、この国でもトップレベルの戦闘能力を持った私がここまで近寄られるまでその存在に気づかなかったというのは明らかに異常で……
「……貴族は何を隠している?」
そこまで考え、そう漏らした私の顔には隠しきれない警戒心が宿っていた。
今まで私は貴族に対して、彼らは無能ではないものの、有能ではない、それだけの存在だと思い込んでいた。
実際に、聖女が消えた後起こる不始末に貴族達は対応することができないだろう。
しかし、貴族の力はそれだけではなかった事を私は目の前の兵士を見て悟る。
何せ全く原理はわからない方法で、この聖女の想像を超えているのだから。
「はぁ……厄介ね」
そしてそこまで考え、私はそうため息を漏らした。
すんなり終わると思っていたが、他にも何か問題がありそうで、気が重くなる。
「おや、そこまで恐怖を感じられますか」
……そしてその時、私へと兵士達の隊長らしき男が声をかけてきた。
その顔は嗜虐的な優越感が浮かんでいて、私は、自分の表情が隊長らしき男に恐怖の表情だと勘違いされた事を悟る。
それは全く見当違いな思い込みで、こちらを欲望に満ちた視線を向けて来るその男を思わず私は鼻で笑ってやりたい衝動に駆られる。
「しかし、ここで私のいう事を聞くならば貴族に貴女のことを隠していてもいいでしょう」
だが、その私の心情に気づく事なく、男は言葉を重ねて行く。
そして最後に、隠しきれない欲望を顔をに浮かべながら叫んだ。
「そう、私のものになると言うのならば!」
「……は?」
私に向かってそう叫んだ男、その顔には私が頷く事を確信しているのか、だらしない笑みが浮かんでいた。
その顔は見るものに嫌悪感抱かせるもので……
「はぁ……馬鹿」
……しかし私がその時感じたのは男に対する呆れ、だった。
何時もの私であれば、その男の態度に間違いなく嫌悪感を覚えただろう。
何せ相手はこちらを不当に襲おうとして、それなのにこんなに上から目線で語りかけてきているのだ。
例え、私を殺せと命じたのが貴族であるということを踏まえても決して加害者の態度ではない。
しかも助ける条件が愛人というその言葉には隠しきれない欲望がこもっていた。
男は私が魅力的に感じる要素を持っていないどころか、嫌悪感を抱かせる条件しか有していなかっなのだ。
けれども今は、男の愚かさに対する呆れしか私は感じていなかった。
……何故なら、全く男は今の状況を理解出来ていないのだから。
一体何に自分が手を出したか、いや、どんな存在の逆鱗に触れてしまったか、そんなことに一切気づかず私へと欲情する、男達。
その姿はただただ滑稽でしかなくて……
そして私は男達にそのことを言う代わりに、隣にだけ聞こえる程度の小さな声で囁いた。
「サラル、やりすぎないようにしてね。ここ街道だから」
突然、小さな声で何事かを呟いた私に対して、嗜虐心を唆られたのか男の顔に下劣な笑みが浮かぶ。
「……え?」
ーーー けれども、私の言葉が終わった瞬間私の隣に現れた白い猛虎の姿に、その顔は凍りついた。
いや、違う。決してその猛虎は突然現れたのではない。
先程炎に覆われ、煙が上がっていたその場所から現れたのだ。
そう、つまりこの猛虎は先程の子虎が変化した姿で……
そしてその猛虎の正体に気づいた彼らは今更ながらに悟る。
私の隣に存在していた子虎、それは決して私の愛玩用の動物ではなく……
「し、神獣?」
……この国を守護する、三柱の内一体であることに。
「ーーーーー!」
そして次の瞬間、まるで男達の声に反応するように怒りに満ちた猛虎の雄叫びがその場に響き渡った。