プロローグ 聖女
新作です!よろしくお願いします!
他作品についてはただ今構成を練り中です……
大国アルタイラ。
それは技術で他の国に遅れ、そして軍事力も殆ど有していない国。
けれども、その国は常に栄えている。
その理由は、その国を守る神獣たちの存在だった。
緑龍と言われ、アルタイラの作物を常に豊作にする龍、カラム。
日照り、津波、洪水などの水にまつわる災害からアルタイラを守る、リヴァイアサン。
他国の兵や、魔獣などからアルタイラを守る猛虎、サラル。
神獣と呼ばれる存在、それは幻獣や、知能のない魔力だけの存在、魔獣とは一線を画す超常の力を有する存在。
そんな存在が三体にアルタイラは守られている。
それこそが、アルタイラが常に大国として存在するその理由だった。
そしてそんなアルタイラには神獣と言葉を交わし、彼らの要求を他の人間に伝える聖女と呼ばれる存在がいた。
それは特定の家から生まれる、女性がなる存在。
その容姿は常に美しく、唯一神獣と言葉を交わせるその存在はアルタイラの中心と言って良かった。
聖女になればアルタイラでは王族と並ぶ、いや、王族など比にならない知名度を得る。
それが聖女と呼ばれる存在で、だからこそその存在はアルタイラでは特別だった。
何せアルタイラでは最早宗教と言ってもいい三体の神獣と言葉を交わせ、さらには優れた容姿を持つ存在なのだ。
だからこそ、その聖女の存在はアルタイラの女性にとっては憧れの存在で……
女性ならば、もし自分が聖女であればという妄想をすることもあるかもしれない。
「姉は私のことを妬み、聖女の身分を偽っていたのです!そう、姉は聖女ではありません!」
……けれどもやってはいけないことぐらいは分かっていて欲しかった、と広場の中、私は頬をひきつらせた。
私がいる場所、それは多くの貴族に囲まれた広場だった。
そして私と多くの貴族が見守る中、大声でそんなことを叫んでいるのは、私とよく似て酷く見目麗しい少女だった。
それもそのはずだろう。
何せ、彼女ルシア・パレストアは私、ルイジア・パレストアの妹なのだから。
そしてもはや怒りを通り越して、呆れしか感じなくなった私を指差してルシアは叫ぶ。
「本当の聖女は私です!」
……その言葉に私は思わず彼女に尋ねたくなる。
……聖女の訓練に耐え切れず真っ先に逃げた人間が何を言ってるの、と。
何を考えているのかは分かる。
聖女という存在、それはアルタイラでは最早国民的アイドル以上の人気を誇る。
まぁ、この世界でアイドルなんて言っても誰も分からないけども。
とにかく、だからこそその知名度を羨んだルシアは自分が聖女だと勝手に喚き始めたのだろう。
何せ彼女も聖女になれる可能性はあったのだ。
いや、彼女が鍛錬さえ、途中でやめることがなければルシアは確実に聖女と呼ばれるようになっていただろう。
正直私は彼女が表向きに聖女と名乗ろうがどうでも良かったのだから。
幾ら周りからの知名度が上がっていようが、今の私は忙しくて周囲に目を向ける余裕なんてない。
それなら、少しぐらい知名度が下がっても人手が増える方が嬉しいに決まっている。
しかしルシアはそのチャンスを自分から手放したのだ。
なのにルシアは、今になった私の知名度の高さを嫉妬し始めた。
自分がもしかしたらその座を手にいれれたかもしれないことを知っているから。
だから今更私を貶め始めたのだ。
そんなルシアの思考を悟って、私は思わず呆れの視線をルシアに向ける。
「私が聖女の鍛錬をさぼっている、それも嫉妬した姉が流した嘘です!」
……しかし、その目線にルシアは気づくことはなかった。
自分の嘘がバレることはないとそう確信しているのか、さらに自分の都合のいいように事実を捻じ曲げて行く。
「はぁ……」
そしてそのルシアの言葉に私はため息を漏らしていた。
ルシアが鍛錬をさぼっていたところ、それはさまざまな貴族が目撃している。
今更誤魔化せるとでも思っているのだろうか……
「そうだったのか、ルシア……災難だったな。だがもう大丈夫だ」
「えっ?」
しかし、突然私の背後からそんな声が響いた。
驚き、後ろを振り返った私の目に入ってきたのはこの国の第一王子である、ロイドの姿だった。
ロイドはぼんくら王子と呼ばれる、無能な人間で、そんな存在が現れたことに私の胸に嫌な予感が走る。
「ルイジア!貴様は自身を聖女と偽った!その罪で私との婚約を破棄し、貴様をこの国から追放する!」
「っ!」
……そして次の瞬間、私は王子の言葉に自分の予感が正しかったことを悟った。
だめだ、何が自分の目の前で起きているのか、もう私には理解できない……
何せそもそも、私はロイドとなど婚約していないのだから……