第90話 木。
はじめに言っておきます。
今回、真面目な回です、いえ本当に.....
「......あれ?」
階段を探して歩く事数十分。
この空間の壁を見ることすら出来ず、元来た場所に戻ってきてしまった。
落下の衝撃で地面が少しへこんでいるから間違いない。
まっすぐ歩いてきたのになんで....?
「私ってそんなに方向音痴だったっけ.....」
まあいいか、と踵を返してその場から立ち去ろうとする。
その時だった。
『...........』
「えっ!?な....なに!?」
突如、私の足首に細い何かが巻きついてきた。
動きを止められ、前に進むことも、振り解くこともできない。
細い、触手のようなものを目で辿っていくと、一本の木に辿り着いた。
根っこの地面が盛り上がり、そこから細い根が伸びてきている。
「こいつ...モンスター!?」
静かに佇む木の根元から伸びた根は、いくら力を込めても私の足首から離れようとしない。
それどころか、より一層強い力で巻きついてくる。
「ちょっと!!離しなさ....うわっ!?」
『.......』
なんとかして拘束から逃れようとするも、足首に巻きついた根は突如収縮し始め、私は足から転び、引きずられていった。
まずい....どんどん木の方に引っ張られる...,,
なんとかしなきゃ.....そうだ、剣なら!
「この.....気持ち悪い根っこ......」
引きずられながら、腰から剣を抜き、大きく振りかぶる。
そして、足首に巻きついた根に向かって勢いよく振り下ろす....
『........』
「わっ!?ちょ....ちょっと!!」
事は出来ず、振りかぶった両腕をさらに別の根に巻き上げられ、大の字に動けなくされてしまった。
ああ...剣も落としちゃったし.....気持ち悪いし....最悪!!
「もうっ!!離しなさい、よっ!!」
四肢を乱暴に振り回すが、根の拘束は緩まない。
そのうちに、地面から持ち上げられ、空中に吊られるような状態になってしまう。
「最悪....何する気なのよ.....」
『..........』
私を空中に吊り下げた木は、少しの間の後、すぐに次の行動に移った。
木のすぐ下の地面が大きく盛り上がり、一際大きく、かつ鋭い根が姿を現わす。
それは、狙いを定めるように、私の腹部へと移動してきた。
鋭い根だ、私の体なんていとも簡単に貫通してしまうだろう....
「ちょ....!?」
今の状況をやっと呑み込み、理解する。
そして、どうしようもない恐怖に襲われる。
死という、抗いようのないものに。
その意識は、目の前にある、私を今にも貫こうとしている鋭い根に集中した。
ダメ、ダメ.....死ぬ、死んじゃう......!!
必死に抵抗するが、ただただ無意味に終わる。
狙いを定めた様子の根は、大きく振りかぶり、私を殺す準備を始めた。
「あ......や.........」
そして、フラッシュバックする記憶。
ソアラとアルトと過ごした、他愛もない、けど充実した日々。
お金が無くて、困り果てた日々。
今まで体験した事が、走馬灯のように思い出された、
そして、最後に映る記憶。
エイト......?
そうだ。
私はまだ死んじゃダメだ。
でなければ本当に役立たずの迷惑なヤツで終わってしまう。
生きなきゃ。
その決死の思いが、私を駆り立たせた。
「ー《フレア》ッッ!!!」




