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第12話

 考えるのが億劫で後回しにしていたとはいえ、ある程度の予想が出来ていなかったわけではない。


 人魚族は精霊魔法の強さを重視する。

 それは、それが私達が精霊に昇華する時の位階に関わってくる重要な要素であるためであり、精霊魔法の練度を高めることが生涯の目標であるためだ。


 私のお父さんは人魚族の長をしているが、それは別に私の一族が代々に渡って長を務めていたというわけではない。

 お父さんは純粋に自身の能力によって、周囲に認められて長になった。

 勿論、長として認められるに当たっては人格とか実績といった要素が皆無というわけではない。皆無というわけではないが、やはり一番の理由としては精霊魔法の練度が最重視される。

 実際、私のお父さんは人魚族で最強の精霊魔法の使い手と知れ渡っており、だからこそ長を任されていた。


 問題は、そんな「最強の使い手」であるお父さんであっても、使えるのは中位の上までであり上位魔法など使えないということ。

 そして、使える者などいない筈の上位魔法を私が使えることが知れ渡ってしまったことだ。

 あれだけ大勢の前で使ってしまった以上、最早言い訳をしても誤魔化せる範疇ではない。

 その結果として──。


「──というわけで、今日からお前が長だ。フィリエス」


 ぎゃー、やっぱり!?


「きょ、拒否権は?」

「あるわけなかろう」


 一縷の望みをかけての問い掛けも、あっさり却下されて終わった。

 うんうんと頷く各集落の長達が見守る中、私は抵抗虚しくお父さんから長の地位を譲り渡されることとなってしまう。


 どうしてこうなるの。


『いや、分かっていたことですよね?』


 そうだけどさ。

 確かに薄々予想はしていたけれど、実際問題として私は人魚族としてはまだ子供に分類される年齢なのだ。

 精々、次期長として一定の年齢になったら引継ぐような形になるのではないかと期待していたのに。


『まぁ、確かにそうですが……』


 通常であれば、年齢を理由に反対する人が居てもおかしくない。

 誰だって、子供が自分達よりも上の立場に就くとしたら面白く思わないものだ。

 とはいえ、見る限り各集落の長達も反対するような素振りはなく、むしろ私に向かって尊敬と信頼の視線を向けて来ている。


『それだけ、フィリエスが上位魔法を行使した姿が衝撃的だったのでしょうね』


 リーンの言う通り、私が認められてしまった理由は先のクラーケンとの戦いでの姿だろう。

 単に上位魔法を使えるというだけではない。

 大蛸に追い詰められた人魚族の戦士達の窮地を救う形で颯爽と現れた英雄……そんな風に受け取られてしまったのだ。

 つまりは……。


『まぁ、自業自得ということですね』


 うぐっ。

 確かに……最初からディラン達にバレることを覚悟して上位魔法を駆使してクラーケンを倒していれば、人魚族全体に私が上位魔法が使えることは知れ渡らなかったかも知れない。

 相手がディラン達だけだったら、頼めば口止め出来たかも知れないし。

 それを躊躇った結果がこれなのだから、自業自得という他ない。




 Ψ  Ψ  Ψ




「お父さん、長として受け継ぐ物ってなんなの?」


 人魚族の長としての立場を受け渡された私は、お父さんに連れられて集落の外れへと来ていた。

 その理由は、人魚族の長の地位と共に受け継がれてきた何かを渡すためだという。

 ハッキリ言ってそんなものがあること自体が初耳の話だ。


「それは実際のものを見せながら話そう。

 こっちだ」


 そう言いながら、お父さんは背を向けて泳いでゆく。

 やがて私達の目の前に現れたのは、岩壁だった。


「? ただの岩壁みたいだけれど」

「他の者に知られぬよう、隠しているのだ」

「え?」


 首を傾げる私の前で、お父さんは【水鋼】の鉾を作り出すと岩壁の一角に突き立てた。

 鉾の鋭さもあるが、硬い筈の岩肌に予想以上にあっさりと突き刺さり、小さな岩が崩れて落ちてゆく。


『いえ、これは違いますね。

 元々、穴があったようです』


 よく見ると、鉾の突き刺さった先には空洞がある。

 どうやらリーンの言う通り、元々穴があった所に岩を積み重ねて塞ぎ壁のように見せていただけのようだ。

 お父さんは鉾を動かして積み重なった岩を崩してゆく。

 そうすろと、そこには人が一人入れるだろう穴が空いていた。


「この中だ」


 人一人が入れると言っても、体格の良いお父さんには大分狭かったため、身を屈めるようにして何とかその中に侵入していく。

 私はというものの、それほど苦労することもなくお父さんの後に続いて穴の中へと入った。


 その穴は洞窟と呼ぶのもおこがましい程度の、小さな穴だった。

 大体、私の家と同じくらいの空間で、中には何も無い。


「……って、本当に何もないよ?」


 人魚族の長の間で代々受け継がれてきたというから、てっきり何か物凄いお宝が隠されていると思ったのに、ほら穴の中には何もなかったのだ。

 もしかして、受け継いできた物というのは何かのたとえ話だったのだろうか。

 何か訓示とか口伝で伝えられてきた言い伝えとか。


「念には念を入れて、隠してあるのだ」


 だが、私の推測は間違っていたらしい。

 お父さんはほら穴の一角に向かって泳ぐと、そこを掘り返し始めた。

 掘った穴の中に両手を入れて何かを取り出して掲げて見せる。

 ほら穴の更に土の中に埋められて汚れている筈のそれは、そんな素振りを見せない程の蒼い輝きを以ってほら穴の中を照らした。


『──────ッ!』

「そ、それは……?」

「これが人魚族の長が代々守り続けてきた秘宝。

 かつて世界を崩壊せしめんとした邪神を封印した五つの鍵の内の一つ。

 水のオーブだ」

「水の、オーブ……」


 それは掌大の宝玉と台座によって構成された蒼い宝石だった。

 遠目に見ても絶大な力を秘めているのが分かる。


「これを守り続けるのが、人魚族の長としての役目だ」

「どうして?」

「さてな、それは私にも分からん。

 私も先代の長から受け継いでこれを守ってきた。

 理由までは聞かされていない。

 おそらく、先代の長も知らなかったことだろう。

 ……いや、もう先々代だったか」


 そう言えば、お父さんはもう「先代の長」だったね。


「ただ、一つ言われたことがある」

「言われたこと?」

「ああ、このオーブを闇と魔に属する者に渡してはならない、と」

「闇と魔に属する者……。

 渡すとどうなるの?」


 闇と魔に属する者と言われて思い当たる相手はただ一つだ。

 私は実際に相対したことがなく、ただ言い伝えを聞いただけだったが。


「このオーブは、邪神の封印の鍵の一つと言われている。

 ならば、これを破壊されれば……想像出来る結果はただ一つ」

「邪神の……復活?」

「そういうことだ」


 今一つピンと来ないけれど、取り敢えずこのオーブが重要なアイテムだということは分かった。

 お父さんは、その手に持ったオーブを私の方へと差し出しながら、更に衝撃的なことを告げる。


「あの怪物……クラーケンは集落を一直線に目指していたそうだな」

「え? うん、そうだけど」


 確かにあの時のクラーケンの動きには不審な点が幾つもあった。

 足止めに入った私やディランを無視してまで、集落の方に向かって一直線に進もうとしていたのだ。

 本能のみで生きる怪物としては異常な動きだったと言える。


「これは推測でしかないが、あのクラーケンの狙いはこの水のオーブだ。

 これを破壊するために集落を目指していたのだとすれば、一直線に進もうとしていたことの説明が付く」

「このオーブを?

 で、でもどうしてクラーケンが?」

「それは分からん。

 どうして在り処が分かったのかもな。

 しかし、可能性がある以上は最早ここに隠しておくわけにもいくまい。

 今後はこの洞穴に隠しておくのではなく、お前が持っておきなさい」


 いや、ちょっと……そんな危険なアイテムを持っていたくないのですが。

 と言っても、本当にクラーケンがこのオーブを狙っていて何らかの方法で場所を探知出来ていたのだとすれば、下手なところに置いておくわけにもいかないというのも事実。

 誰かに押し付けるのも心苦しいし、何処か安置場所が見付かるまでは私が持っているしかないか。


「分かった。

 取り敢えず、一旦受け取っておくよ」

「ああ、任せたぞ。

 ……お前には色々と苦労を掛ける。

 本当はまだまだ子供として過ごして欲しかったのだが」

「お父さん……んーん、大丈夫だよ。

 私だけだったら大変だけれど、きっとディランやアルト、セリーヌ達も手伝ってくれるから」

「……そうか、そうだな」


 そうして私は、邪神を封印したと言われる危険アイテムを片腕に抱えながら、お父さんと二人で家へと泳ぎ帰った。
















『オーブ……こうして目の当たりにすると、やはり複雑な気分ですね』

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