王でも限界の敵?
「あーあ!せっかく息子がわざわざ話しをしに行ってやったのに何一つ聞き入れてくれなかったよ」
訓院の長机で不貞腐れた格好でアドレが言う。
「そりゃあ聞く限りによると騎士王に喧嘩を売った青年とか噂になってるぐらいだからね。プライドの高いガルドがそんなこと聞き入れるわけないだろうね」
「嘘だろ……俺そんな噂になってんのか?やっぱおやじなんか当てにするんじゃ無かった」
「例の霧のことを話に行ったんだよね?誰でも同じだと思うけど、特に騎士王の肩書きを持ったガルドとなると自分の今までの行いを馬鹿にされたことになるからその話を聞き入れるのは厳しいだろうけどね」
「自分のやってきたことが無駄だったからってそこを妥協しないと前に進まないじゃねぇか!」
「世界にはもう霧の力は絶対だと根付いているから、そう簡単に考えは変わらないよ」
レイスもアドレの体制を真似してだらける。
「それとガルドがそれを否定するのにはもう一つ理由があると思うんだ……それで僕も悩んでいたんだけどね……」
「なんかあるのか?」
「アドレ君と会ったときに僕が言った『ウェンディゴなら今の騎士王には勝てる』って言葉 覚えてる?」
「ああ、そりゃ驚いたからな。ウェンディゴの強さはこの前のでも実感したしな……」
「いや、ウェンディゴの話しじゃなくて、騎士王の方で、あれは本当に"今の"なんだよ」
「おやじって前までそんなに強かったのか?」
「その力もただ一回の斬撃に込めた力のせいで失われたんだよ。」
「なんだそれ?そんなに強い魔物でもいたのかよ?」
「アドレ君がまだ赤ん坊のときだね……君を生んだアノグはすぐに霧の女王の生贄になりそれを自分が止められ無かったと思っていたガルドはその頃いきり立っていてね……毎日毎日、大量の魔物切り裂いては帰ってくるという日々を繰り返してたんだけど……見てもらった方が早いね。霧の共有で今から見せるね」
レイスはこちらに寝ろと言うような仕草を見せ、レイスの手から淡く光青い炎の様なものが見えた。
支持に従って伏せた途端に意識が途切れてしまった。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「うおおおおおらぁぁ!!!!」
(俺のせいでアノグは生きる意味を失くしたんだ!俺が剣ばっかり振っていたから……でも俺にはこれしか芸がない……)
魔物の群れだけがいて誰も居ない中、誰か人に向かってでもなく、自分に向けて罵声をあげるガルドは走りながら魔物を斬っている。
「おらおらー!!まだ行けるだろ俺!そんなんじゃ誰も守れんわ!」
魔物を斬り続けると群れになっていた魔物の数が急に引いていく。
濃いきりの中遠くの方に青い光の点が見える。
「なんだ……あれ?」
ガルドは立ち止まり光の方を見つめる。
光は段々大きくなっていき、止まる。
───瞬間、光が十倍程の大きさとなり太い光線となってガルドの上を通過し、振り向く間もなく後ろで爆発が起こる。
「なんだ!?この方角って街じゃねぇか!」
光線が収まるとその部分だけ霧が消え、光線の主の顔が見える。
「こんな魔物がいたのかよ……」
顔だけでも自分と比にならないぐらいの大きさがあり、立ち尽くすガルドだったが、再び青い光が集まるのを見て走り出す。
「勝手に街に撃ってんじゃねーよ!」
魔物の前足まで辿り着くとガルドはその足を斬りつけながら体を登っていく。
魔物は斬られていることをどうともせず二発目の光線を発射する。
遠く離れているはずの街から異常な程の警報が鳴り響いている。
「この野郎俺に気づきもしてねぇのか!?街からの応援なんて来ても足で纏だし……仕方ねぇ!俺の多少の負傷ですむならやってやるか!」
ガルドは大きく息を吸うと、魔物の背中と思われる部分で人間離れした動きをして剣で肉を切り落としている。
魔物は唸り声をあげ、足をばたばたさせてもがいている。
「ははっ!痛いか?やっと俺に気づいたなバケモン!うはっ!?」
魔物の尾がガルドの体を地面まで叩き落とす。
追撃を加えるように魔物のあらゆる部位から出た触手がガルドの左脚、右脇腹を突き刺す。
「ぐはっ!この俺に傷を!?こんなバケモンが……」
魔物は三発目の光を集め出す。
(───ああ、これも俺への報いか……やっぱり、アノグどころか街の誰も守れねぇじゃねぇか……。)
魔物が光線を放つと街にまたもや爆発が起こる。
(───っ!?アドレ!まだ街にはアドレが!って、今更なに心配してんだよ俺……カッコ悪ぃ……こりゃアノグに嫌われるわな……。)
魔物は光線を連続で出そうとまた光を集め出す。
「あんだけ吸っても足りないなら……一発に賭ける……俺がどうなろうとも!!」
剣を振り回し霧を巻き込み竜巻を作り自らに浴びせる。
ガルドの体には黒い霧がまとわりつき、剣からは雷光が発せられている。
起こった竜巻を利用し、ガルドはジャンプをして、一瞬で魔物の顔まで辿り着くと片手で持った大剣を魔物に叩きつけるように切り落とす。
一閃の光と共に巨大な魔物の姿は消え失せた。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
意識が急激に戻ってアドレははね起きる。
「と、まぁこんな感じの記憶を気絶したガルドから霧の力で当時の皆に共有したわけだけど、そのときにガルドは街の英雄から騎士王になった訳なんだけど……このときの魔物も跡形も無く消え失せてる……」
レイスが机にうつ伏せのまま自分の頭を撫でている。
「そのおやじが身を削って倒した魔物が復活するかもしれない訳か……」
「うん、ガルドはそれを否定したいんだと思うよ。」
「でも、そいつはおそらく復活してまた街を破壊する……それを見ないふりなんてできないだろ?」
そう言うと、何も解決していないのにレイスは気が晴れたかのように起き上がり
「そうだね。結局は魔物を倒したいのは変わらないわけだから気にすることでも無いかもしれないね……きっとそうだよね……」