魔物を倒す?
「950円になります。」
1000円札を出してお釣りの50円を貰う。
「ありがとうございました。またのご来店を」
そのまま出口には向わず漫画のコーナーで時間を潰す。
ガラスば貼りの店内の端にある一冊の漫画に手を出そうとすると暗闇が動いたように見えた。
目線を少し上に向けると目の前に巨大な魔物が街の暗闇の中に堂々と立っていた。
「うおっ!なんでこんな所に!?」
(しかもこのサイズ……三型奇出体!?どっから入ってきやがった?)
驚いたアドレは手に取った漫画を落とし後ずさりする。周りの人も気がついて悲鳴を上げる。
魔物はゆっくりと腕を上げ、そのまま垂直に振り下ろす━━━コンビニの窓が割れ、爆風と共に近くの建物が吹き飛びコンビニは一瞬の内に塵となり、ガレキの塊となる。
一匹の巨大な魔物を取り巻くように無数の魔物達が暴れている。辺りは街灯の明かりぐらいでほぼ暗闇だった中、所々で発生した火災により明るくなり、その無残な光景を一望出来るようになる。
「ひぃぃ!くるなー!」
魔物が人の身体を生きたまま噛み骨の折れる鈍い音と悲鳴が響く。
『警報!警報!現在原因不明、範囲不明の魔物による攻撃を受けています!戦える者はすぐに討伐を、訓練を受けていない者はただちに霧の濃いところまで緊急避難を!』
非常用アナウンスが鳴り響く。
多数の魔術師達が既に巨大な魔物を囲んで攻撃をし、騎士達は住民を守りながら、他の魔物を次々に斬り裂いていっている。だが、騎士のいない場所で魔物が女の前に立っている。女は為す術もなく悲鳴をあげる。
「イッテーなぁ!!こら!」
先程の衝撃を受けてもなお怪我一つしていないアドレが左手に買ったあさりかんをしっかりと持って、パンチ一発で魔物を粉々にした。
「ははっ!体が全然動くのもそうだけど……この威力は反則だろ」
アドレはジャンプして体の調子を確かめる。
「あ、トイレ行ってたレイス……大丈夫だよな?」
「大丈夫じゃないよ!もう!なんでトイレで魔物に襲われなくちゃいけないの?おかげでズボンも……」
アドレのすぐ後ろで、上着を手で下に伸ばしてして、レイスが恥ずかしそうに立っている。
「よかった何事もなくて、じゃあ俺らもアイツを討伐に行きますか!」
(これって下履いてないよな?やばっ……エロい……)
「アドレ君……聞こえてるんですけど……でも今はそんなことより、あの三型奇出体を倒しにいかなきゃね」
言われて気づいたアドレがゆっくりと距離を置くのをしらけた目で見て、レイスは服を胸より下を切って腰に巻き、器用な手つきでそれを結んで服を代用する。
それと同時にアドレも巨大な魔物に向かって走りす。
三型奇出体に近づくまでにいた魔物達も全てレイスが先陣を斬って討伐していく。
アドレには飛び散る血がやけに不思議に見えた。
魔物を斬っているレイスの姿は悪魔そのものだ。目が赤く輝き、斬り裂く度に動きが速くなっていく。巨大な魔物の下までたどり着くと、レイスは飛び上がり剣を炎に纏わせ、そのまま斬り裂く。
が、奇出体の体には傷一つなく、それどころか、魔術師が撃っていた魔法も通じてないように見える。
巨体はさらに街に攻撃を続け、魔術師達は一点を集中狙いし、精度を上げて撃つが、魔物は少し唸り声を上げただけでダメージを受けていない。
当然まだ倒れる様子は無く、魔術師達では倒せなかったのを見ていた騎士達も手が無いように見える。
「俺も行きますか!」
アドレが殴り掛かる準備を始めると━━━
『もう大丈夫だ!我ら騎士団の編成が完了した!』
外の爆音とは別に、脳内に低い声が響く。
「騎士団が来たのか?」「騎士団が来た!」と辺りから歓喜の声が響く。
(この声と脳に話しかける感じ……おやじが霧の能力を使って辺りの人々全員に話しかけているのか……)
『フォギーライト!』
騎士王の掛け声と共に人々の能力がそれぞれの頭上に映し出される。
騎士王はそれを一瞬で全て見終えると奇出体をの方に向かって腰から取り出した一本のナイフを投げる。そのナイフは奇出体の腹に突き刺さる。
騎士王は再び辺りの全員に霧の力で一方的に話しかけ、今度は作戦を告げた。
騎士団は真っ先に作戦を受け後から土の属性の剣技で、土の壁で奇出体を囲うようにする。
奇出体はそれでも動きを止めようともしないが、騎士団は壁を張り続ける。
魔術師達はそれに合わせて上に空いた穴から撃てるものは火の魔法で攻撃を続ける。
火を撃てない者は氷の魔法で土の壁の周りを冷やす。
土の壁に囲われていることで炎の温度はどんどん上昇し、太陽の表面程まで奇出体の体は熱くなる。しかし、奇出体は未だに倒れることも無く唸りながら壁を壊している。
『今だ』
騎士王が合図すると魔術師達は一斉に火から水に魔法を変えて、壁内に注ぐように水で満たしていく。急な温度変化により、壁は爆発し、それでも奇出体は生きている。
しかし、先程の熱で騎士王が投げたナイフは溶け、傷口が空いている体に急激な温度の差が生まれることにより、その傷口が大きく広がる。更に硬い体が脆くなりそこにすかさず騎士達が傷を狙って斬り掛かる。
作戦を聞いていても目の前の光景に圧倒されていたアドレは、六人しか居なく、いかにも強そうな騎士団の中に少女が一人いることを不思議に思っていた。
その少女がレイスの様な剣さばきで巨大な魔物に斬りかかっていく。
(人間にあんな動き出来んのかよ?)
魔術師は攻撃を止めることなく撃ち続け、レイスも次々に剣技を繰り出し、奇出体を攻撃していく。
奇出体は尚も反撃をしようと腕を振り上げたがレイスと騎士の少女に片腕づつ腕を斬り落とされ、雄叫びを上げる。
「うぉぉぉりゃあぁぁ!!」
アドレは魔物の脳天目掛けてジャンプし、思いっきりゲンコツを入れる。魔物の頭は弾け飛んで体も機能を停止する。
周りの魔物達も騎士達が全滅させ、もう魔物はいない。安全にはなったがまだ念のためだろう、警報は解除されていない。
一人の騎士が叫ぶと他の騎士が歓喜を連鎖させる。敵を倒したことで歓喜に溢れている半分、命を落とした者を嘆く者もいる。
アドレはどちらの感情も浮かべす、レイスの方に歩いて近づきながら奇出体の死骸を見ていた。
「あのさ、レイスが斬り落とした手はあそこにあるじゃんか?」
レイスの元までたどり着いたアドレは唐突に尋ねる。
「どうしたの?急に?斬っただけだからあるに決まってるでしょ」
「俺見てたんだけどあの女の子も腕を斬ったんだよ。だけどそっちの腕は霧となって消えていったんだよ」
「なんか特別な能力を持ってるんじゃないの?」
「魔術で戦っていた今までの魔物は小さかったから魔法で消滅していただけだと思ってたけど、このでかさならはっきり分かる!それに以前、全く同じ特徴を持った魔物と戦ったことがあるんだ……一度しっかり討伐したはずなのに……」
アドレの言いたいことが分かったレイスは顔を暗くして
「それって霧が魔物を復活させているってこと?霧の力を使うと魔物を倒せないってこと?」
レイスは周りを見渡して自分の通った後しか魔物の死骸がないことに気づいた。