世界を救う生贄に自らなる?
授業終了の鐘が鳴り生徒達がそれぞれで声を上げる。
「レイスは授業が終わっても勉強してて偉いね!」
窓のある教室、窓以外からは風の入ってこない普通の箱状の教室で、茶髪の少女が特徴的な高い声を上げる。
「僕はどっかの天才と違ってこれぐらいしないとついていけないの!」
「え!?レイスでも天才だと思う人がいるの!?」
「それが本当に自分だと気付いていないから凄いよ……アノグは……」
課題を終え、えんぴつを置いたレイスは苦笑する。
「二人共楽しそうだな?」
二人の横からアノグと同じ髪の色をした青年が歩いてくる。
「あ、ガルド!そっちももう授業終わったの?」
「ああ、つまらない授業だったけどな……」
「もう、そう言うこと言わないの!勉強も大切よ!」
「そうだ、さっき廊下歩いてたらこんなチラシとポスターが貼ってあったんだけど……」
ガルドは自分の持った端っこの破れたチラシを二人に見せる。
「これってアノグのことだよね?」
アノグの名が書かれた所を指差し、レイスは内容を読む。
「うん!学園の方から祝福祭の巫女の適性があるって言われたんだよ!凄いでしょ?」
自慢げにアノグが言う……が二人は表情が暗くなる。
「祝福祭の巫女って命を捧げる儀式じゃ……」
「そうだよ!今の霧の女王は魔物と戦う力を与えてるだけだけど、霧の力はもぉっと凄くて新しい力が得られるかもしれないって!」
「そんなのダメに決まってるだろ!」
咄嗟に声が出たガルドが更に続ける。
「確かに霧の力によって今の世界は騎士の適性が多く生まれて、魔物から守られている。それが最近では間に合っていないのも常識だ。だけどその対処をみんなで考えて行けばいいだろ?どんな力がみんなに与えられようがアノグは一人しかいないんだ!今アノグが犠牲にならなくてもいい!」
ガルドは机を叩いて怒鳴りつけて語る。
「でも、今もこうしてるうちに罪のない誰かが傷ついているかもしれないんだよ?黙っていられないよ!私に出来ることはこれぐらいだし……それにこの世界を変えなくちゃ!」
そう言うとアノグは少し不安な表情を浮かべる。
「あ、そう言えばこの後会議だったんだ」
自分の鞄を持ってアノグが立ち上がる。二人は何も言えなくなって黙り込んでしまう。
そのアノグの背中が凄く遠くに見えた。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
(さっきのは……レイスの夢?近くで寝てたから霧が同じ夢を見せているのか……そうだ!レイス!)
前を見ると夢で魘されているレイスがいる。
「レイス!大丈夫か?レイス?」
アドレはレイスを優しく揺すって起こそうと試みる。
勢いよく跳ね起きたレイスにアドレは驚き少し後ろに下がる。
「……あ、僕、やっぱり無理し過ぎちゃったんだね……」
「ああ、俺の番のときにな……ごめん……俺のせいで」
「いや、大丈夫、あれは僕がその前にアドレ君をからかって、調子に乗っただけだから……そうだ!あれからどれぐらい経った?」
当たりを見回して時計を探しながらレイスが訊ねる。
「あ、俺も寝てたから分かんな……」
全授業終了、解散のチャイムが鳴る。
「もう授業終わったみたいだね……じゃあ帰りますか……」
「まぁ……なんだ……今日会ったばっかだけど、色々ありがとなレイス、また母さんの話教えてよ」
レイスはアノグのことに反応して暗い顔をする。
(やっぱりさっきの夢の母さんのこと気にしてるよな……)
「アノグの話は僕からいずれしなければいけない……でも今はまだ……ごめんね……」
「そうか……じゃあ、ありがとな」
そう言ってアドレは別れの挨拶の代わりに後ろ向きに手を振る。
「アドレ君!君はまだ悪魔になったばっかりだよ?生活するだけでも色々僕の助言が必要だと思う……」
「そうか……悪魔の生活ってのも難しいもんだな?なら今日のところは一日頼むよ」
「やったーやっとちゃんとした家でご飯が食べられる!」
バンザイと手を挙げてレイスが大げさに喜ぶ。
「レイスは家に住んでなかったのかよ……てゆうか霧の加護があるから仕事ぐらいいくらでも入るだ
ろ?」
「そうだよ!全部断ったから」
「なんでだよ?」
「霧の加護だけが人間じゃないってことを忘れないためだよ」
アドレはレイスの言葉を受けて何かを感じた。
「何か分かんないけど……良いなそれ」
レイスの言った言葉が、父さんが母さんの口癖だと何度も言っていた言葉に似ていることを思い出した。