赤い瞳の彼女は誰?
宜しくね
君は信じるだろうか?
世界に勉強とゆう概念が存在しなくなるという事態を───
だがしかし、それは起こった。それは霧の女王という空想の───いや、存在するのか分からないモノが放つ霧により起こった世界の大きな変動である。
霧は体内に入り、あらゆる知識を脳に伝達させる。そのため人々は何も学ばなくとも皆、平等で最大の知識を持っている状態になるということだ。
これはは霧を吸い込むと強制的に起こることではなく、望むことで得られる力でもある。
霧の女王の加護はそれだけではなく、霧の中にいる全ての人間に剣士としての適性または魔術師としての適性を与え、2047年突如現れた魔物と戦う為の力を与えて人々を守っている。
しかし、この能力は知識の霧の様に望めば得られるものではなく、選ばれているのかも分からない不規則な発現の仕方をする。
そのため戦うことの出来ない者もいるが人間にはその力を使うことが出来ないためなんの武力差別も起きず、能力のある者が能力のない者を守るといった形で成り立っている。
そんな都合の良い能力を与えてくれた霧の女王は人々から神として崇められている。
という認識が世間一般で言えば、『当たり前』のことなのだが、俺は守る能力もさほど無ければ、仕事の適性すらも一つを除いて出ることがなかった。
本来の標準の人なら何かしらの職業の適性が百から五百程に出るものなのだが……要するに俺は、本物のゴミだ。
俺とは裏腹に何でも職を選べるようになった人達は、その理屈を社会はいるのかも分からない神の力だと言って、信じてしまった。
「俺は教師です」
これのセリフは昔なら公務員という国から認められた立派な仕事に就いた人の発言であるが……今となっては霧の力で全員が天才となってしまったため、『教える』仕事自体が魔法を除いてほとんど無くなった為、これはもう存在しない。
だがしかし!俺は教師の適性だけが出たぁ!!そして魔法が特別上手い訳でもない。
当然金が入るわけは無く、それ以前にまだ年齢は16歳であって、教師なんか出来るはずもなく、なりたいとも思わなかった!だから、俺は神を否定する!
そして、適性試験のあとは稼ぎがあるからと言って、もういない親の貯金も兼ねてマイホームを買うことに注いでしまった訳だが、実質適性0───
稀に適性が出る者が現れる魔術は何故か使えるのだが、ファイアしか撃てない。
死にたいと思ったが、せっかく買ったマイホームが他の誰かに取られるのが悔しいので、今を生きることにした(泣)。
◇
「ギィー!!」
険しい岩肌の荒野に魔物の禍々しいうめき声が響く。
「ファイヤ!くそっ、切りがない……」
呪文を唱え奮闘していたが頭数で見ても撃退効率を見ても青年に部がないのはあきらかだ。
「霧の力を使ってもこれかよ……はぁ、やっぱ俺に与えられた力ってこんなもんだったのか……」
魔物が体液を吐きかけると青年は避けて、恐らく消化液だっただろうものが後ろにいた魔物にかかり、頭蓋骨が見え、その魔物は唸りをあげる。
「こんなちまちまやってても……」
青年がそう口にした途端───
「グギィぇぇぇ!!!」
先程の頭蓋骨の見えた魔物の腕がみるみるうちに大きくなっていく。それは腕だけでは留まらず身体全体が巨大化していくが、その魔物の全身から血が吹き出て「痛い!」と叫ぶかのように唸り声を上げている。
「変形型だと!?初めて見た……じゃない!今はこれを倒さねぇと」
青年が変形型と呼んだ魔物が唸り声を止めると、他の魔物達はまるでその戦いを見守るように下がって待機している。
(こいつらやっぱり知能があるよな……そんなことより、勝てるのか?こんな奴に……とりあえず先手必勝!)
「ファイヤ!!」
青年の放った炎が変形型の全身を覆う。
───だが、身体が燃えたまま変形型は青年目掛けて突進してくる。
その突進を避けた青年はすかさず追撃を加えようと手を出す。
───その直後、青年の身体は地面に叩きつけられ、右腕が吹き飛ぶ。
───痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い
「痛い!俺の腕がぁ!あぁ!痛い!痛い」
地面に叩きつけられた青年は痛みにのたうち回っている。
変形型を纏っていた炎は消え、倒れた青年の方を向いて様子を伺っている。他の魔物達は青年の周りを囲うように集まっている。
(ああ、俺ここで死ぬのか……いいよな……もう……こんな狂った世界で生きてても……)
変形型のたった一度の攻撃吹き飛んだ青年が地面に落ちた後にもう一つ軽い物が落ちる音がする。唯一まだ動かせる左腕で割と近くに落ちたそれを見えるように自分顔の前まで運ぶ。
(母さんの筐……こんなんでなんとか出来たら世界は回ってないよな……)
青年は母の筐のペンダントを掲げてから、倒れたまま自分のとなりに叩き付ける。
すると───青年は一瞬にして天空まで続いている程の緑色の光に呑み込まれた。
「うおぉぉ!何だこれ?」
身体中に走っていた痛みがどんどん引いていく。
「体が……体が動くぞ!?」
十秒程続いた光は徐々に中心へと消えていき、体に集まった。
体の自由が効くようになり勢いよく立ち上がる。
(光のせいか?血が止まってる……それに……)
青年は無い右腕に力を込める。
すると───腕のちぎれ目から再生が始まり、すぐに腕が元に戻ってしまう。
「スゲー!!腕が再生した!よっしゃー!何か強くなった気もするぜ!蹴散らしてやるぜバケモンども!」
青年はまた右腕を差し出して魔術を唱える。
───その瞬間に魔物達の体が一斉に切り刻まれた。
「ははっ、俺tueeeeeeee!!あんだけいたのが一瞬だったぞ……待てよ、こうゆうのって持続時間とかあったりするのか?どうなんだ……?」
誰も居ないことを知っていながらも、その非現実的な疑問を真っ先に問いたくなった。
「安心して持続時間なんかないよ」
「本当か!よっしゃやっぱ俺、最強だわ……てっ、誰だお前!」
青年のすぐ後ろに返り血で真っ赤に染まった黒髪の女が立っていて、一見、ホラーにも見えるのだが、美しく整った顔と澄んだ白い肌のおかげで血が霞んでみえるほど美しい女性がちょうど剣を持つ構えを解いて、青年を見ている。
「やっときずいたの?変なとこまで似てるんだ……」
「似てる?何の事だ?まず誰なんだよあんたは?」
「騎士ともあろうものが他人から名乗らせるの?とんでもない騎士だね」
「だから何なんだよ!俺は騎士じゃねぇぞ!今も魔法使ってたの見てただろ」
そう言うと青年は魔法を撃ったときのポーズをもう一度やってみせる。
「うそ!?……騎士王の子が騎士じゃない?そん
なことがあるんだね……」
レイスは少し考えて、解せない顔をしたが続ける。
「なら僕から名乗らせて貰うよ。僕の名はレイス……騎士では無いけど剣術使いだよ、それとさっき魔物達を倒したのは全て僕だよ。」
レイスと名乗る女がそう言うと、地面に刺さった剣に手を置きドヤ顔を見せる。
「さっきから訳わかんないことばっか言ってるけど何なんだ……やっぱりあんたは俺の手柄をよこどりしようと俺の放った凄そうな光を見てやって来たはぐれ剣士だろ?」
青年はレイスを指差し断言するとレイスは飽きれ顔を見せる。
「勘違いにも程があるね、ましてや命の恩人にむかって泥棒扱いだなんて……恩人に……ね……」
レイスが最後を少し濁らせそう言うと、青年は不貞腐れて。
「なら証拠を見せてみろ」
(自分で言っときながら子供っぽいと思うが……)
「証拠……なら見せるのは君でいい?」
「俺が見せる?」
「そうだね……ここでさっきみたいに魔法を撃ってみてよ」
レイスが切り替えたように命令をする。
「あんたは俺が魔物達を倒したことを疑ってんのか?なら見せてやるよ進化した俺の呪文の威力を!」
俺は右手に力を込めると左手でレイスに下がれとい
う意味のしぐさをみせる、だがレイスはその場を動かない。
「いくぜ!焼き尽くせ俺の炎!!!」
青年が少し長めに叫んだ後静寂があたりを包む。
「あれ?なんでだ?もう一回!火山の火?ダセェw」
あたりに二度目の静寂が訪れる。
(なぜ……だ?呪文を唱えたのに魔法が出ない)
「やっぱり君なんだね……」
レイスがつぶやくように、だが少し歓喜に溢れた顔で言う。
「あれっ?なんでただのファイヤも出ないんだ?」
俺は何が起こっているのか分からない様子で自分の
手を見つめる。
「やっぱりアノグの光だったんだ……」
歓喜の次は涙を浮べて、再度浸るようにレイスは一人の名前を口にする。
「あんた……母さんを知ってんのか?」
その名前に反応し青年がレイスを見つめる。
「霧の女王は二十年前に生贄を要求し、その生贄の知識が霧の与える皆への知識となった。そして、霧の女王への贄として一人の最高学歴の少女が捧げられた……その贄があなたの母アノグ・イテ……」
レイスがアノグ・イテと呼ばれる青年の母のことを思い出すように語る。
「ああ、俺の母さんは確かに霧の女王の生贄となった……まぁ顔も覚えて無いくらい俺が小さいときだけどな……けど、なんであんた俺の母さんのことをそんなに詳しく……歳も俺ぐらいに見えるのに……」
「アノグは訓剣生時代の僕の友人だよ」
「嘘だろ!?あんた何歳だよ?」
レイスの見た目はどう見ても十代か二十代だ、驚き戸惑う青年は自分の目を擦る。
「僕は十八歳」
「十八!?なら何で俺の母さんの!?どゆこと?」
「簡単に言うと呪いだよ」
「呪い?」
「不老不死ってやつかな、もう本当なら四十のおばさんだけどね……」
「マジで!?本当にそんなんがあるのか?でも、それなら納得がいくな……」
手を顎に付けて少し悩んだ後に青年は納得はして無いが理解はしたというように顔を上げた。
(そうか、魔法が使えないとなると俺はあのままじゃやばかったんだよな……レイスは命の恩人ってやつになるな……)
「母さんの友達?なんだよな?それと俺が魔法を使えなくなっているってことはあの魔物達を倒してくれたのはレイス……さんだからな……」
改まった青年にレイスは目を見開いているが青年は続ける。
「ごめん、俺の名前はアドレ・イテ、魔訓生だけど今は自分の力が試してみたかったから魔物の群れが集まるとこに来てに授業をサボってる所です」
レイスは不思議そうな顔を浮かべたがアドレの言葉に続ける。
「堂々と授業をサボってるなんて……やっぱりあの二人の子供なんだね。」
そう言ってアドレに息が当たりそうなぐらい近づいて覗き込むようにしてレイスが笑う。
(凄くかわいい……というか近すぎ……でもかわいい……)
自分のにやけ顔を隠そうとアドレは逃げ道を探す。
「そういえば授業!魔法使えないと出れないし……」
突然切り出したアドレに今度はレイスが動揺した。
「あの……俺、魔法使えなかったじゃないですか?多分あの光のせいだと思うんだけど、あの光、母さんのペンダント割ったら急になって……母さんなんか言ってました?俺、おやじからピンチになったら使え!とだけ言われてたんだけど……」
「アドレ君……もう君は魔法は使えない……あと人間でも無くなった……と思う」
「そうか……もう魔法は……ッ!人間じゃないんですか俺!?」
アドレの顔がだんだん真っ青になっていく。
不老不死に続いてそんな事があるのか?とあまりに現実味のない話に何故か逆に、ふと自分の現状に気づく。
(俺に与えられた最後の希望の魔法適正すら消えたのかよッ!これからどうやって暮らして行けばいいんだよ!)
「もうどうでもいい!レイスさん魔法も剣術凄く上手ですよね?一応これでも騎士王の息子だから適正は無くても剣術ぐらいマスターしてみせるから教えてください!」
アドレがレイスに押し入って手を合わせる。
「そんなことしなくてもアドレ君は強いと思うよ?」
「それはお世辞で言ってるのか?会ってからまだちょっとしか経ってないのに俺の強さは分からないはずだろ第一、俺はお世辞にも強くはない」
「違うよ。僕が言いたいのはアドレ君が人間ではなくてウェンディゴになったから問題なく戦えるという事だよ」
レイスがさり気なく言ったとんでもない真実にアドレはもはや驚くこともなく少し呆れた風に思い立ったことを口にする。
「ウェンディゴって血を喰らう悪魔だよな?強かったとしても大丈夫なのか?色々と……」
頭を掻きながら心配そうにアドレが尋ねる。
「悪魔と言っても勝手に暴走する訳ではないよ、それにアノグの加護が掛かっているはずだから、ほとんど人間みたいなものだよ、僕もウェンディゴだしね……」
レイスが自分の体を見せて人間と変わりないことをアピールする。
「レイスもウェンディゴなのか……じゃあ強いんだ?ウェンディゴって?」
「そうだね……少なくとも今の騎士王よりは断然強いよ?と言ってもアドレ君はまだ成り立てだからさっきも危なかったけど……うん……危なかったよ……」
また、レイスが最後を濁して言うが、アドレは気に止めずそれより
「嘘だろ!?おやじより強いのか……何かしらデメリットがあるんだろそうゆうの?悪魔だったら人を食べたくなるとかなんかさ」
「人を食べたくなる衝動はあるんだけど……ビタミンの摂取でおさまるよ!それに……いや、何でもない」
OKサインを作ったレイスは何かを言いかけたが聞けなかった。
「そんなんでいいのか……」
嬉しいはずなのに肩の力が抜けてくる。
「それと、僕のこの格好に見覚えは無いかい?」
さらにドヤ顔のレイスが腕を組んでいる。
「そういや魔訓院でそんな服見たな」
かかったと言わんばかりにレイスは
「僕は魔訓院最高位の第三訓員生の教師なんです!」
初期位のアドレの位とは二つも違う訓員の教師だと言った。
「はい?」
「だからぁ僕が一番偉い教師になるんだよ」
「いや、悪魔なり何なりの話に比べたら蟻ん子ぐらいの衝撃だけどさぁ」
「ははっ笑えないね」
「じゃあ魔訓院に戻ろうか」
こうして俺の人間では無い現実離れした生活が始まった。
「てかさ、なんで俺は魔法使えないのにレイスは使えるんだ?」
「……アドレ君がバカだから?」
「はひ?」
適当に茶化されたが正直もう要らないので気にしなかった。
読んでくれた……のかな?ありがとうございます。