仮題-すなくぁ
やあの('ω')ノ
予定を立てたので、案外早く仕上がりました。予定って大事ですね。
陣之内優多という存在について……。砂川勝は、そのほとんどを知っていた。
まだ見ぬ先の答えをもう既に知り終えている彼は、知らないまま知っていた。だから覚えていても、明確に思い出せない呪いにかかっているのだった。
だから知らないのも同然という事なのだ。だから彼と出会ったのは、ついさっきまでの出来事。なので砂川は彼の事を知らないし、また優多も彼のことなど知るはずもなかった。
ただ、彼の瞳は明るく輝く希望がただそこにあって、ただただ自分の求めていた姿が自分の事を見つめているのだった――
※※※※※
切り落とされた首。
痛みは感じないほどに、それは気づかないくらいあっという間の出来事だった。一体、何秒間の出来事だろう、そう思えるくらいに早く、切られると自覚して瞬ぎをする。その直後、目線は地上を凝視していたのだ。
疑った。
何が起きているのか、自分に、彼に、その状況に。全てを見て、可能性という名の事実を全て驚愕と混乱の最中にある脳裏に過らせて得た事実といえば――いとも容易く自分の首が彼によって斬首されたという、あまりにも滑稽な答えだった。
痛みは無い。
しかし、ただの困惑と恐怖、そしてそれに比べ物にならないくらいの、熱という筋肉を圧し潰す違和感が、首の筋肉と神経、血管という血管にわたって全てが明瞭に感じるのだ。一瞬、意識の外にあったので、雑音という名の静寂なその場の空気さえ、次の瞬間敏感になった鼓膜を力強く指の腹でなぞるように濁流として耳の中に注がれる。
抑える手は遥か遠くにあると錯覚してしまうほどに、低下する視力のスピードは累乗に加速してゆく。
あるはずのない絶命が、確かな感覚として優多の首を絞めて行く。
優多の脳裏に過るのは、走馬灯の如く走り去ってゆく感覚の濁流だった。
重力の操作で、その青年と距離を取るため自身に重力をかけ、逃れたはずの優多だった。
だがしかし、その特殊な変重力的降下が適用したのは優多自身だけ、それなのにも関わらず、何故かその青年に追いつかれ、地上3メートル、秒速420mの速さで後ろへ落ちてゆく優多の変重力的降下の中、謎の力を持ったその青年に首を斬られた。
あっという間の出来事だった。それ故に重力の効果が切れて超スピードで落ちてゆく様は滑稽で、飛んで行った首はおもちゃのように吹っ飛んで行く――簡単に死にやがった、それが砂川の中でふと芽生えた素直な感想だった。つまらねえなというのが、第二に出てしまった、そして素直な言葉。
あっけらかんとしたその光景に、苦笑いすら出ない結果に終始困惑を通り越して、嘲笑に塗れた奴だったというのが、砂川の内でできた優多への総評で――しかし、その思考が一気に塗り変わったのは次の瞬間だった。
一瞬、壊れた玩具の様に飛んで行った優多の頭から目を逸らした瞬間だった。
「……どこ行きやがった?」
そこからはもう跡形もなく、その形を残すことなく消滅していた。
どういうことだ? 確かにあそこにあったはずと、砂川は勢いに任せて、着地した瞬間、頭があった場所に跳ぶ。
するとどうだろうか、跡形もなかったと言うのは過度な表現だった。しかし、それは砂川にとっての常識が崩された光景でもあった。
――溶けてる……?
違う、何かに例えるのであれば、それは火に燃え灰になって散ってゆく……。正に灰だ、燃えてはいない。けれども、優多のその頭は小さな破片となって、散り散りに空の一部となってゆく。
これは……一体ッ! もう一つッもう一つあったはずだ、切り落とした胴体はッ?
近くに吹っ飛んでいるはず……あんな着地をしたのだ、動けなくなっているに違いない。頭は飛ばした。生きているはずがないのだ。しかし、それは楽観的思考にすぎないと、砂川は、瞬時に理解する。これは表面上の記憶の外にある、確実に見たはずの夢だった。
けれども、覚えてはいない。
しかし、冷静なもう一人の自分が落ち着き払った様子で言うのだ。
『これは、確実なる事実』だと
焦ることは無い。わかりきっている事実なのだ。怯える必要も絶望する必要もない。
今までどんな困難があったとしても、乗り越えられたのは、この先に見たはずの確実なる未来を依り代に生きてきたからだ、それは絶対であり、それは確実であり、それはまごう事無き事実なのだから。
確定ではない、けれども、確信はあった。
あいつは――優多は、生きているッ! 振り返った瞬間だった。10mだろうか、近くもなければ遠くもない、そんな距離の先でふらふらと立つ人影がそこにはあった。
まるで血だるまだ。両腕は捥げて足すら骨で立っているような状態だった。しかし、それだけではなかった。煙だろうか? 白い、煙のようなものを上げている……。いやあれは蒸気だ。怪我をしている部位から蒸気が出ている。
今の彼の容態に似た化け物がいることを思い出した。『白神』という名の、肌が白く人間には無い突飛した骨をもって、また人間のような足を持たず、棒のようなバランスの取りにくそうな形状をして頭は捥げて、両腕も偏っている。とても今の彼に似ていた。
しかし強風が吹く。
そしてその蒸気が押し退けられて見えたものは、完璧に修復された優多の頭とその捥げていた四肢だった。
「吸血鬼みたいな復活の仕方だな」
「これでも、慣れてはないんですよ……未だに痛みが残るんです」
「そうは見えねえけどな」
「数は稼いでいますので」
「じゃあ慣れてるじゃねえか……こりゃあいい、何度でも殺せるじゃねえか」
「何度でも生き返りますよ」
そう、何度だって生き返る。
でも、痛みや内臓を引き摺る嫌な感覚は消えてくれない。高熱の時の怠気や吐き気のような気持ち悪さが、体中を蝕んでは離れてくれない。血管の中に虫を飼っているかのような感触だ。だがしかし、慣れたとは言わないが、顔に出さないほどには我慢できるようになってきた。
ここまでやられたらなら、それ相応に剣を振ろう。
やられたら、やり返すのがモットーというわけでもないけれど、これ以上殺されるのは優多自身避けておきたいし、逃げようにも、どうやら逃げれそうにない。彼の腕に見合うか分からない、けれど――
『お相手させてもらいます』
「お前今から殺されるんだぞ?」と、少し不思議そうな顔をしながら刀を持ち上げ、首を鳴らす。
『ぶっ殺してやる』
次の瞬間、砂川の顔面が、目と鼻の先に迫り、慌てて優多もそれに応じる。振りかざされる刀を跳ね返し、鍔と鍔が火花を散らしてぶつかり合う。
「お名前をお聞きしてもよろしいでしょうか『砂川 勝』
「ぼ……僕は、陣之内 優多と言います。よろしくおッ!『よそ見してッとまた切れるぞ!』
食い入るように砂川勝と名乗った、その青年は変わらず笑みを浮かべて、刀を振った――
力強く、誰にも寄せ付けない。
防御と攻撃、両方を兼ね備えた斬撃に、優多の身は一撃目で軽々と吹っ飛ばされた。
「『アリス・ブレイク|《小さき夢の破壊者》』……俺の持つ能力を知ってるか?あらゆるものを、イコールに、平等にする力。和を操る能力」
その名前には聞き覚えがあった。確か、最初彼と出くわした時に喰らった技だった……。「和を操る……?」どういうことだと呟く優多に、砂川は、丁寧に言葉を重ねてゆく。
「平等にしたんだよ……。俺とお前の、戦力的な力という差を平等にした。簡単だろ?さっき起こったこと、今まで起きた事」
「いいんですか?自分から能力を明かして」
そう、潰れた腹を抱えながら、苦し紛れに笑う。
「何も問題がないから言ったんだ。何も考えてないとでも思ったのか?そこまで愚かじゃない」
「いえいえ……。それじゃあ、戦力的な差が平等になったところで、貴方が勝つ可能性は100じゃなくなった……。あなたは、勝つかもわからないのに――」
「何勘違いしてんだ?俺は平等とは言ったが、同じ立場になるのが平等じゃねえんだぜ?」
どいうことだ? 平等ということは――戦力的な差を無くしたということは、同じレベルに立ったという事じゃないのか――
「じゃあ、例え話だ。運動神経が抜群な一般人と、NBAの選手。どっちが有利かは明白だよな、それじゃあNBAの選手のレベルを運動神経が抜群の一般人に下げてみたらどうだ、加えて、NBAの奴がバスケしかできない人間だとしたら?運動神経抜群な人間の方が有利になる。そういうことだ……。今の俺とお前の状況がそれなんだよ。だから能力を明かしたとしても俺には勝てない」
「貴方が、NBAの選手かもしれないじゃないですか」
「例え話っつてんだろ、馬鹿」
成す術がない、決してそう言う思考に陥ったわけでもないのに、なぜか彼の能力に納得がいった。つまるところ、第三者的目線の話での“平等”ということらしい。
勿論、彼の例え話にあった、両者を比べるのはおかしいという意見もあるだろうが、それはあくまでも主観の話。第三者の立場からしたら同じ“運動”に変わりはないのだ。
何が言いたいのかといえば、彼は――平等という個々人が持つ基準を強引にある程度のラインまで決定することができる。
もっと簡単に言ってしまえば、僕が存在しているのが、彼にとって全生命に対する不平等だとするなら、僕の存在を消滅までとはいかずとも、それ相応のラインにまで低下させられるのだ。
これが、和を操る能力――自分が持っているような物理的な現象を操る力とは違って、概念を操る力だった。
そう考えている最中。
『死ね――飽きるまで殺してやる』
砂川が刀を構え、攻撃を再開した――
それは、ありえなかった。だって、彼のその刀の振り方は普通連撃には向かない大振りなのだから――
『Day dream clock|《無経過時間空間》』
それは、技量を重きに置いた武器の使い方を完全に無視した、ありったけの力を込めた、火力全振りの剣捌きだった。
砂川が、一振りするだけで腹が抉れるほどの勢いが襲い掛かって、それはもはや斬るというより、叩き斬るといった方が近く、またその斬撃を躱せたとしても次の斬撃までの間が、極端に短く、重いその斬撃に身を左右に振られ一回目が当たらずとも必ず二回目には躱せず、また、重圧に跳ね返すことすら不可能に近い。
最初、それをはねのけようと全力で刀を振ろうとした。だが、そもそも彼の威力は、それを優に越えていた。
いや、越えていたのではない、全力のポテンシャルを発揮できないのだ――
あの時のように、考えもなしにぶっ放すことを考えて刃を振るった。彼と同じだ。彼と同じ動きをしたのに、相殺する衝撃を生み出すことができず、簡単に腕の関節が反対に折れ曲がる。
焼かれる感覚、骨が軋む音を立てて正常の位置に戻る。
それは、思った以上の苦痛であり、何度経験しても慣れることないであろう、体験だった。
一度は、彼のスタミナが切れるまで粘ろうと脳裏を掠めたが、一瞬で現実に突き付けられる。
――ダメなのだ、彼のスタミナが切れる気配もなければ、もしスタミナが切れたとしても、それまで耐え切れる自信がない。
しかし、ある可能性が頭に過る。
そもそも仮説で立てたものだった。しかし、それがもし本当なら、とっくに戦えないような状況に陥っているはずだ。
何が言いたいのかというと、先ほど脳裏に描いた彼の持つ能力の強大さだが、それが優多自身の杞憂だったのではないかという疑念だった。しかし、油断をさせようとわざとこちらの動きを伺っているだけかもしれない。
分からない――分からないがやってみるしか今は方がないッ――!!
カイトだったら、彼の能力を無にできた。
クリオッドなら、相手が有利な立場を逆にしていた。
雪華なら――無限なら――皆の顔を思い浮かべながら。その刀を持ち上げて、思い切り振りかざした――
瞬間音が鳴る。風を切る音がその場に轟いた。
彼から生み出される強烈な風圧を押し切りながら前進しても良い。だけれどそれじゃあ、ダメだ。今もっともこの状況で、一番、確率的なダメージを与える方法でなくてはいけない。ならば、これしかなかった――
大きな身動きの取れない優多が取った行動、それは超パワーで刀を投げるという力業であり、荒業である行為だった。
勢いよく回転する香花刀は瞬間的な直線を引きながら勢いよく砂川の眉間に向かって飛んで行く。しかし、間一髪と言ったところだろうか……砂川まで到達したにも関わらず、ギリギリで躱されてしまい、鼻を掠めただけに過ぎなかった。
その光景に、砂川は驚きに固まった表情から、ゆっくりと、上体を起こしながら凶悪な顔付きに変わって嗤った――
『残念だったな――!』
だが、まだだ。優多が狙っていたのは今じゃない。
自分と砂川とが丁度重なった時――そう、“今”だッ!
全身を起こした時、優多は駆け出した。半ば暴走して思考を辞めたかと、刀をまた乱暴に振ろうと構えた瞬間、優多は叫んで手を伸ばす。
『帰って来い!』
瞬間、何かが砂川の頸を貫いた。砂川は一体何が起こったのか理解できないまま、その謎の貫いた鋭利なものの勢いが殺されることもなく、優多の元へと帰ってくる……。
その構造はいたってシンプル。重力を飛んで行った刀にかけて、半自動追尾弾として利用した。ただそれだけ、瞬間的にそれを砂川は理解した。その行動に端から失敗なんてなかったのだった。
飛んでくる刀、その柄を握りしめると勢いよく抜く。途端に吹き出す血と、飛んできた勢いに転がってゆく砂川。
その一瞬の間も残さず、しなやかな体を使いこなすように、倒れている状態で刀を半回転させ、また強力な風が沸く。
やばい――優多の内で焦燥感が湧きたって、無意識の内に刀を振るったその瞬間だった、その事に関しては、砂川も同じことを瞬間的に脳裏に掠めた。だけれども、理解するのもそのことに気が付いたのも優多が一寸先で、情報処理のスピードが二人の内で断然に早かったのも優多で――
――使える……!
その瞬間、優多の放った威力は砂川が放ったはずの風を押し返し、地を抉りながら数メートル先の砂川を巻き込んだ――
超人となってから手に入れた標準能力としての力。それがこの超パワー。人間よりも数万、数億倍の力を保有する能力。しかし無限からはその欠片も発揮できていないと言われている。それでもこの威力。グリオードの時は、館の一部分を半壊させるほどの威力を放ったが今回はそれでもかなり抑え込んだ方だった。
クレーターとは言っても綺麗な半円とは言えず、不格好にくぼみが出来上がり岩と岩が崩れ引きずり込まれるようにしてその瓦礫の下に、砂川は埋もれてしまった。
暗い瓦礫の下、顔面の皮が禿げ、筋肉がむき出しになった青年は、閉じる瞼もないまま、血を流し、埋もれていた。
青年というのは言わずもがな砂川勝の事だ。
砂川は、有り得ないと、息苦しさの中思考を重ねていた。
砂川は、畜生と言いながら、筋肉や内臓がむき出しになった身体を修復していた。
砂川は、顔の表皮が完全に張り替えられることを感覚として覚えると、全身に力を入れ――全身で起き上がろうと力を入れる
勢いよく、その瓦礫の中から上体を持ち上げる砂川の頭を優多は、力強く掴むと、勢いよく元の位置に頭を打ち付け、更に追い打ちをかけるかのように2~3倍重めの重力を掛けた。瞬間、地は響いて、瓦礫は舞い、砂川の顔も原型が保っているかも分からないくらいの衝撃が轟いた。死んだか――いや、死んではなかった。
砂川は、息を吹き返した如く、不意に腕だけが機械のような挙動を起こした。
その機敏なキレで刀を持ち変えると、優多の腸を横一文字に貫いた――
だが、優多は死なない。
それくらいで死ぬことなどない。斬られた、ならば回復すればいい。
それは砂川にとってまるで魔法のような光景だった。
優多が抑える指の隙間からそれは見えた。
いや、自分自身だって同じような回復能力は備わっている。けれどもそれは有限だ。血がなくなれば回復だってできなくなる。もうこれ以上、さっきみたいな大傷を負えば、まともに回復はできないだろうし、できても小さな傷だけだ……。
もう、頭を治すだけでも精一杯だというのに……。
それでも、戦うことはやめれそうになかった。
香花と関係が悪くなったって別に構わない。そもそも裏世界だ。香花に頼っていることなんて何一つないのだから……。
そんなことよりもあいつらは俺に謝ることすらしなかった。
人一人の存在を狂わした調本人じゃないか……。
陣之内優多、俺はお前を許さない、何があっても許さない。
優多の手を力強く握って軽く、投げ飛ばす。
その最中、一瞬だけ捉えた優多の瞳には、血涙を流し恨めしく顔を睨ませる砂川の表情がそこにはあった。
吹っ飛ぶという感覚は、体感時間にしてはほんの一瞬で、何か、壁にぶつかった。もしかして、真北の岩城かとも思ったのだが、全く違うものでそれは大きなジャンクションだった。なんでこんなところにと、周りを見渡す優多だったが飛び込んでくる物体に気づいたときにはもう遅く、砂川によって肺を穿たれた
血が食堂を逆流する。
鉄の臭いが鼻腔を満たし、酸によって喉が焼かれる感覚に近しいものを感じた。
思い切り吐く血液に、優多は反抗の意地を見せようと砂川の目に向けて刀を刺そうとするが、避けられてしまう。
心臓が弱点である優多にとって、その隣である肺を刺されたのは、とてもじゃないが落ち着いていられることではなかった、下手すれば死にかねないからだ。流石に半不死状態である身体を持つ優多も、その事実には焦る。それを抜こうと必死になるが、なぜか抜けないのだ。そんな、優多を見て砂川は、更に足裏で刀を突き刺してから。笑う。
「刀を抜けなくした」
なんだ? 地獄にいる奴なんか?
というか、どういうトリックだ……。これも和を操る能力なのか?
だが、こんな所で長考している暇は無い。地上から二階建ての家3軒分の高さで磔になった。だが砂川が殴る直前、優多は自身のその肘で、背にある太い柱を破壊した。
それが幸か不幸か身動きが取れず背を向けて落ちてゆく優多の腹に乗ると剣を引き抜いた……そして早々に地に蹴り落とし、瓦礫の下に生き埋めにされる。
優多はその中で、どこか見覚えがある光景だと頭の片隅で何かを思い出していただが、そんなことよりもと、瓦礫を押し退け、必死の思いで地に顔を出した瞬間、頭を掴まれ思い切り潰された。
「お返しだよ」
「そう言えば、さっきやりましたね」
気絶寸前といった風の掠れた声でそう返すがこれは生き地獄か何かだろうか……。傷が早々に治ってしまう。痛みは癒えないだが傷は癒えるという点で言えば本来の地獄の刑と似ていた。苦し紛れに軽口が自然と出てしまうくらいには、慣れたのかもしれないが、痛みには耐えることは未だできない。
ああ、意識が途絶える。いや、その境地に立っている。
立てない、ぼやけた白く淡い光しか広がっていない……。ここはどこなんだ? 僕は……何をしていたんだ。
突如、自分がいたはずの場所とは違うところに転移したという事に酷く焦りはしない、というものの、気力が保てないのだ。
ぐったりと、ダメージを受けすぎて体に力が入らないのだ。
意識はあっても目はかすむし、体の感覚だって小さな蝋燭の火のように今にも消えてなくなりそうだ。
限界に近くなっている。
一体、どうしてこんな風になってしまったんだろうか、怒る気力も、訴える勢いもその身には残っていない。そんな気がした……いや実際そうだった。ここが心の中だということがわかるぐらいには脳は動いている。けれども体はちっとも言うことを聞いてはくれない。
ふと、帰りたいという気持ちが蘇る。香花館に帰りたい。これならシフィアに怒られていた方がまだましなのかもしれない。
そもそも彼の怒りに何故付き合わなければいけないのだろう。僕はただ、仕事をしに来ただけなのに――
意識が途切れるその直前、誰かの声が聞こえた。
けれども、それもどうでもいい気がした。その直後、意識が途切れた。
『ったく、お前には任せていられねえなあ……ちょっくらもう一回貸せ、こうやって使うんだよ』
※※※※※
そこに一線を引いた雷が落ちた。
辺りは騒めき、誰の声とも捉えられないような悲鳴が轟きそして、その堕ちてきた光を纏う……。
震える腕を横に出した途端どこからともなく、どこかに置いてきていたはずだった優多の刀がそこに宿る。
閉じていた瞬間、開いた目は青く、別人へと変わっていた。
無表情で、それまでの優多がするような表情を彼はしていなかった。
歩く――
いや、迫るだった。
一歩、また一歩と地を踏み込む度に地面が呼応するかのように地にめり込んでは悲鳴が響く。
その時、瞬きを一回した時の出来事だった。
そこに立っていたはずの優多は、もう目の前で刀を構え、振ろうとしていた。
どういうことだ?
滅茶苦茶強くなってる――
間一髪のところで、受け流したが、その速さに驚いた。どういうことだと砂川は、驚愕する。追いつけていたはずだった。なのに、何故今になって、ここまで……。
――また刀を振るう。
次までに放つ攻撃の一つ一つが小さく、大きい。
考える暇なんてなかった。これじゃ、満足に能力が発動できないじゃねえか!
焦りに砂川は全力で攻撃に力を注ぐ……。
だが、何度剣を振っても攻撃が利かないのだ。殴っても蹴っても抉っても、攻撃が効かないのだ……。
刀は当たるし、ちゃんと切れているのだ。
拳は当たるし、ちゃんとダメージが入ってるのだ。
蹴りだってちゃんと当たってるし、吹っ飛んでもいる。
血が出て、肉片も散っていても、次の数秒で完璧に治っているのだ。
切れても、折れても、曲がっても。
10秒と立たないうちに治っている。いや、それは最初の優多もそうだった。何度ダメージを与えようが、今の優多のように回復するし、次の攻撃にも移っていた。
でもこれほど自然だったかと問われれば全くもって違うと言える。
回復だって、容易いとは言えないほどの苦痛を伴いながら回復していたし、攻撃だって、粗が目立ち、十分とも言えなかった。
一体この数秒という短時間で何があったのか……。
砂川は刀を振るいながら驚愕に眉を寄せた。勝てるのか……?
いやもはや勝つ勝たないの次元じゃない。それほどまで、今の優多は別人にまで進化していた。
「斬っても切っても抉っても死なねえ……お前バーサーカーかよ」
重い斬撃に、砂川の顔は苦渋に染まる。
何一つ攻撃が効かない。ギリギリで攻撃を避ける砂川にふと差し込むのは、今まで自分が抱いてきた執念への疑念だった。
今まで表に出さなかっただけ、それでも俺は絶対と言えるほどに恨んでいた、いや恨んでいるはずだった。なのにいざ本人と自分に壁があると自覚した時、その執念すら頭から抜け落ちて別の何かを考えてしまうのだ。
本当におかしかった。
『ここまで強くなったのは何のためだろうか』
生きるためだろうか、彼への執念を晴らすためだろうか、それとも彼らに同じ苦痛を与えるためだろうか。
分からなくなる。いや、最初から結果なんて出ていなかった。
執念はあった……いや執念と呼べるものはあった。ただそれを執念と決定づけるものではなく、ただそれをそう呼んでいたにすぎなかったのだ。
長いものとして語るには至らない。けれども確実に地獄を味わった人間の一人として、その問いにはまだ時間がかかりそうだった。
分からない。分からないなりに今までやってきた。
ここにきてから、色々あった。
この世界の事を独学で、ある程度学びながら整備すらされてない世界故に毎日のように襲ってくる多種多様な化け物。それらから岩城を守るための門番として、砂川は毎日を生きてきた。失うものは何もない自分にとってそれは、身を支える柱でもなく、ただ空っぽな心で処理をする仕事でしかなかった。
自分がここに来るまでの因果の全てを知り切った砂川は、陣之内優多という男と香花館というものの存在を知った。
彼の所為で自分は全てを失ったといっても過言ではないのだ。
――種族が変わるということは元々禁忌に近いことなのだ。
何故か? それは普通起こらないことで、イレギュラーなのだ。種族というのはその世界にあるべき要点であり、その世界が生まれ、存在するための条件でもある。故に、種族を変えてしまえば、その世界の常識を無理矢理折れ曲げたも同然なのだ。
優多は元々地球人であり、人間であり、超人などではない。
そもそも、本来地球には能力人が生まれることもないし、そもそも人間が人間以外の種族を生み出すことも不可能なのだ。
だからそれは“世の中の何か”を変えることなので当然何らかの形で異常を招くことになるのだ。
その影響をもろに喰らったのが俺自身ということだ。
何故一人、こんなにも最悪な現実を被ったかと言えば、簡単な話、性質が同じだったらしい。
生まれる時代が違うことだけを除けば、誕生日も身長も何もかも一緒なのだ、全てが同じというが、納得はいかない。けれどもそれ以上に受け入れられなかったのは、それを実行した香花館の奴らだった。優多にも勿論怒ってはいたが、むしろその原因を作った香花館の輩も憎んでいる。
ここまで重要なことなのだ、分かっていたはずじゃないか、何故実行したのか、何故一人の犠牲が惜しくて俺と俺の全ての人々を犠牲にしたのか……。
お前らが、優多を助けなければ、みんなが死ぬことは無かった。俺がミスってみんなを殺すことも無かったのだ――
そうだった。
だから、優多を含めた彼らを憎んでいたのだった。
こんな大事なことさえも、この見えない壁によって抜け落ちてしまっていたのか。
冷徹で冷静な面持ちをする砂川の瞳からは一筋の涙痕が流れていた――そして勢いよくその刀を振るった……。
その凶暴なまでの攻撃――それを視認した瞬間優多は地に向けて刀を刺す。
――不意に刀から物凄い重みを感じた。いや、途端に身体が重くなる。立っては居られない程に重く、しかも歩けないと思ったらいつの間にか靴に蔓が巻かれていたのだ。
何の魔法だ――?
舌打ちをしながら、思い切り立ち上がり、その重さに抗った。
無理矢理にも、体を、脚を一歩、また一歩と進めるのだ。それは重く勇ましく、今にも悪に立ち向かおうとする覇気に満ち、迫りくる蔓にさえ容赦はなく、一歩一歩その覇気を強めながら、優多に迫って行くのだった……。
瞬間、口を開いたのは優多だった。
『我道に迫ばるのは勇敢の証、ならば絶壊の一撃、香花の剣の真力。一振りで生物を滅し、二振りで草木を壊し、三振り(みふり)で世を崩し、破壊を招く刀――香花刀』
刀を構え、ゆっくりと剣を薙ぐ……。
そこには一滴の水が水面に落ちて波紋が広がる。そんな不気味な静けさがそこにあった。瞬間、遠くから小さな音が聞こえ、やがて目に見えるところから何やら土埃りが立っているのが見えた――なんだ?
そう最初に思っていた砂川であったが次の瞬間、津波のような大波を作りこちらへ向かってくる砂嵐だということを知った途端、それまで気迫に満ちた表情から一変して、見るからにヤバイそれに慌てるも、表情が固まる。
それは、近くになればなるほど慌てる理由が説明せずとも理解できるほどに――それは圧倒的で。
それは、広大な荒野に転がる細かい石から巨大な石を巻き上げながら襲ってくる自然の驚異。巻き込まれただけで生死の境目を何度も往復するようなものだからで、それは言わずと知れた、『死』の権化だった。
そして、瞬間悟る。
これを呼び寄せたのが優多だということを――瞬間それが襲い掛かる。
石という岩々が暴力のように打ち付ける……。痛く苦しい、息を吸っても細かい砂が気管に入っては咽る。
いくら、回復が可能であっても巨大な岩が頭をへこませたら、回復できるかどうかも分からない。
そんなやっとの思いでその砂嵐を耐えた砂川が見たのは驚くことに全くダメージを受けていない優多で……。そのなんとも格差的な光景を見て、怒りに声を震わした。
「お前……なんで巻き込まれてねえんだよ」
さっきの砂嵐で頬が抉られたらしい、口を拭った際に血がべっとりとついた……。
だがしかし、優多から返された返事は思いもよらぬ返答だった。
『死んでいない……』
「はあ……?」
『なるほど、今の主人の使い方が粗いせいか……。刀の方が死んでいるではないか……』
「……刀?」
『一振りの真力が発揮できていないならば二振りでも同等だろう……。まったく優多、貴様には呆れたわ……。我と会うまでこの刀は封印することにした』
なんだ? こいつ一人で何をやっているんだ? 今いるこいつは優多じゃないのか?
分からない、じゃあ誰なんだ? 口振りからして今思えばだが完全に優多ではない。じゃあさっきまでのは優多じゃない何かか?
そう困惑する砂川の脳内に閃いた一つの単語は二重人格というものだったが、初めて見た。だがしかし、さっきの砂嵐は一体何だったのだろうか。
カチンと、刀を収め『では我は去る、邪魔をしたな少年』そう言って、急に優多は、ばたりと倒れる。
まったくなんだったんだ? よくわからないが、これでとどめを刺せる。そう考えたとき、驚くほどに興ざめしている自分がいた。
まったくと言っていいほど彼に何の恨みも抱いていなかったみたいで、その証拠にその荒野は昼なのにも関わらず、まるで何も起きていなかったかのような夜の静寂が広がっていた。
何のために彼の事を恨んでいたのか……。わかってはいたが何も残っていない気がした……。
もう一度、ふと気になって頬を触る。指先にはもう何もついてはいなかった。ぴりっというような痛みも無く、ただの肌だという認識だった……。
扱った思いはもう砂川の内には無かった。殺してやるという激情はどこかに行ってしまった。しかしただ一つ心の中に残っているものがあった。それはさっきまでの意思を引き継いだ冷酷な意思だった。怒りはない。ただ怒りだったものはそこにはあった。
やがて、優多は意識を取り戻し、起き上がる。
歴史の過ちをただ覚えただけいるような感覚に過ぎなかったが、それを忘れることは出来なかった。それは大きくまとめてしまえば一つの怒りに過ぎないかもしれないけれど、当人にとって、それは怒りに似た別の何かなのだ。まあしかしこれは当人にとっての問題であり、他人からすればどうでもよいことなのかもしれない。
そんな不安定な心持ちのまま、砂川は優多に歩み寄った。
「……え?」
手を差し伸べた砂川の瞳は笑ってなどいなかったし、当然ながら手を差し伸べるような人間のする眼をしていなくて。ただ、奥深く深淵が続いてしまえそうなほど、その瞳には暗闇が続いていた。
それに、優多はただ困惑するだけで「……え?」と砂川の顔とその差し伸べた手を伺うのだ。
しかしながら、困惑しながらも優多はその手に応える、不器用にはにかみながら「ど……どうも」とうなじをかきながら掴んだ瞬間、強く握られ顔を苦くさせると次の瞬間、平手打ちを喰らった。
すぐ手は離されたが、固まったまま膨れ上がる左頬を抑える優多の顔はなんとも言えない悲しみを伴っていた。
「どうしてそんなことをするんだっていう感じの顔だな」
しゃがみ込んで、その顔を近づける砂川。
「当たり前だろ。殺し合いしてたんだから」
冷たい目と冷たい声に冷たい表情。
瞬間、その砂川にハッとした顔で刀を抜こうとした優多だったが、その異変に恐る恐る、刀に目を向ける――何度柄を引き抜こうとしてもまったく抜けなくなっているその刀に、優多の表情はみるみるうちに青ざめていく。
「なんで……どうして……」
抜けなくなってる……。どういうことだ? そんな思考を巡らせている瞬間、やばいと思った時にはもう遅く、避けようと身体を逸らすが左目を突かれ、一旦入って、再度思い切り刀が沈み込む。
言葉にならない叫び声が上がる――斜めに入ったので、耳から刃先が見えた……。
抜こうと反射的に柄に手を掛けようとするが、足の裏でさらに刀を押し込まれ鼻に鍔が当たる。優多はそれ以上の絶叫を上げる――
「お前の所為で俺はこうなった。ならその痛みをお前も味わうべきなんだよ……」
ぐりぐりと、冷徹に、今までのような笑いもせずただ、刀を足裏で押し込む痛みと砂川の狂気に耐えられず、優多はそこに居るだろう彼に向かって拳を振るう――それは手加減すらしていない、今出せる限りの本気で、そこから放たれる被害は、砂川の背後にある、15メートル先にあるジャンクションの全体6割近くを薙ぎ倒し、瓦礫へと変貌させるほどの威力。しかし、間一髪と言ったところで砂川は避け被害を被ったのはその道路だけだった。
すぐさま立ち上がって刀を抜き、片目を力強く抑え込んで、辺りを見渡した……。しかし彼の姿なんて無かった。
――お前は知らないだろうな
声が聞こえてきた。
反射的にその方向へ手に持っていた刀を振り回す。
――お前が能力を持った所為でどんな被害が生まれたか
瞬間、横腹を突き抜ける腕……後かッ!
しかし、それに気付いてからの行動が遅すぎた。
――お前の所為でみんな死んだッ!
今度は足を掴まれ、投げ飛ばされる。
動きが早く、上手いこと死角に入って攻撃してくる! 離れないt――『お前がッ!!』
吹っ飛んでいる最中、目の前に今にも殴る姿勢を取っている砂川が現れた。
――お前が能力を持った所為でみんな死んだんだ!
首を鷲掴みすると、そのまま落下と共に地面に叩きつける……。ダメだ、早くて追いつけない。身体だって再生するのに時間がかかる。今の一連の動作だって10秒と掛かっていないのだ……。体の部位は肉片と散って四肢も衝撃で半壊しつつある。
彼の怒りの訴えは断片的で、そして何よりも直接的だった。初めのとは比べ物にならない程、情に満ちていた。
しかし、分からなかった。彼が何故自分に怒りを抱えているのかが。
僕が能力を持った所為で砂川の知人が皆、亡くなってしまった。
それが何なのか優多には知らなかった。ちゃんと――
「ちゃんと……話してくれないと、分からないですよ……」
『くっ……お前……お前お前お前お前お前お前えッ!!』
ダメだ! 取り合ってくれない!
激情に咆哮する砂川の掲げた腕を見ると、その先にいつの間にか刀が握られていた……。
さっき落ちるときにかッ――
「アグッ」
丁度胸骨柄のあたりを砕き、思い切り気管を裂く――瞬間何かが急速に縮まってゆくような錯覚を覚えた、瞳孔が広がる。まさか――ッ!!
そこは大動脈であった……。
もう完全に痛みがどうこうの次元ではなかった。心臓に掠ったかもしれないのだ。それは紛れもなく錯覚でないと知ったのはすぐの事、明らかに回復のスピードが下がっていってるのだ。気力的な部分で言えば、完治するまでに時間を要する。だが、いつもなら完治するまでにそう時間を要さないはずの部分が未だ完治していないことがすぐに感覚としてわかるのだ。
それはあの夜、自分の身体について教えられた、『心臓が弱点』と説明されたあの夜。確実にそれを実感した瞬間でもあった。
心臓に到達していないが、それは文字通り仮死状態に陥っていると言っても過言ではないのだ。
完全にその一撃では死ぬことはなくとも、もう一撃喰らえば、あえなく死だ。どうにか回避しなきゃいけないにも関わらず、距離を取るどころか動くことすらままならないのだ。体がまるで人形のように動く気配が無い……ヤバイ――
「死んだか?」
そう聞く、砂川に心の中で叫ぶ。ああ死んだ。早くどっか行ってくれ……。そう微動だにしない優多の心音を聞こうと心臓に耳を当て、生きているのを確かめる。
「生きてるな」
完全に終わった――やばい、どうにか……どうにかしないとッ! 戦慄に指が動く。しかしそれに絶望するしかなかった。油の入ってない錆びたブリキのオモチャのように首をその指へと回す。
少ししか動かせないそれが恐怖であり、また悔しくもあり――とうとう一粒、涙を流した。それは、珍しく意識的にではなく無意識に流れた一滴だった。恐怖からでも悔しさからでもない。特に理由のない涙が、優多を困惑させた――どうして僕……泣いてるんだ?
「ここに刺したということは大動脈か……保険で習ったんだよ。なんで覚えてたんだろうな。まあ、ここに刺して、身動きが取れなくなったってことは、心臓あたりか?まさか4つの内のどれかってわけじゃねえだろうな? まあいいや……じゃあな」
畜生――
※※※※※
それはひらりと舞い落ちたという、表現で言えば美しいが、実際のところただ勢いよく落下してきたに等しいほど、騒がしいものだった。
動けない優多にとどめを差そうとする砂川を寸前で止めたの無限だった。
「お前か……無限っていうのは」
「そうだよ……お願いだ、その凶器を鞘に納めてもらうことはできるかな?」
優しい笑みを浮かべる少年に、そう提案されたが正直に呑むつもりはなかった。
無限、開智無限。彼を直接見るのは初めてだった、そもそもこの多世界という歯車を回しているような重要人物だ。そうそうお目にかかれるようなものじゃない。そんな王様がわざわざ愚民に挨拶とは……なんとも呑気な奴だな。
「君が砂川君……だね。僕は無限……今日は君に謝りにきた」
「ほう……わざわざこいつを返してもらうために頭下げに来たって言うんか?」
刀を肩に担ぎ、首を鳴らす。
随分と家族愛に溢れてていいご身分だなあ貴族さんよ。そう侮蔑の視線を優多に送る。そんな彼は未だ自由に体を動かせず、無限の方を見るなり、小さく何かを言っている。まあいいや、どうせ優多は殺す。でもどうせこいつにだって用はあるんだ。
話すぐらいしたっていい。
いくら待っても口を開かず、表情も変えない、優多が殺されるにも関わらないというのになにも言ってこない無限に舌打ちをする。
「何とか言えよ、こいつを返してほしいんだろ?そんなに大事な奴なんだろ?家族なんだろ?俺の家族や友人や彼女を殺しておいて、こいつだけは殺してほしくないんだろ?大事な大事な仲間なんだろ?それくらいお前を見てれば分かるよ、ほら早く乞えよ、助けてくださいってこいつの命乞いをしてみろよ、ひざついて、額こすりつけて……」
ひたすらに、汚い声で罵って、何にもならないそれを吐きつけて、心の中に潜む、もう一人砂川は、悲しい顔で自分自身を覗いて、瞳から一粒零れ落ちた。
「ほら早くッ!みっともねえ声を出しながらこいつを生かしてくださいって!喚けよお!こいつを助けに来たんだろ?主様よお」
『――違うよ』
「……はあ?」
「違うよ……今日は君に謝りにきた。今頃になって申し訳ない。書類の手続きですぐ君に会ってあげることができなかった……。申し訳ない。だから、君には優多を殺させない。そして、優多を治しに来た……。それと、君を犯罪者にさせない為に僕はここに来た」
「何を言って……何を言って」
パチンと指を鳴らす――今君がその刀で、優多を傷つける流れは切った……。これを結び直すまで君は優多を斬れない。
「何を……何を何を――」
砂川は、予想外の事に慄いた……。だって、その優しい顔と優しい声、柔らかい態度で、何をしてきたか……。それは深い……深い深い謝罪のお辞儀だった。
それはとても長い……およそ、5分間の謝罪だった。それは静寂に満ち、腰から自然と力が抜け落ちてゆくかのような異様さだった。実時間もこれほど長いためか、体感ではもっと長く……10分程度だろうか? とにかく長く感じたのだ……。
そんな長い時の中で砂川は、ひたすらに無限がしていることに思考を巡らせていた。それほどにありえないことで、錆びていて、ほとんど頭が回らなかった……。
だって、だって……そんな軽々と下げるものじゃないだろ――
「そんな軽々と下げて許される事じゃないだろ」
「……」
拍子抜けした口調だった。刀を手から落とし、中腰になる。
黙ったままでいる無限に、砂川は無意識の内に叫んだ。悲痛で、悲観で、悲哀に満ちた怒号で――
『お前の決断は俺の……人一人の命はそんな軽いものなのか!!』
「……申し訳ない」
『それだけか!お前のした悪行は、その頭一つ下げて許されてたまるか!石井は……?田中は……?花咲は暮田は多田は白石は中村は……麻美はッ!!お前が知らなかったとしても俺の隣で普通に飯食って話して勉強して、学校いってコンビニでアイス食って普通に生きてたんだぞッ!お前のその頭はお前にとって、お前のような要石に立つ人間の頭は誰よりも硬くて重たいものかもしれない!けれどなあ!そんなん俺にとっちゃただの人間に変わりはねえんだよ!お前は、普通に生きるべきだった人間達を殺す要因を作った張本人なんだぞ!あの時お前がこいつの種族を変えなきゃ俺はあいつらを殺す能力を得ずに済んだ!頭を下げるくらいなら誰でもできるんだよ……幸せだったあの時を返してくれよッ!!』
片膝を付き、そして両膝を付いた。
続いて両手を地に付け額を、地面に押し付けてもう一度その言葉を放った『申し訳ない』と――
『申し訳ない……ごめんよ。僕が大きな過ちを犯したのは今回で二回目だ。そしてこれは許しを乞うために来たんじゃないんだ』
「じゃあ、何だよ、何の為に来たんだ?お前は正しいとでも言いたいんかよ……ふざけるなよ?」
砂川の声は震えていた。
しかし、きっぱりと無限は返す。
『僕は君に謝罪と……罪滅ぼしをしに来たんだ』
「罪滅ぼし……?」
『そうさ君の――』
「ふざけんなよ……俺が望んでいるのはそんなんじゃねえんだよ、あいつらが……あいつらの苦しみはどうしたらいいんだよ……」
項垂れる砂川に、無限は立つと彼に近づいた。
「お前らが、お前らが悪いんだ……。お前なんかいるから……」
そう優多を見てから刀を取ろうとする砂川に、無限は静かに力強く抱きしめた。
『ごめんよ、砂川。許してくれとは言わないよ。本当に申し訳ない。けれどね、これは僕が判断し決断して全てを行ったんだ。だから、彼らは悪くない。僕が……僕が全部悪いんだ。君のお父さんやお母さんを殺してしまったのも僕だ。本当にすまないと思っている。償い切れない罪を起こしてしまったと私は君に謝罪をする。本当に申し訳がない。許してくれなくていい。けれど、罪滅ぼしをさせてほしかった。天界文通……出したらしいね、だから直接天界に出迎わせてもらったんだ。君のお父さん、お母さん、ご学友の方々……そして彼女さん。全ての人にお会いして、頭を下げ、天界に直接直訴して幸せに生きていける転生先を確約してきた。私にはこれくらいしかできないが、許さなくていい。ずっと恨んでくれてていい。けれど、僕だけにしてくれ……』
震えて涙を流す砂川に無限は、砂川の知人達の言葉を一人一人丁寧に話した。残せなかった遺言を、一人一人涙を噛み締めながら聞く。それは無限の優しい声が重なって、余計に砂川は泣いてしまう。
『――最後は君の彼女さんだ……麻美ゆかりさん。いい名前だね……彼女はとても気が強かったよ、でも極度の心配性で寂しがり屋だった。彼女は最初何を伝えるかと思ったけど、寂しいと言っていた……けれど、来世、また会えるということを伝えたらまた会えることに喜んでいたね。彼女は君が告白する直前の事を熱く語ってくれたんだ。あの時告白されることを知っていてとにかく落ち着かなかったんだって……。君はどこまで本気か分からないけれど、私は少なくともOKを出す準備をするくらいには好意を寄せていたと、彼女はそう言っていた……。これで終わり。詳しい内容は全部書物にまとめて送るから待っててね』
「……」
『それと――来世、またどこかで出会いましょうと、彼女は言っていたよ……』
「……会えるのか?」
『会えるよ……幸せに生きていける転生先を確約してきたって言ったでしょ。必ず会える』
背中を擦りながら、そう元気づける。
『君はきっと、強くなり過ぎたんだね……。孤独にさせてしまったんだね。早く、君の元に行ってあげられなくて本当にごめん。凄く辛かっただろうね』
ぼろぼろと大粒の涙が落ち着いたときにそう背中を撫でながら言う。左肩は、涙でぐっしょりと濡れてしまった。けれども無限はその笑みを絶やすことなく、慈悲の言葉を投げかける。
「お前の所為で……俺は……俺は……」
『うん、わかってる。君はとても人を愛しているね……。とても慈愛に満ちて、それを自責に今を生きている――』
目をつむって優しい言葉をかけ続け、そこで言葉を詰めかける。
これが自分の所為で負ってしまった人の業を背負うことを本人に言うのは初めてで、それなりの緊張も伴っていたので、静かに息を整えて言うのだった。
『どうかその重みを僕にも分けてはくれないかい。君を悲しませたのは僕の所為だ』
そう言って、無限は無限に向き直る。
「少し心は晴れたかい?』
「……分からない」
「うん……また何かあったら言って、これ連絡先……。嫌なら破り捨てたって構わない。ただ、君はその先を見れる、良くないことがあったらいつでも連絡して……助けに行くから」
「無限」
「なんだい」
「俺はお前を完全に許せたわけじゃない。間接的に俺の居場所を奪ったことには変わりはないからな……」
「……うん、わかっ「でもな……少しは軽くなったよ、まだもう少し掛かりそうだけど、もし、また会えるようになったら、お前の館に遊びに行く……」
そう言って手を差し伸べる砂川、それに変わらない表情で、それに応じる無限。
「あいった!イタイイタイイタイ!」
「普通に握手できんのはいつだろうな」
「イデデデデデデ!力強ッ離れッ離れない!」
「ほれほれほれ」
「ア゛イッオレルオレルオレルオレルゥヴァ!」
そんな二人の姿を遠くから見つめる優多は心の奥底で、終わったか――と安堵のため息を吐いた。自立できるぐらいまでには回復した優多だが、耳は完全に聞こえていたため、砂川の壮絶な過去を最初から最後まで聞いていた。だからこそその姿を見てどこか、やり場のない何かを感じていた。黒くもやっとした……まあ当然自分が言えたり本来思えたりするような立場ではないのだが、彼を見てしまえばどこか、自分自身への存在を疑ってしまう。
そんな時だった。回復済みの優多に気付いた砂川、優多自身、また何かされるのではと硬直するも、それはいままで見たことのないような柔らかい表情だった。
脱落する優多の近くに手を伸ばしてきて、疑心暗鬼に顔と目を4、5回往復し、恐る恐るその手を掴んでみようと手を伸ばす。
「立てるか」
その言葉に最初なんて言っていいのか分からず、言葉に行き詰まるが「さっきは悪かった」その言葉で優多は――嗚呼そっかと、何かを確信し「はい」とはにかんでその手を思い切り掴む。
『ア゛イ゛ッ゛テ゛』
雄々しい悲鳴がその荒野に響いた
※※※※※
多世界の何百とある世界の一つ、その中で、彼はそこで白衣を着て長い髪を結って眼鏡をかけた少年の姿がそこにあった。
散らかる室内。壁際に設置された9体の女性が液体の中で眠っているカプセル。
かつて、バル=フランの実験で人間の可能性を探求するための人体実験が行われた、その二人の研究者ゲルガリン、そしてエグァラシス。
ゲルガリンという者の詳細を知ることはない。ただ、自分の師であった人のかつての師ということしか彼は認識していない……。
彼は、その二人の後始末を彼女から託された。かつての恩師でもあり、そして愛していた人の最後の願い。それが、バル=フランの人体実験、最終目的。
分離された魂の“還元”だった――
クリオッド・アデラはあの日以来、買い物の時以外はその研究室に籠って、それがどうすれば成功するか計算する日々を送っていた。
最近、他の技術が進歩している国から支援として譲り受けた機械を駆使して、計算に計算を重ね、常に実験を繰り返していた。
勿論、機械を提供してくれたのは、この実態を知ってくれた、香花館の方々だった。最初は躊躇った。これを見られて、処分されたらどうなるのだろうとは思ったものの、結果的にはよかったからまあいいだろう……。
しかし、今日はとにかく疲労が溜まっているらしい……。いやそれもそのはずだった、今日で徹夜するのも三日目に到達しようとしている……。なぜそこまで粘るのかと言えば、あともう少しで新しい答えが見つかりそうなのだ……。
可能性があるものは片っ端から確かめてゆく、今解析中の計算も含めて152パターンもの実験を繰り返しているのだった。
ちなみにどんな実験かと言えば、眠っているはずの個体は長期間、気を失っている状態にある。それは、9体の魂が一つのものとなっているからというのが、エグァラシスの手記に記されていた。
それをもとの個体にそれぞれ正しく戻すために、その共有されている情報を分けるにはどうしたらいいかというのが今の実験だ。
だからA→A、B→B、X=ABCD……etcてな感じのが今の状況だ。ちなみに、優多にも4回ぐらい同じ説明をしたのだが、彼女達の一つ一つの脳が一つの情報網を敷いているので、魂が分離されて、一つの瓶に集合意識として保存されているわけではなくて、あくまで彼女たちは個々の脳を持っていたがそれが繋がって一つの意識になっているということなのだ。
そういう意味での、還元。なので、説明に苦労した。専門用語を使えばただ惑わすだけだと思ったので、極力省いて説明したら、実際伝わらないのだから、苦労する。
しかし、いいところまでいっているのにも関わらず中々成功しないのだ。これで完全に要素はそろっているはずだった。いや、本当は足りなかった。本来この実験に用意されていた実験体は10体、だが、意識のはっきりしていた1体だけ、政府に押収したのだ……。
それなのかもしれない――
クリオッドは急いで、政府に話を持ち掛けようとしたが、それではだめだ、自分自身がエグァラシスのようになるかもしれない。
新しく作り変わったとはいえ、この世界でも多世界でも基本的にこの話は人権問題でタブーとなっているのだ。
じゃあどうしたらと思ったところで、優多の顔が浮かんだ、そうだ優多なら何とかしてくれるかもしれない……完全に権力的な話になってしまうが、この政府に押収された同一個体が必要なのだ……。
しかし……。本当に頼っていいのだろうか――
分からない……クリオッドにはそれが本当に正しいことなのかも分からなかった。
だってそれこそ、自分自身の問題でもあったのだ。彼女らを早く救いたい。けれどこれを優多含む香花の人たちが率先して協力してくれるとは到底思えないのだ。ただでさえ仕事が多いというのだから、私情で頼みごとをするのはクリオッド自身いかがなものかと思ってしまうのだ……。機械を譲ってくれたのだって、完全に好意なのだ。それにずかずかと浸ることはあまりにも失礼過ぎる。
しかしそうなると頼る宛先がない……。どうすればいいのだろうかとクリオッドは自重に勢いをつけ、自身の椅子に座る。エグァがいた時からずっと使っていた椅子だ。エグァのは目の前に置いてある。自分のものは、ただ座るだけの最低限の機能を持ち合わせただけの椅子だが、彼女のものは座りやすく、クッションのついた高級品だ。いつも朝は拭き掃除をして埃を払うし、こうやって煮詰まった時はその椅子と対面しながら、珈琲を飲む。
半地下空間ということもあり、一応換気はできるものの、全く外に出ていない所為か太陽の光は苦手だ。瞼の下が焼ける。典型的な引きこもりになってしまった。
少し、眠くなってしまったのか疲れてしまったのかその椅子に深く腰掛け、あたかも彼女がいるかのように、眠たそうな瞳で言う。
「コーヒー淹れようと思うけど、いるかい?」
「……」
「砂糖は?」
「……」
「ミルクは?」
「……」
「……」
静かだなあ、こうやって一人で対話するのも今日に限った話じゃない。悲しいことだが暇なときはこうして、暇をつぶしているのだ。何かヒントを得るときも、一人で話しかけて一人で解決する。まあ寂しいと言ってしまえば寂しいが、けれども今となっては慣れたことだ。慣れたし今はあの時を思い起こす方が気が楽なのだ。
思い出は思い出として脳の中にとっておいた方が悲しくない。
前向きなのか後ろ向きなのかわからないけども、まあそれで良いや。
そのことについて深く考えるのを辞めた。
「なあエグァ――」
「なんだい、さっきから。寂しくなったのかい?」
え?――と声のする方向を見た。疲れているからか目を細め口を阿保のように開けて、数回瞬きをする。そこに居たのは、机に、乗って、脚を組むエグァの姿だった。
これはたまげた。幻覚が見えてんな……相当疲れてるんか。珍しいこともあるもんだ……。暇つぶしに会話でもすっかという感じに、あの時みたく軽口を投げ合った。
徹夜してんのを咎められれば、仕方ないじゃないかと反論したり、天界はどうですかねと聞くと、思ったより悪くはないよと返してくる。
「コーヒーは?」
「飲めない」
「まあ幻覚だしな」
「幻覚じゃないよ」
「まあそう言うと思ったよ」
「おやおや……。そう言ってリアリズムに走るのもよくないよ……。何か悩みでもあるんじゃないかな?」
「ないよ……。いやあるにはあるんだけどさ」
たかが、幻覚の言う事だ。そこまで話し込んでも、意味はないだろう。けれども、それはそれは楽しかったのか。普段のあった軽口の言い合いで物凄い時間を消費した、今日はあと何時間だろうというくらい。ふと、眠気が差してきて口の栓が緩んだ。
「今とても……。研究に行き詰まってんだ」
「そうかい」
「とてもね、それは物凄く面倒でね」
「ほお、それは興味深い」
「何通りの実験試してみても、魂の還元ができないんだ」
「それは私も苦戦したねえ」
「エグァ、答えが見つからないよ」
眠気まなこの瞳で頬杖を突きながら、優しく微笑む彼女の姿を見つめる。
「答えなんて最初から存在しないよ、ただ、それが動く条件を当てはめていって、やっと動いたその一つの条件を皆答えといっているだけで、他にも方策はたくさんあるんだよ」
「でも150回も実験をやったんだ……。それも機械を頼って」
「私は、手動の計算で6000通りのパターンと9000通りの結果から魂の縮小と拡大、保存と一体化をやったよ、この50年で」
「魔女って一体何年生きるのかな?」
「衰えるのは、300年経った頃かな……まあその前に殺されちゃったけどね」
「幻覚なのに悲しいことは言わないでくれよ」
「あら、私は幻覚じゃないわよ」
「そうだったな」
ふと、目を閉じた。その瞬間何故だか怖くなって眠気が引いた、恐る恐るゆっくりと目を開けると、またさっきのような安堵が蘇る。
「いなくならないでおくれよ」
「いるわよずっと」
見えなければ、居るとは言わないよ……。次目を閉じてしまったら、もう二度と会えなくなる気がしたから、本心を打ち明ける。大丈夫、まだ眠くはない。
「この現状を打開できるかもしれないことがあるんだ」
「何だい?」
「もう一人いたでしょ?今は9体だけど……元々は10体で……」
「いたね……」
「そんな悲しい顔させてごめんよ」
「いいんだ……あれは仕方なかったからね」
「あの子がいれば、彼女達は意識を取り戻すかもしれないんだ」
「確証は?」
「十分にある。彼女達の脳波パターンがそれを決定的な確証につなげているんだ」
それは、数値を計測しててふと気づいたことだ。
カプセルには、数種類の計器が取り付けられて、脳波の計器には、それぞれ感覚、感情、精神、生命維持、共鳴の五種類が記録されているのだが、その共鳴がいつも不安定だったのだ。他の計器に誤差はあれど、大体メモリ±2以内だったのが、その共鳴だけ、いつも不安定で、興奮などの強い感情の起伏が何度も見られるのだ……。
それが、存在しない10人目に起因する確証だった。
「ただ、その子がどこにいるかもわからないんだ。これは軽く人権問題にもなっているから大きく人に頼ることもできない」
「それは困ったね」
「ああ、困った」
「申し訳ないけどそれのヒントを持ち合わせてないんだ。だからそのヒントとなるものを伝授することはできない。けれど、人生から学ぶべきヒントの見つけ方なら教えることができる……知りたいかい?」
「勿論」
また眠気が襲ってくる……。やめてくれよ。
「色んな種族があるけども、君みたいな能力を持つものや、私みたいな魔法を扱える種族、多種多様な人がそこにはいる。でもね、みんなそれ全てに成れる……皆、その能力の素質を持っているんだよ」
「というと?」
「それを扱う準備が整っていないだけ、炎を操る者が水を操れないわけではないし、突飛した能力を持たない人間が必ずしも能力を持たない訳でもない」
「それは何から分かったものなのかな?」
「実験だよ」
「……」
「まあ、これは良い事かと言われれば、私だって首を傾げるさ……でも真実には一歩近づけた。そう捉える他ないのさ」
「そうかもしれないね」
「話を戻そう、早く走るのは個人差がでるだろう。でも走れない人間なんて障害を持っていない限りいないだろう、そう「全て」全て本当は備わっているモノなんだよ」
本来、全てを備わっている……。本当だろうか――
一つ確認しておきたかった。
「バル=フランの分離でやりたかったことを聞いていいかい?」
「何故?」
「いくら僕が愛した人でも、非人道的な行為であることは変わらない。僕には知る権利があるし、僕はそれに携わってしまった。だから僕には知る義務がある。だから最後にこれを聞いて安らかに眠りたい」
「そうね……。最初は魂と身体を分離できないかということから始まっていた……これが成功すれば、体を入れ替えることも可能だし、医療にも革新をもたらす新技術にもなる。けれどもそれだけで、私たちがやっていけるはずもなかったんだ。やがて、それを魂を均等に分け、自身が殺されても生きていられるという保身のための技術、霊棺という名のものを作ろうとした。それがこの実験でやりたかったことだよ」
――そっか
彼は静かに目を閉じ、そして涙を流しながら、彼は眠りについた。
何故涙を浮かべたのかクリオッドには分からなかった。
はいてなわけで、ガッツリ書きました37話。
いかがでしたでしょうか……まあ、色々と話したい部分ありましたけど、少しオマージュした部分も所々あって、この部分は、あの作品から雰囲気だけ取ってきたり、この部分は、あの作品の設定いいなあ的な感じで、リスペクトしています。
まあ見てわかると思うのですが霊棺とか正にハリー・ポッターの分霊箱ですよね。分霊箱って入れてもよかったんですけど、でも自身の作品なのだからなんか味気ないよなあとも思ったんですよ。だってあれって魔法じゃないですか、こっちは一応科学なのでね。
あ、タイトルの『すなくぁ』なんですけど、特に意味はありません、まあ今まで全て真面目に伏線やら考察向きなタイトル命名してたのですが、あまりにもすなくぁが良すぎて、題名にしちゃいました。
これ何かというと、自分タイピングの癖が強くて、砂川の事を何度もすなくぁとミスしてしまうんですよね。なんかお気に入りなんです。こんごプロットに登場させるときは全部すなくぁにしたいですね。まあめんどくさいんでやりませんけど。
さて、後書きらしく、物語の軽い解説と裏設定を軽くしたためます。
ここを見ると考察の面白みが半減してしまうので、見ないことをおすすめします
まず、砂川の身体についてなのですが、中途半端に超人になってしまった感じです。また本編に詳しく出るかもしれませんが『人間』というのは種族の中でも大きなくくりで、細分化されているんです。人間だけど、超人でもある。そんな認識で大丈夫です。
あと、砂川の能力解説何ですけど、これが中々に難しくてですね、中々に使い勝手が悪いんですけど、簡単に言います。1と10という差があるとします。これ、平等じゃないですよね? なので1を1にしたり、10を10にしたりできる能力です。はい解説おわり。
あとは最後のシーンですよね、何でクリオッドは涙を流したのか
これについては、完全に国語の設問です。
問.涙を浮かべたと書かれているが、何故クリオッドは涙を流したのか。説明せよ
的な感じですね。
まあ長くなりますけど書いてみました↓
彼女を愛していたが、彼女はそれまで悪くないと心の底から信じていた。ゲルガリンの操り人形にされていたと思い込んでいた。
しかし、真実を知ってしまった彼にとって、彼女もまたその凶悪な思想に取り憑かれていたということを知り、それでも、彼女が好きだということと彼女が負っている罪の意識を再確認して、やりきれない感情に追いやられる。
ここで大事なのは、クリオッドがその凶悪な思想の後始末をさせられて愛されている人にこき使われているということではなくて。
クリオッド自身それまで罪を被せられていると思っていたけど、実際はその思想に取り憑かれていたけども、それがどれだけ重いものかという罪悪を感じながら生きて更生した人だということで。
だからこそ、そこで色んな感情に一粒の涙を見せながら、眠りにつくというシーン。
過去にその人が世界中で敵になったとしても自分は味方で居続ける的なことを言ったクリオッドだけども、それは正しかったのかせめぎ合っている。
いやクリオッドからしたら正しいけれども、カプセルで眠っている彼女たちの事も同時に頭の中にあってこれはどういうことかと言えば、エグァの事は擁護してあげたいのは山々だけど、この子達はどうするの?というシンプルな怒りでもあった。
けれども、それ全てを罪として自覚している彼女には何も言うことがない。
だからこその涙。そう言ったやりきれない怒りがその涙に込められている。
う~ん、伝わりましたかね。自分こういう国語的な解釈が好きなんですよね。
まあ色々ある感じですけど、今回はいかがでしたでしょうか。
2万字にしては中々短いスパンだったのではないでしょうか。これより砂川との馴れ初めは終わって次の段階へと物語は進みます。
そう言えばですが、第一章、何が目的か忘れている方いらっしゃいませんか? 自分とっくに忘れてたんですよ。これ何のために書いてたんだっけって最近までなってました。すいません読み直してきます、第一章。
では……。
ばいの('ω')ノ




