虚構の神
今回も、読みやすく薄い文量にすることができました。
また自由落下だ――ヤバイ、早く、ち地上が見えてきた! 早く軽減……軽減を――
身にせり上がってくる緊張に軽度の重力軽減しかできない。
紅い岩肌が間近に見え、ぶつかる、その寸前。その瞬間、無限から思いもよらぬ一言が聞こえた――『捕まってて』
瞬間、とてつもない威力の風圧が、逆側から噴き出した。噴き出したというよりも、まるで殴ったときの衝撃に近い。まさか――
一瞬ちらりと見える無限の口元からは白い息が一線を描いていた――
瞬間、自由落下の衝撃を無限が地を殴り相殺。
ぱたりと、みるを翻して、無限は着地する。
「よかったよかった」
「し、死ぬかと思いました……」
今の優多には暑さなど微塵も感じられず、ただ、冷えていく感覚しかなかった。
まだ、裏世界というものに入ったばっかりなのに生きた心地がしない。
「ごめんねえ、やっぱり相性が合わないのかもねこの世界には」
「そ、そんなことより生きてる方が不思議というか……」
「ま、それもそうか。でも、優多もいくらか死ににくい身体だから……」
「死ににくいって何ですか!?」
「さ、行こうか」
「行くってどこにですか……」
「ちょっとね……ある超人を探しているんだ」
「あるヒト……?」
優多はオウム返しに聞き返すと、彼は苦い反応を見せた
「少しね、いい奴には変わらないんだろうけど……異質というか、異端というか」
「説明しづらい人なんですね」
「まあ、そんなとこだね」
さらに話に踏み込んでみる
「その方はどんな方なんですか?」
「そうだね……彼の名前は――」
――彼の名前は火子真 豪気。
無限は、彼は少し特殊と説明するのを渋っていた。言葉が見つからなかったのかもしれない。
彼は、誰にも属さない孤高の人物らしかった。
火を操る能力を持っていて、彼は独りで森の中をいつも彷徨っていると聞く。
しかし、と、体温が正常に戻りつつある中優多は頭の方も正気に戻ってきたらしい。その証拠に今何を聞くべきなのかがわかって、尚且つ暑さでやられていた頭も大分正気に戻ったみたいだ。
「あの……無限さん」
「どうしたんだい?」
「僕……さっきから肝心ななこと聞き忘れていた気がするんです」
「というと」
「まだ、この世界の事何もきけてないなって――」
「大炎界」語り口調切り替わると、彼は優多の言葉に返事を出すことなどなかったが。それは、言葉に出さずともOKの言葉として優多には受け止められた。
――大炎界というのは、この裏世界の名前だ。この世界には、8界位の地位が存在する。優多は、もう読んでしまったからわかると思うが、世界録に書いてあっただろう。裏世界の事――
優多ははいともいいえともいわず、ただ首を振る。
世界録というのは、各世界が明記された多世界の辞書的な役割をもつ記録本だ。その中には、確かに優多の記憶が正しければだが、裏世界の記述があった。全38世界の外部的接触なしに生存できる世界の事で。わかりやすく言い換えれば、無限のいる香花界が管理下においていない世界を裏世界と、確か言う筈だった。
各世界その地位によって、あらゆる性質が強かったり弱かったりする、管理下に置かないという事は即ち、その性質が香花界以上という事。
性質と一言で言ってしまったが、それには様々な要因が含まれる。例えば生命力や魔力、場合によっては妖力など、それぞれは少なくとも一因にしかすぎず、いくつもの要因がある。
ちなみに世界録上では、その性質が強い順に記載されており、ここ大炎界は上から三番目の、香花界より遥か上である超厳戒世界だ。
「そう、その裏世界に位置する。ここ、大炎界は分散された旧地獄の一つであり、それ故に、地獄の面影を今でも引き継いでいる。この紅蓮の空に、紅い気候。地も枯れるほどの異常なほどの熱気。まさに地獄だ。大炎界には今でも気候に適した鬼族の人々が暮らしている。そう、鬼族だ。まあ、心配しなさんな。ここにいる鬼たちはそこまで気性が荒くない。優しいくらいだ。何でも、地獄の仕事に慣れない鬼たちが密かに暮らすのが旧地獄だったりするから、根がいい鬼たちなっかりだったりする。まあでも、今僕が探しているヒトは鬼のハーフのようなヒトだ。珍しく気性が激しい筋金入りの鬼の血族と言っても過言では無いくらいのね」
そう無限は語る中、森に差し掛かった。紅葉の季節なのかは分からないが、赤く染め上がった木々がものすごい綺麗だ。まるで、太陽の色をそのまま塗り映したかのように。
「ああ、これは普通のモミジじゃ無いよ。というかモミジですらないんだけどね。通称地獄華、まあ地獄に咲く花々や木々はそう呼ばれている。勿論別称で、ちゃんと名前はあるよ例えば、この木は紅柄桜だね。幹が芯まで赤いからそんな名前だとか……。香花館の別館は全部この木でできてるよ」
へーそーなんだ。
そんなことを言われても、その木材の希少性や耐久性など、木に詳しいわけじゃないので、そんな反応しかできなかった。今度、暇ができたら木についてでも調べてみよう。調べることは楽しい。それをノートに書き留めることが優多の密かな趣味になってきてる。
そんなこんなで森を彷徨っていると、突如としてそれは現れた。
『おうおう、来るって聞いてないから湧かす湯すら用意してなかったぞ』
ふと聞こえる声。
紅葉した蔓をのれんのようにして、姿を見せるのは、顔
ブオンと、音を立てるとともに火柱が優多の鼻を掠める。
「アッチイ!」
ジュワッて、今確実にジュワッていった!
優多は暑さにのたうち回る
「誰だ……お前、俺と勝負しようや」
「え、え、え――」
跪きながら困惑した表情を浮かべる優多は、彼の格好をまじまじと観察した
赤とオレンジ、白や黄色が綺麗に混ざった太陽のような長髪。その前髪はバンダナでたくし上げられ、その服装の色や柄がアイヌの民族衣装を想起させた。顔にはメイクなのか痣なのか、目元や口元、頬に赤い紋様が描かれており、およそ180はあるのではないかという程の高身長だった。
体つきは一見細かったが、袖から露わになるのは筋肉質のガッチリとした腕で、とても美しく、陰ながら雄々しさを感じる。そんな青年に見えた。
そんな高身長に見合わない少年、無限は口を開く。
「お、自分から来てくれるとは都合がいい」
「ええ……無限さん、まさか――」
「ああ、彼が豪気だよ」
まさかのまさかだった。
それも、彼のその清涼な見た目からは中々名前にたどり着けなくて、二度も困惑した。名前や、それまでの無限の言葉から想像するイメージとはかけ離れ過ぎていた
「ほう、無限の仲間か、俺と戦え」
「え――」
が、いざ彼の言葉に耳を傾ければ無限の言っていた言葉は間違ってなどなかった。
「まあ、いいじゃない豪気、優多はまだ不慣れなんだ」
「ふ、不慣れ!?」
「不慣れか……なら俺と戦え」
「どういうことですか!?」
意味が分からなかった。
「豪気……だから言ってるだろう、優多は、慣れていないんだ。そういうノリ」
「ノリなどではない、俺は純粋に、こいつと戦い親睦を深めたいと考えてるんだ」
「戦いでしか親睦を深められないってどういう脳筋頭してんだよお前は」
無限は煙たがるような態度でそう返す。どういうことだ? あいさつに来たのはこっちだと思うのだが……。
「なんだと!まあいい。俺は今とても戦いたい気分なんだ。悪いが、無限――サウンドバックになってくれ」
「断る!痛いのは好きじゃないんだ。それに、もういいだろ。まったく、顔を見せなかったら、逆にこっちに来るだろう。お前の能力で環境に負荷がかかって、逆に温度が高くなるんだよ。あの現象はもう二度とごめんなんだよ。だから定期的にあいさつに来たっていうのに、お前ときたら、会って早々やれ戦おうやら、サウンドバックになれやら、もっと他のやり方があるだろう」
「ど、どういう事ですか?」
「ああ、昔の話だけど――」
それは、豪気が香花界に来たという話だったらしい。その時はもう大慌てだったらしい。彼は無限と一戦交えたくて仕方なかったらしく香花界に突入、結界すべてを炎で焼き尽くし突破したせいで、その時冬だった香花界の香花館一帯は、夏の気温並みに温度が上昇し、彼から発生する熱量はとっくに1000度を超えていたらしい。
その時は、カイトが戦闘に応じていたらしいが、当時のそのはた迷惑な行動を、片っ端から無限は忌々しい過去だったと呆れ交じりな口調で話す。その都度豪気は、懐かしの記憶を共有するかのように、「あれは凄かったな」「いやあカイトというのも中々骨がある奴だ焼いても焼いてもすぐ復活する」などとさらっととんでもない事を言うのだった。
結局その騒動から、もう香花界には来るなという事になってしまい。その代わりに、月に最低一回はそっちに行ってやるからという約束を交わして、今に至るという。
「じゃあ、全面的に豪気さんが悪いじゃないですか、さっきも焼き殺されるかと思いましたよ」
「な!お前もそんなこと言うのか。殴り合いで分かることもあるんだぞ!」
「殴り合いで分かるのは痛みと憎しみだけだ馬鹿」と無限が言い返す。なんで、こんな仲なのに、いままで関係が途絶えなかったのかは分からなかったかは分からなかった。
「さ、そろそろ帰るからなさようなら」
「ま、待てよ。一戦!一戦だけでいいから」
「ったくもうしょうがないな」
あー。なんとなくわかる気がした。
無限も意外と適当な面もあるけれど、頼まれたら基本断れない性格をしているのが一目でわかる光景だった。
「優多ごめんねえ、もうちょっとかかりそうだ……。そこで座ってみてて」
「よしやるか!」
「本当に一戦だけだからな!」
「よっし!」
瞬間、豪気の身体が燃え上がり、炎を纏うかのようにして火が、炎が、まるで彼の意思で燃えているように見えた。いや、ように見えたのではない、それはれっきとした事実で幻覚なのではないのだ。
一気に温度が増す。ここの温度は一体何度なのだろう。
瞬間、森が燃え始めた。まじか。
熱い……。けれど、その姿は、あまりにも、あまりにも――神々しくて
「俺は神なんかじゃない」
「え――」
「わかるぞ、初めてだったな。皆俺の事を始めてみるとそう形容するが。俺は神なんかじゃない」
「それは――」
ぼわっと炎が揺れる
「父が神だった。しかし、俺はその力を引き継いだだけで、鬼族としては血が濃かった――」
それは、何とも言えない衝撃的な告白だった。父が神だったなんてそんなの優多からしたら、嘘のようにしか思えなかった。だが、これが多世界というものなのだろうか……。神が平然と存在し、今こうやって告白するような存在なのかもしれない。
だとすれば、それは、あまりにも悲しすぎる話だった。通常神であれば神性が生まれ持ってつくものだと、冗談半分に読んだ別館の本に記載されてあった。
でも、神性がつかなかったという事は、それは父の血など流れていないことだという事になる。神性とは神の血族である証明のようなものなのだ……。
「だから俺は神なんかではない。だが溢れ出るこの高揚感を止める術はこの力に耐えうる戦闘者に本気でぶつける他ない――分かったか、優多」
「――はい」
その背中から優多は、物悲しさを覚えた。
彼の瞳はどんな色をしているのだろうか。優多は、生まれつき人の瞳を見分ける才能があった。それは彼も薄々理解していただからこそ、彼の瞳の色が気になった。
どんな色をしているのか、きっとどこまでも誠実な蒼い瞳なのだろう。
その次の瞬間彼と無限の一戦が始まりを告げるかの如く熱量が増した――
※※※※※
「お疲れ様です」
「ああ、これでいいだろ豪気」
「ああ、満足だ」
「それはよかった。じゃあ――」
「あ、すいません、一ついいですか?」
「なんだ?」
豪気に優多は、聞き忘れていた。
「多世界立体図に関してなのですが――」
「それよりも戦おう」
「え――」
「戦闘でこそ、俺たちは分かち合えるんだ、さあ、戦おう」
「ええ……」
聞き入れてはくれそうになかった。
※※※※※
――突如として能力を持った人間がいた。
その人間は、元の世界にいられなくなり、その存在を保つため他の世界へ移り住んだ――
「呼ばねえ客だ――帰ってくれ」
首に剣を突きつけ、彼は睨む。
憎い全てが憎い。
その憎悪が生きる糧となる。そのすべてが理不尽という呪いにかかった青年のお話――




