不穏な夜
新章開幕です
あれから、冬が過ぎ、春が来て。
それから春が過ぎると、夏が来た。
――振替る。
激動の10月が終わりを告げるかのように微風が頬を撫でるのと同時に、地平線まで広がる原っぱの草まで揺らす。
厳密にいえばもう十一月だ。
優多は木陰に寝そべって、読書をしていた。
そんなどこにでもあるような昼下がりの午後に隕石が落ちてきた。仮にも親方空から女の子がとは言えなくて、その姿を1、2秒凝視したあと、ことの重大さに思わず本を投げ出した――
地を蹴る。
瞬間飛び散るとかいう表現がかわいいと思えるほどに、そこをえぐり取った。その反発に優多は飛んで行く。飛んでいくというよりは、吹っ飛んだといった方が正しい。
途端に重力の移動も兼ね、速度を増してゆき、落ち行く彼女を見事、地面すれすれにキャッチできた――途端に両腕に感じる重みにバランスを崩し、首の骨が逝ったかと思うほど派手に転んだのは今から何か月前の事だろうか。
彼女の名前が気霊花桃香だという事を知り、いつどこで何故ここに来たのかはわからない謂わば転移者だという事を知り、彼女が自分と同じ年だと知り。気を操るというよくわからない能力者だという事を知り。この数か月、彼女の世話役としていくつか彼女について知る事ができた。それを無限に報告するなり「じゃあ、任せるよ」とのこと。もっと、いくらかあるのではないだろうか……? ほら、もっと、こう……。
まあしかし、この数か月の間で、つまるところのあの事件の冬から今現在の夏に跨ぐまでの物語を綴ろうと思う。
※※※※※
香花館襲撃事件から一か月後、いわゆる十一月の半ばに桃香という彼女に出会った。
彼女は、優多の胸の中で気を失っており、それに焦って、館へ走り出した。そして、館に着くなり、雪華とすれ違ったので彼女に大急ぎで声をかけ。
「空から!空から女の子が!」
「は?」
「いや、その読書していたらですね……」
見るからに焦りを見せながらも事の始まりを説明しようとする優多に雪華は呆れた風に返した。
「わかった、分かったから……。まずは、医務室に連れて行けばいいだろう、何かあったら医務室だ」
そう言って、案内してくれた。
「にしても、この娘どうしたの」
「空から降ってきたんですよ」
そう言って、廊下を歩く二人の下に一人が駆け抜ける――が、ふいっと浮かぶようにし後ろへと元の場所へ飛ばされるのは名の知らぬメイド、ボーイッシュだった。「こら!待ちなさい」という声が廊下の奥からき聞こえる。多分また仕事をサボってシフィアに怒られているのだろう……。
陰から、シフィアが現れる。
「あら、優多に雪華……。休み時間中なのにどうしたの」
明らかに、状況を把握してそうなのだが、それでも、シフィアは事情を説明しろと言わんばかりの顔でそういった。面倒事が終始嫌いなタイプだからでもあるのだろう。しかし――と、優多は内心どう説明すればよいのかに正直戸惑っていた。そんな彼の姿を見かねてか胸の中で気を失っている彼女に視線を送ると「いいわ、説明できそうになさそうだから」と言って、「付いてきて」と多分、医務室かどこかに連れて行ってくれるのだろう。
その最中、香花館襲撃事件の事だとか、雪華や優多の身の周りの事だとかいろいろと話題を振ってくれた。「そういえば」とか「にわかには信じ難いけど」とかを話の頭に付け4、5個程、数にすればそのくらいの、だけれど冗長な長話なので、本当はまとめて一つなのかもしれなかった。
その中でも、話題という話題ではなかったのだが、話の繋ぎに挟まれた暗黒期大七事変の事だった。
暗黒期大七事変といえば、今回の件で関わったクリオッドにも通ずる事柄だった。しかし、優多の興味をそそったのは、神人類大虐殺の件だった。香花館の別館にある大図書空間のどの資料をあさっても、その事件が綴られた資料はどこにも見当たらず。それはとても新鮮に感じられた。
シフィアからは軽く、ほんの少し、一言程度しか触れなかったが、初めて知る優多にはとても興味深い一件だった。あとで、無限に聞いてみよう。この事件の資料を一緒に探してくれるかもしれない。
※※※※※
医務室――
「ここに寝かせておけば大丈夫だと思うけど、一応……というか、目を冷ました時のために雪華、ここにいて欲しいんだけれど」
「え、な、なんで私なんですか……あと1時間は休みあるんですよ」
「申し訳ないけど、ここにいてちょうだい、優多には話があるからね」
「そんなあ」
「その娘が起きたなら、もう一時間取っていいわよ」
「それなら……見ますけど」
不貞腐れたようにして、返事をする雪華に「なら……」とため息を吐きながらシフィアは付け足す。
「時給5000円でどう?」
「やる!やるやるやる」
「じゃ、お願いね」そういって、バタンと扉が閉まった。
「良いんですか?」
「ま、士気を上げるためにはしょうがないでしょ、私には催眠や魔法なんかを使いこなせる柄じゃないし。それに今度払う税金も少しは抑えたいからね」
「シフィアさんが出すんですか!?」
「まあ焼け石に水だろうけど、貰う量が多いと後々面倒なのよ」
「そうなんですね」
衝撃に、優多は目を大きくする。
もらえるものは何でも貰った方がいいと思うんだけどなあ。まあ大人の感覚は違うのかもしれない。
しかしと、シフィアを傍らに廊下を歩いている中思う。
自分への用とは何だろう、僕何か怒られることでもしたのかな? そんな不安を抱きながら、優多は廊下を歩く。
向かったのは、無限の部屋だった。仕事部屋としても兼ねているこの部屋に何の用だろうか? 今から何が始まるのかもわからない優多は戸惑うまま。シフィアの後をついていくだけだった
「優多……休み時間中にごめんね。君の分も給料を引き上げておくよ」
「いえいえ、そんな……ありがとうございます」
話は、室内にある、応接用のソファやテーブルに案内されてから始まった。「その……話って、何ですか?」席に座らせてもらうなり、優多はその一件が気になって気になって仕方がなくて、ついつい、口が滑ってしまった。「構わないよ」と、彼は微笑む。
「それでね、大事な話なんだ。これは口外しないでもらいたい」
「はい」
ごくりと唾を飲みこむ音が聞こえる。
シフィアの偽物についてなんだけども――それは、既に把握しているようで把握などしていない件だった。
※※※※※
「じゃあまだその偽物がどこにいるのかはわからない状況なんですね」
無限から、明かされたのはシフィアの偽物、通称偽シフィアが紛れていたという告白だった。元々、警備は強化されていたのだが、それすらも通用しないらしく、無限は終始嘆いていたのだった。
警備、そう聞いて、思わず優多は聞き返したところ、結界が幾億結界という、魔力最大出力の結界らしく、これ以上のない完璧な結界らしい。まあ、破られてしまっては、それはもう完璧ではなくなっているのだが……と無限は残念そうにそう零した。その話の中で、無限は多分……というか、優多も分かっているだろうと、三人状況の把握をしあった。
シフィアの偽物がいる。
やっぱり、あの時のシフィアは偽物だった。その事実がわかるだけでも心の安堵というものは違った――「詳しいことはシフィアから聞いて」そう言い残して、彼からの伝言は終わりを告げた。
無限の部屋から出るとシフィアと二人で中庭を歩く。
「ほんと、自由人よね。主様って」
「え、ああ……まあ、そうですね。無限さんは確かに自由人な気もします」
情を寄り添わせるような声でそう答える。
それからシフィアは中庭を歩きながら、日影を敢えて歩こうと、壁を伝って歩く。日陰を通る白い風が、首筋を撫でる。
そんな時に、シフィアは口を開いた。
「あれから……そうね、私の偽物が潜伏していたことをそろそろ話さないとね」
「……」
「私は、休暇を取っていたの。夏休みの長期休暇中、故郷に帰っていたわ。でもね、もう、来てたみたい。私に成りすました誰かが、ここに侵入して、私としてここにいたみたい……。私、メイド長として、ダメだった」
彼女は、涙をこらえながらそう言う。
「みんなを守らないといけない立場なのに、みんなを取り仕切る立場なのに……。ほんとに……優多、ありがとう。本来やるべき私がやるべき事を全部やってくれて。本当にありがとう」
「それは……ありがとうございます」
優多は、なんて答えていいのかわからず、相槌を口と首でうちながら、彼女の話を聞いていた。自分の偽物が、自分の地位を利用し、自分の大切な仲間達が危険に晒されているという事実を知った時、彼女は苦痛で苦痛で仕方なかっただろう。
ただ、この時の自分は、そう心の底で思いながらも、その思考が浮かび上がることはなかった。
ただ、正体がそれの靄のようなものを抱きかかえたまま突っ立って、頷くことしかできなかった。あの時どんな対応をすればよかったのか――心情が分かった今でも分からないままで。結局自分の心は何の進展も遂げてはいなかった。
「無限さんはいつ気付かれたんですか?」
「そうね……確か、ワインの時と言ってたわ」
ワイン? いつの話だろう。でも、覚えてはいる気がした。
いつの話かは忘れたが、確かに、あの時……ワインに対して目の色を変えたことがあった。確かその時だろう。
「その時から……」
「主様もある程度はそれで確信したみたいだけど、それでも、主様は私を信じてくれた……ほんと、あの方は馬鹿だよ。命を狙われてるのに……例え、私だったとしても――」
きっと無限の分厚い信頼に後悔しているのだろう、その胸の痛みを少しでも軽減できればなと、優多は彼女の背中を擦るのだった。こんな時だからこそ分かる無限の配慮に安堵の呼吸を吐いた。
しかし、その中でも未だ気の利いた言葉一つかけてやれない自分に、優多は口を苦くするしかできなかった。ここで、何か――彼女の柱になれる「何か」をかけてやれなかったのかと優多はただただ悔いいるだけだった。
――時に、偽シフィアがいついたのか自分なりに推察すると、自分が図書館の倉庫に閉じこもっているときにはもういたらしい。
あくまでも推察だ。
しかしなんの為? と、疑問に思う自分が居た。考えなくてもいい事だったかもしれなかったけど、ついつい癇くぐってしまうのは悪い癖がついてしまったと優多は思っていた――
その後シフィアと別れた直後の事
「優多!」
「何ですか?」
ボーイッシュが走って伝言に来た。どうやら、例の彼女が目を覚ましたらしい。どうやらどこの言葉かもわからない異界語を喋って、雪華や他のメイド達皆々あたふたとしているとのこと。そこで色んな国語を勉強している優多の出番というわけだ、あと、面倒事を連れ込んだ責任でもあるらしい。ボーイッシュの口態からしたらどちらかといえば後者が重かった……。
医務室に着くなり、不安に怯えながら何らかの言語を喋る彼女の姿があった。
「ね、おちついて――」
「――!!」
「だから、ああええと、フリム・フォー・ミー?」
「――??」
「ダメだアルドルも違うらしい……あ、優多良い所に!何語なのか分からないんだ!おまけにコミュニケーションも取れそうにない!なあ、そういや語学勉強してたよな?」
「ええ、そんなこと急に言われても――」
ドアを開けて中の様子を確認するなり、片腕を引っ張られ、焦燥で溢れるその空間にぶち込まれた。
見る場、小さな女の子が何かに怯え今にも逃げようと腰が浮かんでいた。
「ええと……大丈夫ですか?」
「――!?」
「あの、ええと」
「――!!」
男であるからか、さっきと打って変わって一層激しく拒絶し始めた。
体になにか異常があるかもしれない。とにかく、医務室に残ってもらわないと、色々と困る。
彼女は多分この世界に招かざる転移者なのだろう。前にどこかの書物で転移者について読んだことがある。
たまに、本当偶然に、世界と世界がすれ違う瞬間に、多世界移動をしてしまう場合があるのだ……。
彼女は多分それなのだろう。幸い偶然の出来事だが、珍しいわけじゃない。ここへ来るまで何の保護もなく落ちてきたのだ。道中で感染症や、新種の病原菌を持ち運んでいるケースだってある。
だからまずは逃げようとしている彼女をどうにかして宥め、留めておくる必要がある……。
「どうしよう優多!優多が対応してるからますます、警戒心が強くなっちゃってる!」
「どうにかしないと――」
「――!」
「分からない……」
『やっぱ無理かあ』
一同落胆。
なんて喋ってるのかやはり聞き取れない……。ってかこれは言語とかでは無く発音の問題だ。何も聞かされていない一般人がいきなりネイティブの英語のリスニングテストを初めて受けるような難易度だ。
2度3度と繰り返し聞かないと分からない。
いや、2度3度といったが、これには凄い時間がかかりそうだ、多分10回聞いても分からないだろう――いや、分かる。
「アルディネ……ソバス……ディルガェネ――」
これは……。何だ?
何語だ、何を言っているんだ?
ダメだ、まるで分からない
「サクゥルドゥネ、アブシーヘルゲァアルグツ……シルヴァファルスディルグム」
いや……これはゴドルフ語なのではないか? 今ので大分何の言語なのか把握できた気がする。しかし、問題なのは、今のゴドルフ語は聞き取れても、そこまでその語に順応してるわけじゃない。
ちなみにさっき言ってたのは、意訳だが「命だけは助けて」との事、医務室だから何か間違えているのだろう……。しかし、これは参った……いや待てよ?ゴドルフならもしかしたら、イヤルフ語でも伝わるかもしれない。イヤルフはゴドルフと最近まで同じ国だったはず――
『えと……エウ!au-doverver NI-nodlesho』
瞬間、彼女の眼の色が変わって、泣いて縋りついてきた
「――!」
言語化が難しく、かなり意訳になってしまうが、ここはどここの人たちは? とかなり怯えた様子だった。
ちなみに、大丈夫、安心して。自分は味方といったが、やはり言葉の通じない場所に独り置かれていた時の不安や恐怖は計り知れないものなのだろう。その中で、自分の知っている言葉と出会えた時の不安や恐怖を一掃する安心感もまた計り知れないのだろう。
「NEr、NEr」
「な、なんですか」
NEr――ネアとはイヤルフで確か……。
「YUr、YUr!」
YUr――ユアとは確か……。
――なんだっけ。まあでも、信頼してくれてよかった。
優多は安堵のため息を吐くと、彼女にこれからの事、身の上話をしてくれという事、君は誰かという事……。色々と話し、彼女の信頼を完全に勝ち取ることができた。
それから、彼女の事を少しだが色々と知れた、実は少しだけ日本語ができるという事、奴隷少女だという事も分かった。どうりで、少し片言な訳だ……。
日本語が扱えるといっても、地球出身というわけではないらしい、じゃあ一体どこからと問えば彼女はただひたすらに分からないと答えるだけだった。
ちなみに今思い出したのだが、ネアが「ありがとう」でユアが「助かった」だった。
無限からの新しく任された専任の仕事は彼女の語学指導や生活指導など、ほぼ全ての世話を担当することになった。いくら今の仕事に慣れたからって年頃の女の子なんだから、雪華やステレットにお願いすればいいじゃないかと無限に話してみたのだが、彼曰く、雪華にはまだ任せたい仕事が山ほどあるし、ステレットに専任の仕事を任せると、ボーイッシュが暴れまわるし、そもそも話が通じるのは優多しかしないという事で、一方的に話が打ち切られてしまった。
「じゃあよろしく~」
その一言ですべてが決まってしまった。
「マジですかい」
「Yr」
Yr――イェラとはよろしくお願いしますという意味。勿論意訳。
※※※※※
それから、彼女の世話役としての日々が始まった。
文字や、言葉を教えたり。メイドとしての作法や仕事なども、教えること、はや一ヶ月が過ぎた。幸い、彼女は物覚えが良い方で、一ヶ月も過ぎれば仕事の半分も覚え完璧だとシフィアからもよい評価を聞いた。
優多が個人的に危惧していた新人いじめも見た限りではなさそうだし、取り敢えずはここに馴染んでくれて本当に良かった。
※※※※※
白い息が曇り空に消えてなくなる。
もうこんなに冷え込むのか。そう思いながら測量に励む。優多に任されている仕事は、無限の執務に加えて、全世界の地理や価値の測定だ。具体的に何をするのかというと、カイトにここへ行ってくれと、4~5項目の世界のリストを渡されるのでそのリストを頼りに、測量機で地理の調査をする。
それから、各世界にある大きな本税務署に行き金銭的な資料を渡してもらい、またこれは優多が勝手にやっていることだが、現地の人達に声をかけている。これのおかげで、たくさんの言葉を扱えるようになったわけだが、それでも、勉強が必要な訳で毎日別館の大図書室に閉じこもって辞書や現地の本とにらめっこするのが日課になっている。
1日と言っても50時間はある世界だ。だから暇な時間なんてたんまりとある。
ちなみに、睡眠に平均7、8時間、執務に3時間、調査に出てきて、帰ってくるのが遅くて10時間、そしてその他諸々の事々をこなしても2時間ちょっと普通ならそれでもう一日が終わってしまうが、まだもう一日残っているような世界だ。
おかげで研究や勉強に没頭できる……。
帰ると、真っ先に寄ってきたのは、彼女の姿だった。
彼女の名前は気霊花 桃香――かつて、空から落ちてきた招かざる転移者のメイドだった。
言葉が通じ尚且つ世話役として、ずっと傍にいたからか、最近は自分からこちらに寄ってきて来るのだ。犬のようでかわいいと思ってしまうのは、どうやら、僕だけじゃなさそうだった。
「ゆ、優多さん!」
「どうしましたか?どこか分からない所でも……」
「クリスマスって何ですか?」
「ああ、そういえばもうそんな季節でしたね」
気が付けば12月。
仕事に夢中になっている所為か、曜日の感覚が狂ってしまっている
しかし、クリスマスか……。何て説明すればいいのかに、優多は戸惑いを隠せない。
何せこんな世界を知ってしまえば、どう説明しようか困惑するのも当たり前だ。
「プレゼントを交換し合って、ご馳走を皆で食べる。そんな特別な日をクリスマスといいます」
こんなところでいいだろう、クリスマスと言っても多世界の人々からしたら、一つの世界にある一つの限られた文化であり宗教やら歴史である。これくらいの軽い説明でいいだろう。逆にこれほどの短く素晴らしい説明はない。
「プレゼント……」
「欲しいものがあるなら無限さんに手紙で送るといいですよ」
「送るとどうなるんですか?」
「プレゼントとして貰えるらしいです」
「本当ですか!」
「ええ、まあ僕も初めてなのでそこまで良くは分からないですが貰えるらしいですよ」
「優多さんは何を頼まれたのですか?」
「僕ですか?……いやまあ、言いにくい話ですが、僕はまだ送れてなくて……」
「ないんですか?優多さんには」
「いや……まあ、その」
「ないんですね」
「まあそうですね」
あははと笑い合う二人、いつの間にか雪が降ってきた。
寒さが一層増してゆく冬の中。温かい暖炉を求めるように野外に敷かれた廊下を一歩一歩歩いて行った。
クリスマスの季節それは白で彩られた、とても素敵な日々だった。
しかし、それが今回の異変と繋がるという事など、考えもしなかった。今思えば、いや、今調べてみればあの降雪は異常に等しかった――
※※※※※
クリスマスが過ぎると、お正月が来て、まるで元居た世界のようで優多自身正直楽しかった。慣れない自分の為のものなのかもしれなかったが、優多にはそれでも、楽しませてもらえた。立食パーティ形式のお正月だったが、それはそれで新鮮で……。無限の微笑む顔がちらりと見えた。僕は微笑み返した――
そう言えばと、疑問に思う点がいくつもあったのだが、聞こうとしても、聞けずにいて……。
それから、春が来て、夏が来る。
僕はその合間の事を、仕事ででしか表現できないし、することがなかった。
とても忙しない中でまるで、桃香の成長が早送りの映像かの如く感じられ、いつの間にか、夏が来ていて、いつの間にか彼女が成長していた。いつの間にかの連続でいつの間にかの中で優多は、過ごしていた……。
ただ、その中でも確かな手応えはあって、いつの間にかの中で生きているような感触はたしかにあった。
そのいつの間にかが途切れる瞬間は、意外とふとした時だった――
(特にこれといって伏線は)ないです




