名前だけの二人
その瞬間を目の当たりにしたーー
例えるなら、それは時間の境界だった。
一秒が過ぎて、また次の一秒が来る。その一時の瞬間に、その決定的な瞬間に、全て終着するようなまとめ上がる瞬間に。
カイトがそこに到着したのはソレのほんの少し手前でーー
カイトとステレットが廊下を走っている最中、何度も衝撃が伝わる度に半壊状態の屋敷が更に崩れ始める。流石にもう死人が出てもおかしくない程に屋根や、支柱が崩れ、地面も割れている……。
走り、階段を飛び降り何とかして目的地である講堂へと先を急ぐ、カイトの身にまたもや不可解な信号が聞こえてきた。
しかしこれは不快でしかない。なにか、異常なことが起きているに違いない。そう無表情ながら心内では酷く焦る最中、彼以上に焦燥感に駆られたステレットがやっと入れそうな講堂の入り口を見つけては、一目散に駆け寄り必死になって扉を引こうとする。
が、やはり扉が押しつぶされて歪み。追い打ちをかけるかのように瓦礫が降りかかり、彼女の力ではもう対処しきれない状態になってしまった。
「どいてろ、俺が開ける」
言葉までもまるで感情を感じさせない声色で、しかし圧はあった。
カイトが駆け寄ると、瓦礫の轟音と砂埃と共にいとも簡単にドアが開いた。
瞬間、彼等は目の前に広がる異様な光景と、その酷い臭いに顔をしかめたが、一瞬でそんなことはどうでもよくなるほど、目の前の光景にカイトとステレットは目を疑った。
その瞬間、カイトだけではない。
その光景を目の当たりにして何が起こるのか理解するまでの間、ステレットの視界が一瞬止まったのだ。
錯覚という事実には違いない。だがしかし、二人にはあまりに衝撃すぎてまるで走馬燈を眺めるかの如くごく僅かな、数秒に満たないのその間が長く、でも何かを理解するには乏しくて……。
それを完全に理解するのと、それが……雪華が華日に腹を貫かれるのは同時でーー
「ああああーー」
ステレットは叫びながら走り出した。
「おい、よせーー」
彼女にとって、雪華もまた一人のかけがえのない友達だったから……。
目の前で、今まさに生が断たれた瞬間、考えるよりも先に足が動いた。すぐそばで吠える、カイトの声も届かない程に彼女自身も感情というものに歯止めが効かなくなってほぼ、自棄になっていたから。
「あが……」
無駄に、また命が絶たれてゆくーー
「あらあら、貴方戦うのには向いて無いのね」
彼女にとって、ステレットにとって、今この瞬間絶対に許すことのできない、名も知らぬ女性の下で、一つの拳も振るうこともできずに彼女も雪華同様腹部を貫かれる始末……。
想像を絶する痛みに震え上がりながらその恐るべき事実を視認しようと視線を恐る恐る下へと向ける。
「嫌ぁ……。嫌、嫌……」
小声で、流れる鮮血を見て、恐怖に一層震えと涙が止まらず、絶望の面構えだった。近くで横たわる雪華。しかし、ここで、彼女は一つ不思議な現象を目の当たりにした。
何で、みんな、そこで突っ立っているだけなの?
という周りを見れば明らかに見られる不審な点だった。しかし、さっきまで周りを見ることなどとうにできるような状況ではなかったので、彼女にとってはその光景が不気味に思えてきて一層、恐怖の念が強くなる一方だった。まるで何かに操られているかの如く、何か不気味な生気を感じるのだった……。
「残念、貴方も悔しいでしょうねぇ。まあ、大事なお友達と同じ腹部を貫いてあげたわ、目をつぶしちゃかわいそうだもの」
なんで?
ステレットには一つの疑問があった。
なんで、こうも彼女は生き生きとしていられるの?
ステレットの感じた一つの疑問、それは人を殺したときに浮かぶ罪への意識への問いではなくて、もっと間接的にこの状況を訴えかけるものだった。
何故彼女達は、この女の言うことをまるで聞くかのように、冗談ではなく見たままを話せば、まるで心の奥から信頼しているかのように、忠誠を誓っているかのように見えるのだ。何故?何が起こっている?
ステレットはそれでもなお、膨大すぎる情報量に、理解が追いつかなかった。否、その一瞬思考の中で、現在進行形で整理していた。
「はっーー!」
そして、今まさにその次の瞬間というものの、コンマ1秒先の未来で否、今この瞬間理解したのと同時に脳内で衝撃が走った。
そうか、そういうことだったのか!!
――ステレットは、一瞬のうちに全てを理解した。
彼女の能力系統、それが原因だということ、そしてそれだけではないということ――
「あぎっ!?」
腹を貫く一本の腕、その華奢な外見からは想像すらできない強大な力。間違いないーー彼女は超人の種だ。
超人、それは人間という系統の種族の中で、修行によって強大な力を有する代表的な種族
人間種は特にそういった変幻類・進化類が多い派生種族なのだ他にも人思や邪人などがいる。
その華奢な体つきに対して不釣り合いにも程がある力。あれは完全に超人の種であった……。
今まさに腹を、ステレットの腹を貫くその腕が少し動くだけでも、ステレット自身には想像を遥かに超越する鋭い痛みが伝う。
ぬるりと、彼女の突き抜けた腹から血まみれの、べっとりと粘着した朱が臓に骸に直接『生』の号哭を怒鳴り上げる。
痛い。
たった一つのシンプルなその感情が感覚が、何重にも何倍にも膨れがって身体を、精神を、痛めつける。
だけども――
「あら?まだ、痛がってたいのかしら?」
無機質な表情から伺えるのは、たった一つの疑いのない何かだけ。
彼女の、その女の顔からは凡そ、恐怖だとか不穏に思う心だとかは読み取れない。というよりかは、人より反応の出が悪いだけなのだ。
しかし、その女自身が思っていることなんて間近に見ればわかる。
輪郭を汗、そして逆立った毛の根に蔓延る、際立った鳥肌。
その変化が起きたのは全てステレットが、彼女の抜こうとしていた、血まみれの、滑りやすいのにも関わらずしっかりと、力強く握っていたのを視認してからで……。
「ち、あ……う……」
痛みで、麻痺して舌が動かない。
しかし、意識はさっきよりも鮮明だ。
「わあっ……た。わあり……ました」
「……」
「あなあのッ……あなあのッ!」
瞬間彼女の表情が歪む、これで完全に証明できたと、ステレットは、ニヤリと口の端をゆがめる、がーー
ガァッ!!
『ステレット!』
貫かれた腕は乱暴に振り抜かれ、傷口が今まで以上に酷くなるのは見るからに分かるほどの惨劇。
吹きあがる鮮血の勢いに飛び出る臓。
瞬間、男はその光景に、自身に湧き出ては止まない、その『 』という感情をできる限り声に乗せて彼女の名を叫んだ。
その衝撃的な光景に、カイトが動かないはずなどなかった。彼女の、光が失われつつある瞳が見えた途端、その自身を縛り付けようとする、驚愕という名の膠着は瞬く間に消え失せ、代わりに生み出されたのは、感情優先の自殺行為で。
瞬間的にカイトは遠隔操作型魔術を無詠唱で彼女の身に一秒としないうちに自動治癒魔術を施す。
少し手荒だが、それで、十分だ
地を蹴るというよりも、その移動速度はまさに「瞬間移動」
自身の能力で、その限定的な距離を「無」にさせた。そしてーー彼女の目の前に、今、辿り着いた。
「……よう」
「なんだ……悪魔か」
一瞬の時間経過
その単語が意味するものと言うのは考えれば膨大にあるのだが、でもしかし、それは、時と時のはざま、瞬間的な境界で。
ーー時が止まり
今、再び流れるーー
「「「魔技『固有結界ー陣ノ術―』」」」
「「「『フォルク(自然を操ること)・(による)シトラ(魅了の盾の力)』」」」
同時に放たれた力のぶつかり合い。
片方は固有魔術による彼にしか扱えない複雑な魔術回路を用いた攻撃、もう片方は能力による彼女にしか扱えない複雑にも理解をねじ込んだ彼女にしか理解が通用しない……。しかし理にかなった、能力特有の長所を用いた防御。
しかし、彼女は彼が何をしてくるのかが分からなかった。いや、理解なんてとうにできないものでもあったのだから必然的に防御に走った。が、これが外れた。
瞬間、辺り一面に、薄く透明なガラスのようないたが四方に張られ、彼女の放った技の音が共鳴する。
固有結界だ。しかし、それに気づいた頃にはもう遅い。彼女にも、彼にももう逃げ場所も、助を乞う場所さえも無くなり、二人だけの空間が出来上がった。
「自分よりも他人を優先させるなんて、とんだお人よしね」
「そうか、そりゃどうもありがとう、いつも主人からは化物扱いされるから……少し新鮮だ」
流咲カイトと華日。
一人と一人、どちらの距離も相応的に離れ凡そ10メートル程度。しかし、最早超人と悪魔。それも高位に属する二人ともなれば、たかが10メートルなど、力を入れれば、普段の一歩と何一つ風景は変わらない。
彼女は未だに余裕がある。人を読むことに長けているカイトにとってそれは安易に分かる。誰だって目は嘘をつかない。唯一つかないとすれば……そうだな、神以上のやつとでも言えば良いのだろうか。まあ、そうだな、確かにあいつは神を超えた存在だ……。
平然を装った女。
服装も相まって、その態度と伴って、その心を助長させる。
彼女には何かがある。しかし、もうここは他人が関与すらできない場所、それに今は気を失って、ステレットからは結局情報を聞けない。
だがしかし。
「そう、じゃあ私と手を組まない?まずは友達から……」
「いや……断ろう」
彼女の両手を広げ余裕ぶった格好に、変わらず無表情なカイトは断つ。
「悪いが、化物扱いも……無限なら悪くはない」
やはり記憶を辿れば確信がつく。
化物でもいいかと。さっきのことでも、大昔のことでも、一生涯を振り返って尚、この思いは歪むことなんて無いだろう。
あの、短時間ではあるが、彼女たちが時間を作ってくれた。
「そう、残念、あの子たちは犠牲ね」
ほう、お前には犠牲に見えたのか……。
少なくとも俺は勇敢なあいつらを……ステレットを、雪華を。
「犠牲にするつもりなぞさらさら無い」
手に生み出したグングニルの冷たい感触は久方ぶりのものだった。
久しぶりに、こいつを本来の姿として扱うという意味で。
こうはならなかった未来なんてあったのだろうか?
いいや、多分ないだろう。俺は、多分人を殺める存在なんだと思う。あの日からずっと、ずっと生まれてきてからずっと、何かしらの罪への業を背負っていた。
誰しも何かの業を背負う、誰しも色々な大きさのの業を背負う。それが己に課された幸福との秤なのだ。俺はこんなにも今を幸せに生きている。奇跡に恵まれている。だからこれほどの業を背負っている。
「グングニル……」
「ふーん……それがその槍の名前なのね、貴方の名前、教えてもらってもいい?」
カイトは槍を彼女に振りかざす。
「これが答えだ、早めに終わらせる」
「あら、残念」
間一髪。という風に一拍置いてから、余裕。と妖艶な表情を取り戻すその姿は、まさに彼女を形容するにはピッタリだった。
振りかざすまでの予備動作さえ見えないカイトの槍捌きに、華日は声高らかに、愉快といった風に首をしならせ、重力など彼女自身には無い。そう言い聞かせるようにふわりと、華日は宙を舞う。
「あら、あなた魔術は得意なのね」
「煽っているのか?」
「正解。貴方悪魔だもの」
華日は、相変わらずその表情で喋る。
真の魔族の魔術回路から生み出される魔法というものは、普通の魔法使いの出すものと、粘度が格段に違い、それは悪魔であるカイトの場合も同じで、そこらの魔術師よりも遥かに魔術に特化し、魔術への抵抗がない体質となっている。
しかし、そんなの彼女は普通に知っている。カイト自身、それは、見てでもわかる。
この広い多世界中、今となっても種族に対する差別意識というのは絶えない。
その多くは、今まで独自の文化を気付いていた閉鎖的世界の住人達。その人々が、特別な力、例えば、自分たちのような、能力や種族特有の強大な計り知れない力を持っているのだとしたら?
絶対に、反乱軍・義勇軍・革命軍などを形成して、同盟を迫ってきた連盟国家を襲撃していくだろう、一昔前の地球のように……。
今の文明よりも遥かに前に形成された文明を、連盟国家が潰してしまったのは記憶に新しく残っている。
そんな多種族が住まう多世界なのだ、だから差別しているというのは、感覚的に敏感になってきている。
しかし、カイト自身それに怒ることもなければ、喜ぶこともなく、むしろ何とも言えない気持ちであった。何ともないと言ってもよい。
そう、まさに世の中に対する種族間への「差別」意識というのは、殆どがカイト同様『どうでもよいもの』といった、空気のようなものと認識しているのだ。
当然にそのことに怒る者だっている。憤りに任せて暴れるなんてこともある。しかし、世間体で見れば、全体のパーセンテージで見てみれば0.0よりも下なのだ。
世の中そんなものなのだ。
ブラックジョークとでも言えば許されるくらいの認識となっている。
「悪魔だからどうした?」
「私悪魔って嫌いなの。これは本心よ?」
カイトは、変わらない、変わるはずもない表情でそう問う。
望む答えなんてない。ただ、そう、聞き返す。目的なんてものもない。ただ、落ち着きが欲しかった。そう聞き返すことが、今のカイトの心を保つ、一つの方法だということを、カイト自身、よく知っていたから……。
しかし、返された答えには何処か納得してしまうような、でもそれはある一点を除いて思ったことであり、その引っ掛かる一点もまた、確かな理由なんてものはなくとも、何故か納得できるものだった。
ふわりと彼女が着地する。
「……そうか、手のひらを反すみたいだな」
「ごめんなさいね。あれは冗談」
しかし、彼女はさっきまで手を組まないなどと言っているがあれも嘘だったということか?
一瞬、止まって考えてみたが、「いや、違うな」と心の中でそう断言する。多分彼女は、あの時本当に自分が手を組む選択をしていたのなら、絶対に手を組んでいたであろう。
成程、短時間ではあるが、彼女がどんな人間なのかが分かったような気がした。
「ほう、まだ煽るか」
「貴方は……そう言う人みたいね」
「おそらく、その認識で間違いは無い」
多分、彼女も俺も思っていることは同じだろう。
「私ね、夢があるの」
上を向き、目を輝かせ、期待に胸を躍らせたような昂ぶって仕方ないような声でそれを告げる。
「そうか……夢なら誰だってある、ただ、叶わないものが圧倒的に多い」
「そんなことはないわ」
華日は、変わらない様子で演説に勤しむ。
「でも残念、私の夢を叶える為には貴方みたいのは要らないのよ」
華日はには、夢があった。
「ほう?それじゃあ永遠に叶えられないだろう」
槍を方に乗せて休ませながら、カイトはそう言い放つ
「何で決めつけるの?」
「そう決まっているからだ」
それが、再開の合図だった。
もう休憩は十分。少なくともその感情が映ったのは華日の方からで、先手は彼女の方からであった。
「アトラス(傲慢の罰)・(による)シトレ(魅了の攻の力)」
結界が嘆くように共鳴する。
流石のカイトも久しぶりの本戦だからか、これは予想外。結界の弱点をついてきた。
本来、魔術というのは、魔力を補い自身の魔術回路を通してその望む形へと変換する。
しかしその魔術・魔法は、自身に影響するものと、しないもの、場合によってするものと3種類ある。
その中で、カイトの張ったこの結界は、偶然にも、自身に影響するものだった。
「過信しているとこうなるのよ?」
この結界は、現世と隔離させられた空間。地にも張らなきゃいけない。しかし、彼女はそれ全てを己のものとして利用した。
「甘いわね」
美を操る能力。
一見、応用力が低いものと見られがちなこの力も数百年と極めれば、モノの判断力や運命でさえ、己のものとできる。この魅了の力は間接的な武器となるのだ。
華日は今何をしたのか?
そんなことは、この状況を全て見透かしている華日にとって至極簡単な事実である。
分かるのだ。この場において全て、どんなことでも、どんなものでも教えてくれる、脳に直接吹き込んでくれる……。
そして、天啓――これが、我の能力『美を操る程度の能力』の究極形態、
最愛による自我意識の攻防壁……。
『魅了の(ノ)剣』
それが、唯一無二の
誇りであり、私自身という名の自信である。
嗚呼、やはり死神の言うことは間違いではなかった。
華日は心の中からたった今自身が覚醒したことを悟った。そして、それ以上にも以下にもあらゆるモノを悟った、一時、神になった気分だったが途端にそれは違うということも悟る。何もかも、見透かした。決して教えてくれた……そうとは私は思わない。この状況は能力だからできたことであり、そもそもこの能力は私のものだから、当然、すべて私に帰結するに決まっている。
即ち全て私の実力なのだ。私は凄い。慢心では決してない。単なる事実。
彼が無の能力を所有する悪魔だとしても、私には勝てないだろう。だって、私の魅了がそれを阻止するのだから、私の能力がそれをするのだから、私に勝るものなどいないのだからーー
華日の最終覚醒後の能力がどのようなものかを分かりやすく、極端に説明すれば。
それは、
彼女の思い通りになる
という能力なのだ。
美しさというものは、あらゆるものに存在する。どんなものにでも、美しいと思えるものがある。
そして、あらゆるものがそれに惹かれ……それ以上に達し、「魅了」の域へと到達する。
魅了されればたちまち、忠誠心さえ自然と湧く。それに従おうとするようになるのだ。華日の能力はつまりそういうことーー
この状況下、カイトは思ってもみなかったし、一瞬久しぶりにこの感覚を味わった。
「甘すぎるのよ、貴方は今不利な状況なのよ?」
そう、微かに耳元で囁かれるのがわかる。甘すぎる?不利な状況?
今確かにそう聞こえた。
「貴方の能力……無を操るみたいだけど……」
ねっとりと……艶めかしいフォルムな彼女らしい喋り方が特徴な彼女であるが、どうやら彼女は慢心らしい。自分のことが大好きなようだった。
自身とつながる結界を叩かれれば、それ相応のダメージが入るのは普通なことだった。そりゃあ叩かれて痛いものは痛いしどうにもならない。死神の言ったことは確か……だったが、最終的にかっこが付くような言い回しをする輩だったことは、実際に会ってみないと分からないものだ。
己に能力を影響させることはできないようになっているのだから、痛覚をシャットアウトすることなんて、夢のまた夢。まあ、間接的にひねくれさせれば、能力というものは大抵なんでもありなのだ。そういうヤツなのだ。
まあ、めんどくさいから、あんまりやろうと思わないとやらないがな。
「私の敵じゃなかったみたいね」
明らか彼にはダメージが入っていた。――ように彼女からしたら見えていた。
「!?」
声に出す暇もない焦り様で、カイトの反撃を避けようと身体をひねるが肩にそれが直撃。
後方に勢いよく吹き飛ぶ彼女の身は、瞬く間に分厚く張った結界の壁へと身を埋める……。
何が起こったのと言いたげな表情を彼女がしているということは、顔を伏せている今でも、十分に理解できる。
簡単なことだ。今の攻撃なんぞこの身からしたらただのジャブ。来る可能性は大いに考えられるし、そもそも、悪魔への皮肉が言えるくらいには魔術の知識があるのだ。それくらい、彼女が考えていたとしても、普通だろう。
つまりは、なんの種も仕掛けもない。やったとすれば、槍による突きを力任せに本気で繰り出したくらいだ。おかげで、目には見えないが、確かにグングニルは悲鳴を上げている。
流石に久しぶり過ぎて、槍の扱いが少し雑になっているようだった……。
「私の敵じゃない?甘い?不利な状況?色々言ってくれるじゃねーか」
半ば崩れ落ちるように埋まる体を起こす華日を見ながら、肩に、槍を休ませてそう言った。まあ、無表情で、一切感情を浮き出すことはできないので、迫力に欠けるが、まあ、どうでもいいーー気絶させて、吐かせるか……。
思い切り、足に力を入れーー跳躍。
秒よりも早いその瞬間、双方の距離は一方的な跳躍によって一瞬で縮まる。流石悪魔だ、こんな距離でさえ、軽々とその存在と相応の身体能力で、目で追えないような移動速度、その途中で、もう既に彼はその片手に握る槍を重く振りかぶる直前でーー
恐ろしい、それは今まさに見ての通り、彼に対しての評価である。
目に見えない速さでの移動、その間僅かコンマ5秒以下とでも言ったところだろうか、その瞬間、空間が歪むのはきっと彼の動きに空間自体が追いつけない……。まさに、その爪痕が、カイトという一悪魔のその力の影響がその空間に及ぼすまでタイムラグがあるという驚くべき実力。
華日の目の前に一瞬で、カイトという悪魔が槍を構えて、そこに詰め寄ってきた。この間も、漫画になぞらえればこの次のコマへの一瞬というのは、僅かコンマ以下。それほど、時間の流れは早いのだ。
一瞬の出来事、しかし、そんなことを知っている華日は、間接的に……また直接的に現状を俯瞰し、本の読み手という側の存在になれる。
だからーー笑った
理由:(上記)
カイトが今まさに槍を振りかぶっていた最中、
凡そ、そのモーションの3分の1といったところだろう場面で、華日は笑った。それは、今までのような嘲笑に満ちた、艶めかしさに尽きた、麗しさに溢れたような雰囲気は一切無く、あるのはただの「狂」。
狂いに満ちているのではない。噛み付き血に染まる八重歯のような「狂笑」
加わっているのではない。すべてを裏に返したような脅迫的なすべてにつながる「狂笑」
今までと全くの別なものなどではない。寧ろ同じで似ているのではなく同じ「狂笑」、同じものだがそれ以上のものであった「狂笑」であり、それは「脅笑」でもあるそれは、誰から見ても、受けとる感情というものは感覚というものは同じである、しかし何か、根本的な何かが違う。
そう、何か。
カイトは、一瞬でそれを感じた。いや、最早感じたというより「身体」で受け取ったようなものだった。
彼女の美の艶めしさも嘲笑も煽りも、全て同じであり、同じではないのだ。それは、今まで、分かっていただけで、根本的な部分。
いや、表面でしか見てこなかったからであり、それ自体カイトは知っていた。知っていたのに何故かといえば、答えは簡単で知ってて見てこなかったに過ぎない。
まあ、ここで、言うなれば『見れなかった』という方が適格だ。
見れなかった。
そうだ、見れなかったのだ。彼女に対するその感情、恐怖ではない恐怖に似た、それ以上の何かに、溺れるのをカイトは実感した。
彼自身、感情は捨てた。捨てられたとは言うが、それは、感情的な意思表示ができなくなったからであり、決して感情を失った中身が空っぽの存在ではない。
笑うことも、泣くこともできない。これもすべて、死神の所為であり、己の所為でもあった。
そんな存在だから、彼にもその悍ましさという言葉が近い、その恐怖以上の何かに、隠れながら心の底で震えた。
それが何だったのか具体的に説明できる自信は正直今のカイトにはなかった。
見れなかった……。
その言葉の真意なぞ、この状況下ではただ一人、華日しか理解できるものは誰もいなかった。
それはそうだ。
これは、彼女の「魅了」という名の力の応用のまた応用なのだから。
魅了の力というのは誰にでも影響させることができる、不利な点というのはただ、その力の影響の質が対象によって異なるだけなのだ。
そして、華日においてそれは、「見た目の印象操作」という一種の魅了の力だけがあらゆるものに制限なく影響する、結果的に言ってしまえば見た目の印象をカバーする他に使い道なんてない。それに能力自体強めたり弱めたりなんて操作が効かない。というかそもそもそう言った用途で使えるようなものでもないらしく直接相手を痛めつける事なんてできない。
だけども、あくまで印象操作されど印象操作である。
私は綺麗。自画自賛するほどに私は美しい。
能力の応用技でカバーしなくとも問題ないほどに。だって、周りの評価がそうなのだから自分自身で下げる意味など皆無。だから、私は美しいと断言できる。
だけども……あくまで印象操作されど印象操作。
私の人生で、人生を大きく左右するほどのできごとなんて数えるほどない。
ただ……私がこの能力を使うようになったきっかけなんてない、ただの気分、ただ、自分を隠していたい、違う。それよりももっと具体的な……そう。
本当の自分を見せてしまえば、自分は何時しか何かに崩されてしまう
そう思ったから。
そう気分的にふと思ったから、この力で本来の自分を自分自身にフェイクをかけてきた。
私は美しい、確かに美しい。
だけど、鏡を見ていくうちに自分の表情に違和感を持つようになった。
それは、同時に己の力が強大になって、自由自在に能力を、今同等に扱えるようになってきてからの出来事だったから、そこまで深く考えなくとも理解することができたし何より自然と受け入れることもできたから、何も根本的な原因を倫理的に解決しないままだったが、今では完全に理解できているし、根本的な原因も多分わかっている。
それは、多分。能力による副作用的なものであるのだ。
「美を操る能力」を手に入れて、その力を私は「人を魅了させる」事を主に能力を使ってきた。これがどういうことを意味するのかといえば、
私の能力は、私自身が人を操るのではなく、あくまで人を魅了させるだけ、ということは、実際に私の駒になれど、意識を完全に操っているわけではないのだ。それは、もう脅しに等しいのだ。
『魅了の力 イコール 脅迫』
結果であり、遠回しな考え方だが、でも、実際そうなのだ。
魅了させる対象を圧し、そして責め立て、半自動的に救いを求めて私自身に忠誠を誓うようになる。
なれば、それは当然の帰結であった。
その表情はカバーしている表面上とのイメージは何ら変わりない。
しかし、裏の表情に塗られた真は、魅了の対象を心の底から悍ましさ以上の恐れを抱く混とんとした闇と感じさせる雰囲気を漂わせていた。
カイトは、再びその光景に驚愕した。
振りかぶったはずの、槍が彼女によって静止されていたのだからーー
悪魔という種。魔族並みの力を出したというのに平気な顔してその左手には振りかざしたはずのグングニルの刃を力強く握っていたのだから、カイトは一瞬思考が停止したーー
そして、一言
「おいおい、まじか」
「お返しーー」
次の瞬間、高らかな無感情の狂笑と共に結界が粉砕されたのは、カイトが華日にしたように、今度は華日がカイトを思い切り結界の壁にそのカイト顔負けの強腕で吹き飛ばし、更には壁に埋もれた中、もう2、3撃蹴りを入れられたからで……。
「あなた魔族の中でも、弱いのね」
「まあ……だからこんなんになったんだけどな」
「あら、弱いのね心も体も」
死体蹴りかと、
もう一度地に蹴り込まれそうになったので、体を捻り槍で弾いたが、死角からの横蹴りで、壁に落下するといった摩訶不思議な感覚を味わう。ちなみに、着陸は成功した。
しかし、躊躇している暇はなく、すぐに彼女はこちらにやってくる。
その豪快な粉砕音にしては突き破れてもおかしくないレベルだが、『破壊したという事実』を無にしたので、壁はカイトのでヒビが入っただけで他は何ともない。
次々とやってくる打撃打撃打撃――
それを躱して掴み、床へ叩き込むその刹那――再度結界を張る。
今度は、固く鋼鉄よりもダイヤモンドよりも固く……。固く硬く仕上げた。
何度と重ねるその結界の発動時間にタイムラグなど存在せず、まるで最初から仕掛けておいたかのようにそれが張り巡らされる。
『――固有結界ノ継』
そこは全く別の世界へと変貌していた――
これも、固有結界の一種であり、名前もあるがそれは愛称、数ある使い手の中でカイトが名付けたのは、分かり易く「自分の得た次の固有結界として継ぐもの」という意味で固有結界ノ継。
詠唱をしなくともカイトにはこの魔法が発動できる。
景色がパッと切り替わった直後――彼女が地へ落下する。
さっきとはまるで場所が違うが瞬間移動ではない。
しかし、ここは先ほどの空間であり、違う空間である。
芝のように均一に刈り取られた背丈の低い草原と、奥にいくつかの丘があって、自分らを囲むかのように一周林が広がっていた。
円状に開けたその空間で、その一つ一つがカイトの結界能力によって作られたホンモノである……。
然り、勢いよく落ちた。いや、振り落とされた華日が落ちると、砂埃が呼応するかのように高くそして広範囲に舞う。
もうそろそろか?
さっき叩き込んだ時と、今そこに落ちた直後に、
今までの力を出すことやら能力を無にした……。確かに手応えはあった。
さて、吐き出してーー
カイトが地に降り立ち舞い上がる砂煙に立つ一人の陰に向かって、歩き出そうとしたその瞬間。
「それにしても、能力ってすごいわよねえ……?だって、無効化の力が無に対して使用すると何も起こらないのね」
砂煙の煙と煙の間から首を傾げて、彼女らしい笑みを浮かべる女が華日が居た。
「掛け算じゃねえからな」
「ネタ晴らししてあげる。私強いから」
カイトは飛ぶ。彼女の言葉を最後まで聞いて、力強く彼女の元へ
「どうもありがとう」
時間をくれてという意味を込めて、槍を片手で引き上げて大きく身体を剃るーーそれは、槍投げの姿勢とかなり似ていた。
身体に滾る血が、全て、この生ける槍へと注がれる。
グングニル……又の名を
これぞ真名『スピニア・ザ・グングニル』
無の境地に到達せし定め
「「「神器絶壊『神々(ワールド)の破壊者』」」」
一つの世界に凡そ何億何兆といる悪魔達には、勿論多種多様な容姿を持つ種族や似たり寄ったりの種族もいる。
しかし、一つの種族に限らず全種族に共通していることがある。
それは、命の次に、悪魔としての存在と同列に位置するものがあった。それが、体の一部分だ。それは、悪魔の中で大分違ってくるのだが、カイトの種族は右目であった。それがなくなってしまえば、悪魔としての存在は消え、悪魔ではない名のない存在となるのだ。
それが、彼ら悪魔達にとってどれほど、悍ましいことか……。
だから、悪魔に立ってそれが禁忌となっているにも関わらず。
そんなことなどどうでもよかった、幼少期のカイトは力を欲しがって、死神にその右目を渡したのだ。
しかし、カイトだって、理解していなかったわけではない。
ただ、耐えられなかった。
周りと比べられ、実際に劣っていた自分が、嫌で嫌で苦しかった。ただ、逃れる道を探し、求め続け行きついた先が破滅の運命だった。
この代償は呪いだ。
後から分かったことだったが、グングニルは神器だった。
神の気を纏う器を魔族が持てば、当然悪魔としての力は衰える。
カイトがグングニルを握っているのは、力を抑えるためではない……。握らされてきたから、今もなおこれを握っているだけにすぎない。
なぜ?
それは、弱い自分を叩き直すためと、親や兄弟が精神論で背負わせたからだ。
彼らは、勉強をしない。ただ、力に拘る輩で精神論でしか理解を示さない。
今でも乾いた笑いがこみ上げる。
今は悪魔と名乗るだけの神でもなければ悪魔でもないただの化物にすぎない。名前だけの悪魔だ。
しかし、ある日……いつなったのかは忘れてしまった。
ふと神器に違和感を感じなかったのだ。
霧の濃いこの狭い世界の湖で槍を振るった時の光景だけは今でも手に取る感覚だけが覚えてくれている。
魔力を吸い始めた感覚――その感覚への新鮮さは二度と味わうことがないほど、衝撃的で、頭に降りかかってくるのはその槍の確かな意思で……。
正確に読み取れた訳ではない。ただ、その日を境にその槍の感覚が180度変わったから――
今日からこの槍は貴方となる――
――グングニルは
真名を放たれた、その槍は、まるで生きているかの如く。
離れた端の二本の刃が、真ん中の刃へと、広がって……。くっつく。
その槍は確かに、3つの刃が並んだ、曲がる細工もされておらず、湾曲するような材質ではない鋼以上の強靭さを持つのだ。
しかし、それは……漆のような朱として反射するグングニルは、まるで、生物かのような艶めかしい仕草で、長く細い三角形の一つの刃としての姿へと変形を遂げーー彼女の目の前でそれを投げる。
空間が歪み、押し出され、切り裂かれ……。
総じて無理矢理モノを曲げたかの如く、擦り切れた破壊音が鳴る。
しかし――
「大体予想はしていたが、やられると本当に困る」
どうやら、あの一瞬で後ろへ飛んで退避していたようだった。
投げたスピニア・ザ・グングニルは、柄を掴み、勢いに任せて旋回してこっちに返しやがった。
カイトは、彼女の驚異的な身体能力にため息をこぼす。
ゆらゆらと、立つ彼女に向かってもう一撃喰らわせたいところだったが、中々隙が見えない。
「ちゃんと人の話は聞かないとだめよ」
「聞いている暇はないし、そもそも興味が薄いからな」
「ふーん、まあ、貴方の力なんて所詮それだけだもの……。無にする力なんてそれを防ぐ力が存在すれば、その能力もなんの役にも立たないのよ」
「少し、理解が違っている。それならその理屈を無にするだけだ」
「あらそう……」
呆れたと言うように彼女の態度は微かに違うものとなる。
そんな華日を横目に、カイトは対象を無力化しようと能力を発動する……。感覚的な力で、目に見えるような能力ではない。知らない間に、気付かない間にそれは、存在がなくなってしまう能力なのだ。
無表情の奥に何が見えているのかカイトにも分からない。
ただ、指を感覚的に流す。それだけで、無にしたいものが無になる。大抵の場合は……。
カイトは、またもや久しぶりの衝撃に身を打たれた気分になるし、実際に気付いた時には痛覚が遅れてやってきて、結界内の樹木を何十本とへし折っていた。
それは、今までの存在を大きく否定し、混乱させるもので……しかし、カイトにとっては今なお背やら頭やらに染み付いた痛みがより嫌でも現実だということを教えてくれる。
「なんの小細工だ……。力を使おうとしたら何も起きない」
「馬鹿なのね、教えてあげる。どうせ貴方は私に勝てないんだから」
「慢心か」
「違うわ、私の美を操る能力は、貴方よりも強いの。美しさにおいてはあらゆる面で最強なの。偽りの面をかぶれるし、運命だって魅了すれば何もかも教えてくれるの。全部が全部私の味方なの。対して貴方は無を操る能力。貴方の能力の弱点は能力そのもの。言ってしまえば応用することもできない、だって、無には有がつきものだもの。私は状況というものを魅了する力だってある。だから、貴方の能力の裏をかくことができるのよ。あなたが私のこの今の状況を断とうとして無にしようとしているようだけど、無駄よ。だって、私は美しさ故の幻覚なのだから、本当の私は存在するけど、貴方には美しさで偽った私しか見えないの。偽りは真実じゃない。だから無にしたって、意味がないのよ。それに例え、偽っているという今の状況という事実を無にしたとしても本当の姿が現れるわけじゃないの。だって、貴方の能力の裏をかいているんだもの」
長い演説だった。
成程と、カイトは一呼吸おいて、そう堂々と宣告する彼女の目の前で、重いため息をついた。成程成程、そう言う理屈かとカイトは、槍を構えた。
「あら?話を聞いていたのかしら?」
「知ってるか?俺の力はお前が思っているよりも遥かにスケールの大きい能力なんだ……ぜ」
いくらかある、オリジナル槍技の中でもこれは、能力に特化したものだ。
急落
無の力を極めると何になるか? 答えは、断裂である。あらゆる存在を無にすることは簡単な事であるが、無の状態と有の状態を分断するのは、難関の技である。
ある状態とない状態を同時に作り出す。それは、一つの空間を二つに、数学的に0.5と0.5の割合で釣り合った世界を作るのだ。
それを、槍に乗せた技が、この急落。
刃に任せることで、綺麗に空間が分断される。
「お前はここにいないんだろう」
「面白い問いかけね。私はここにいるけども、貴方には見えないだけよ」
「ああ、そうだ。だから無理矢理その事実の境界をこじ開けるーー」
カイトが空間を切り裂いた。
複雑にも絡まった糸を自身で解いて操るような行為である。
ただ、もう酷使しているカイトにとって、それは、難関に見えても形だけ。
容易にそれを発動することができた。
カイトの狙い、それは、一つの可能性に縋った賭けである。
彼女が覆面をかぶって存在を偽っているという見解で正しければ、じゃあその裏側に行けばいいのだ。
簡単な話、彼女が覆面をかぶれない……。かぶっても、真実だけが浮き彫りになるもう一つの空間を作ってしまえばいいのだ。
世界、いや今の場合だと結界だ。
その中で、空間を分断にしたそれが有ると無いが同時に存在する空間――急落。
急落は、真実を見るための無の力だ。
世界が灰色に染まる。
彼女は一つ何かしらの思い違いをしている。
俺の力の裏をかいている?そんなことは、不可能に近い。やろうと思えばやれるが、運命やらを味方につけたとして、無の力の陰に立つことなんて、できるものじゃない。無の力は太陽だ、どこからともなく燃えて陰などはどこにもできない。いわば、能力自体に不備は存在しない、それが、無の力というものなのだ。
死神が植え付ける……能力という名の呪いは、その身の器に応じて死神が選ぶのだ。
それは、誰にも劣らない強大な力
そして、誰にも超えられない強大な力
だけども、それらは己の器に比例する。
カイトは、そんな灰色の世界で思う。皮肉だろうかと、
急落の空間で見えた彼女もまた、死神からの恩恵……いや、呪いを賜った一人ということを知った。
成程、そりゃあ、苦戦するわけだ。多分、無の力が効かないのはそう言う所為であることも原因の一つとしてありそうだ。いや、それは、微々たる可能性でしかない。
灰色の世界。
違うのは、目に映る景色だけ。
「どうだ?お前は端っから見当違いな推理をしてたわけだ」
「成程、貴方の力ってこんなこともできたのね」
「やっぱり慢心じゃねえか」
「うるさいわね、でも貴方は私を殺せないわよ。残念ね」
「ああ、もっともだ」
何故、カイトは華日を殺せないのか、何となく分かってはいた。
それは、同じような力の持ち主だからではないし、死神から力をもらった同士だからでもない。
じゃあなんだと言うのか? それはーー
「本当に、厄介な力だ」
「あら、誉め言葉かしら」
「残念ながら侮辱の言葉だ」
それはきっと、彼女と自分とが同等なのだからだろう――
『槍技』『能技』――ッ!!
灰色の空間でぶつかり合う。瞬く間に、その場の樹木は一斉に舞い上がり土草はまるで、そんな動きをするかのように一斉に、半円状に落ちるーーッ!
槍技『旧倉神』
オリジナルの一つである槍技。この地形を抉ったのも、この槍技の影響である。
空間を球状に切り出す『貫禄』。そしてその中をひび割れのようにあみだ上の斬撃を全方向に穿つ『盾央』。その二つを組み合わせ、そして、一つに編み出した技。
それが、『旧倉神』
カイトのその槍の使い方は、特殊であり、そもそもそんな槍の使い方をしているのは凡そカイトだけだろう。だが、逆をカイトに言わせれば、それはカイト自らが、彼自身に特化した、彼だけの、彼にしかできない。いわば彼に今一番彼が使いこなすことのできる槍の使い方なのだ。
悪魔達の殆どに流派などは存在せず。ただ、個々人にあった、一番やりやすい型で武具を振るう……そんな文化が根付いていた。だからかカイトには型という概念などは無いし、例え、その存在を知っていたとしても、多分使わないだろう。
綺麗に斬るため、無駄を最小限にするためと、人間が必要とすることは大抵の悪魔には必要としないし、所詮自然治癒や元ある力でどうにでもなるのだ。
――あの時、
カイトの無の力は確かに働いた。
しかし、その正体は彼女がかぶっていた幻想。作られた仮の仮面。もとより存在しなかったもの……。だから、無にしたとしても、本体には影響しないのだ……。
しかし、今は?
今はどうだろうか? さっきまでの世界とは全く違う目に見えない隔たりを、言ってしまえば境界だ。現実ともう一つの現実、同じ世界線の中にある、無数とある境界を無としたのだ。その存在と彼女の仮面の関係にカイトは賭けた。いくら待ってても、こればかりは、彼女は、公言しない。
ぺらぺらと、自身の弱点らしいことは喋るのに、まったくもって、その真核を露わにしないのはやはり当たり前の事なのだろうが、むず痒い。さっきから自信に満ち溢れながら身の内を高らかに明かす癖して、実は絡まっている。口が堅いというよりは、絡みやすいというべきか……。成程、確かに堅いよりかは堅そうだ、理解させなければいいのだから、それこそ、強いのかもしれない。
例えれば『1+1の答えはと僕が問うとして、普通考えればまあ、そういう答えになるかもしれないけれども、しかし、僕が問うているのは、普通のではないという可能性もある、言ってしまえば3の場合も0の場合もある。実際数学では証明できる計算だ。ではここで、選択肢を与えよう、二択だ。3か0。僕が問うている答えはどちらか?』 そう聞いた時、振り回された挙句、結局答えは言っていない。饒舌こそ、本当は強いのかもしれない。
だから、うっかりぼろが出るまで待っていたら日が暮れる。
希望的観測だとしても、先に手を打つ方が賢明だと、カイトは判断した。
だからーー
無化効力……。
細かく割り振った、無効化・無力化の力の使い道の中で、最もこの力の使い道として、オーソドックスというべき技だろう。
特定の存在の無力化、ただの存在にするだけの力。そのワンランク上で、存在を消したり名を消したりするのは、在所不明だったり老角不明だったりあるが、今はまず動きを封じなければならない。
そんでもって、保険を叩き込むーーッ!!
槍と一緒にそれを彼女に向けて放った。
どうだっただろう、彼女には逃げる隙も与えないつもりで放ったが、実際はやってみないと分からない。しかし、今まで何度も同じような二択の境界線に立っていた身にとってそれは、感覚だけで、その二択の殆どが分かるのだーー
だから、その感覚はカイトにとって全てを物語っており、同時に一つの安堵が生まれた。
「……手応えあり」
それは、前のと手応えを比べてみれば全くの別のもので、これこそ絶対的なものに感じられた。
血肉を抉る感覚が間接的に槍から伝わってくる……。
その感覚は、まさに肉を捕らえたホンモノの感覚だった、偽物ではない。本物だと言っているのが感覚だけでも理解できた。
舞い上がる砂煙に緊張が昂る……。
しかし、これは、本当に予想外といえば予想外だったし、把握してなかったかと言われれば嘘になる。そう言えばそうだった程度にしか留めて無かった所為だったから……。
――砂煙が晴れ初めてその隙間から見えたのは、
化け物の如く笑う顔を必死にこちらに向け、真ん中の刃が左手の平を貫き左目左肩を刺し首が曲げられ、もう片方の刃は前腕と二の腕を貫いた状態で、醜くも半分元々の美貌を保つ華日の姿……にも見えた。
それまではカイト自身、その光景に確信をもっていた……。
やったーーそう思っていた矢先の出来事だった……。
実際のところは違っていた。いや、今まさに変わっていっているのだったーー
もう一本の腕で、力づくこじ開けるかの如く槍の刃の付け根、口金を鷲掴んで、今、抜いたーー
彼女が槍を抜こうとする際、それに身体を任せていたカイトは、半ば宙に浮いている様な形で、すぐさま長い柄の後端に登り、全身の体重を奮って押すが、槍はびくともせずに、彼女の槍を抜く力の一方に偏った。
驚いている暇など無く、すぐさま彼女の攻撃がやってくるーーそう、思考を切り替える頃には、もう、いままでの景色なんて無く、気付けば砕けたシャンデリアの残骸に腰掛けているような状況だったーー
この時カイトは、悟った。
本当に厄介なのは能力なんかではない。
彼女の……超人特有の底なしの力、減りを知らない体力、魔族顔負けの自己治癒力。
総じて、超人自らの「超体力」だと……。
久しぶりの次話です。
今回も、小ネタと言いますか、元ネタのあるものが所々に配置しております。東方だったり、何だったり……。リスペクトと言いますか、是非私の好きなものをいれたかったので入れました。こういうのってなんていうんでしたっけ?
1か月ぐらい経つんじゃないんですかね?
今回はWordで書いてみたので、ところどころおかしな点があると思いますので、見つけ次第おいおい直していこうかなと思っています。
今回は、文字だけ(Word内換算)で17783文字ですね。
駄文生成機なので、執筆体力の無駄遣いしかしていないので、偽りの文量なんですけども、まあこんなのも、僕のアイデンティティなので、お許しを。
あと、最近暇つぶしにYouTubeを見過ぎて、やる気やら何やらが低下しているんですよね……。少し自分に厳しく接したいものです。
その所為か語彙力が低下していったいるんです。咄嗟に言葉が紡げないのもあって、なんだか、過去の自分に戻りたいものです。
さて、今回はいつもよりも長く後書きを書いている気がします。
というのも、久しぶりなもので次回は、二か月後なんてことも、ありえそうなのでって言っても、後書きを長く書く理由にはなりませんけど、キーボードカタカタする指が止まらないんですよね。
先の展開に詰まったら終わります。
まあ、何を書こうか色々あり過ぎて、困りますが一つに絞ったときに見えてくるのが、物語の事です。
今現在、序章であるこの話の終盤に取り掛かっています。
物語全体の序盤であり、その序盤全体から見れば終盤であり、その終盤全体から見ればまだまだ始まって、最初の山を登っててっぺんについた頃ですね。次は、下る感じです。下りは登りよりもきついですからね。まあ、あとそれが、5・6回続くとなると、少し虐め過ぎなのでは? なんて思うかもしれませんが、そのうちなんでそうするのか。なんて作者の意図が読めるようになるかも知れませんので、気になる人はちょくちょく覗きに来てもらえれば幸いです。
まあ、5・6回も多分ないと思いますけどね。
さて、今回。
ここまで、付き合ってくれた読者の方々には感謝です。
こんなに、不定期連載ではあるのにも関わらず、今もなお覗いてもらえるのは有難いことです。
次回もお楽しみに!!
ではまた会う日まで。




