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次から次へとなんだこれ

 その光景に私は、神霊的とでも言おうか……。

 神々しく部屋一帯に広がる藍白い光。ただただ眩いそれは、美しく……そして何処か恐ろしい。感覚的に禍々しい、最強の怪異の中の一種『吸血鬼』と似ていた。


 白と藍が交互に入れ替わりながら、魔法円を形成していくその光景は正に、必要な質や量がすべて完璧。流石、悪魔なだけあって魔法の扱いは上級であった。がしかし、ここまで範囲が大きく、扱いの難しい上級魔法をここまで簡単に操る彼の姿を、彼女は見たことが無かった。


 彼のそんな姿に呆気に取られた中、我に返った私は、すぐさまステレットの容態の変化に違和感を持った。だって治癒に取り掛かった時点で私では救えなかったのだから……。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 私が治癒に取り掛かった時点でステレットの容態はかなり酷く、いつ命が絶たれてもおかしくないほどに消耗され、私が手を付けただけじゃ、ほんの少し息を繋ぐ程度。満足に息を吹き返すことなんて出来ず、ただ抗えぬ痛みに苦しむだけ、もう殺してしまった方が断然彼女にとって本望に近いのだ。

 ステレット……ごめんねステレット……。私が、私がこんなんだから。

 そう必死に彼女に謝った。自分の非を、怠たってきたのが今ツケになって帰ってきたのかもしれない。そんなの嫌だ!絶対に彼女を死なせてはいけない……。自我を責めることで、何かが変わるかもしれないとも感じた。


 だから必死に、必死になって彼女に謝り続けた。治癒をし続けたら彼女が回復してくれると信じてーー


 だが、そんな希望的観測に過ぎない、彼女の願いも断たれた。

 彼女はその事実に信じることが出来なかった。何かが変わる。そんな他人任せに過ぎない希望も、絶望に変わった。


 僅か、30秒の命。短いようで長い葛藤だった。嗚呼死んでしまったーー死んでしまった。


 治癒魔法のかけ方は沢山あるが、その中でも彼女は心臓に両手を覆って魔力を伝える接触式の治癒魔法を行っていた、だからその変化にはすぐ気づくことができた。

 動きの止まった心臓。体温が下がる。体内に残る魔力からは意思が途絶え次から次へと消滅する。


 「嗚呼……嗚呼……。ステレット……。ステレット………」


 もう死ぬ。死んでしまう……。それが肌に触れるだけですぐわかる。血液がそろそろ3分の1失われる。体内魔力も底を尽きている。

 彼女はステレットを抱きしめ、ひたすら呼び止めようと声を荒げて名前を呼ぶ。


 そしてーー死んだ。


 「!?」


 なのに、それはまるでそれは奇跡であった。

 死を迎えたと思ったら、いきなり彼女が息を吹き返したのだから。そして、次の瞬間その光景に呆気に取られた。


 カイトの膨大な魔力。それは、見たことのない荒業であった。


 通常、魔力を取り込む種に施す治癒魔法の場合、魔力を患者に補給しつつ、治癒魔法という似て非なる傷を癒すための魔法を施す。だけれども、今のステレットの場合魔力を補給しようにも、容態が酷過ぎて生命活動を死守するために魔力を無駄に多くを浪費してしまっている。

 だから治癒魔法に回す為の魔力が保てず、いつまでも治癒に取り掛かれないのだ。


 この状況、別に大きな魔力が必要なのだ。だが、それは意外な事にカイトから発されたものであったーー



 彼女は考えるよりも先に、治癒魔法を施して外傷と内傷の8割治療を完了した。あとは、自然に回復するのを待つのみである。


 しかし、後から考えてみるとカイトの魔力がどれだけ強大なのかが分かる。

 今まで見たことは無かったが、理論的には可能である。しかしこうも容易く、成功実績のない別属性同士の魔法を操れたものだ。

 上級の拘束魔法を扱う以上、複雑な魔術を展開する為自然と消費する魔力も膨大となる。なのに、それ同等の質である魔力を別口から放出して他人に与えるなんて、いくら悪魔だろうとできる奴なんかそうそう居ない。それだけ凄いのに何故、あんな過去を経験したのだろうか?


 疲労に立てずに居るのを自覚して、どれだけ魔力を酷使したのかを思い知らされた。しかし、優多もよく食い止めてくれた……。

 そう思いながら、倒れたクリオッドを見る。魔力もカイト同等で露わになった肉体から恐ろしいほどの身体能力に心から震える。


 「化物みたいだ……」


 ふと、独り言として口から漏らす。本当に化け物のようだった……。素直に、優多とカイトには感謝しよう。今はそれだけがーーは?


 その光景に一瞬膠着して、ふと目をそらす。その彼女の仕草に目の前に立つ優多は戸惑っていたが、一番戸惑っていたのは彼女自身で、何故かってーー何故救えなかったんだという純粋な疑問であった。


 彼女越しから見る優多の姿はーークリオッドよりも遥かに超越していた。外見が何か特出しているわけではない。言葉を失ったのはその身体の内側から漲る魔力や身体能力の強大さであった。

 

 私みたいな魔術師もどきでも、人がどれだけの身体能力を持っていたりというのは、見ただけで分かる。なのに、それは今まで見たことのないもので、意識が思考に偏って処理しきれないその光景に、一種の憤りを覚えたそれは、何故一人で何もできなかったんだというもの。


 だって何もかもがおかしいじゃないか。

 あんな強大な魔力を持つクリオッドさえ勝るほどの力を持って、カイトよりも断然知識があって、身体能力だって、この中では断然に高いのに、なんでーー


 なんで、そんなに弱い者のフリをしているのだろうか?

 一つの憤りが増していくにつれて身が震える。憤りに震えているのか、哀しくて震えているのかさえ分からなかった。

 ただ、横で眠るステレットを一目見たただけで、何かが定まるのを確信する。


 ーーそれだけ強いんなら、何故暴れるクリオッドを一人で何とかしなかったのだろうか?それだけの身体能力さえあれば、絶対に戦いながらも、ステレットを治癒できたはずなのだ……。

 何故だと、彼の不審さに私は咄嗟に、目の前で私たちを心配する優多の存在を確認した途端睨み付けて突き飛ばしたーー


 頭に血が上って、何時も彼と接していられるような心持でいられなかった。自分でも引くほど切れているのは自覚できたし少しやりすぎかとも思ったがどうでも良かった。今はそれよりも彼への怒りが収まらなくてーー衝動的に彼女を抱えて、その場から去ろうとする私を、優多やカイトはどう見えたのかは定かでは無かった、でも一刻も早く彼の前からいなくなりたかった。

 廊下に出て彼らが見えなくなった途端に分かったーー彼の存在が、陣之内優多という存在がとてつもなく不気味であるということである。


 「まったく、ご主人は残酷だ。自分のためにこんな事をするのだから」

 「だ、誰だ!?」

 「悪いけど消えてもらうよ、邪魔だからね」

 「お前は……吸血ーー」

 「怪技『狂死の威嚇』」

 「ーー」


 瞬間、目の前が真っ赤に変色し、何かが蝕まれていた。それは紛れもない幻覚のそれであった。体が考えている通りに動かなければ、幻覚だとわかっているのにそれに恐怖する……。

 息も満足にできない、窒息に近いけれどギリギリ限界まで耐えられているようで、まるでそれは拷問であった。

 千切れる何かが千切れる。鮮血、見惚れるほど真っ赤な血。恐ろしい。時期に感覚が変わって狂気に変貌することに。次第に違う恐怖と一緒になって、消えてしまう。恐ろしいという死んでも離さないと誓った感情も、女神から嘲笑われているかのように悲惨に、もっと詳しく言わせてみれば、目の前で親の形見を女神に踏みにじられたような感覚に等しいものであった。


 ーーそして、完全に切れるまで十数秒とかからなかった。


 プツリ。


 その音が鳴っても尚、必死こいて守りぬいていても尚

 狂気の世界はいつまでもいつまでも、どんな事をされたとしても何かしらで切れたそれを直さない限り続くのであるーー


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 「さて、先客はどちらかな。生憎私は、どちらも相手しなければいけないんだ」


 ボーイッシュを追って廊下へ出てみれば、豪奢なフリルを纏ったドレスを着る。羽の生えた白い症少女が彼女の首根っこを掴み上げている。その姿に驚愕するのは優多だけで、咄嗟に前に出たのはカイトであった。

 気付いた時には、並ぶ窓ガラスが激しい音を立てて一直線に割れ、ガラスの破片が舞う。まだ、一つも破片が落ちていない中放った次の大技にフロアがうねりを上げて削れるのを目の当たりにした。削れるというよりもそれは、前方が衝撃によって吹き飛んでいるに等しく。実際、館の東の棟部分が横一文字に切れたのだ。


 さっき、自分が引き起こした客間の崩壊よりも数倍、凄まじいカイトの力を身に感じた。しかも、

その館の5分の1を、槍を横に振っただけでこうなのだから。本能で感じる恐怖に数分間の静寂が生じ、砂煙をみたまま微動だにしないカイトの姿に、何処か不安を感じても尚口が開かない。

 なんだあれ……あれを一人でやったのか?有無を言わせず躊躇無く刃を振るった……。しかも、あのままやった。どう考えてもボーイッシュがもろに当たっているじゃないか……。


 何が何なのか、起きたことを目の前に腰が抜けて優多はよろけて脱力する。


 「……殺ったか?」

 「残念ながら私は吸血鬼なんだ」


 砂煙が晴れ、見えたのは半身を復活させつつある吸血鬼の姿であった。晴れない砂煙の中から彼女の半身に向かって無数の塵が彼女の体を元通りに形成していくその姿はとてつもなく、グロテスクでよく見てみれば、肌も血色が悪く少々青白いしで、彼女の言った通り『吸血鬼』といっていることに、何ら違和感を抱くことは無かった。

 そんな最強のように思える吸血鬼の姿をみて、カイトは舌打ちをして「心臓じゃねえのか」と小さく呟くと、表情は相変わらず無表情のまま、彼女と同じ素振りで口を開く。どうやら先程の言葉は伝わっていないらしかった。


 「ほう、吸血鬼となると俺と中々存在が似てるな。警告しよう、お前は死ぬ」

 「随分と直球ーー」


 相手の言葉を待たずして、衝撃波で何が起きてるのかを感覚的に理解したがーーしかしその時にはもう、吸血鬼の頭部は槍で原型を留めてなどいなかった。が、しかし……。


 ーー彼女の口は「ニヤけた」ままだった。


 勢いにまたコンクリートやらペンキやら混ざった砂埃が体の周りに纏わりつく。

 瞬間、そのうっすらとした壁の中から『掴まれた』。その感覚にカイトは啞然とした……何が起きたのか脳が追いつかなかったのだ。だって脳を吹っ飛ばしたのだ……考える頭なんてあるはずがーー


 その疑問が晴れたのは、砂煙から自分のグングニルの刃先を血まみれになった拳で握りながら微笑を浮かべている。完全に頭部を回復した彼女がいたからでーー


 理解した途端。思考が加速する。


 吸血鬼の回復力を甘く見ていたと、カイトは後悔した。そして心の底から焦りを感じた。

 これから何が起こるのか、何の可能性があるのか、吸血鬼には何があったのか……。そのコンマ一秒の間にできるだけの思考を練った。

 練った結果、心の底から「ワラウ」ほかなかった。感情が腐った自分には無縁のそれに縋るなんて考えた日も無かったが、まあいいだろう。


 そうピリオドを付けて、最後の一文。自分へ投げかけたのは……。


 

 ーー勘づくのが遅かった……。


 

 吸血鬼の微笑が崩れるようにその声は、透き通る。


 「残念だよ。吸血鬼と言ったのに、血を吸うだけだと思ったのかい?だとしたら残念だ」

 「ーーッ!」

 「怪技『ドレイン・ザ・ノウリョク』」


 次の瞬間、カイトの腕から、黒い靄が湧き上がった。 


 「能力って英語でなんて言うのだろうか?」

 「ーー」


 沸騰する熱水の如く勢いで、その黒い靄が柱を描き宙へ散る。

 それは何かと問われれば、多分勉強嫌いなカイトには答えられないだろう。黒くて、生理的な何かは感じなくて、でも何かは、何か抜き取られている感覚はある。

 嗚呼、何だったか?資料に書かれてあった気がするけども今じゃ感覚で分かる。


 ーー何をされているのか、カイトにはただ『奪われている』という感覚があるだけでそれを「無」にすることさえ今じゃできない。つまりそういうことだ。

  


 その一瞬、その一秒にも満たない程の「一瞬」を、カイトは思考に費やした。勉強は嫌いだとしても、こういう時だけはやけに思考が冴えるのだ。理屈では無くて、感覚的に解る。


 だからーー

 

 その視界の中で見た景色に、半分。頼ることにした。

 優多とーー



 二人(ステレット達に)に。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 その時、弾かれたように優多は床を蹴った。

 もうその時点で滅茶苦茶になっていた館はその優多の跳躍で更に半壊ーーする時には、吸血鬼の頭蓋を砕いていた。


 優多はその光景に啞然としていた。

 何が起きているのかは理解できた……にも関わらず動くことが出来なかった。それは、彼女をーー吸血鬼という存在を見てからで。


 何か、言葉では、説明しきれない「何か」……。


 そうーー迫力


 今までよりも、より強く感じたその圧迫感、緊張感、嫌悪感。

 それ全てが、今この瞬間の腕脚(てあし)の震えが物語っている。



 そう、その瞬間。

 コンマ一秒という僅かな時間と時間の境界に、立っているような感覚。その狭間で、何かを自覚する。それはちゃんとした形あるものでは無く。霧のような、実態の無いモノでーー


 それ曰く。

 その自覚した何かというのは、その狭間の中目にした彼女の瞳ですべてを察せた。

 そうーー全てを。




 ーー何か引っ掛かるような腑に落ちない濁り。


 それが何なのか?

 彼女自身もよく分からずにいたーー優多が、目の間に迫ってくる前までは。


 「ーー!?」


 それは、今でも形にならずはっきりと言葉に言い現わすことのできない。

 言うなれば、静かに這い寄る恐怖といおうか?


 嗚呼、気持ち悪い……。まるで、「また」だ。また?何なんだ?また?まるで、こんな恐怖を感じたのが生まれて初めてではないみたいじゃないか?なんだ?よく分からない……。


 「ーーまただ」


 はっきりとしない。実態の無い。まるで現……。

 そんな偽りの記憶に何を踊らされている?

 

 なんで、こんなにも……こんなにもーー怖いんだ?

 負けるという事実にーー恐れているのだ?

 死ぬよりも、それは死ぬよりも確かにーー怖いこと


 でも……思い出せない。はっきりとは……思い出せない。


 嗚呼、虚しいーー何かが欠け落ちた気分であった。


 彼女は、吸血鬼の瞳は濁っていた。しかし、透き通ってもいた。真実は誰にも解らないまま。多分、彼女だけが知っている。彼女だけ、それ以外はきっと解らないだろうーー



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 『ーー』

 

 彼女の……吸血鬼の力がとても弱々しくなったのはそれからすぐの事であった。

 何が起きているのか自分自身でもわからなかったが、多分それは彼女の方が数倍重く感じているのだろう。瞳を見れば、それは明らかだった。苦痛に満ちている。


 元来人を見分ける能力なんて人並みにしか備わってないし。一目見ただけでどういう人間が分かる訳がない。

 しかし何故だか、彼女の瞳だけは違っていた。青く澄み渡っていてとても美しくて、それでも吸血鬼だからというわけではない。変な話その瞳を見ると彼女の思っていること、考えていることが不思議と伝わってくるのだ。


 腹を貫かれた彼女は、震えながらこちらを見ていた。

 損傷した腹部を押さえて口から血を垂らす彼女の姿は、とてもさっきまでの威勢のいい吸血鬼と違って今は瀕死の状態で、顔面は悲愴に染まり、震える口調で話しだした。


 「変……な、話……し…………だ。吸……血、鬼が………………こんな……こんな、風…………になるなんて……」

 「俺が、無にした。お前の能力と吸血鬼たらしめる殆どを、お前がドレインを使った時点で」

 「そう、だったの………………かい……じゃあ…………そういう……ことか………」


 力なく笑う彼女に瓦礫の壁から、カイトが身を露わにして、淡々と吸血鬼に真実を打ち明けた。

 成程そういうことだったのかとようやくカイトの解説でその正体に優多は気付いた。だから、こんなにも弱々しくなっていたのかと。納得。

 しかし、どうすればと、同時に怖気が走る。

 カイトが言うには、吸血鬼たらしめる殆どを無にしたと言っている。じゃあ彼女は、回復できないじゃないか!それに、彼女は吸血鬼だ。それさえ無にしてしまったら、彼女の存在は空虚ではないか!

 それはあまりにも悲惨すぎる。と、カイトに目を向ける。


 「心配するな。まだ回復能力は残してある、それにこいつはただの吸血鬼じゃねえ。あいつら二人にこの場は任せる」


 そう言って、カイトは瓦礫に座って煙草に火をつけてから崩壊された館を見て苦笑いを浮かべ。「こりゃあまた派手にやらかしたなと」呆れる。

 治癒魔法を施し、何処から取り出したかも分からない救急箱から何やら液体を取り出したり。ガーゼだったりを取り出したりする二人に、優多はまずホッと安堵した。


 「……無事だったんですね、ステレットさん達」

 「あ?ああ、大丈夫だった。まあ半分俺もあいつらに助けられたわけだけどな」


 白い煙を宙に向かって吹くカイト。そんな彼に優多は、居ても立っても居られないような仕草で話し掛ける。


 「僕たちは……このままここでじっとしていてもいいのでしょうか?」

 「敵か?」

 「まあ、敵と言いますか……。何と言いますか……」


 優多は渋りながら、彼女たちに目を向けるとカイトは納得したように、大袈裟に頷いてから。


 「分かるが、あいつらに任せておいた方がいい。餅は餅屋というだろ?あいつらは所謂専門家なんだよ」


 そう、言うカイトにイマイチ納得できずにいると「今、手伝いに声掛けてみろ片方との仲が余計に悪くなる」なんていうもんだから、そういうもんだと割り切って、メイド二人を眺めながら、二人よりも先に急速につくことにした。


 「なあ優多」

 「なんでしょうか?」


 一服し終わったカイトが話しかけてきた。しかし、相変わらず無表情で、話の先が読めないからか少々、怖い。


 「変な話だが、自覚はあるのか?」

 「え?」


 足元にある瓦礫を足でいじりながらカイトは問う。そんないきなりの事に優多は、一瞬何を答えるのか分からず困惑するが、直ぐに何を聞かれているのかを察して言葉を返す。


 「……正直わかりません。気が付いたらこうなっていたぐらいとしか」

 「そうか……なら大丈夫だ。少しずつわかっていけばいい」

 「本当に、そうなんでしょうか?」


 そんな意外な返事にカイトは返す言葉に詰まる。

 カイトに問われた時何を聞かれているのか察せたのは、その一瞬、彼女の事が、ボーイッシュの事が頭に過ったからでだからこそ、優多はその言葉に躊躇した。

 ここにきてから、今の今までいろんなことがあって、それでもまだ分からない状態なのだ。


 「僕は……本当はゆっくり行くのが正しいのかと思いますが。でも、それじゃあ、ダメなんです。きっと。いえ、絶対に今分からないといけないんです……」

 「そうか……」


 少し、間を空けてながらカイトは続ける。


 「優多、お前は人間だ。その心だけは絶対に忘れちゃだめだ。自分を化物と呼ぶのは相応しくない。絶対、何が何でも……。それと一つ。一つだけ教えてやる、それ以外は自分で見つけなきゃいけない」


 小さな瓦礫を蹴り飛ばしてから、カイトは立ち上がって身体を伸ばす。そして俯く優多の前に座って告げた。


 「お前は、強いそして、決してその力は化物なんかじゃない……変な話だが、それは神だ。だから、自信を持て。その己自身を僻んじゃだめだ」


 告げるべきことは本当は沢山あった。だが、今はこれしか言えない。だから、その告げるべきことは、またいつか話そう。そうだな……次はお前の母親について話そうかな。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 それから数分の間、カイトと話していた。


 その中で、さっきまでの戦闘の裏話というものを聞いたのだが、実に巧妙で信じ難かい事だった、まず吸血鬼に斬りかかった時点で、その時点での殆どの状況を察知していたのだという。どうやったのかと言えばそもそも第一撃がそもそも普通に斬りかかったのでは無く。なにやら触れただけで相手の情報を抜き取ると言った、自分でもよく分からない特別な術を使っていたらしい。


 そこで驚いたのが、まさかボーイッシュが吸血鬼によって、狂気の術とやらを掛けられていたということで、今思えば吸血鬼の回復を手伝っているあたり、懐の広いイイ奴なんだなと思わせられる。

 その時点で、実はもうステレットは回復していたらしく。狂気の術は無事引き剥がせたらしい。それを聞くと、本当に彼女も凄い回復術師なんだろうと尊敬する。文字も教えてくれたし本当に博学な人なんだろう。


 それに、屋敷を半壊させたのも、瓦礫と分厚い砂埃で、彼女たちの安否を悟られないように壁を作っていたなんて言うのも驚いた話だった。個人の目では闇雲に屋敷を崩壊させているだけに見えたものだが……。それなのに自分ときたらそれこそ闇雲に屋敷を半壊させてしまっていたことが酷く恥ずかしい。



 「終わったよ」

 「ああ、助かった」


 そんなこんなしているうちに、吸血鬼の治療が終わったようだった。ボーイッシュがこちらに向ける表情はあまりいいものとは言えないし、それに今でも険悪な空気だった。


 「えっと……あの……」


 と、そんな空気にオドオドとして落ち着けずにいるステレットに、ボーイッシュが鋭い瞳を向ける。そんな、彼女の姿にステレットはシュンと縮こまるだけで、余計に緊張感が高まる。

 案の定ボーイッシュは「話しかけてくるな化物が」と言わんばかりに厳しい視線を送ってくる。

 しかし、それでも。


 まだ、全て分からなくても、分からないなりに伝えなければいけない。

 だからーー


 「すいません……えっと……」


 その名を呼ぼうとした瞬間に、言葉が出てこなかった。それは、この場において最悪の出来事で……。「名前を知らない」という、最悪極まりない事態であった。

 どうしようか、これでは仲直りすること以前の問題だ……一体全体どうすれば!

 そんな風に「えっと、えっと……」と渋っていると、苛立ちを露わにしながらボーイッシュが、優多の胸倉を掴み、シャウト。


 「はっきりしてよ!ほんっとによく分からない!初めっからそうだ!突然こっちに来たと思ったらへにゃへにゃして、それはまだ良かった。でも、何か隠してるみたいで、それでも何故か堂々としてて……!それで、急に不気味に感じて……!それで、弱々しいやつかと思ったら、全然強くて……わけわからなくて………………もう、わけがわからないよ……わけわからなねえよ!」


 いつもの彼女とはあまりにも見合わない、力強い口調に優多は、啞然とするばかりで、ただただ、真っ白な頭を動かそうとするどころか、ただ、それを納得するばかりで………。


 何というか……この感覚は久しぶりのものであった。だから、呆気にとられ、ただ、彼女の必死さに流されるままで……。


 「すいません」

 「だから!謝ってほしいわけじゃねえんだよ!」

 「だったら……」


 嘆く、彼女に優多も、彼女の胸倉を掴む手を優しく握りながら言い返す


 「だったら!何してほしいんですか!」

 「だから……だから何で、あんたは!優多は!そんなんなんだよ!何で……」

 「だから!分からないって言ってるじゃ無いですか!」


 その言葉に彼女の表情は啞然として、優多の不器用な伝え方に「違う……違うと」小さく細い声で呟き、弱々しく繰り返すだけで、優多はそれからどうしていいのか分からず困惑した。

 どうにも歯がゆい。このもどかしい気持ちをどうするべきなのか。

 優多は、考えに考えた。でも考えられなかったからーー


 『僕は、人間です!決して化物じゃありません!どれだけ僕が意味不明だろうと人間なんです!どれだけ強くたって、どれだけ知識があったって僕は人間なんです!貴方達の死を決して悲しまないことなんてないですし、どんな時だって助けます!ただ、あの時は必死だったんです。まだ……力の実感は湧きません。ですから、いつかきっと………助けます!絶対にです!』


 でも、それでもやっぱり変で、だけど、どんなに格好つけた飾りげのある言葉よりも、響くものだったから……。

 静かに、涙を流すだとか声を上げて喜ぶとかではないけれど、「うん」と一言置いてから。


 「ーー分かった。うん、分かったよ」


 と、ただ、静かに納得するのであった……。


 たちまちその場に冷えるような緊張感はすぐに解け、全員が全員、身に感じていた重苦しい空気はどこへやら……噓のようになくなってしまて、代わりにやってきたのは何時もの、気の抜けた暖かい空気だった。

 優多はそれからその場の数分程度時間差でへたり込む。やっとのことで彼女を納得させられた。そういった安堵で、心に余裕ができて、何かを忘れいる事にふと気づいた次の瞬間、急な殺気がーー


 


 ーー気づいたときには、咄嗟にその殺気の向かう矛先の盾になっていた。


 自分でも、その時点では頭が追いつかずにいたが、徐々に何が起きているのか納得できた。


 それは、たった数行のシンプルな答えだった。


 その殺気、謂わばクリオッドが、カイトの魔術をこじ開けて目覚めた。

 それによって、クリオッドが突発的な攻撃に走り、その矛先がボーイッシュに、未だ名も教えてくれない彼女に向かけられ、

 それを防ぐために、誰よりも彼女に近かった優多が、身体を張った。


 たった四行の、シンプルな答え。

 


 



 クリオッド(最悪)目覚めて(暴走して)しまった







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