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敵さん出てきてわーい

長くなっています、文字が詰まってます、今回は前回と同じく読みにくいです。お気をつけて


__人人人人人人人人_

>圧倒的読みにくさ<

 ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y ̄

目を覚ますと、そこは昨日ステレットと勉強した部屋だった。どうやらそのまま寝てしまったらしく、目もそこまで酷くはないがヒリヒリする。

部屋の中は薄暗く、カーテンの閉ざされていない大きな窓を見るとちょうど日の光が山の線に沿って輝いており、次第にあたりの雲を巻き込んでさっきまで夜闇一色だった空を鮮やかな橙に変化させるーー朝焼けだ。


そんな瞬く間に何百通りにも変化を繰り返す幻想的な空を十数秒、背伸びしながら堪能し、完全に早朝空模様になり欠伸を1回。

深く、少し長い欠伸である。

そして、それが収まると今度は、後ろからも同じような長く、自分よりも多分間抜けた欠伸が聞こえ、思わず跳ね上がってしまった。彼女がいるのを忘れていた。


「うぅ……ん……ここは……」

「おはようございます。すいませんがお時間確認させてもらってもよろしいですか?」

「……ふぇあ?わたしは……ッ!?優多っsっやん!?」

「おはようございますステレットさん。起床早々申し訳ありませんがお時間確認させてもらってよろしいでしょうか?」

「え!?え!な!えっと……え!?%⊂→〆∂☆」


戸惑って全く話が入ってこないようで、それよりもステレットはこの状況に理解できていないらしく、顔を赤くして戸惑うばかりであった。


それから少し経って、彼女もだいぶ落ち着けて思考の整理もつき、なぜ今のような状況に辿り着いたかという経路も把握し、まず顔を赤くしたまま申し訳なさそうに


「すいません……中々状況を理解できず取り乱してしまいました……」


と、謝り、続けて


「言い訳は……」

「聞かせてください」


優しく笑ってそう答えると、彼女は恥ずかしそうに、両手の指と指を胸の前で絡めたりして煩わせながら


「その……寝起きに……優多様がいたので…………その……物凄くだらしなかったので……なんていうか、それにパジャマでもありましたし……なんか恥ずかしいです……」

「大丈夫ですよ、どこも気にしてません。それに、僕の名前に様なんてつけないでください。そんなに僕は偉くはないですし貴方達のよりも役立たずなんですから」


優多は少し困ったような仕草で、でも微笑んで返した。そして少し間をおいて、「取り敢えず着替えましょうか」と、時間の確認は後にする。

ここは、ステレットの部屋なので、自分の部屋に行こうと部屋を出る。いや、その前に彼女に昨日のことのお礼を忘れていた……


優多は、ドアの前で振り返り、彼女の名前を呼び、一言。


「ありがとうございます」


それだけ言って、彼は部屋を出る。


そしてその瞬間、扉の音が静かに閉まった瞬間、その部屋に、彼女の部屋には、静かな沈黙と寂しさ、虚しさだけが残った。

本当にどうしようもない、解決策なんてないただ沈んでしまいそうなこの気持ちをどうすれば良いのか……


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


案の定、外の景色から見て予想は当たっていた。

廊下には、深い沈黙の他に、窓辺には灯りが纏っており、壁側には飾ってある絵画もまともに見えないほど深い闇となってる。

音が一切聞こえないのと、前方も闇に包まれ歩いても歩いても景色が変わらないのに酷く不気味さを感じる。


自分の部屋に向かいながら優多は、あることを思う。

それは、何故いちいち自分の名に様と付けられているのかと言う疑問である。

そりゃ、最初から疑問であったが、今改め色んな考えを巡らせてもそれに見合う事柄が一つもない。

故に何故そうなるのかが全くわからないのである。

別に僕が、元いた世界で何か強みになるものがあったかと言われれば、全くないわけでもないのだがでもそれ相応かと問われれば、皆無である。


いや……しかし、「能力」も含めて考えてみればどうだろうか?僕本人でもまだわからない事だらけだが、普通の能力よりも超越した部類に入る、いわば強力だということは、昨日の1件で破滅しかけたため身をもって知っている。

だがしかし、それだけなのに、僕がこの「重力を操る能力」と言うだけなのに何故、ここのメイドさん達は……


一旦、考えるのをやめた。寝起きだからか、これ以上頭を回そうとは思わなかった。頭が少々痛い。

優多は、歩みを止め、軽く目を閉じた。すると、不思議と何故か昨日教わった事が脳裏を巡った。


ーー今、存在しているこの空間を、空気というより柔らかい粘土と考える


右手を胸の前にあげながら、心の中で唱えるそれは、無限に教えてもらったこと。

しかし問題がここで一つ生じてここから先何を言われたか覚えていない……


でもできる気がする。そんな根も葉もない根拠だが、優多はそこで何となく直感で。

自分でも分かっているのだが、一回死にかけたのである。体が塵にすら残らないレベルで、

そんな僕でも間一髪助けてくれたのが、無限である。

だが今は、その助けてくれた無限すら居ないのである。しかも前回は、暴走を予想した庭でのことだったため館内を巻き込んだ大事にはならなかったものの、今は、館内である。


さて、普通の人間ならば、死の恐怖を味わいトラウマになってすぐには歩けず数日、中には数週間寝たきりになっても仕方ないだろう。

なのに彼は、陣之内 優多は普通でいるどころか、またそれをやろうとしているのである。


何故、また死ぬかもしれないのに、迷わずやるかと言えばそれは彼が、寝起きだからである。

否、彼は、優多は、この能力を使いこなすための最低限の感覚を掴んだのだ。






故にーー爆発した



正確にいえば、その音のない周りではなく自身に来る爆発が起こった。一瞬何が起こったのか優多には理解不能だった。しかし数秒してこの状況に近い現象を脳裏をよぎった。


そう、ビックバンだ。宇宙ができるきっかけという程度にしか僕には知識がないのだが、確かあの爆発には、音がなかったはず。

あくまで、個人的な説ではあるのだが、音は、酸素がないと響かない。そして、ビックバンで、いくつかブラックホールが生まれたらしい。

ならば、酸素含む他の大気を僕の周り、360度、小範囲を器用に重力で圧縮し、その際、光速よりも早く動くため、僕の周りで摩擦が起き、小さな爆発の集まりで結果的に大きな爆発を起こしたことになる。


何を言ってるかわからないと思うが、自分も何をされたかまったく分からない。

ちなみに香花界や、その他の世界にも宇宙という空間は、あるところはあるらしい。

しかし、熱くなった脳が、冷えた後に思い返せば、ツッコミどころが満載で、これでは物理現象が捻じ曲がっているのではないか?

科学というのは不思議である。


それにしても痛い。今日は、色々と忙しい……まあ、これは自分が引き起こしたことだということは、理解している。

しかし、こうも衝撃が僕だけに来るというのは、想定していなかった。

予定であれば、向こうの壁を重点に切り替えて落ちてショートカットしようと思ったのだが……

名付けて「重力方向切替・前」なんつって。

でも、この失敗のいい面として捉えるのなら、身体の治癒能力が驚くほど上がったのを確認できた。

だが、試していないだけでその気になれば、これだけではない気がする。


優多は、一旦周りを見る。廊下が、さっきよりも明るくなっており、窓の景色は更に眩しくなって、雲ひとつない青空が広がっている。


フラフラになりながら、立ち上がって窓の景色を眺めていると、ふと後ろ側から扉がゆっくりと軋む音がして、とっさに振り向くと、そこにいたのはもう仕事着に着替えたシフィアであった。


優多は少し驚いた後申し訳なさそうな表情になって


「申し訳ございません……少々騒がしくしてしまって」

「いえ、大丈夫ですよ。部屋の外に何か感じて出たら、まさか優多さんだとは思いませんでした」


と、にこやかな表情で返す。

しかし危なかった。彼であれば、まだ大丈夫だろうまだ彼には、気づかれては困る……だが、ふと思う。

流石に仕事服はやり過ぎた。

しかし、どうやら彼はそこまで聞いてこにだろう。何故だか分からない。でもそれが唯一の救いであった。

まだ、彼らには知られてはいけないのだからーー


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


時刻は、丁度4時を切ったところであった。


優多とステレットは、共に仕事着ーー黒を基調とした黒く、あまり派手でもなく落ち着いた雰囲気を兼ね備えた古風なメイド服、というよりは質素なエプロンドレスとでもいえばいいのだろうか?

逆に僕の格好は、それこそ執事のような立派なタキシードを着ているわけではないものの、綺麗な肌触りのいいYシャツの上に、左胸辺りに紋章のような、複雑な花びらが並びよく分からないと文字と一緒に縫われた綺麗な刺繍が施されてあるその、朱色の布製のベストはまだ着用してからまったく日がたっていないので、変な癖や毛が逆立つといったことは今のところ表れていない。

 そんなよくいるような学生のような服装に加え、衝動で持ってきてしまった、かつて倉庫の奥に眠っていた刀を下げている。

 ……なんだか部屋に置いていくのは、少々心配だったため護衛用にということで、腰に下げてきたのだが、なんとなくそんな自分がかっこよく見える気がした。



 「さて……どうしましょうか?仕事が始まるまでまだ少し時間がありますけどそんなお茶を入れてゆっくりするほど時間があるわけでもないですし……」


 彼女は、片手を頬にあて、考える素振りを優多に見せる。

 ふと彼女の脳内に過る。今の状況を視点を変えてみればそこは個室、それも男女二人きりである。

 するとたちまち彼女の顔は、湯気が吹き出そうなくらい熱く真っ赤に染まっていき、徐々に心臓の鼓動がうるさくなっていき、脳内は激しく混乱して状況の整理すらできなくなって、心の中は勝手にはしゃいで落ち着いてくれない。


 彼がそばにいる。それだけで顔の熱さが何もせずとも感じるほどに増し、ついつい小さな両手で隠すように覆ってしまう……

 彼の顔は、どこか子供らしいあのあどけなさが残って、笑うととてもかわいい……とても優しく、丁寧で、暖かく微笑んでくれるところはやっぱりそっくりで、複雑な心境ながらも何故か安心してしまうのは何故なのだろうか。

 気づけば、顔の熱はとっくに覚めており自分の表情が、瞳が少し虚ろになってるきがして、手のひらでそっと撫でる。途中、目の奥がジワリと勢いよく溢れ出そうで、うるんだ瞳を無理矢理どうにかしようと強くこする。


 「……大丈夫ですか?」


 しかし、彼は心配そうにハンカチで涙を拭いてくれていた。一滴一滴こらえられない涙を受け止めるかのように彼は、ハンカチで涙を拭いてくれた。

 ただ、それだけで、その言葉とそうしてくれるだけで、私は……私はーー


 「そういえば、ステレットさん。シフィアさんから、今日は二人っきりで別館のお掃除らしいです」


 彼の突然発された言葉にステレットは、今の状況を今更ながら思い出して、涙がこぼれるのに代わって、また湯気が出そうなくらい、顔が熱くなった。

 完全に感情が暴走したことに、ステレットは後悔し穴があったら入りたい、なかったら作りたい、そして埋まりたい気持ちでいっぱいだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


日差しが強くなってきた頃、優多たちは朝食を終え、ブラシやバケツ、たわしや雑巾などの掃除用具を担ぎながら別館に向かっていた。


 「それにしても……」


 優多は、それぞれ前を歩く彼女達に問う


 「貴方の荷物をすべて持つなんて聞いてませんよ……ツンデレさんとボーイッシュさん」

 「変な風に呼ばないでください!というか私って名乗っていませんでいたか?」

 「男なんだから女の子には優しくしないと……昔の偉い人は言いました『男は女を護る為に存在す』と」

 「昔の男女の価値観なんて違うんですから今と比較するのは間違っていますよ。因みにだれなんですか?それ言った人」


 自分に適当に付けられたあだ名に雪女であり妖である彼女は、戸惑う。そんな彼女の横で大欠伸をしながら先頭をきるボーイッシュの言った言葉に突っ込む。

 そんな彼女の都合に合わせたような実在するのかも疑わしい迷言に、呆れたような態度で優多はそう返すと隣で一緒に歩いていたステレットが答える


 「アルコリブ・アルフェリト。3900億560万年前の出身世界不明、障害不明、消息不明、不明だらけの革命家であり偉人です」

 「本当に実在していたんですね」


 実在しているのは分かったが、地球とは歴史のスケールが比にならないぐらい大きすぎてしっくりこない……そういえば、昨日ステレットの授業の中で地球は、割と最近にできた世界と言っていた気がする。

 ならば、宇宙空間と捉えればよいのだろうか?というかそもそも、今までの常識にとらわれてはいけない気がする。


 「ってか、なんで私達が優多の仕事の手伝いをすることになったの?」


 ふとボーイッシュが言ったそれは、自分でも疑問に思っていたことである。今当たり前みたいにこうやって一緒に別館へ掃除に行こうとしているが、元は僕とステレットだけの仕事だったはず。なのにどうしてまた二人増えているのだろうか?


 「それは、シフィアさんから言われたからしょうがないでしょ?」


 そんな疑問も、ボーイッシュが問いかけたツンデレメイドの言葉で解消した。しかしなぜ?と追求しようとしたのだが、やめておくことにしたのは、すぐ目の前に立派な建物が姿を現したからである。


 木々で覆われた山道を抜けた先には、本館と同じく白い壁が反射してまぶしい。森というよりは、林の中に建つその2、3階建てにも思える別館はどこかで本館よりも素晴らしく思った自分がいる。


 一同、立ち止まってそれを見る。

 林を抜けると、立派に見える別館の次に視界に飛び込んでくるのは、綺麗に磨かれた4、5段の石階段でそれだけは本館にないので全員が軽く驚く。


 「でっかいなあ……」


 ボーイッシュが気持ちよく体をの伸ばしながら言う。しかしまだ袖の短い洋服を着ている二人を見ると、少々鳥肌が立ちそうになる。

 また、大欠伸をすると、彼女はブラシと雑巾をかけたバケツを持って「んじゃ私は、ステレットと外やるね」と言ってステレットの手を引っ張って行ってしまった。なのでそこに残ったのは、僕とツンデレメイドの2人となった。


 「……えっと、それじゃあ僕達は中ですね、行きましょうか」

 「……あ、ちょっとーー」


 優多は微笑んで置いといた掃除道具を全部持ち、館内へ入って行こうとするが、彼の行為に彼女は困惑しながら呼び止めるが、優多はまた微笑んで


 「大丈夫ですよ。荷物は僕が持ちますから案内お願いします」


 と、その言葉と 表情だけで、まるで何の見返りも求めないような風で私は一瞬それを否定した。彼は何かを企んでいるのではないか?きっと何か求めてくるんじゃないか?と彼のその行為を受け入れることは出来なかった。

 しかしここに来る前までこの掃除器具を用意して来てくれたのは誰だったのだろうか?思い返してみれば、進んで自分から荷物を持ってくれていた。あのステレットの親友の言葉の彼の反応には少々引っかかるが、でも、自分から持って行ってくれていたのだとしたら……

 そう考える彼女の顔は、彼が背中を向けたとき、きりっとしまった顔が笑みとともに緩む。


 ーー初めて彼がかっこよく見えたから


 彼を見れば、堂々地を踏みながら館へ向かう彼の姿が、いつの間にか勇ましく思えて何故か少し気恥ずかしい……しかも、さっきよりも明らかに心臓がうるさい気がする。


 彼女の頬は赤く染まって、少し目もうるんでーー


 「そういえば、年っアグッ」

 「今は向かないでーーーーーー!」


 綺麗な左膝小僧の溝内からの右足の回転蹴り、そして右ストレートのコンボ。で、優多は吹っ飛んだ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 別館内の構造は大体把握した。3階まで吹き抜けである大部屋が1つと物置部屋が2つ。主構造は、吹き抜けで、廊下が大部屋をぐるりと一周囲んでいるため、日の光は一切入らない。

 しかしその代わり、壁には分厚い本棚が、天井に届くほど高い本棚が立っている。それも壁に沿うように立つそれ一つだけではなくて自立した本棚が5層立っている。しかし、本棚はそれだけじゃない。2、3メートルはするだろう高さの本棚が、高い本棚に対してT字に配置され、2つ並んでいる。


 しかし、それでも広いフロア。まだ、市民体育館並みの広さはある。


 その広々とした空間の中央部には、円柱状の土台が、段々と積みあがっており、その上には、壁際の本棚並みに高く横幅も同じくらいに広い、とてつもなく巨大な円状の自力で動くオブジェがある。


 その円内をよく見ると何十何百と重なったり、形、大きさ、多種多様な光る輪のようなものが何の支えもなく浮かんでおり、

 しかもその輪に沿って無数の様々な大きさや色の球が一つ一つ意思を持ったかのように同じ動きをしたものは一つもなくて、速かったり遅かったり、回っていたりあらゆる方向に動いていたり……

 まるで……銀河を宇宙空間に広がる無数の星をすべて凝縮したものを見ているかのようだった。

 細い輪は、天体の軌道を表しているのと同じく、その球は、天体が輝いていたり、その輝きを反射していたりするのと同じくで、しかも、一つ一つ自ら何か主張するかの如く光り輝いている。


 落ち着きがあるというか、暗いというのか、しかし光が無いというわけでもない。しかしこの部屋に入ってこの巨大なオブジェが視界に入った時は、圧倒的かつ壮大に感じた。

 だってそれ以外に目立つものはなかったんだからーー



 その大きなオブジェに圧倒され、しばらく感慨に浸り入り口で棒立ちになっていると、ツンデレメイドが珍しそうに声をかける。


 「そんなに珍しいものなんですか?」

 「……そうですね。昨日の朝食だったりこんな大きなオブジェだったり、驚かされてばかりです」

 「……」


 冷気がかかって少し寒い。しかし、彼女の顔を見ていないはずなのにまた笑っている気がして振り向いたーー彼女も僕と同じように逆側に振り向く……

 完全に笑っている。苦笑いを浮かべながら僕はあることを思い出した。


 「そういえば、物凄い今更におなっちゃうんですけどお名前をきいてもいいですか?」

 「え?名前って……どっちの?」

 「勿論、貴方の名前なんですけど……」


 彼女は、戸惑いながら自分とオブジェを交互に指をさす。

 うっすらと笑みを交えて言った優多は直後少々空笑いをした後、苦笑いを浮かべながら突っ込みを入れる。


 「やっぱり……言っていませんでしたか?」

 「はい……自分も最初疑ったんですけどね」


 そう言って彼は頼りなくにへへと笑う。別に変な意味ではない。

 そして彼女は、もったいぶらずに自然な装いで自分の名を名乗る


 「……ゆきのはな」

 「えっと……どっちが苗字なんですか?」

 「まだそんなの明かしませんよ、ただ今は、雪と華で雪華と呼んでください」

 「わかりました雪華さん。それにしても……たとえ仮名だとしてもとても貴方らしい言葉選びですね」


 優多は微笑んで言う。

 が、少し彼女には何のことか理解できなかったのか、ちょっと機嫌を損ねたように言葉を返す。


 「頑張って勉強したんです。私らしいのは当然じゃないですか。そもそもどこかおかしいんですか?笑っていますけど」

 「いえいえ、わざわざ勉強してくれたんですね。ありがとうございます。それに笑っているのは別に悪い意味ではないんですよ」


 彼女を見ると、時が止まったように、ポカーンと口を中途半端に開いて僕を見ていた。

 そして次の瞬間口をあわあわと震わせ、目から涙を浮かべつつ、さらに頬が見るからに熱く火照る。


 「大丈夫でーー」

 「べっべべべべべ別に、感謝されるようなことしてないし!なに謝ってんすかっ!ゆうたさんっ!」


 だいぶ取り乱しているようだった。

 多分、また殴られるだろうと思っていたのだが……


 「さ、さあ!掃除しますよ!ああ顔が熱いです。なんででしょうね!」

 「……」


 雪華はその言葉を残し、自分の分の掃除用具を持って暗い場所へ行ってしまった……



 優多から、逃げるように分かれてしまった雪華は、少々複雑な気持ちがそのまま表情に出てしまっている。

 このホールの東側と西側は、壁ではなくそのまま三階に分かれた階層なので本棚の裏側に小さな空間が廊下のように続いている。

 そこに置かれた数多く並ぶ本棚の陰に彼女は、寄っかかってーー考える。


 少し彼に誤解を招いていないか?恥ずかしいあまりに飛び出してきて、今考えなおせばその事に対して情報が欠落している気がする。

 戻って早く誤解をしているのか確かめなければならない。不十分であれば捕捉し、誤解しているのならすぐに謝って、訂正しなければならない。

 しかし、今どうしても彼の顔を直視することができない。さっきまでの彼の表情が脳裏から離れないのだ……まったく、どうすればよいのだろうか?


 雪華は本棚の陰で頭を抱えていたーー


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 ーー気づいたら芝生の上、大きな木の下に横になっていた。

 

 目が覚めてそのまま目を閉じずに静止する。空には、透き通るような青い空に風が弱いせいか微動だにしない雲。ゆっくりと視線を下に降ろしてみると木々が生え、芝が生え、奥を見れば不思議と吸い込まれる感覚に陥ってしまうような……林が広がっているが、暗いわけではなく明るい。

 至る所に光の柱が立ち、気が揺れると鮮やかにその柱も形を崩し控えめに揺れてまた新しく形成する。幻想的なその風景は葉がざわめきを立てる音がちょうど似合ってる。


 何も考えていなかったその脳が冴えてきた頃、体を起こしてから眠る前の記憶を探る。


 ーー別館の清掃が終わり、疲れからか少し眠ってしまっていた。


 不意に腰に何か違和感を感じて見たら、刀であった。せめて外さなかったのかと、少し戸惑ったがあまり深くは考えず、腰のベルトから鞘にかけたベルトを外して刀をそばに置く。


 力を抜いて、一旦リラックスをして息を吐き、深呼吸。心を落ち着かせる。


 そういえば、雪華たちの姿が見えない、先に帰ってしまったのだろうか?


 正座をしたまま、黙想をしていたところ、早速、雑念をしてしまう。そもそも、まだ、こっちの世界に入って1週間も経っていないというのに、それこそ座禅やら黙想やらで心を落ち着かせられるかと言ったら不可能だろう。瞑想ではなく迷走ならとっくにしている。

 ももの上で組んだ手が震えていたり、指をちょこまかと遊ばせているのが証拠である。

 

 しかし、こんな状況下でも心を無にすることや、自分の心を整理することはできないにしろ、そんなことをしている中で思うことはたくさんあるということに今、この瞬間、分かった気がする。

 集中していると、分からなかったことも今では感覚でだが、分かったような気がする。


 今後何をするべきか、どうするべきか……


 色んな考えが入り混じってこんがらがって、一つ一つの答えは分からないにしろ、でも全部を通してならなんだかんだそれなりに分かるような気がする。


 『ゆっくりでいい、ゆっくり自分の求めた、自分が望んだ答えを、ゆっくりゆっくり探していけばいい』


 ふと、吹いた風に話しかけられたような気がして、優多は辺りをキョロキョロと見渡す。誰もいないのに話しかけられた気がして背筋が凍った。だがしかし、そうだな、と少し笑う。

 

 ゆっくりでいい……か、心の底から安心させてくれるような言葉を幽霊だか何だかわからない得体の知れないものが言ってくれるなんて、何に恵まれてんだか逆にもう堕ちてるんだかよくわからないな……


 またいきなり吹く風に、今度こそといった風にまだ青い葉が枯れかけの葉と一緒になって落ちていく、そんな切なさを感じる光景をあるはずもないのに意味深に感じて、何かがまた一旦幕を閉じるのを肌で感じたような気がした。

 葉がまだ乾燥していないにも関わらず、不思議なことにかさかさと音を立てている。未だ暖かいこの世界では、正午というべきなのか定かではないが、まあ多分、正午だろう。ーー25時


 普段なら眠たくてもおかしくない時間である。しかしまったく眠くならない……

 そういえば、無限から言われていた気がする。なんて言われたのかは、ちゃんと聞いていなかったから完全に思い出すことはできないが、それぞれの世界に身体が対応するようになるーーだったかな?

 完全にご都合主義という漫画やアニメの設定のようで、あまりに具体性がなくその時信じることはできなかったものの、昨日と今日の現在を通して完全に理解した。これじゃあ、何でもやり放題だ、と。


 優多は、少々虚しさと複雑な気持ちを感じながら、そこから前に歩を進める。

 ーー彼女達を探すため


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 雪華達は、本館周辺で1分も経たないうちに発見した。


 「正午のお茶会はたのしいですか?」

 「残念、惜しいけど今ちょうど26時になったばっかりですよ」


 雪女のメイド、即ち雪華と、三つ編みの似合うメイド、ステレットは、花畑の上で、レジャーシートを敷き、少し大きめのミニテーブルや、食器の入ったバスケットがその上に置いてあり、多分、食後のティータイムだろうか?

 しかし、一人だけいない。


 「あの……ボーイッいや、ステレットさんの親友はどこへ?」


 多分、ボーイッシュなんて言葉は伝わらないだろうから、雪華が使っていた言葉をそのまま使わせてもらうことにした。

 すると、ほんの少し戸惑ってから、ステレットが答える。戸惑ったのはやはり僕が言ったことのない言葉を言ってしまったからなのだろうか?


 「えっと……彼女のことでしたら、お茶会なんてやりたくないと言って館の中へ入ってしまいましたよ。彼女のことですから、今頃……雑用か何か先輩にやらされているんじゃないんですかね?」

 「なんていうか……その、ドンマイですね」

 「まあ今頃、先輩の目を盗んで逃げるけど、気付かれて館内を走り回っているんでしょうね」


 結構、やんちゃしているみたいだった。そして彼女のことだ、3階の窓が2、3窓が全開になっているのに察しが付く。

 そして、次の瞬間、大きな音とともに窓から勢いよく飛び出してきたのは案の定日焼けしたのか褐色の肌が目立つ女の子、ボーイッシュメイドだったーー1同、啞然。


 飛んだ際、瞬く間に窓を閉められ、彼女は、大胆にそして、綺麗に整えられた芝生を浅くだが半円状に抉って着地した。

 そして、第一声が


 「あ!丁度いいところに主人公が!匿ってくれ優多ああああ!」


 だった。


 「お願いだよ!あの先輩滅茶苦茶怖いんだよ!だから優多が、どうにか先輩の怒りを沈めてきてよ、あの先輩だけじゃなくてみんなもそうだけど、優多のこと大好きだから何とかしてよ!」

 『ちょっ、何言ってんの!』


 ステレットと雪華は、二人して顔を赤くしながら同じ突っ込みをする。

 その横で優多は、1人の相手をしてるが、彼女よりも、視線と、尋常じゃない何か圧倒的な何かを感じていた。

 それは、決して顔にだすことはなかったが、決してそれが余裕だからとか、断じてない。それは、初めて感じるからこその恐怖だと瞬間的に分かった……

 しかも、それは、「気」といえばいいのか「圧」といえばいいのか「オーラ」と言えばいいのかわからない「何か」が今、高速で地数いてきているような気がしーー来るッ!!!


 反射的に優多は、ボーイッシュが掴む腕を服から引っ剥がし、今は、加減なんて考えることもできなったから、吹っ飛ばしてしまったこれでも「力を出したとき」のほんの微力だ。

 彼女から何か言われた気がするが、気にしている時間はない。

 1歩踏めば、そこは彼女たちからよく見える位置であるだろう。この1歩で何メートル進んだのかはわからない。

 そして、優多は唖然とする彼女達の前で大の字になりその刹那振り絞ってーー叫ぶ


 『伏せろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお』


 次の瞬間、とてつもない衝撃が全身を刻むように襲いかかり、優多はの半身はぐしゃぐしゃにつぶれながらも、ギリギリ心臓が巻き込まれなかったことを安堵しながら吹っ飛んだ。

 

 とてつもない衝撃の次は、とてつもなく不快な感触で治っていく自分の四肢であった……

 何故かもう、ここまでくると恐怖を通り越して、まあそんなもんかという、何とも言えない押し殺した感情だけである。


 ーーもう何もかもぶっ飛びすぎて脳がついていかねぇ……こうなりゃ、もうそういうことだ


 ーーまったく……いきなりすぎるのはやめて欲しい。






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 優多の叫びに思わず伏せるも、衝撃波にステレット達も吹っ飛ぶ。

 何がおこっているのか?それすらいきなりすぎて彼女は困惑し、思わず彼の姿を探す。あの瞬間身を盾に守ってくれた彼の姿を。


 しかし、その場を見渡しても彼の姿は見当たらず、その代わりといっては信じ難いその光景は、生まれて初めて見る、彼女の、麗城寺 雪華の戦闘態勢だった、自分と同じ仕事服なのに無残に至る処が破け穴があき、長かった袖は吹き飛んで、スカートの裾は短くなって、原型をとどめていない。

 しかも、腕や足など晒された肌は酷く傷だらけなのだが、驚くべきところはその負傷した半身は、頭部を巻き込んで白い不透明な氷に覆われているのである。よく見れば、傷口からうっすらと白い煙が出て、徐々に小さな傷からふさがっている。


 ふと、彼女の足元を見ると、驚くことに氷が張られている。そして、自分の足元に目を向けた瞬間驚きよりも恐怖が体を支配した。ーー地面を這うように張った氷自分の足元ぎりぎりで止まっているのである。

 そしてこれよりももっと驚愕すべきその状況を知ったのは、砂埃なのか細かく削れた氷が舞ったのかもよく分からない、そんな煙のような細かい粒子状の物体が集まったそれが消えてなくなり、辺りは濃霧のが晴れ、いつもよりも晴々に感じるように辺りがはっきりと露になる。


 「!?」


 またも、その光景を見た彼女達は、同じ反応を見せた。

 ーー雪華の唸る波上に凍った氷は、微塵もその上に座っている彼に効くはずがなかった。


 彼は、笑ってその大きな手のひらでも収まらないぐらいの氷のかけらを手で遊ばせながら口を開く。


 「残念ながら君は、実戦経験が少なすぎる。ただ膨大な力を持っているだけ……」


 ーー『妖』なのに勿体ない

 その言葉を彼から聞いたときはもう目の前に彼が来た時であった。そして初めて殺気というものに触れた気がした。

 助けを求めるなんて考えられなった。考えさせてくれなかった。ただ、考えられず恐怖でいっぱいいっぱい。反撃しか脳裏に浮かばないということに気が付いたのは、ふと突然、冷静に考えられるようになってからだった。

 しかし、そのことに分かったとしても自分の考えていることや今の状況からして、この突然現れた得体の知れない、気味の悪い少年から、どっちみち逃れる方法はない。

 優多は、最初の打撃で大怪我を負っている。あの瞬間、見てしまった……あれでは骨折や内臓の破裂だけでは済まないだろう。だから1秒でも速く、ここから逃れなきゃいけない……

 そして、1秒でも早く報告しないといけない……


 不意に仕掛けてきた彼の第一撃を間一髪かわし、扱いなれていない自身から生み出る氷で第二、第三と続けて放ってくる彼の攻撃を受け流すが、

 今の雪華の脳内はパンク寸前で、事の処理が追いついていないのである。元々不可能な状況からどうにかできないかと、処理が追いつかないまま複雑な思考をしながら攻撃をかわし続けた瞬間、とうとう何も考えられなくなり焦りだしたのは、わずか第3撃を交わした直後である。

 そして次の瞬間悟った


 ーーあ、死ぬ


 

 次の瞬間後ろから物凄い勢いで引っ張られ……いや、これはむしろ落ちる感覚に近かった。何が起きたのか悲鳴をあげる暇もなく包容感に包まれた気がして……


 「ナイスキャッチィィィィィィィィィィィィィィィィィッ!!」


 彼の叫び声と優多の顔がそこでいっぱいだった。目を開けたら視界には別の景色が広がっていることに動揺を隠せず、唖然としている雪華。


 「お待たせしました雪華さん……いや、雪華≪せっか≫さん!ありがとうございます。あとは、僕に任せてください」


 そう、満面の笑みで言うもんだから、心配するよりも、安心して任せることができた。まるで行ってらっしゃいとでも言うかのように自分も安堵の笑みから確信の笑みで返事をする。

 するとすぐにそのまま眠ってしまった。安堵の笑みのままーー


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 対戦相手に体を向けた優多は、まず軽く深呼吸1回してから口を開く。


 「まずは、自己紹介から始めませんか?礼に始まり礼に終わる。武道の心得ですからね。剣を混じらわせるのーーおっと人の話は相手の目を見てよく聞くのも作法の一つですよ」


 彼は、優多の両目めがけて、振ったはずのナイフがいつの間にか抜かれた刀で静止されたことに驚愕する。優多の表情は、さっきから変わっていない。

 そう平然といる優多を見て何を思ったのか彼は優多に向かって言い放つ


 「……僕の名は、クリオッド・アデラ。この香花館を占領しに来た」

 「占領ですか?」


 優多は、首を傾げ聞き返すと、クリオッドアデラと名乗る白い金髪の優しそうな彼は、少し戸惑いながら……まるで小さな子が必死で何かを弁解するかのような仕草で言い返す。

 そんな風に態度が少し小さくなったのも優多がさっきまでののほほんと柔らかい笑みを浮かべていたのに対し今アは違うのだから。

 

 「そ……そうだよ!占領だよ」

 「……」


 ため息をついて優多は、彼に歩み寄る。ただ、無表情で何も考えず、1歩1歩着実に二人の距離は縮まっている。

 そんなただ歩いているだけなのに、彼にはーークリオッドには優多がこっちに来るのに何か違和感を感じる……


 そして、ふと聞こえた言葉はボソボソとした声で、しかし、はっきり聞こえた。確かに言ったーー能力発動と……


 「!?」

 「……」


 不意に落ちる感覚が、クリオッドの身体を支配する……

 彼自身、感じるそれはもう、今まで体感したことの無い平面の世界ではない、全くの別のモノで正直何が何だかよく分からない。

 しかし、落ちているということだけに焦点を当てれば彼の能力なんてもう一瞬の思考で理解した。故に、クリオッドの勝率は、クリオッド自身完全といわんばかりに確信したーー勝てる


 そして、彼は、緊迫した表情から、口を裂けんばかりに気味悪く笑ったのは、文字通り優多の目と鼻の先でーー自身の能力『逆≪さか≫の状態にする』を放った。


 「逆術「クレート」ォオ!」 


 例え、僕が引き裂かれようと、君さえ見ていれば僕は死なないーー


 クリオッドはやり切った表情で確信した。彼を見たのだから、互いの配置は逆になる。故にーー

 

 「!!」


 今一瞬、何かを感じ、後ろを振り返る


 「ーー優位なのは残念ながら貴方ではなく僕ですね」

 「ンナッーー」


 ありえないと言わんばかりにクリオッドは、驚愕の表情を見せながら転ぶ。


 「そんな……嘘だろ……立場を逆に……逆に……」


 ーーしたはずなのに

 まさか能力2重持ちなのか?……それしか考えられない。だって、あんな速度で移動するなんて見たことない……

 どうすればいいんだ?降参?馬鹿なのか?今まで信じてくれた華日様に逆らうのか?致命傷を負わせるって約束なのに、これじゃあ手も足も出ない……


 クリオッドは悩む。どうすればいいのか。この状況下において、一番の最善策は何かと、その場にある限りなんてわからないこの時間を盛大に使い自問自答する。

 答えなんてあるはずもない自問自答を繰り返して丁度視覚内にあった自身の首から垂れ下がった懐中時計を見ると。さっきまでとほとんど時間がたっていないのである……


 これが何を意味するのか、もはや、クリオッドは、考えることもできず。最後に導き出した答えは『最後まであがく』ということだった。

 彼のために、あの日信用してくれた華日という女性の願いを叶えるために僕はーークリオッド・アデラは、最後までこの人に立ち向かわなければいけない。善悪だなんて今は、関係ない。悪だろうと僕は、遂行する。


 クリオッドは、真っ直ぐ自分の目を見る優多を見てから立ち上がる。


 「一つ……いいですか?」

 「なに?」


 少し顔つきの違った彼を見優多の表情は少し曇る。甘い考えなのかもしれないが、それは、何もかもが初めてであり、どうして良いか分からなくなったからなのかもしれない。

 初対面なのに、何もしてないはずの彼女たちに刃を向け確実に雪華さんに至っては殺しかねなかった。館も破壊し、彼は、やりたい放題だ。

 しかし、彼は、少なくともそのようなことをやるような人ではない。それは、彼の未だに迷った瞳を見れば簡単にわかる。

 このような事をするのにはきっと何かしらの理由がある。だからーー


「戦うのをやめてください……諦めてください」


 明らかに挑発的な内容だった。勿論、その言葉に、クリオッドは怒りというより衝撃に体を支配されるという方が近かった……

だから彼は、瞬間的に術式を体内の魔力に変換し展開させた。


 ーーお前のような奴に何がわかる


 「イェァリャ=イリヤ……」


 彼の声のトーンが下がった次の瞬間、目の前現れたのは白と黄の光。

まばらに散らかったようで実は、全て一定的な間隔

保たれた弾幕。隙間なく降りかかってくるそれは、優多に多少の驚きと興奮を与えてくれた。だが、この弾幕の壁をどう避ければいいのだろうか?


ふと横切る数百という弾幕に目を疑った。


 それは、展開された弾幕が優多の方へ向かっていき、綺麗に外れるということだった。


 何百何千と打たれる弾幕はかすりもせず、その様にクリオッドは驚愕。自身の震える手を見るその目は、死んでいて両手を脱力させ、

虚しくも、展開された弾幕はあっけなく消えてなくなり。その場に残ったのは、静寂と煙だけだった……




 この世から音が消えてなくなってしまったのかというぐらい静かなその空間を、煙が去り始めると優多が口を開く。


 「現代魔法 基礎基本法 環式円形魔法円 初籍 第17巻 第5章 イェァリャ=イリヤ」

 「……」


 優多は、クリオッドにゆっくりと歩み寄りながら、別館での掃除の終わりに、全巻読んでいたのをここぞとばかりに発揮する。嫌味に近い気がするが、そこは目を伏せる。


 確か書いてあった内容は簡単に言うと

 「この魔法は基礎的であり展開するのはそんなに難しく無いものの、安定度・精密度・強度はいかに精神が乱れていないかが非常に重要でありながら、中々それが厳しく判定されるため、体内魔力の安定しない初心者には非常に扱いにくい魔法、故に基本的にその頃この魔法を使える人はいないので実戦的には意味がない」

 だった気がする。昨日本格的に習ったi文字とハイ文と言うものだけで構成されていたので多分、訳はこれであっている気がする。


 しかし、この文面から見るにクリオッドの弾幕攻撃のあれはつまりはそういうことなのだろうか?

 だとしても、残念ながら然るべき対処がまったく思いつかない……

 下手に声をかけるにもいかないが、しかしそれでも彼は説得に応じてくれるのでは?


 そんな甘い考えが、彼の頭を過ぎると、彼は、そのまま、何の警戒もなくクリオッドに歩み寄る。



 ーー次の瞬間とは、まさに九死に一生の瞬間のそれであった。



 ナイフが、目の前を、文字どおり目と鼻の先をミリ単位だろう距離で横に流れていく。

 しかし、この場合、単にクリオッドのふるったナイフがその場から自分の目元に届かなかったというわけでは無い。

 今さっき反射的に……いや、下手したらそれ以上の予測、それよりも勘が働かなければ必ず目がやられていただろう。


 その時、自分でも脳内が恐るべき処理速度でこの状況を焦りを通り越して冷静になったのが分かった。

 今やるべきこと、クリオッドを一時戦闘不能にさせる。故にーー


 ーー半殺し


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 ナイフが目の前で横に流れる瞬間、その過ぎ去る1秒がまるでスローモーションかの如く、時の流れが過ぎ去るのを感じた……

 その遅く流れる空間の中、冷静になりながら丁度視界に捉えていた彼のナイフを何も考えようとはせず、ただただみていると、ふと彼の顔が、クリオッドの表情が見えた。

 あの一瞬の中で、色濃く彼の表情が焼きついた。


 迷いなんて含まれていない、ただただ冷ややかな、冷徹な鋭い眼でこちらを睨んでいた。

 何を思っていたのか、その時の彼の思考を一欠片でも読み取ることはできなかったが、

 怒りというとてつもなく恨めしい感情をその時骨の髄に打ち込まれるかの如く感じさせられた。


 彼の顔には一切シワを作り出さない、その『睨む』というだけで圧倒されるかのようで……

 未だ、複雑な感情として瞳に残り続けている。


 ーーその『複雑』とは、多分7分は恐怖、残りは分からない。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 彼との戦闘が再び始まって数分で決着がついた。


 そもそも、彼の能力が分かってしまった以上、もう彼には勝ち目がなかった




 簡単な話、彼に考える隙を与えなければいいのである。

 彼が能力の他にも魔法を使うことから、人間かどうかも分からないが、以前、道場の先生の言っていた雑学を思い出し、それを用いた。


 「人は、突然目が見えなくなるとパニックに陥る。更に周りの音を遮断すると更にパニックに陥る。すると、落ち着こうと深呼吸をするため口を塞ぎ、逃げ場をなくす。もれなく相手は、充分な空気を吸うことができず窒息して死ぬ」


 と、もし空気を外部から取り入れる器官があれば、まったく効かないが、多分クリオッドには効くだろう。根拠の無い自信で支配されたように、

 飛んでつこんだ彼に対し、まず刀の峰で勢いを緩め、流しながら耳は掴めなかったたものの目、口とおまけに鼻をつまんで地面に思いっきり押し落とす。

 自信の能力に頼った所為なのか、クリオッドは地上にめり込み、手の力が集中した頭部は、力も加え完全に埋まる。


 もう動かない彼は意識が飛んでいるのであろう、それすらも遠慮無しで、埋まった彼の頭を地面を抉るように押し上げ、飛ばすーー



 まさに鬼畜極まりない行為であった。


 飛ばされたあと彼は、深い森の中に入っていった。

 その際、木が数本酷く薙ぎ倒されるような騒めきが少々聞こえてきたが、まあ、彼にはそれくらいはしてはいいだろうという羅生門的な考えでは無いが、ただ、これくらいは、やっておかないと多分また戻ってくるだろう。

 こんなにも彼に対し、酷い処置をとったのはそういう理由があってからである。



 「さて……」


 またシーンと静まり返ったそこを振り返ると、口を開けたままの彼女らが僕を見ていた。

 十数分の戦闘の中、彼女たちは一体どんな風に僕を見ていたのだろうか?

 それは泣きも歓声もない、ただ彼女たちの微笑みで分かることだった。


 ーー安堵


 それだけが彼女たちの今現在感じることで、唯一癒しであることには間違いないだろう。


 そんな彼女らになんて声をかけようかと少し迷ってから、発した言葉はーー


 「これで、ひとまず安心ですね」


 この中でただ、一人。陣之内 優多は、笑う。

 今までの疲労が滲み出るように困り笑顔で。



 傷一つないその肌ーーそれほど戦いの後に虚しいものは無い。


 死ぬ気で守ったそれは、本当にその通りなのだろうか?まだ、自分の存在を否定しているかのように感じたが、それもそれでよいと、ゆっくりと理解していけばいいーーそう心の中でふと疲れたように微笑む


 だが、この時思ったそれとは別のことも頭にふと浮かぶ、それは、やはり彼に対しての怒りなのだろうか?じわりじわりと、地味で弱々しい、まさに今にも消えそうに灯った蝋燭の火のようで、

 雪華に対しての態度にあの時、瓦礫の中での修復時に微かに見えた彼と彼女の一瞬の戦いに驚いたーー


 優多は、ただただ驚いてそれを見るだけで、しかも、クリオッドが笑って明らかに全力でかかっていたことに、全身があっけにとられた……

 その時の衝撃は、戦っていたことよりも、彼が、クリオッド・アデラという少年が彼女に、雪華に本気を出していたということである。ありえなかった、それが、お前のやり方か?と声には出せずただ思うだけで、一瞬の怒りという衝動的な感情にだけ任せて僕は飛んでいたーー




 その力を非力な相手に本気で使うという行為は、例え勝ったとしても、例え大小差をつけたとしても、それは、誇りではなく恥であるーー


 優多は、ただただそう思っている。女の子は守らなきゃいけない存在だと、多分母の影響を受けたんだと思う。

 小学生の頃、酔った勢いで母の言った『女の子は何にでも強い。でもそれは、男の人が守ってくれているからなんですよ。何もなければ女の子は弱いの、淋しいの、辛いの。何もできないの……だから!優多も女の子には優しくしないといけません!とくによるううううううううう』


 その時、後半何言ってるのか理解できなかったが、今はなんとなく理解できる気がする。

 まあ、結局のところ、そう思い始めたのが小学生の頃でよく紳士ぶって、一部の女子から嫌われた記憶もある。



 優多は、その後の砂埃もその時の騒がしさも何もかも去ったただ静かな空間を歩いていく。行く先は、傷だらけの雪女含むもうすっかり顔馴染みにもなった3人のメイドだ。

 胡坐をかいてニッコリ笑った、ボーイッシュのメイド。雪女でツンデレだけど、今回のピンチを救ってくれた只今傷だらけの麗城寺 雪華。今にも泣きそうなこの中では一番背が低いが、秀才でいかにも絵に描いた真面目ちゃんのマリー・ステレット。


 笑顔+困り笑い+泣き顔の3人の元へ歩み寄って、笑いながら一言。


 「只今、帰りました」


 雰囲気で、今一番言いたい言葉。その言葉と今の状況に似つかわしいか、似つかわしくないと言ってしまえば僕には分からない。

 そして、彼女達からは珍しく揃った口調で、それぞれの声音は違うがちゃんと揃って


 『お帰りなさい』


 と帰ってきて、思わず両者、泣き顔だったステレットまでもが怖くて流した涙を笑い泣きの涙に変えて可笑しく、クスクスと笑いあった。



今回も見てくれてありがとうございます。

多分、これが2017年最後の次話投稿になると思います。予定通り行けば、もう1話行くか行かないかですけど……

一番いいのは、あと2話投稿できれば、良ペースなんだけどね。まあ、僕は物事を同時に進行するのが苦手なので、こんな風なんだけど……


まあ、それはそうと、今まで小説を書いてきて最初のうちは、あとがき書いてきたけど、本来の前書き後書きがよく分からないんですよね、その証に最初のうちは、軽々しい口調に、面白くもないネタ・パロディ、Twitterの宣伝(今はあんま使ってないアカウントだよ)などなど、黒歴史だらけです。


まあ、そんなわけで書けるときは、短かったり長くなったりしますが、書いていきます。

基本的には、小説の用語や設定の説明や補足をしていこうと思っていますが、

多分、次話あたりから逸れていると思います。何故なら


僕が、飽き性で、しっかりしていなくて、何より有言実行……すなわち言ったことをそのままやることが、特に苦手なので(反対になったり、斜め上に行ったり永遠坊主になったりしてます)


[説明・補足]


優多を説明してる部分ありますが、ジョジョを意識してます、その後の文もです。ポルナレフの階段のやつ

主人公が中学生なので、まだ子供らしい考え方にしてます。まだ自分一番!

ってか、シフィアさん、優多の騒ぎの振動で普通に起きてます。大人の配慮ってやつですね。違うか

優多が部屋に着いたときの部屋の静かさを書こうと思っていたんですがやめときます。無駄に読みづらくなる。


 雪華「私のこんな姿をみたんです。さあ、殴られる準備はいいですか?」

 優多「なんでそうなるんですか!?」


 香花界は、日本と同じく春夏秋冬、それに加えていくつかの季節があるよ夏が終わると、葉も散り始め午前中は寒くなり始めるよね、春着だと少し寒いくらいに。微妙だね


 言い忘れたけど優多は、一応突っ込みポジ、ネタキャラにもなるかもしれへんな

 優多「蜜柑さん、それだけはやめて下さい」


 ご都合主義ってさ、作者の解釈が難しいからなんかそうなるんと思うんよ(語彙力)だからちゃんと分かり易い解釈入れたら絶対にご都合主義にはならないと思うんよ。


ドラ●もんの適応灯ってすごいよね、多分マイナーな道具だから知らない人多いと思う。個人的に欲しいのは四次元ポケットと、どこでもドアかな?だってその場で学校とか行けるからいいよね。電車賃とか宅急便要らず、どこでもドアなら無駄な費用かからないからいいよね。


最初?の優多の戦闘シーンですが、何だかんだ仕方なく優多の初戦闘なので、派手にしないようにしていたら、こんな味気ない感じになってしまいました……なんかすいません

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