発動条件
金曜、茉莉奈は、学校帰りに、制服のまま、由香理の家に自転車で向かっていた。
あらかじめラインで、由香理の彼氏が飲み会で留守の日と聞いて、連絡は取り合ってある。
途中、子志駅のすぐ近くで、三十歳くらいのかなりイケメンの男に声をかけられ、自転車を止めた。道を聞かれるのかと思いきや、
「君、アイドルに興味ない?」
聞けば、彼は最近、長野から再上京して近所に住んでいる、アイドル・プロデューサー志望の青年だという。
制服で歌って踊れるJKアイドルを育てたいのだと言われた。
顔が大人っぽく、制服姿だったので、声をかけたとのことだ。
だが、茉莉奈は、
「…私、興味ないです」
と言い残し、由香理の家に急いだ。
由香理の家に着くと、インターホンを押した。
「お待たせー」
「いらっしゃーい」
茉莉奈はブラウンのローファーを脱いで、家にあがった。
部屋に入ると、いつものようにAORが流れていた。思わず、茉莉奈は尋ねた。
「良い曲だね。なんて曲?」
「ボズ・スキャッグズのウィ・アー・オール・アローンよ」
壮大で爽やかな感じがする、名曲だ。
「…ところで由香理さん、彼にはあのこと、まだ言ってないんでしょう?」
「まあね…」
「そのことで、話があるの」
由香理はニコッとしながら訊いた。
「話って何?」
「実は、勇気の出る魔法があるの」
「勇気の出る魔法?」
「そう。私が告白を断れるように、由香理さんが彼と別れられるように、勇気が出る魔法」
「そんな魔法があるなら、ぜひ使って欲しいけど…」
「ただ、その魔法には、二人でする、発動条件があるの。」
「発動条件?」
「うん…それはね…」
由香理は茉莉奈から発動条件について聞くと、
「いいよ。茉莉奈ちゃんとなら♪」
すぐにOKした。茉莉奈は、こんなにあっさりとこの提案が受け入れられるとは、思っていなかった。
「本当にいいの?あのね、実は、絶対成功するかも限らないの。なのにこんなこと…」
「いいっていいって。あたし、茉莉奈ちゃんとなら、してみたいと思ってたの」
「えっ…」
茉莉奈は赤面した。
「冗談♡」
「…もう!」
茉莉奈は照れて怒ったふりをしたが、まんざらでもなかった。
さて、発動条件、なんだと思います?