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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ライオン獣人とTS幼な妻

作者: 煌流

よう、久しぶりだな。

そうだな、2年ぶりか?

お前はなにも変わってないな。

おう、俺もだ。

見た目が変わらないと、中身も年をとった気がしないもんだな。


どうだ、お前は変わりはなしか。

やっぱりな、相変わらず可愛い女の子の尻を追い掛け回しているんだろう。

いい加減落ち着いたらどうだ?


……俺か。

聞いて驚くな、俺は今新婚だ。

相手か、美好だよ。俺が保護していたあの子だ。


……言うな、不可抗力だったんだよ!

転移して3年経ったっていったって、あいつはまだ16だぞ、未成年だ犯罪だ!

んなもん俺だってわかってる!

あぁ、それを今から説明するさ。


俺達がプレイしていたオンライン・ゲームに酷似した世界に転移したのは、夏の暑さがやっと衰え始めた頃だった。

あの時のことは思い出したくもないが、あいつと出会ったのもその時だった。

最初の狂乱の数日後、俺は初期エリアに来ていた。

少しでも情報が欲しかったので、行けるエリアをしらみつぶしにしていたんだ。


だが想像していた通り、プレイヤーと見受けられる人は王都と違っていなかった。

無駄足だった、と引き返そうと思ったとき路地にうずくまる人影に気がついた。

じっと見るとステータスが表示される。レベル1だった。

声をかけずにはいられなかったさ。


ボロボロのあいつは最初俺を酷く警戒していたが、俺も日本からここに訳も分からず飛ばされたんだよって説明したら勢いよく泣き出してな。

13歳だ、中一だよ。

それが頼るものも無く意味も分からず見知らぬ世界にいきなり放り出されて数日。

本当に不安だったろうと思う。

人買いに攫われずにすんだのは、初期エリアが牧歌的な村だったからだろうな。

保護しないわけにはいかないさ。

ここであいつを見捨てたら、俺は人間として最も大事な部分を捨てることになると思ったんだよ。


あぁ、そうだ。

俺が攻略組みから降りたのはあいつがいたからだ。

あいつのことを悪く言うなよ、俺一人がいるいないでギルドの大勢が左右されるはずもないだろう。

聞いた話だが、あのギルドは崩壊したらしいな。

人間関係だろう?

自業自得だったらしいじゃないか。

俺にはもう関係の無い話だが。


ギルドを抜けてからは、ずっとあいつとペアで行動してきた。

あいつは、老舗のオンラインゲームを見つけて、興味半分でinしたら不幸にも転移に巻き込まれたんだよ。

このタイトルの知識どころか、オンラインゲームとは何かって事すらろくに知らなかった。

20レベルにならないと『ホーム』機能も使えないからな、俺のホームに招待して寝泊りも世話をした。

女の子になってしまったから、落ち着くのにも随分時間がかかったしな。


おい、だから右も左もわからずゲームに手を出した子供だったって言っただろう。

欲望のままに自分好みの女のアバターを設定したとかじゃないんだよ、なんでも全部ランダム設定だったらしい。

そう、性別すらもだ。


大変は大変だったが、美好は素直で努力家だった。

むしろ、ワガママを言わないので心配なくらいだった。

もしかしたら、俺に捨てられないように無理していたんじゃないかと今でも思う。

取り繕ったような無理をした笑顔もよく見たさ。

だが、そういう部分は時間がかなり解決してくれた。

今は二人ともずっと自然になったさ。

そうだな、あいつは相当俺に依存していただろう。

でもそれは俺もお互い様だった。


こっちに来て半年位してからだ、俺は夜に眠れなくなった。

横になって目をつぶっても、家族の面影ばかりが思い起こされるんだ。

少しずつ、時に押し流されて記憶が曖昧になっていくのが恐ろしかった。

仕事のことはもう仕方がないと思えたが、このまま俺がどこで何をしているのか分からない、生死不明のまま家族に心配をかけ続けるのかとかもだ。

いっそのこと、俺達の存在が家族にとって最初からないものになっていたりしたほうが良いとさえ思った。


あぁ、今となっては笑い事だが気が狂うんじゃないかと思っていたさ。

そういう時は、眠るあいつをながめ、髪を撫でていた。

明け方ごろになって、ようやく眠気が訪れるまでずっとそうしていた。

あいつは気がついていなかったと思う。

そう願いたい。


おい、だから俺はロリコンでもショタコンでもないんだよ。

お前と一緒にするな。

え、子供に興味はないってか。

まぁそうだな、俺もそれは同意するが育てる楽しみを知らないのはかわいそうだなぁ。

……だから言っただろ。

今は嫁だって。


あぁ、いきさつだったな。

今年の春になって、俺達はシファルア神殿の春祭りに行ってみることにしたんだ。

あいつのレベル上げのために訪れたエリアだったんだが、普段ひたすらモンスター狩ってるだけでなんの楽しみもないからな、こういうイベントには必ず参加することにしている。

あいつも喜ぶしな。


お前も来年になったら行ってみるといい。

街も神殿も、アルンの花が咲き乱れてそれは見事だったぞ。

薄ピンクの小さな花が房になって、道の両側と覆いつくすようなんだ。

あぁ、桜に似ているな。

あれよりももっと華やかだが。


街に行って、まずは神殿に礼拝した。

それが外から来る者達の慣わしだって街の人に言われてな。

俺と美好と二人で神殿の礼拝所で祈っていたら、巫女が何人も降りてきて俺達を祝福するんだよ。

色とりどりの花で作った頭飾りと腕飾りをあいつはもらっていたな。

その姿のまま街へ降りたら、道々人々が俺達を振り返って祝福するんだ。

仕舞いには「結婚おめでとう!」ときた。


俺は頭にきて神殿にとって帰って、関係者らしい男に詰め寄って抗議した。

あいつはやっと16歳だ、好いた相手ならいざ知らず、見も知らぬ誰かにやるなんて冗談じゃない。

そうだよ、その時の俺は娘を持った父親の心境だったんだよ。

3年も寝食をともにしたんだ、情なんてとっくに湧きまくっていたさ。


男は目を白黒させていたが、そのうち気づいたらしい。

大笑いしやがった。

一瞬俺の斧で頭殴ってやろうかと思ったぜ。

あの神官、ようやく笑いやんだと思ったら、涙を拭いながら「夫はあなたですよ」って言ってきた。


なんのことか分からなかったさ。

頭が真っ白になったな。

世界移転のときでさえ、俺はあんなにうろたえなかったと思う。


その後、美好が腹が減ったというので屋台巡りをした。

俺は何を食ったのか、味なんてなにも分からなかったよ。

それなのにあいつ、目に見えてはしゃぐんだよ。

焼き串を頼むとき、飲み物を頼むとき。

屋台の主人達はあいつ(と俺)を祝して、あいつは頬を真っ赤にして礼を言うんだ。

その頃には俺の気持ちはどん底だった。

こいつ、なんでこんなに無理をするんだってな。

今になれば、なんであの時あいつの気持ちが分からなかったんだって思うが、それだけ俺が平常心を失っていたんだろう。


その日はせっかくだから『ホーム』ではなく宿に泊まろうと事前に決めていた。

それだけで一気に旅行気分が高まって、あいつも楽しそうにするしな。

だが、宿につくころにはあいつも俺の不機嫌に気づいていたらしい。

いざ寝るって時に、俺は「話がある」と切り出した。

その瞬間、あいつは泣きそうな顔をした。

俺は、この結婚は絶対阻止しなきゃならんと思った。


あいつは開口一番、こう言ってきた。

「そんなに僕のことが嫌いですか」って。

「そりゃあ、元々僕は男だし、ぜ、全然女らしくないですけど……っ」と言った時にはもう泣きじゃくっていた。

俺はこいつが遂におかしくなったと思った。

思わずため息をつくと、美好は体を硬直させた。

「お前は、託宣による結婚なんて納得ができるのか。

あんなの、出鱈目に決まっている。

……嫌なことは嫌と言っていいんだぞ。

本当のことを言ってくれ、俺はお前を遠ざけたりは決してしないし、こんな茶番に付き合う必要はないんだ」


「そんなことはありません!」

あいつが泣きながら叫んだ。

俺は驚いてとっさの返事もできなかった。

キリキリと釣りあがった眉、涙をためても分かる怒った強い眼差し。

そんな顔、3年一緒にいて初めて見た。頬がアルンの色に染まっていた。

歯を食いしばって、それから「バカッ!!」って怒鳴りつけてきたんだよ。

「僕が、無理してたって思ってるんですね?!

嬉しかったのに、ビックリしたけどそれよりもあなたのお嫁さんになれるって言われてもう空も飛べそうなくらいだったのに!」

それから急に勢いをなくしてしぼんだ花のようになってしまった。

「……でも、そうですね。 僕は、男だ。

男が男を好きになるのって変ですもんね……最近は自分が一瞬男なのか女なのか分からなくなるくらい曖昧になってたけど……」

きゅ、と小さな手が服を握りこんだ。

ぽたぽたと、手の甲に雨のように涙が落ちていくのを俺は言葉もなく見ていた。


俺はしばらく呆然として、「お前、俺と結婚したいのか」とようやく言った。

あいつは小さく肯いた。

「さ、最初は……っ。

お兄さんみたいだって思ってました。

僕は兄弟がいなかったから、とっても嬉しかった。

それに、ちょっとお父さんみたいだな、とも。

でも、今日神殿で巫女さんたちに祝福されて、あなたと僕が結婚するんだって言われて、本当に信じられないくらい幸せな気持ちになったんです」

そういって、大きな目で俺を見つめてきた。

涙に濡れた瞳が雨上がりの空みたいにキレイで、俺はその目に吸い込まれそうになった。

「僕、変ですよね……。

あなたのこと、気づかない間にこんなに好きになってたのはおかしい事なんだ……」


「そんな事はない!」

俺は思わず叫んでいた。

「俺はお前とずっと一緒にいたんだぞ、親と離されて不安だったろうに、お前は愚痴一つ言わずに俺の無茶にも応えてくれた。

お前の頑張りは全部見てきたさ。

お前が……変なんてことは絶対にないさ」

俺は髪だかタテガミだか分からない部分をバリバリとかき回した。

「中学生だろ、まだ甘えたい時だってあっただろうさ。

なのに、身一つで放り出されて、俺は気がまわらない性質だ。

苦しい事だっていっぱいあっただろうに、お前はいつも笑って俺の後ろをちょこまかついてきた……」


奥さん? こいつが、俺の?? なるのか? なりたいって言ってんのか?!


「そう、俺には……俺には、出来すぎだよ」

俯いて顔を両手で隠したさ。

自分でも顔が真っ赤になっているのが分かったからな。

三十路も超えて、こんな15以上も年の離れた子供相手に俺はなんて想いを抱えていたんだ!


知らずにいたかった。

気づかずにいれば、年の離れた兄弟みたいな仲でいられたのに。

なんで神殿の連中は俺達にこんなむごい真似を強いたんだ。


俺が腰掛けたベッドが少しだけ沈んだ。

俺の隣に美好が座ってきたんだ。

小さな手が俺の手に触れた。

俺のむやみに無骨な手と違う、柔らかくて白い手だ。

「あなたのことが好きです」

秋の霧雨のように儚い声だった。

思わず顔を上げずにいられなかった。

あいつは悲しそうな、ひどく大人びた目をしていた。

出会った頃と同じ、何かをこらえている顔つきなのに、それが今まで見てきたどの表情とも違っていた。

まるで見知らぬ人のようだった。


その瞬間、思った。

こいつが男として生まれただとか、年の差だとか、異世界に流れ着いたことすら小さな問題だ。

悲しませちゃいけない。

もちろん、一緒になったら困難があるだろう。

「彼」を慈しんで育てた両親にも申し訳ないさ、こんなライオンもどきにやるために育てたわけじゃないんだから。

問題なんて、数え上げれば百にも二百にもなるだろう。

でもそうやって俺が逃げてはいけないんだ。

だってこいつは、こんなにも真っ直ぐに俺に向き合っている。

なら、俺だって俺の真をかえすだけだ。



ほんの一瞬だったと思う。

でも俺は、目と目でたくさん会話をしたと感じた。

きっと……あいつもそう感じてくれたと思う。

「妹か、弟みたいに感じてたんだけどな」

あいつが見るからにへにゃりとなった。

「でも……お前がいいなら、なるか? 俺の嫁さんに」

あいつの笑顔はアルンの花より百倍も万倍も美しかった。





次の日、俺達は再び神殿を訪れた。

本祭りの夜、神殿の奥の間には俺達以外にも色んな組み合わせの『二人』がいた。

男同士だったり、女同士だったり、随分と種族が違う奴らもいた。

シファルアの神殿は結婚の女神を祀っているんだ。

託宣で結ばれたのは俺達だけだったが、祝福されない愛し合うもの同士を寄り添わせるための年に一度の春の祭りだったんだ。

家族や状況に許されずとも共に在りたいと願う者たちが、巫女と神官長のもと婚姻を交わした。


俺達の前にきた神官長は、優しい笑顔で言った。

「女神が囁いたのですよ、あなた達を祝せよと。

時に女神はこうして運命の糸を縒り合わせることもあります。

あなた方の道は随分と厳しいものだったようだ。

だが、共に手を取り合い進むのならば、その困難があなた達を輝かせるでしょう」


神殿をでるとあちこちに篝火が焚かれ、夜空を焦がしていた。

沢山の人々が、結婚の祝詞を歌っていた。

花びらのシャワーが降り注ぎ、微笑むあいつはそのときの花嫁の中で一番美しかった。






夜が明けて、俺達はいつもより遅く起きた。朝食を食べてから、市場を冷やかしに行ってみた。

祭りの出店らしく、普段は見られないような華やかな装飾品や布も売っていて十分楽しめた。

……実は、何かプレゼントできるようなものを見つけられないか、とも思っていた。

最も何を贈ればいいのかなんて見当もついていなかったが。



物色をしていると、ある店で番をしている女の獣人と目が合った。

一瞬向こうは目を見開いて、それから一気に視線を険しくした。

「あんた! そう、そこのタテガミふさふさのあんたよ!

こっちいらっしゃい、隣の子も一緒に!」

20代後半くらいだろう彼女は、身長175cmはあったかもしれない。

長身で肌のところどころに豹柄の浮かぶワイルドな美女だった。

……おい、とっくに結婚して子供もいたぞ。

そうだ、店の奥には小さな子が3人と、旦那もいたさ。


天幕の中に強引に招きいれられると、木箱に座らされた。

女の目が据わっているときは、まぁ大体逆らわないほうがいい。

「あんた、群れはどこなの? 父と母の名前は?」

「群れ? 何のことだ」

俺が反感からぶっきらぼうに返すと、彼女は大きなため息を吐いた。

「なるほど、ハグレなのね……だからそんな頭でも平気でウロウロできるのね。

全く、いい年した誇り高き獣の一族がなんてこと」

「そんな頭とはどういう意味だ。昨日だってちゃんと湯を浴びている」

「清潔にしていないとかそういう意味じゃないのよ。

まぁいいわ、これも何かの縁だから私達が教えてあげる。それに」

彼女はちらりと美好を見遣った。

「昨夜の本祭りは見たわ、あんたたち目立っていたから覚えていたのよ。

妻を得たのなら、尚更恥ずかしい真似はしたくないでしょう?」


意味が分からなかったが、どうもここは素直に教えを請うたほうがいい気がした。

第一彼女も、俺達をバカにする雰囲気は一切なかったし。

彼女は美好を連れて、店の商品をあれこれ説明しているようだった。

代わりに彼女の旦那がやってきて、俺を上から下まで見渡すと、「なるほどな」と呟いた。

「気分を悪くしたらすまないな、あいつは裏表がないのが悪いところであり、長所なんだ。

まぁ、つまりな」

彼は茶を勧めてくれた。

「獣人の男というのは、成人したら髪を結うんだよ」

そういう彼は、細かな三つあみで凝った髪型をしていた。

「まさか」

俺は自分の髪に手をやった。

伸ばしっぱなしの髪は、適当に後ろに流している。

「俺は年甲斐もなく子供の振りをしているようにでも見えているのか」

「もっと悪いな。

周りに自分は童貞だと言っているようなもんだ」

頭を殴られたような心地だったさ。

そういえば、今までにも街で稀に獣人とすれ違うときにやたらとジロジロ見られていた。

三十路も超えて、俺はそんな恥ずかしい状態を平然と晒していたのか。

とりあえず、今までに会った獣人の頭を殴って記憶を消してやりたかったぜ。


獣人は成人の時に、儀式をすること。

髪を結うのはそれを乗り越えて一人前の男になった証でもあること。

それを説明されて俺が文字通り頭を抱えていると、美好と獣人の彼女が戻ってきた。

美好の手には、櫛や髪油、それから凝った編みの髪紐などが握られていた。


「獣人の妻はね、夫の髪を結うのが朝の勤めなのよ。

できるだけキレイに編み上げるのができた妻の証なの」

「か、髪の毛とか編んだこともありません!」

美好はあきらかに焦っていた。

「いいのよ、すぐに上手くなれるものじゃないわ。

あなたがまだまだ年若いのも分かるしね。

でもね、一生懸命愛情をこめて編めばそれが二人の仲の良さにも繋がるわ。

これぞ夫婦円満の秘訣よ」

あいつの頬がポッと赤らんだ。

おい、だから俺の嫁だと言っているだろう。

お前のような女たらしはあいつに近づくな、汚れる。

おう、俺は本気で言ってるぞ。



「ところで、あんたたちは冒険者なのか?」

旦那の方が話しかけてきた。

俺はレベル78を超えた重戦士だと告げると、奴は絶句していた。

「……そうか、本来ならばハグレであろうと一度は成人の儀を受けたほうがいいとおもったんだが、あんたには不要だな。

だが、時間があれば一度俺達の群れに来てみないか。

この辺には獅子の獣人は住んでいないんだ。

だから、あんたたちの仮親は俺達が勤めよう。

仮の息子とそれほど年齢が変わらないと言うのもなんとも妙な話ではあるがな。

だが、お前たちがこのままハグレとして流れるのも、一度存在を知った身としては許せん。

群れも、これほど勇敢な戦士とその妻なら喜んで迎えるさ」

「訂正してもらおうか。

美好は、誰も頼るもののいない世界に放り出されても立派にここまでやってきた。

俺を勇敢というなら、美好も同じだ」

美好が両頬を押さえて真っ赤になって身悶えていた。



その後、俺の頭を実験台に、美好は髪の編み方を教えられた。

二度三度とやり直してもガタガタだったらしいが、俺はじっとしながらなんともくすぐったくて不思議な心地がした。

結局、髪道具は全部獣人の夫婦にプレゼントされた。

仮ではあるが、親なのだからと結婚祝いにくれたのさ。

俺はこっそり、彼らから対になった凝った木彫りの小物入れを二つ買った。

二本の木が絡み合いながら花を咲かせ実をつけ、枝に止まる小鳥が鳴いている意匠は、結婚の祝いによく贈られるものらしい。

指輪は俺が斧を握るからつけられないしな、せめてもの気持ちだ。

彼らの村は、ちゃんと訪れる約束をした。

あぁ、これから旅支度を整えて二人で行く予定だ。



後祭りも十分に楽しんで次の日。

久しぶりに『ホーム』に帰ってきた俺達は疲れきっていて、風呂と飯をすませると爆睡しちまった。

おう、俺達は清い関係のまんまだったぜ。

手を出す暇なんてどこにもなかったんだよ、宿屋じゃ壁が薄くて気分も落ち着かないしな。

……だから、言ってるだろう。

あいつをお前の知ってる花街の女と一緒にするな。

あんな所で無闇なことができるか。


とにかく泥のように眠った翌朝、俺達はやっと日常に戻った。

祭りの前は親子と兄弟の中間のような間柄だったのに、今は夫婦だ。

朝食をすませると、あいつは俺の髪を四苦八苦して編みこんだ。

「ごめんなさい、うまくできなかった」としょぼんとされるともう抑えるのが大変で大変で。

うるさい、変態言うな。

仕方がないだろう、あいつにあんな涙目で見られて落ち着いてられるか。

それから、あいつは首周りのタテガミを梳いてくれた。

丁寧に櫛を通しながら、多分無意識だったんだろうな。

「このタテガミ、僕以外の誰にも触らせないでくださいね」と言った。



姫抱っこして寝室へ直行したさ。



ただ、いざ向かい合うとあいつの慌てきった表情に手が鈍る。

俺はもう限界だったが、何もかも小さいあいつを壊してしまうんじゃないかという恐怖もあった。

しばらくそうやって向かい合っていたんだが、あいつがおもむろに正座した。


「あ、あの……僕……わ、わわわ……私!」

ベッドの上で正座をして、目も潤んで真っ赤な頬で、三つ指突いて

「ふ、不束者ですがどうぞよろしくお願いいたします」と言ったんだ。



その後か、想像に任せるよ。

お前のように花から花へ飛び回るというのも悪いもんじゃないだろうが、

俺のためだけの花を蕾から咲かせるのは男冥利に尽きるってもんだぜ。

おう、これは自慢だ。

よく気がついたな。




今後のIFルート


①地球へ還れたらボーイズラブルートまっしぐら!

理解を得るのは大変だけど二人なら頑張れるよ。


②還れなかったら夫婦円満ルート

子宝に恵まれちゃったりしてね……?

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― 新着の感想 ―
[一言] IFルート2も執筆してもエエんですよ? これはいい短編。基本短編は読まないんですが、タイトルに釣られて読んで良かったです。 2話構成とかでもっと深く掘ってあっても良かったかなとも思いまし…
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