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59話 開幕

「それではこれより竜王祭を執り行うっ!!!」

 大臣の開会宣言が、周囲に大きく響きわたる。

王城前の大広場にて、現在開会式が行われている。広場には、幾人もの兵が集い、隊列を組んでいた。そしてその隊列の先頭には、三人の王族が立っている。


一人目は、鋭い目付きの冷たい目をした男。やり手の青年実業家にして、剣聖と魔導兵器と傭兵団を従える者。この国で最高位の勢力を持つ王族、マスタングである。大地を踏みしめ、胸を張り、真っ直ぐに前を見据えるその姿は堂々としていて、言いたくはないが、皇子と言う名に相応しい立ち姿である。


二人目は、凶悪な目付きの濁った目をした女。今や落ち目の存在ではあるが、一応は勇者と王国軍の主力部隊を従えてはいる者。かつての最大勢、今では第三位、諸悪の根元たる糞王族、エリザベスである。鼻息を荒く、鬼気迫り再起をかけるその姿は、なんとも暑苦しくて見苦しい。実に無様である。


三人目は、眠たげな目付きの無気力な目をした見目麗しい少年。突如頭角を表した、龍使い(僕)とマフィア(星屑組)を従える者。無法地帯であったギリアン地区を纏めあげ、一大商業地区にしたてあげたカリスマ(ってことになっている)、エルヴィスである。考えの読めない(実は何も考えてないだけ)表情と、人形のように幼く美しい容姿が、ミステリアスな雰囲気を醸している。


そんな三者三様の王族が、此度の竜王祭に参加をするのだ。


竜王祭とは、火龍の住まう危険な火山におもむく、王族としての勇気を示す儀式であり、本来は次代の王となるものが、成人する際に執り行う儀式である。

しかし、先代の愚王のが施した「王権分割」政策により、「次代の王」自体がなくなってしまった今、この儀式にさしたる意味はない。


 だが、それが火山を巡るだけの「儀式」ではなく、火龍を討伐するという「実績」であるのなら、話は違ってくる。


 それは建国者である初代国王と、同等であることの証明。すなわち、絶対的な王としての証明に他ならない。法も慣例も関係なく、この国においてその偉業を成したものを、王と認めない訳にはいかないのだ。


つまり火龍を討伐したものは王と名乗ることが許されるということ。

故にこの竜王祭の本質は、「誰が一番先に火龍をたおすのか」と言う勝負なのである。


エリザベスは勇者が、マスタングは剣聖と魔導兵器が、そしてエルーは僕が……

誰が、龍を殺すのかと言う勝負であるのだ。


まぁ…… 結果はみえているけどね。


「さぁ、ようやく始まるよ」

 クズ子モードの僕が、隣にいるエルーに話かける。

「………………はい」

 エルーは相変わらずの無表情のまま、だけど深く頷き、そう答えるのだった。


 さぁ、開幕といこうか。


ーーーー


「星くん、隊列の編成はこのままでいいかな?」

「ああ、それは君と緋色にまかせるよ」

「わかった、まかせて!」

 僕らの本拠地、一大歓楽街である「シャングリラ」、その最深部にある星屑組の事務所にて、僕らは出発前の最終ミーティングを行っていた。


 開会式を終えて、火龍討伐隊の最終編成を行い、間もなく出発するという感じだ。

 とは言え、僕の陣営にはユエたんと言う優秀なブレーンがいるので、僕がやるべき事はあまりない。僕の主な仕事は「ああ、まかせるよ」とキメ顔でいうこと、それだけだ。

「…………それより、星くん。アレを本当に持っていくのかい?」

 僕がユエたんにキメ顔を向けていると、ユエたんは表情を少し曇らせてそういってくる。

「あれというのは…… 魔煌爆弾のことかい?」

 そんなユエたんに僕は笑みを崩さず、そう返した。ユエたんは僕から少しだけ視線をそらして静かに頷く。

「もちろんもっていくよ…… せっかく、君とシルヴィアが開発してくれたものだからね」

「しかしあれは…… 小型とは言え、本当に危険な代物だぞ」

ユエたんは、神妙な面持ちでそう僕に訴える。その瞳は不安と恐れで満たされていた。

ふふ…… さすがユエたんだ。まだ、本格的な運用はしていないというのに、あの爆弾の本質を良く理解している。本当に君は賢い子だ。きっと君の様な人間が沢山いたら、戦争なんて不毛な行為は生まれないのだろうね。


くふふ…… だけど生憎、僕は愚か者なんでね。


魔煌爆弾。それは、簡単にいって核爆弾だ。僕が核兵器の概念をユエとシルヴィアに教えたところ、二人が楽しそうに開発して生まれた代物だ。

二人が天才過ぎる故に、生まれてしまった代物だ。その性能は、僕がいた世界の核兵器と遜色ない。ただ、核融合が魔素の融合に置換されただけだ。放射能に代わり、魔煌障気という有害エネルギーが発生する点も似かよっている。そんな有害極まりない爆弾を、僕は今回もっていこうとしている。


「念のためだよ、大丈夫…… 実際に使うことはないさ」

「そうか…… うん、ならいいんだ」

「心配しなくていいよ、僕だってアレの危険性は理解している。だからユエは気にせず、隊の最終調整をたのむよ」

「うん、そうだね。わかった……」

 ユエたんは、その瞳に少しだけ疑いの色をにじませ、そして僕のまえから立ち去るのだった。


 くふふ……


「あにきぃ!」

「ん? どうしたんだい、緋色」

僕の前からユエたんが立ち去ったあと、入れ替わりに緋色が現れた。僕に飛び付き、じゃれついてくる。ちなみに、今日の姿はセーラー服。すっかり男の娘が板についてきている。実に素晴らしい。ハラショー。

「あにきに面会を求めているお客さんがきてるよ!」

「ほぉ、誰だい?」

 だいたい察しはつくが、僕は一応訪ねてみる。


「マスタングと勇者のところの使者だよ!」


そして、その予想は寸分違わず的中した。

「よし、じゃあ先にマスタングの使者から会おう。勇者の方は待たせておけ」

「わかった!」

なので僕は決めていたとおりの対応をしてさしあげるのだった。


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