竜王祭カウントダウン 4
うっわーーーー ギリで2月中に間に合わなかった!
いけると思ったのに! ギリいけると思ったのに!
「遅いぞ、星君」
「やぁ、すまないねユエ」
待ち合わせ場所に星君がようやくやってくる。15分も遅刻していると言うのに、少しも悪びれた様子がない。まったく、出会った頃はあんなにも情熱的だったと言うのに、いまとなっては酷いありさまだ。
「君がレディを待たすような無作法な男だと、僕は知らなかったよ」
なので僕は、そんな愚か者に嫌味たっぷりな言葉を贈ることにした。
「あ、ゴメンね」
するとどうだろう。あろうことか星君は、そんなどうでもいいような謝罪で事を済まそうとしてきたのだ。なんだその対応は。僕に対する扱いが、あまりに雑でないのか!?もう少し心のこもった謝罪の仕方があるのではないのか!!
それとも……
もう、僕は君にとって、その程度の存在でしかないの………… かな?
「ほら、ユエ……」
「……………え?」
僕がそんなことを考えていると、突然星君が僕の手を握ってくる。暖かい星君の手が、僕の手を包み込む。…………………ふぁ、星君って、意外と手、おっきいんだな。
「そんな浮かない顔をしてないで、早くデートに行こう。 僕はこう見えて、今日のデートを結構たのしみにしていたんだぜ?」
「……………ぅぇ?」
た、楽しみに………… 本当?
「ふ、ふん…… どうだかな。 遅刻してきてそんなことを言っても、まったく説得力がないぞ」
そ、そうだ、危うく流されるところだった。いくら口ではそんなことを言っても、遅刻した事実はかわらないんだ。そんな口だけの言葉に騙される僕じゃないぞ!
「これでも急いできたんだ。君だって、最近の僕の忙しさは知っているだろう?」
「ふん。そんなのはいい訳だな。忙しいのは僕だって一緒だ。君は時間の使い方がなってないんだ」
そうだ。僕はこの日をずっと楽しみにしてたんだ。この日の為に頑張って調整をしたんだ。これじゃあ頑張ってるのが、僕だけみたいじゃないか。
…………想っているのが、僕だけみたいじゃないか。
「…………………もしかして、結構怒ってる?」
「怒っているさ。当たり前だろう」
想っているのが、僕だけなんて…… そんなのは、悲しい。
「…………ふむ」
「…………っえ」
突然、星君が僕と繋いだ手を放す。暖かい手の感触が離れると同時に、僕の心にひやりと冷たい物が流れるのを感じた。
「ぇえ?」
僕は、おそるおそる顔を上げる。星君の顔を見上げようとする。果たして星君は…… 僕から手を放した星君は、いったいどんな顔で僕を見下ろしているのだろうか?
呆れた顔だろうか?怒った顔だろうか?
…………せめてその表情が、無関心ではありませんように。
「…………………え?」
しかし、見上げた先に、星君の顔は無かった。
「…………ごめんなさいでしたっ!」
代わりに足元から、星君の声が聞こえる。
「ええっ!?」
僕が慌てて視線を足元に向ければ、そこには公衆の面前で五体倒置をする、成人男性がいた。
「この通り…… 反省していますので、僕とデートして下さい!僕は幼女と、いや君とデートがしたいんだ!」
そして、その五体倒置はそんなことを僕にいってくる。それも必至に。
「………………」
僕はその姿に思わず絶句してしまった。言葉が出ないとは正にそのことだ。
「この通り、僕は本気だ! さぁどうでしょう!?」
どうでしょうではない。地面に顔を突っ伏したまま、大声で僕にそう尋ねる星君。地面に体を投げ出して、表情も見せずに全力で窺い尋ねるその姿は、なんだかとてもシュールだった。
「…………………っぷ、くく」
シュール過ぎて、僕は思わず笑ってしまう。
「なんだ……っくく、それ…!ど、どんだけデートしたいんだ…… あははっ、君はぁ」
そして僕は、なんだか色々と馬鹿らしくなってしまう。
「ふふ……… ようやく笑顔をみせてくれたね」
地面に身を投げたしたまま、土のついた顔でカッコいいセリフを言う星君。
「あははははははっ」
その姿に、僕は更に笑ってしまうのだった。
「さぁ、楽しいデートを始めよう」
そういって立ち上がり、傅いて僕の手を取る星君。
「ふふふ…… はぁ、そうだね。 そうしようか?」
僕はそれに頷き、星君と再び手をつなぐのだった。
ああ、まったく。本当に君ってやつは、いつだって本当に予想外だ。
ーーーー
「ああ、楽しかったなぁ」
「ああ、本当にそうだね」
月が良く見える公園で、二人ベンチに腰を掛ける僕と星君。
久しぶりの二人きりでのデートは、本当に楽しかった。
二人でアンティークショップを巡ったり、二人でレストランに行ったり、二人で劇を見たり…… まるで初めてのデートと同じ様で、とても楽しかった。
そして、初めてと同じと言えば……
「この月、初めてのデートの時を思い出すね……」
「うん…………」
どうやら、星君も同じことを考えてくれていたようだ。
それが…… 素直に嬉しく感じた。
「ふふ…… 今日は君を独り占めできたね」
僕は頭を星君の肩に預け、そして星君を見上げる。きっとそこには、あの時と同じ、星君の優しくて情熱的な瞳が、僕を見つめてくれているはずだ……
「………………ぇ?」
しかし。
そこで僕を見下ろしていたのは……
「ふふふ………… いいね、種が良く育っているよ」
とっても情熱的で…………
だけど、ありえないくらい、おぞましくて、いやらしい、そんな瞳だった。
「さぁ…… 仕上げをしようか」
「…………ほ、星君?」
星君が僕の顎に手をかけ、僕を見つめる。
僕は星君から、目が離せない。
「だいじょうぶ…… ユエは、いいこだからね」
「な………… 何を? ねぇ……… ほ、ほしくん?」
あれ、おかしいな、なんだか、前にもこんなことがあった気がする。
なんだろう、こんなのは、はじめてのはずなのに……
なんなんだろう、この既視感………… は。
「さぁ、僕の目を、よく見るんだ」
「あぁ……… ぁ…… ぁあ?」
ああ、なんだろう、ほしくんのめが、きらきらしてて……
とても、きれいだ。
ーーーー
「むにゃ…………?」
「やぁ、起きたのかい?」
目が覚めると、そこには優しく微笑む星君の顔があった。
「……ぅん? 僕は、寝てたのかい?」
「きっと疲れていたんだろうね。今日は沢山遊んだから」
星君が、僕の頭をなでながら、そういう。暖かい手が僕を撫でてくれる。とても気持ちいい。
「膝まくらさせてしまって、悪かったね。ありがとう」
「いやいや、お安い御用だよ」
僕はゆっくり起き上がり、そして星君の腕に抱き着く。
「ふふ、ねぇ見て。月がとっても綺麗だよ」
ああ、本当に綺麗だ。まるで初めてのデートの時のようだ。
「ああ、本当だね。まるで、初めてのデートの時のようだね」
どうやら、星君も同じことを考えてくれていたようだ。
それが…… 素直に嬉しく感じた。
「ふふ…… 今日は君を独り占めできたね」
僕がそういって見上げれば、そこにはとっても優しい笑顔の星君がいた。
「今日は楽しかったね」
「うん!」
二人で幸せを共有しあうこの瞬間。
幸せを共有できることに、すごく喜びを感じる。
ああ、僕は本当に幸せだ。
ああ、僕はなんて幸せなのだろうか。
だけど、何故だろう……
幸せなはずなのに。
なのに、僕は何故……
こんなにも不安を感じているのだろうか?




