表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
73/78

竜王祭カウントダウン 4

うっわーーーー ギリで2月中に間に合わなかった!

いけると思ったのに! ギリいけると思ったのに!

「遅いぞ、星君」

「やぁ、すまないねユエ」

待ち合わせ場所に星君がようやくやってくる。15分も遅刻していると言うのに、少しも悪びれた様子がない。まったく、出会った頃はあんなにも情熱的だったと言うのに、いまとなっては酷いありさまだ。

「君がレディを待たすような無作法な男だと、僕は知らなかったよ」

なので僕は、そんな愚か者に嫌味たっぷりな言葉を贈ることにした。

「あ、ゴメンね」

するとどうだろう。あろうことか星君は、そんなどうでもいいような謝罪で事を済まそうとしてきたのだ。なんだその対応は。僕に対する扱いが、あまりに雑でないのか!?もう少し心のこもった謝罪の仕方があるのではないのか!!


それとも……


もう、僕は君にとって、その程度の存在でしかないの………… かな?


「ほら、ユエ……」

「……………え?」

僕がそんなことを考えていると、突然星君が僕の手を握ってくる。暖かい星君の手が、僕の手を包み込む。…………………ふぁ、星君って、意外と手、おっきいんだな。

「そんな浮かない顔をしてないで、早くデートに行こう。 僕はこう見えて、今日のデートを結構たのしみにしていたんだぜ?」

「……………ぅぇ?」

た、楽しみに………… 本当?

「ふ、ふん…… どうだかな。 遅刻してきてそんなことを言っても、まったく説得力がないぞ」

そ、そうだ、危うく流されるところだった。いくら口ではそんなことを言っても、遅刻した事実はかわらないんだ。そんな口だけの言葉に騙される僕じゃないぞ!

「これでも急いできたんだ。君だって、最近の僕の忙しさは知っているだろう?」

「ふん。そんなのはいい訳だな。忙しいのは僕だって一緒だ。君は時間の使い方がなってないんだ」

そうだ。僕はこの日をずっと楽しみにしてたんだ。この日の為に頑張って調整をしたんだ。これじゃあ頑張ってるのが、僕だけみたいじゃないか。


…………想っているのが、僕だけみたいじゃないか。


「…………………もしかして、結構怒ってる?」

「怒っているさ。当たり前だろう」

想っているのが、僕だけなんて…… そんなのは、悲しい。

「…………ふむ」

「…………っえ」

突然、星君が僕と繋いだ手を放す。暖かい手の感触が離れると同時に、僕の心にひやりと冷たい物が流れるのを感じた。

「ぇえ?」

僕は、おそるおそる顔を上げる。星君の顔を見上げようとする。果たして星君は…… 僕から手を放した星君は、いったいどんな顔で僕を見下ろしているのだろうか?

呆れた顔だろうか?怒った顔だろうか?

…………せめてその表情が、無関心ではありませんように。

「…………………え?」

しかし、見上げた先に、星君の顔は無かった。

「…………ごめんなさいでしたっ!」

代わりに足元から、星君の声が聞こえる。

「ええっ!?」

僕が慌てて視線を足元に向ければ、そこには公衆の面前で五体倒置をする、成人男性がいた。

「この通り…… 反省していますので、僕とデートして下さい!僕は幼女と、いや君とデートがしたいんだ!」

そして、その五体倒置はそんなことを僕にいってくる。それも必至に。

「………………」

僕はその姿に思わず絶句してしまった。言葉が出ないとは正にそのことだ。

「この通り、僕は本気だ! さぁどうでしょう!?」

どうでしょうではない。地面に顔を突っ伏したまま、大声で僕にそう尋ねる星君。地面に体を投げ出して、表情も見せずに全力で窺い尋ねるその姿は、なんだかとてもシュールだった。

「…………………っぷ、くく」

シュール過ぎて、僕は思わず笑ってしまう。

「なんだ……っくく、それ…!ど、どんだけデートしたいんだ…… あははっ、君はぁ」

そして僕は、なんだか色々と馬鹿らしくなってしまう。

「ふふ……… ようやく笑顔をみせてくれたね」

地面に身を投げたしたまま、土のついた顔でカッコいいセリフを言う星君。

「あははははははっ」

その姿に、僕は更に笑ってしまうのだった。

「さぁ、楽しいデートを始めよう」

そういって立ち上がり、傅いて僕の手を取る星君。

「ふふふ…… はぁ、そうだね。 そうしようか?」

僕はそれに頷き、星君と再び手をつなぐのだった。


ああ、まったく。本当に君ってやつは、いつだって本当に予想外だ。


ーーーー


「ああ、楽しかったなぁ」

「ああ、本当にそうだね」

月が良く見える公園で、二人ベンチに腰を掛ける僕と星君。

久しぶりの二人きりでのデートは、本当に楽しかった。

二人でアンティークショップを巡ったり、二人でレストランに行ったり、二人で劇を見たり…… まるで初めてのデートと同じ様で、とても楽しかった。


そして、初めてと同じと言えば……


「この月、初めてのデートの時を思い出すね……」

「うん…………」

どうやら、星君も同じことを考えてくれていたようだ。

それが…… 素直に嬉しく感じた。

「ふふ…… 今日は君を独り占めできたね」

僕は頭を星君の肩に預け、そして星君を見上げる。きっとそこには、あの時と同じ、星君の優しくて情熱的な瞳が、僕を見つめてくれているはずだ……





「………………ぇ?」





しかし。

そこで僕を見下ろしていたのは……

「ふふふ………… いいね、種が良く育っているよ」

とっても情熱的で…………

だけど、ありえないくらい、おぞましくて、いやらしい、そんな瞳だった。

「さぁ…… 仕上げをしようか」

「…………ほ、星君?」

星君が僕の顎に手をかけ、僕を見つめる。

僕は星君から、目が離せない。

「だいじょうぶ…… ユエは、いいこだからね」

「な………… 何を? ねぇ……… ほ、ほしくん?」

あれ、おかしいな、なんだか、前にもこんなことがあった気がする。

なんだろう、こんなのは、はじめてのはずなのに……

なんなんだろう、この既視感………… は。

「さぁ、僕の目を、よく見るんだ」

「あぁ……… ぁ…… ぁあ?」

ああ、なんだろう、ほしくんのめが、きらきらしてて……

とても、きれいだ。


ーーーー


「むにゃ…………?」

「やぁ、起きたのかい?」

目が覚めると、そこには優しく微笑む星君の顔があった。

「……ぅん? 僕は、寝てたのかい?」

「きっと疲れていたんだろうね。今日は沢山遊んだから」

星君が、僕の頭をなでながら、そういう。暖かい手が僕を撫でてくれる。とても気持ちいい。

「膝まくらさせてしまって、悪かったね。ありがとう」

「いやいや、お安い御用だよ」

僕はゆっくり起き上がり、そして星君の腕に抱き着く。

「ふふ、ねぇ見て。月がとっても綺麗だよ」

ああ、本当に綺麗だ。まるで初めてのデートの時のようだ。

「ああ、本当だね。まるで、初めてのデートの時のようだね」

どうやら、星君も同じことを考えてくれていたようだ。

それが…… 素直に嬉しく感じた。

「ふふ…… 今日は君を独り占めできたね」

僕がそういって見上げれば、そこにはとっても優しい笑顔の星君がいた。

「今日は楽しかったね」

「うん!」

二人で幸せを共有しあうこの瞬間。

幸せを共有できることに、すごく喜びを感じる。

ああ、僕は本当に幸せだ。

ああ、僕はなんて幸せなのだろうか。








だけど、何故だろう……






幸せなはずなのに。



なのに、僕は何故……  










こんなにも不安を感じているのだろうか?



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ