7話 一つの成果、そしてまた次の準備へと向かう。
42レベルになったとき、昇格値41レベル分じゃね!?
ってご指摘があったのですが、計算がめんどくさくなるので、1レベル時に昇格値が10あった事にしますね。
レベルアップにおける根幹生命魔力の移行についての考察 第三章 最終節 シュベルト・ローレマン
……………であるため、レベルアップとは対象を殺害することで起こる現象であると私は決論づける。
これは第二章の二節「生命奪取の際に起こる当事者間での魂の干渉」で説明した、殺害者と殺害対象の間に起きる魂の干渉時に、魂に元より備わる「クラフトロ機構」が働き殺害対象の根幹生命魔力を殺害者が吸収するためである。
つまり殺害者は他者の根幹生命魔力を吸い取る事で、自らの根幹生命魔力を増加させるのである。
そして根幹生命魔力が増加を続けると、やがて根幹生命魔力が許容量を越える。
許容量が超えると、「チャクラ霊幻質」をもつ人の魂は「スピリタス効果」を発生させその許容枠を増加させる。
この許容枠の増加こそがレベルアップであり、それによる行動限界の延長こそが昇格値なのである。
補足としてこの根幹生命魔力の奪取は、一般的には魔物を倒した際にしか発現しない現象とされているが、それは誤りであり、対象が魂あるものであれば全てにおいて確実に起こる現象である。
つまり、対象が人であれ、植物であれ、殺害と言う行為を行えばレベルアップ効果は発生すると言う事だ。
しかし、植物を対象とした場合、植物はそもそも根幹生命魔力の保有量が乏しく、レベルアップを目的とした場合にその費用対効果は極めて悪い為………
――――
と、いう論文があった。
ちなみにこのシュベルトさんの論文は「人を殺してもレベルアップをする」と言う事が書いてあるため、危険視されてお蔵入りになったのだとか。
まぁ、「人を殺してもレベルアップをする」って言うのは知ってる人は知ってるみたいだけどね。
一応タブーと言う事なんだろう。
それはそれとして、今回僕にとって有益な情報はそこじゃない。
この「人であれ、植物であれ、殺害と言う行為を行えばレベルアップ効果は発生する」と言う一文の、植物を殺してもレベルアップが行われると言う点だ。
なんの抵抗もしない、植物を殺してレベルアップが出来るのならこんなに楽な事はない。
だけど……
この論文でも「植物はそもそも根幹生命魔力の保有量が乏しく、レベルアップを目的とした場合にその費用対効果は極めて悪い為」とあるように、植物を倒しても得られる経験値(根幹生命魔力)は微々たるものなのだ。
それこそ何年か植物を刈り続けてようやく1レベル上がる程度だ。
だけど……
だけどもし……
もし、その対象とする植物が、強力な呪力を帯びた植物だったら?
もし、その対象とする規模が巨大な森一つ丸ごとだとしたら?
だとしたら?
くふふ……
この世界の使い魔には、すばらしい能力がある。
それは「経験値譲渡」と呼ばれる能力だ。
そしてそれはつまり…… 説明するまでも無く、使い魔が対象を倒して得た経験値を主に譲渡する能力の事だ。
契約によって繋がっている呪術ラインを通して主に経験値を送るのだ。
そう……
ここまで言えば分かるはずだ。
僕は…… 腐食の森に適応した、イノスの分裂体に……
腐食の森を丸ごと喰わせてるのだ。
「くふふ…… くふふふ」
スライムは元来、環境を破壊するような事はしない。
周囲の環境と共存して生息するのがスライムの元来のあり方だからだ。
だけど、今腐食の森にいるスライムは僕の支配下にいるスライムだ。
僕の命令とあらば、周りとの共存なんて気にはしない。
思うが侭に、ただただ周囲を溶かし喰らう。
僕の下僕だ。
僕が今、あのスライムに命じているのは二つ。
とにかく周りを喰らうことと、とにかく増殖する事。
まったく天敵のいないあの森の中で、無限に増え続ける僕のスライム。
さぁ…… いったい何日でおちるかなぁ……
そして……
いったいどれだけレベルが上がるのかなぁ……
「くふふ……」
ああ、笑がとまらないよ。
――――
一週間、僕は家に引きこもった。
ずっと家でスライムの研究をしていた。
あとは、趣味のダーツを投げナイフに代えて遊んだりしていた。
ぐだぐだとしたり、イノスをつついてぷるぷるさせたりしながら一週間を過ごした。
――――
「くふふ…… いやぁ、凄い事になってるなぁ」
あれから一週間たった。
そして僕は今、西門を遠くから眺めてニヤニヤとしている。
西門は今、魔法学校の関係者や冒険者、騎士団などでひしめきあって、てんやわんやだ。
「うあああああ!! た、大変だぁ!! 本当に腐食の森がなくなってるぞぉ!!」
「な、なんでだああああ!! 一週間前はちゃんとあったんだぞ!? なんでこんなあっと言う間に消えてなくなるんだよぉ!!」
「やべぇよ!! おいぃ!! 魔物が沢山はびこってやがるじゃねぇかぁッ!!」
「くっそぉ!! 西側は腐食の森があったから…… 全く間引きしてなかったから!!」
「と、とにかく退治するしかねぇ!! 少しでも数をへらさねぇと王国内に入ってきちまうぞ!!」
…………うんうん。
やっぱり自然破壊はいけないよね?
ちょっとやりすぎちゃったかな?
これ、生態系狂うレベルの話じゃなかったね。
今まで近寄ってこなかった西側の魔物が、一気に王国に押し寄せてきてるみたいだ。
いやぁ……
大変だなぁ。
「うん……………… ごめんなさい」
僕は西門に向かってぺこりと頭を下げる。
うん、仕方ないよね?
ごめんごめん、後先考えてなかったよ。
もうしないから許してね?
さ…… 帰ろう。
………………ん?
「おぅ、ゴミクズじゃねぇか」
「ぐぇぇぁ!!??」
振り返るとそこには鳳崎がいた。
そして僕が振り向いた瞬間に僕の腹を思い切り蹴飛ばす。
僕はそれに、大げさに叫びながら地面に突っ伏す。
まぁ、正直な話。
僕の今の力の数値は鳳崎君よりはるかに高いところにあるから、体の丈夫さも半端ない。
だから、ぶっちゃけあんま痛くない。
まぁ、鳳崎君はまだ115レベルだもんね?
いくら勇者補正が沢山あるからと言っても、平均的に昇格値を割り振ってるきみじゃぁそんな物かもね。
「うっは! こいつマジキモい! 超ウケル」
「相変わらずゴミクズらしい、クズな格好だな」
「………………………………」
南城が僕を指差して笑い、木島が僕の頭をジャリと踏みつける。
…………………………ここのつさんは何でいつもじっと、俺の事を見ているんだろうか?
なんか僕したかな?
「おい、元気だったかよゴミクズ、しばらくお前を見なかったから心配してたんだぜぇ?」
鳳崎が僕の背中をグリグリと踏みつけてそんな事を言う。
あぁ…… どうせならもうちょっと右のあたりを踏んでくれるとありがたいな。
凝ってるんだよ、そのあたり。
「俺さぁ、お前がいない間に100レベル超えちゃってさぁ…… まぁお前みたいなクズには一生辿りつけない域なんだけどな?」
そうだね、僕も100レベル超えるのに一ヶ月もかかっちゃったよ。
奇遇だね。
「お前は今なんレベル?」
「さ、3レベルですぅぅぅ!!」
まぁ、下一桁はね。
「ぎゃははぁ!! まじかよ!! 一ヶ月かかって3レベル!? マジくそじゃんお前!!」
何を言ってるんだ君は。
普通の人は一年で頑張っても5レベルくらいしかあがらないんだぞ!!
まったく、これだから世間知らずの馬鹿は…… ほんと殺してぇ。
「ま…… お前も頑張れよな、そのゴミクズ人生をさぁ!!」
「ぐぎゃああああああばぁ!!」
鳳崎が僕の頭をサッカーボールのように蹴り飛ばす。
ちょ…… お前それ普通の人だったら首折れるよ?
馬鹿じゃないの?
「じゃあ、俺は魔物討伐でいそがしいから、お前と違ってな」
「じゃあね、ゴミクズ! 次会うときはちゃんとゴミ箱にいなよ! あははっ!」
「ちょ……! 南城さん、今のうける!」
そして鳳崎が僕の頭に唾を吐いて立ちさる。
金魚のクソのようについていく、南城と木島。
行ったか。
ああ……
しかし鳳崎君は本当にムカつくなぁ。
今この場でアイツの頭を砕いてやろうか……
後ろから飛びついて、首を引きちぎって……
腐食の森を丸ごと飲み込んで出来た、この新しいスライムもいるし…… なぁ。
「……………………………やめた」
今この場で殺すのはもったいない。
とてももったいない。
もっと……
もっとだ……
こんなレベル差じゃダメだ。
もっともっと絶望的なまでの差をつけて…… そしてアイツをめちゃくちゃに嬲り殺すくらいしないと……
気がすまないよね?
うん。
よし…… 憎しみ貯金、憎しみ貯金と。
くふふ…… 満期が楽しみだなぁ。
「……………………………」
ん?
おお?
なんだ?
ここのつさん、まだいたのか。
何か僕に用があるの…… かな?
「………………………………ばいばい …………またね」
ここのつさんは僕と目が合うと、無表情のまま小さく手を振り、そしててくてくと去って行ったのだった。
…………………なんなんだ? あの人?
良くわかんないな。
まぁともかく…… だ。
もっと、もっとレベルを上げよう。
足りない。
全然足りないよ。
「153レベルじゃあ全然…………」
この憎悪には…… 見合わない。
御宮星屑 Lv153
【種族】 人間
【装備】 なし
〔HP〕 45/50
〔MP〕 10/10
〔力〕 765
〔魔〕 0
〔速〕 0
〔命〕 765
〔対魔〕0
〔対物〕0
〔対精〕0
〔対呪〕0
【使い魔】
イノセントスライム ミッドナイトスライム
【称号】
なし
【スキル】
『悦覧者』