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竜王祭カウントダウン 9

「ねぇ、星屑…… 紅茶おかわりいる?」


「いらない」


さて理想郷シャングリラ建設以降の鳳崎及びエリザベートの動向をまとめておこう。


まず、エリザベートだ。


どうやら、あいつはあれ以来、部屋に引きこもっている様だ。


いや…… 正確には、配下に軟禁されていると言う表現が近いだろう。


どうやらエル―を失って以来、あいつは心のバランスを著しく崩したようで、若干病んでるらしい。


そのせいで、配下の人間達に「表に出すのは不味い」と判断されたらしいのだ。


だがまぁ…… それは仕方がない事だ。


当然の流れとさえいえる。


今回の件は、奴にとってそれだけ衝撃的な案件であるのだから。


心の支えを失うと言う、致命的な事件なのだから。



順風満帆だった奴の人生の中で、会社運営の失敗と言う初めての挫折。


高すぎるプライドを容赦なく叩き折った、現実と言う名の悪夢。


その中で奴がすがったのは、現実逃避と言う名の甘い幻想。


それは「悪魔に憑かれた義弟を救う」と言う建前の下に行われた、壮絶な代償行為。


現実を拒む為に、精神を安定させる為に必要であった代償だ。



それを失った今…… 


奴の喪失感は図りしれないだろう。


なにせ「成功する自分」と言う名の幻想の「代償」としていた存在が目の前から消えたのだから。


しかも…… 


龍という「最強」を従え、新生ギリアン地区と言う「成功」を収めると言う、エイザベートが望む「理想」の姿となって現れ……


その上で立さったのだから。


それは……


奴にとって、最悪の去り方と言えるだろう。


未来を奪いさる、余りに絶望的な行為とさえ言えるだろう。


このままいけば奴の心はきっと…… 


狂い、壊れて行く。


もう戻れない程に、崩壊してゆくことだろう。


手が、付けられない程に…… だ。


くふふ…… 


次に会う時、どう熟成されているか、とても楽しみだ。


「ねぇ、星屑、お茶菓子他にもあるけど?」


「いらない」


そして……


鳳崎の方も取りあえずは大丈夫そうである。


もう奴は既に、狂い始めたエリザベートを見限り気味であり、今後の自分の身の振り方を色々と模索しているようだ。


最近は他の王族に優しくしたりしている様で、どうやらエリザベートがつぶれた時の保険をかけているようだ。


今奴は、そちらに気が行っているようで、他に目立った行動はしていない様である。


まぁ、こちらとしては色々と準備をしやすくなるので、とても助かる。


また、鳳崎に関して危惧していた「新事業への懸念について」もつつがなく処理する事ができた。


その「懸念」とは、つまり「新事業」に用いた「現代知識」に対する、鳳崎のリアクションである。


具体的には新生ギリアン地区の「ショッピングモールエリア」で用いた「ウィンドウショッピング」の概念や、「スパリゾートエリア」の浴場各種及び、理想郷シャングリラにある風俗の業態などである。


あれらは明らかに、僕らが今まで過ごしていた世界の知識、つまり「現代知識」に属するものであり、元来この世界には無い「異世界知識」である。


故に、それ等が突如出現すれば、「異世界知識」を有する鳳崎がそれに疑問を抱き、探りを入れるのは至極当然の流れである。


だが…… 


それはつまり、鳳崎に僕が探られる事を意味している。


まぁ…… 鳳崎ごときに探られるようなへまはしないが、あれは腐っても勇者だ。


油断は出来ない。


だから僕はそれに対して、事前に対策をうつ事にした。


不必要に探られない様に、奴が満足するような情報を前もって与える事にしたのだ。


そして…… 


その情報とは、ギリアン地区の新事業は「他国の異世界人から聞いたアイディアを元にユエが立案して作られた」と言う情報である。


つまり、ユエが隣国に存在する「鳳崎と同じ異世界人」に話を聞き、そこでの話をコンセプトに、これらの業態を生み出したと言う偽情報である。


これを鳳崎が諜報した先に流したのだ。


そしてその情報を得た鳳崎は一応それに納得した様で、その情報が入るやそこで探索をやめ、他の王族への媚売りへと活動をシフトしたのだ。


他国の勇者と言う「あり得る」存在に加え、ユエルル・アーデンテイルという「天才」が関わっている点に妙なリアリティを感じたらしく、どうやら鳳崎はこの探索結果に満足をしたらしい。


他国の勇者であると言う「それ以上の探索の面倒くささ」も功を奏した様である。


とにかく……


こうして僕は、リアリティある偽情報を与えて納得させる事で、鳳崎の探索回避に成功し「懸念」を払うことが出来たのだった。


「ねぇねぇ、星屑、あたしになにかして欲しい事ない?」


「……ないよ、大丈夫」


おかげで、僕は集中して竜王祭の仕込みに力を割くことができる。


もう竜王祭まで時間がないのだから、計画的にうごかなくてはならない。


「ねぇねぇ……」


「マリア、ちょっといい?」


「なに!? なにして欲しい!? なんでもするよ!!」


「………………うるさいからちょっと静かにしてて」


「にゃ…っ!!??」


火山への工作活動も、そろそろ始めといけない。


ふむ、やる事がいっぱいである。


午後からは早速行動に移るとしよう。


「ぁ…ぅぅ………ッ!! や、やっぱ… ほしくずなんて嫌いだもんッ!!」


午前中に指示書は全て完成させておかないとな。


「…………でも僕は、マリアが好きだよ」


「ぅえ………ッ!?」


午後に必要な素材の手配と、機材の準備もしないと。


ユエに必要な物のリストを送っておこう。


手配にはギリアン地区のマーケットを利用できるから楽だな。


うん、便利になったもんだ。


「ぅ………ぁ… あ、あたしもホントは好きだから!」


「はいはい…… 知ってる知ってる」


「なぁ!? ……ぅっ ぅ、うがぁーーーー!!! やっぱ星屑嫌いっ!!」


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