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57話 その③


二度あることは………… 何度だってあるよっ!!

「あ……ッ… ぁ……」


凄まじい形相のまま、獣のような唸り声を上げて、ゆっくりと近づいてくるエリザベート。


気が気で無いと言った表情で、一歩、また一歩と亡者の様に近寄って来る。


「………っ……………………ぁ…………………本当に、エルヴィス、なの?」


そして奴は、ひねり出す様な声で、小さくそう呟く様にそう言う。


目を見開き、冷や汗をかき、歯を食いしばり、僅かに震えながら…………  エル―の事を凝視してそう言うのだった。


「…………………………………………」


そんなエリザベートの事を、正面から見据え、そして何も言わないエル―。


「……………………………本当にエルヴィス、なの? ねえ」


そんなエル―を見て狼狽を続けるエリザベート。


「そ………… そうなのね?」


この沈黙を、どうやら肯定と受け取った様だ。


「なんで、ど、どうして…………… だって今朝までは確かに」


顔を青くしながらそう言うエリザベートは、凄まじく動揺している。


恐れ、慄いている。


まぁ…… 


自室に後生大事にしまい込んでおいた「狂気の沙汰」が、何故か突然、公共の面前に曝されているのだ。


正常ではいられないだろう。


ベットの下に隠していたエロ本が母親に見つかったくらいに…… 正常でいられないだろう。


…………ちょっと違うかな?


「と、とにかく…… えっと…… なんとかしないと…… な、なんとか」


狂った様に取り乱し、視線を右往左往させるエリザベート。


「とにかく…… ふ、二人で話をさせなさい…… い、今すぐに!!」


エリザベートは息を荒くしながらエル―の体に手を伸ばし、そして迫り寄る。


すると、そこで……


「…………………………っ…」


そこで、今までずっと無反応と無表情を通していたエル―が反応をしめす。


少しだけ眉をひそめて、少しだけ身動ぎをする。


ほんの少しだけ怯えた様にして彼は…… 


そう…… 少しだけ後ずさったのだった。


「む…」


恐らく。


恐らくは条件反射だろう。


度重なる虐めにより刷り込まれた、条件反射…… 


文字通り気が狂う程に、執拗に繰り返されたエリザベートの虐待が、エル―の体に、精神に、魂に、根深い「恐怖」を刻みこんでいるのだろう。


「………………………ぁ、エル―?」


一瞬だけ怯えた姿を見せたエル―。


その、たった一瞬だけ見せた、「良く知る」光景に……


「………………ぁ はは」


エリザベートは自分を取り戻す。


その表情が途端に変わる。


「ぁはは…… はははぁ………… なぁんだ……」


一瞬で表情が変わり、余裕を取り戻す、エリザベート。


そして、余裕を取り戻したエリザベートは………


「本当にエルヴィスなんだぁ………」


いつもの……


本当に胸糞悪い、笑顔に戻るのだった。


「まったく…… 焦らせるんじゃないわよ」


余裕を取り戻したエリザベートは、安堵の表情を浮かべ、深く息を吐く。


そして……


「…………で?」


そして彼女はしゃべり出す。


「で、お前…… なんでこんなところにいるのよ、何よ龍って、ふざけんじゃないわよ」


いつもの様に、当然の様に、それが当たり前であるかの様に。


「まぁ、いいわ…… あんたのその配下、私がつかってあげる、私の方が無能なあんたより龍を上手く使えるもの」


次の瞬間には、奴はいつものように振る舞うのだった。


いつのも、糞の様な態度で応じてくるのだった。


「で、あんたは、また私の部屋よ…… 全く、どうやって抜け出したのかしらないけど」


最高にムカつく顔で、ぺらぺらと口を開くエリザベート……


「私のおもちゃの癖に勝手な事してんじゃないわよ…… 自分の立場わかってんの?」


眉をしかめ、エル―を見下し、いらだたしげに口を歪め、あきれた様にため息をつきながら、エリザベートは……


「お前は私に使われてればそれでいいのよ」


最高に訳の分からない理屈を展開してくるのだった。


ああ…… 


ああ、なるほど。


こいつ本当に、頭おかしいんだな。


「……………………………立場が分かって無いのは貴方じゃないですか?」


みかねた僕はそう言って、エル―を庇うようにして前に出る。


もう正直、この胸糞悪くて頭悪い理屈をこれ以上聞きたくなかったのだ。


「…………ぁ?」


するとエリザベートは「なにしゃしゃり出てんだ」と言わんばかりの顔で僕の事を睨み上げる。


そして……


「お前には、話してない………」


と言って、「やれやれ」と鬱陶しそうにしながら僕を無視するのであった。


「……………………ちょっと」


その時の顔が余りにもムカついたせいで、不覚にも僕は一瞬素になり、エリザベートをイラつき気味に止めようとした。


そしてそれが、思わぬ隙を生んでしまったのだった。


「お前うざい………… 鳳崎」


「はいはい…… 分かりましたよ、お姫様」


すると、次の瞬間に僕の周囲が歪む。


「ちょっとあっち行こうか…… 『六芒転位門ヘキサグラム・ゲート』」


そして次の瞬間には、僕は飛ばされていた。


突然の浮遊感と共に…… 僕が飛ばされていたのだ。


「…………………は?」


そう、僕は……


エル―から100メートルほど離れた場所へと瞬間移動させられたのだ。


鳳崎のスキルによって、エル―から強制的に離されてしまったのだ。


「……しまっ!?」


少しだけ、あせる僕。


「じゃあ、しばらくそこで大人しくしてろよ………… 『七星封印式グラン・シャリオ』」


しかし、そんな僕に対して鳳崎が、すかさず術を仕掛けてくる。


「な……!? ………………封印式!?」


しかも、まさかの封印。


それもちゃちな封印じゃない。


七重の魔法陣による、複合固定術式による強固な封印である。


「まぁ、あんなんでも俺の主なんだよ…… あいつがいないと俺の生活が保障されないからな、変に手を出されるわけにはいかないんだよ」


そして、鳳崎はそんな事を言いながら、いつもの胸糞悪いしたり顔を浮かべてくるのだった。


ちっ…… うぜぇ。


「だから、しばらく俺のおもちゃにでもなってろよ…… 精々いい声で鳴けよ? 『ゲイ・ヴォルド』!!」


そして鳳崎は、封印されて動けない僕に対し禁呪に属する雷系魔法である『ゲイ・ヴォルド』をなんの躊躇いも無く放ってくる。


……………ちなみに『ゲイ・ヴォルド』とは黒い雷を放つ呪いの呪文で、この雷事態に対した攻撃力は無い。


だが、この呪雷を一度でも受けてしまうと、気が狂わんばかりの激痛が長期にわたって走り続けると言う、凄まじくどエス仕様な魔法である。


ぶっちゃけ、あたる直前で痛覚を断絶してなかったら、僕ですらやばい術だ。


「…………………ぐぅ」


「くくくくく………… さぁ、そのやせ我慢、いつまでもつかな?」


僕が、一応ポーズとして苦悶の表情を浮かべると、鳳崎は、凄まじくいやらしい笑顔で、僕を見下してくる。


本当に嬉しそうな笑顔で……


「くはははははぁ……!! 『ゲイ・ヴォルド』『ゲイ・ヴォルド』『ゲイ・ヴォルド』『ゲイ・ヴォルド』『ゲイ・ヴォルド』『ゲイ・ヴォルド』ぉッ!!」


禁呪を乱発してくるのであった。


はぁ………… 


なんかもうやだ、この主従コンビ。


僕が言うのもなんだけど、クズすぎるだろう。


しかし…… 


鳳崎の奴、大分強くなってるな。


まさか『カゾエ之神技』の第七階位まで解放してるとは……


おとといチェックした時はまだ『六芒転位門ヘキサグラム・ゲート』までしか出せなかったはずだ。


万が一に備えて最終階位までの対策をとっていたから問題がなかったが…… してなかったら少しやばかったな。


…………ふむ。


まぁ、まだまだ僕よりは弱いし、この封印だってその気になればすぐに打ち破れるけど…… 


しかし、それでもこの成長速度は、やはり脅威だ。


この成長速度は、僕が想定していたよりも大分早いな。


何かテコ入れでもしているのだろうか…………?


…………これは僕自身の強化計画も、少し軌道修正が必要だな。


だが…… 


とりあえず、今は置いておこう。


この鳳崎のにやけ面は大変ムカつくが、今は鳳崎なんかよりも、エル―が先だ。


エリザベートと二人っきりにしてしまっている、エル―が心配だ。


さて…… 


エル―とエリザベートは何を話しているのか。


えーと……



「ねぇ…… いい加減何かしゃべりなさいよ? なに? 馬鹿だからしゃべる事も出来ないの? やっぱりあなたは頭までクズよね」


「………………くぁ」


僕が、少し離れたところにいる二人を見やり、聴力を強化して二人の会話を聞いて見れば、なにやら一方的にエリザベートがエル―を罵っていた。


「本当にあなたって、なんの為に生きてるのかしらね? まぁ、そんなあなたをこうして活用してあげて、生きる意味を与えてあげてるのが私なのだけれど…… 感謝してよね」


一方的な理屈で、一方的な理屈を押し付けるエリザベート。


まぁ…… 一方的なのは当たり前である。


なにせエリザベートは……


「……………ぅ……」


エルーの首を絞めながら会話しているのだから。


「はらほら…… なにか言ってみなさいよぉ!!」


エル―に会話をさせようとはしていないのだから。


ちなみに…… 


この「公衆の面前で首絞め」と言う行為は、先ほどから鳳崎が張っている「認識阻害」の結界により、はたから見ると「肩を抱いている」様にしか見えない。


鳳崎の一方的で執拗な攻撃も、禁呪の乱発も、「簡単な手合せ」程度にしか認識されていないだろう。


どうやら鳳崎は、この手の「誤魔化す」為の魔法は修得に勤勉らしく、かなり強力な結界を張れる様だ。


周囲に全く違和感を与えていないのだから、実際大したものである、うぜぇ。


全く…… 人をいたぶる事に関しては、ぬかりの無い奴らである。


はぁ…… まったく。


さて…… どうするか?


ここから抜け出して、エル―を助けに行く事は簡単だが、それは少しだけ都合が悪い。


鳳崎には、基本的に余裕をぶっこいて油断しまくっていて欲しいから、簡単に封印をぶち破って、危機感を抱かれては困る。


あと、エリザベートの事に関しては、エル―の意思を尊重してあげたいから、基本的に手は出したくはない…………


それに、どうやら……


「ぅ……… ッ………!」


「………なに? なにか私に言いたいことでもあるの? いいわよ…… 聞いてあげる…… ただし服従の言葉以外は聞かないわ?」


エル―も、何やら言いたいことがあるようだ。


頑張って言いたい事がある様なのだ。


ならば…… 僕はもう少し様子を見るとしよう。


ここからエル―を、見守ってあげるとしよう。


「…………ッ…はぁ ………っはぁ ……はぁ」


首を絞めた手を解かれ、一時的に解放をされたエル―。


彼は、しばし俯いて喉を押さえ、そして呼吸を整える。


「……………………は……ぁ」


そして、しばらくの沈黙の後。


彼はゆっくりと、顔を上げる。


「………………………………………」


そして、いつもの無表情のまま、まっすぐにエリザベートを見つめるのだった。


「………………私にそんな反抗的な目を向けるな、頭をたれろクズ、そんな事もできないの?」


エリザベートは、傲慢にもそう言ってエル―を威嚇をする。


「もう一度…… 一から調教してやろうか」


そして彼に……


「今度は、どこを、そぎ落として、やろうか」


醜い笑顔で、呪いの言葉を吐くのだった。


「…………………ぅ…」


すると、エリザベートの言葉と表情に、やはり条件反射的に怯えてしまうエル―。


顔は青ざめ、呼吸は浅くなり、瞳孔が震えて、手足も震えている。


体の芯にまで、呪印の様に刻み込まれた恐怖が…… 彼の体を支配する。


「………………………ぇぅ」


しかし……


「………………く…ぅ」


しかし彼は……


「……………ん」


そこで、踏みとどまる。


ゆっくりと息を呑み込み、拳をにぎり、目を閉じて、震えながらも踏みとどまるのだった。


「……………………」


ゆっくりと、怯えながらも前を見据えるエル―。


そして彼は立ち向かう。


蒼白の顔で、震えながらも立ち向かう。


目の前の…… 敵に向かって復讐を誓う。


「…………………………なんでですか?」


彼は口にする。


か細く、消え入りそうな声だけども…… 確かに言葉にする。


「………………は? 何がよ?」


エリザベートに向かって、正面から口にする。


そして彼は、静かに……




「なんでパパを殺したのですか…………?」




そう………… 口にしたのだった。


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